お金をかせごう
ごんぱち
「はぁ……」
ピトラはじぶんのへやで、つくえにむかいながら、大きなためいきをつきます。
「なんでかなぁ」
つくえには、ゲーム屋のチラシと、ポストのかたちのちょきんばこ、10円玉が5まい、1円玉が3まい。
「こんなにお金、なかったかなぁ」
ピトラはチラシを見ます。
チラシには、大きく『クリスマスセール!』と書いてあり、色々なゲームソフトがならんでいます。
「こんなに安い時ってそうそうないのに、なんでお金がないかなぁ」
お金をまとめて、ともかくサイフに入れます。
「お年玉がもっともらえてれば、今ものこってるだろうになぁ」
あさはかですが、気持ちはわかります。
「なんでリアルのぼくは、お金がないんだか」
ピトラは、今年でいちばん大きなためいきをつきました。
つぎの日。
「ふと気づいたんだけどね、ラグヤ」
学校へ来たピトラは、ラグヤに話しかけます。
「……なに?」
教科書の顔の絵にラクガキをしながら、ラグヤがへんじをします。
「ぼくは、ほら、向こうじゃお金持ちじゃない?」
「……うん」
「だったら、こう、向こうのお金とか、ツボとかそういう良いものを、おみやげでこっちへ持って来れば、お金にこまらないんじゃないかな?」
「……ピトラ、おみやげのルール、忘れてない?」
ラグヤは、教科書にずいぶんたくさんヒゲをかきたしています。
「わかってるよ。おみやげは一つだけ。その一つには、記憶もふくまれる」
「……だったら、どんなオチになるか分かると思うんだけど」
「ラグヤ」
ラグヤのかたを、ピトラはつかみます。
「チャレンジする心がだいじなんだよ。なにごとも、あきらめたらそこでゲームセットだよ!」
「……自信ありそうだけど、なんか良い手があるの?」
「ない!」
「……あ、ないんだ」
「だからさぁ」
もみ手をしながら、ピトラはヘコヘコ頭を下げます。
「なんか良いアイデアない? ラグヤさまぁ」
よい子はこんなヒクツなマネをしてはいけません。プライドはお金では買いもどせないのです。
「……まあ、あるけど」
「ええっ! 本当に!?」
「……いくらかお金にはなったけど、あんまりおすすめしないなぁ」
「なに言ってるのさ、お金は大事だよ!? すぐ教えて、くわしく教えて、さあ教えて!」
「……ちょっとここのヒゲの形が」
しんけんな顔で、ラグヤは教科書のラクガキをつづけます。
「かいとる場合かーっ!」
授業がはじまりました。
「――タオーゼ君、つぎのところからよみなさい」
ゴレイト先生が、タオーゼをさします。
「え、ええと、『さん、おおき、は、さんせい、さんすくな、きは、アルカリ――』
たどたどしく読むタオーゼの声をききながら、ピトラはぼんやりと教科書をながめます。
(お父さんの好きなものをプレゼントして、おこづかいをもらう、かぁ。なあるほど、さすがはラグヤ、心理戦に長けてるなぁ)
ぼんやり。
(お父さんの……と……おとう……さん……)
ぼんやーーーり。
(ぅさ……)
いつの間にかピトラは眠ってしまいました。
そして。
「――ピトラくん」
「はひっ!」
ゴレイト先生の声に、ピトラはびくっとして起き上がりました。
「つぎ、読みなさい」
「あ、はい!」
つかんでいた教科書を開いたピトラは。
「あー、えー、えーと」
まばたきします。
そこに書いてあるのは、字みたいだけれど、どうやっても読めない、外国のどの文字にもにていない線のかたまりでした。
「……ピトラ、教科書そっち」
小声でラグヤが言います。
言われてつくえを見ると、教科書がひらきっぱなしになっています。
「……20行目」
「『2しょくのヘンはリトマスしけんし――』」
読み終えたピトラは、教科書のかげにして本を見つめます。
(そっか)
ピトラはきづきます。
(ぼくが夢の世界から、持って帰ったんだ)
首をかしげます。
(でも、こんなのお父さんにプレゼントしても……よろこばないよ、ねぇ?)
夢の世界と、ピトラの世界で文字がちがうのです。大人だろうが博士だろうが読めやしません。
パラパラとページをめくります。
(……ん?)
間に、白い羽がはさまっていました。
羽を見つめても、何も思い出しません。
(うーむ、夢の世界に行ってた時のぼく、一体何を考えてたんだ?)
夢の世界に行っていたピトラがどういうつもりでこの本をおみやげに持って帰ったのか、今のピトラにはさっぱり思いつきませんでした。
「ただいまー」
ピトラは家に帰って来ました。
「おかえり、ピトラ」
今日はお父さんのポポトさんがお休みなので、家にいます。
「ねえ、お父さん、これ――あー、いや、まあいいや」
ピトラは自分のへやにもどりました。
ランドセルをおろして、中から夢の世界で手に入れた本を出します。
「お父さんのプレゼントに出来ないとなると、どうしようもないなぁ」
ページをめくります。
「本をすてるのも、なんだかイヤなきぶんだし」
ぼやきながら、ピトラは勉強づくえのイスにこしかけます。
「まあいいや」
本だなに、ピトラは夢の世界の本を入れました。
「じゃあ、あらためて、お金をもうけられる方法を考えよう」
ピトラはうでぐみして考え込みます。
「んーーー」
ぎゅっと腕をくみます。
「んんんんんーーーー!」
ゆるめてみます。
「んーーんーーー」
考えていたピトラは。
「そうだ!」
何か、考えついたようでした。
「お父さんのプレゼント、ネクタイで良いかな」
まだあきらめてないみたいでした。
つぎの日の朝。
日曜日なので、すこしおそくピトラが目をさますと、まくらもとには――。
「……なに、これ」
ふゆかいな形をした、人形がありました。
ねむたそうな顔をして、りょうほうの手の薬指を鼻のあなにつっこんでいます。
「昭和あたりのギャグのような、そうでもないような……」
見ていると、なんだかすごくハラが立って来ます。
「この人形がっていうか、こんなものをもって帰ろうと思ったぼくにハラが立つ!」
人形をぎゅっとにぎりしめると、ボロボロとくずれます。くさった木にほられているみたいでした。
「なにがあったんだ、なにがあったんだよ! 夢の世界のぼく!」
人形だったものは、ボロボロの木のクズになってしまいました。
「――だいたい、うちのお父さんは、きげんが良いからおこづかいをくれる、なんて事はないんだったよ」
ピトラはためいきまじりに、秘密基地の空き家でごろりと横になります。
「どうかしたのか、ピトラ?」
新聞紙の紙飛行機を飛ばしていたサリスがたずねます。
「なんでもないよ。ただ、お金がほしいなぁ、って」
「夏だったら、オオクワガタとか、めずらしい虫でもとれば良いんだけどな」
「お金になるんだっけ?」
「ふつうは子どもから買ってはくれないけど、おじさんがペットショップやってるからな。オレが言えば買ってくれるぞ」
紙飛行機を折りなおしながら、サリスが言います。
「サリスにそんなおじさんいたんだっけ」
「んー。あー、そっか、ちがうか」
「いないの?」
「いとこだったかも知れない。とにかくお正月に5000円くれるんだ」
「……まあ、そのへんはどっちでもいいよ」
ピトラはねがえりをうちます。
(オオクワガタ……ねぇ)
はんぶん目をとじながら、考えます。
(夢の世界なら、虫もいっぱいキレイなのがいたっけ……いいかも知れないなぁ)
それから。
「――おい、ピトラ!」
サリスの声で、ピトラは目をさましました。
「んあ?」
みょうな声を出しながら、ピトラはおきあがります。
「ピトラも飛行機作れよ、競争しようぜ」
「あー、そうだね」
がさり。
ピトラは、なにかをかかえこんでいました。
「ん?」
「なんだそれ?」
かかえていたのは、紙のふくろでした。かなり強くかかえていたのか、しわくちゃで、なんかちょっとだけぬれています。
ピトラがふくろの口をのぞいてみると。
「と……これは」
干したサツマイモ、カボチャ、いり豆、コンブ、それにビンに入りの水。
「なんだそりゃ」
サリスは不思議そうですが、ピトラには見おぼえがあります。
(イダテンにつんである宇宙食だ……)
宇宙船で遠くへ行く時に食べる、宇宙食です。
「昭和のおやつみたいだな」
「まあ……あんまりハイカラなものじゃないよね」
とうぜん、めずらしくも何ともありません。
「……食べる?」
「おっ、いいのか?」
「うん」
(どうやっても、お金になりそうにないし……)
サリスは干しカボチャを食べます。
「おっ、見た目はジミだけど、すっげえうめえ!」
「まあね、そうだろうね。こっちのよりは、なんでもおいしいよ、あっちは」
「ん? 外国のか?」
「にたようなもんだよ」
「んまいっ!」
「一体、オオクワガタをとろうとして、どうして宇宙食なのさ? どんなボケをしたら、そういうつながり方をするのか、小一時間といつめたいよ!」
家に帰ったピトラは、つくえにむかって、自由帳に考えをまとめます。
「まったく、いきあたりばったりだと、ぼくはロクなことをしない」
自分あいてに、きついもの言いです。
「なにがあったか分からないだけに、ツッコミもできないし!」
「ピトラ、ちょっといい?」
ドアがノックされました。お母さんのピピラさんの声です。
「なに? お母さん」
ドアをあけて、ピピラさんと妹のポテトが顔を出します。
「お買いもの行って来てくれない? 今ちょっと手がはなせないのよ」
「にいちゃんはヒマだからへいきだぞ」
「うるさいな、これでも色々いそがしいんだよ」
「どうだか」
「すぐじゃなくても良いから、おねがいね」
ピピラさんは、買いもののメモと、がま口のサイフをピトラにわたしました。
「はい」
「わすれるな、にいちゃん。としをとるとわすれっぽくなるっていうからな」
「やかましい!」
ピピラさんとポテトは、へやから出て行きました。
ピトラは、買いものメモを読みます。
「えーと、ニンジン、しお、なっとう、それから、コンブ、か」
買いものメモをサイフにしまいます。
「あー、コンブ、さっきまでならあったのに、間がわるいなぁ――ん?」
ピトラはサイフをあけます。
中には、メモと1000円札が1まい。
「もしも、おつかいのものを、みんな夢の世界で手に入れたら、そのぶんのお金はぼくがもらっても、わるくないよね」
夕方の4時、めざまし時計がなりました。
「ふぁあああ」
ピトラはのびをして、ふとんから出ます。
まくらもとには。
「……なんだ、これ」
なんかカピカピにかわいた魚があります。
「みがきニシン?」
それからまっ白な――。
「ダイコン、だね、これ」
そして、大きくてキレイな緑色をした――。
「オクラ、かな」
それから、ピンク色の――。
「さくらでんぶ……」
ピトラは買いものメモを見なおします。
ニンジン、しお、なっとう、コンブ。
「……ちがう、ぜんぜんちがうよ! なんだ、さくらでんぶって! そんなのうちのしょくたくに上がったこともないじゃないか! どんだけはじめてのおつかいだよ!」
「ピトラ」
ドアがノックされます。
「ん、お母さん?」
ドアが開いて、ピピラさんが入って来ます。
「そろそろ行って来て、ばんごはんのしたく――あらあらあらあら、なに、それは?」
ピトラのまくらもとにある食べものを見て、ピピラさんはおどろいています。
「えーと……ラグヤたちと、買いものごっこを、して」
ピトラはでまかせでごまかします。
「ふふふ、それで色んなものをもちよったのね。あら、このオクラおいしそう」
ピピラさんは、オクラを手にとってたしかめます。
「うん……たぶん、とってもおいしいと思うよ。ぜんぶあげるから、なんかに使って」
「そうね、ありがとう。そうだ、ラグヤ君のお母さんにおれいを――」
「おたがい、おこづかいで買ったから、お母さんとかカンケイないんだよ」
「そうなの?」
「そうそう」
ピピラさんは、ちょっと不思議そうな顔をしていましたが、ピトラの言うことをそれなりに信じたみたいでした。
「じゃ、お買いもの、おねがいね」
ばんごはんを食べ、お風呂にも入ったピトラは、ふとんに入ります。
「……買いもののかわりっていうのは、良いアイデアなんだけどなぁ」
お風呂上がりは、すぐにねむくなります。
「なんかあった時は、つかってみるといいかも知れないけど……でも、おつかいなんて、そうそうたのまれないし」
まぶたが重くなってきます。
「もういいや、お金のほかは、なんにももって帰らなくていいや。ほかのはめんどうなだけ……だ……」
すぅっとピトラはねむってしまいました。
つぎの朝。
「ふぁふぁあああああああ」
ピトラは目をさまして、あくびをしながら手をのばします。
と。
ちゃりん。
音がしました。
「えっ?」
まくらもとには。
100円玉が5まい。
「うわっ、お金だ!」
ひろってみます。
重さ、つめたさ、まちがいありません。お金です。そもそも、お金が大好きなピトラが、まちがえるハズありません。
「……いや、そこまでのキャラじゃないから」
ピトラはお金をにぎりしめます。
「やった、やったぞ、なんか知らないけど……知らないけど」
ピトラの声が小さくなっていきます。
「知ら」
じぃっとお金を見つめます。
「ないけど」
どうやって、どこで、どんなふうに手に入れたのか、まったく分からないお金です。
「……なにが、あったんだろう」
なんともおちつかない気もちで、ピトラはお金をにぎりしめていました。
「ぼく……なんか、悪いこととかした?」
夢の世界のピトラがいったいなにをやっていたのかは、またつぎのお話です。
「つぎなの!? ねえ、つぎなの? こんな気もちのままで、1ヶ月もまたせるの!?」
こんなとこにわりこんじゃ困ります、ピトラ。
「ねえちょっとおおおお!」
【つづく】
|