オレサマぁ、サンタだ!
ごんぱち
夢の世界も冬がちかづいて来ました。
風も冷たくなり、枯れ葉が、町の道におちます。
「ううっ、さむいなぁ」
かたをすくめて、カピバラのカピタンが通りを歩きます。宇宙海賊のカピタンです。
のっけからこんなのでごめんなさい。
「……こんなのとはなんだ、今回はオレサマが主役だぞ!」
本当、ごめんなさい。
「はぁ……宇宙船でも盗めてれば、寝る場所ぐらいはあるのになぁ」
カピタンは、町のにぎやかな方へと歩いていきます。
町のまん中では、市場が開かれ、パンや野菜、くだものなんかの食べ物、それからフライパンやブラシのような道具、おもちゃや本、ロケットの部品、などなど、色んなものが売られています。
カピタンはパン屋の前を通りすぎます。
パン屋からはなれる時には、もうその手にパンを一つ盗んでいました。いつの間にとったかも分からない、すばやい動きです。もちろん、よい子も悪い子もぜったいマネをしてはいけません。
「がはは、宇宙大海賊カピタンさまにかかれば、こんなパンなんて、チョロいもんだぜ」
たてものとたてものの間にかくれて、カピタンがパンをかじろうとした時。
「――お客さん、ちょっとそれ、見せてくれませんか」
「うおっ!?」
「万引きGメンのカソです。お金はらってませんよね、そのパン」
声をかけて来たのは、買い物のおばさんみたいなかっこうをした火ネズミのカソでした。
「お前は、この前の、ネゴシエイター!」
「今は万引きGメンですよ」
「って、なんでそんな仕事に?」
「なんだかひさしぶりですね、わたしの仕事についてツッコミをするひとなんて」
カソはちょっとうれしげです。
「お店にやとわれているだけなので、正しくはGでも、メンでもないですが」
「つかまってたまるか!」
カピタンはポケットからボールのようなものを出すなり、地面にたたきつけました。
ぼんっ、と、ボールははじけ、ケムリがたちのぼります。
「むっ!」
「忍法ケムリ玉!」
カソがひるんだスキをついて、カピタンは逃げていきました。
「……今どき忍法って」
あとには、パンが一つのこっているだけでした。
家が建ちならぶ中を、カピタンは歩きます。
「ううっ、ハラへった……」
お腹がなります。
「かと言って、市場にはもう行けねえし、となり町までは遠いし……」
日は落ち、どんどん寒くなっていきます。
「しかたない」
カピタンはまわりの家をながめます。
「店から盗むのは、あきらめるか」
明かりのついていない家の勝手口にちかづきます。
そして、誰もいないのをかくにんした後、ピックをとりだし、カギ穴につっこみます。がしゃがしゃといじると、カギがあきました。もちろん、よい子も悪い子もマネをしてはいけません。
「……ピッキングなんて、子どもがマネ出来るか」
カピタンは、家の中に入ります。
だんろもストーブもなにもついていませんが、ふわり、と、外よりもあたたかい空気があります。
勝手口ですから、入ってすぐのところに冷蔵庫がありました。
「よっしゃっ!」
カピタンは冷蔵庫をあけます。
中には、大きなピザの箱と、ボウルいっぱいのポテトサラダ、それからプリンが三つ。
カピタンはピザの箱をあけます。
「ありがてぇ」
中には、ピザがほとんど丸々ぜんぶのこっていました。
カピタンはひときれほおばります。
「ん、ん、むぐ、うぐ」
からっぽのおなかに、チーズたっぷりのピザ。カピタンは、あっという間に食べ終え、つぎのひときれ。
「つめたいままだとおいしくないよ?」
「むぐ、むぐ……冷めたピザはえらいんだぞ……むぐもぐ」
「あっためてあげるね」
「あっ、泥棒!」
「すぐだから」
男の子がにっこりとわらって、ピザをレンジに入れました。
カピタンは男の子をじぃぃぃぃぃぃっと見つめて、それから。
「だれ?」
ホカホカにあったまったピザは、チーズがものすごくのびます。
「んま、うまっ、うめえっ!」
カピタンはピザをどんどん食べます。
「それを言うなら、おいしい、でしょ」
男の子は、コップに入れた牛乳をカピタンの前において、自分もピザを食べはじめます。
「ん、おいしい」
ふたりはしばらくの間、もくもくとピザを食べつづけました。
「――ふぅ、これで小腹がおちついたぜ」
「ふふ、よかった」
男の子は笑います。
ピトラよりもだいぶ背も年も小さそうな、かわいらしい感じの男の子です。
「サンタさんもタイヘンだね、じゅんびなんて」
「……サンタ?」
カピタンは牛乳をのみます。
「お父さんから聞いたよ。サンタクロースのおじさんは、クリスマスの前に、家をたしかめておくから、まよわずにプレゼントをくばれるんだ、って」
「ん、あー、おう、そうとも」
カピタンはどんと胸をたたきます。
「これでサンタってのもなかなかにアレでな。ぼちぼちなんだが、あきまへんのや、あはははは、そんじゃ、これでオレサマはぼちぼち」
かんちがさせたままで帰ろう、そう考えたカピタンが、出て行こうとすると。
「ちょっとまって」
「んあ?」
カピタンはビクッとして止まります。
「サンタさん、ちょっとだけ、まってて」
言うなり、男の子は上の階へと走っていき、それからすぐにもどって来ました。
手には、ポストのカタチのちょきんばこをもっています。
「あのね、ルイゼの――ヒポクラ星に入院してる妹へのプレゼント、もうきまってる?」
「ん、あー、いや、それは、本社にもどってデンピョーをかくにんしないとだな」
「ううん、きまっちゃっててもいいんだ、あのね」
男の子は、ちょきんばこをカピタンにさしだします。
「『おしごとシリーズ さかなや』買ってあげて!」
「なに?」
「本だよ。ルイゼ、あのシリーズが一番好きで、楽しみにしてるんだ。これ、お金。足りると思うから」
なにかを答えるよりも前に、カピタンはちょきんばこをつかんでいました。
「やってくれるの!? ありがとう、どうもありがとう!」
カピタンがちょきんばこをうけとったのを見て、男の子はカピタンがおねがいを聞いてくれたのだと思いこんでしまっていました。
(し、しまった、金と見たら、つい手が出ちまった!)
「よかった……一番好きなものをサンタさんからもらったら、すっごく元気になると思うんだ」
「ヒポクラ星……か」
カピタンがにがわらいをします。
ちょきんばこの重さからして、本いっさつ分ぐらいのお金しか入っていません。
つまり。
ようするに。
いわゆる。
ひとつの。
「……モノを買っても、送る金がねえ」
カピタンは、ちょきんばこの中に入っていたお金をぎゅっとにぎりしめ、本屋の前をなんども通りすぎます。
ショーウィンドウから明かりがこぼれます。
「困った、どうすりゃあ良いんだ……」
頭を抱えかけたその時。
「……待てよ」
首をひねります。
「宇宙超大海賊のオレサマが、一体なにをなやんでるんだ?」
カピタンは本屋に入ります。
それから、本屋の店主の見ていないスキに、本棚の本を一冊、服の中へ――。
「なんだ、またあなたですか」
どこにひそんでいたのか、カソが飛び出して来ました。
「忍法ケムリ玉!」
カピタンはケムリ玉をたたきつけます。
ケムリでいっぱい、何も見えませんが。
がしり。
逃げようとしたカピタンの体に、カソがしがみつきます。
「なんだと!」
カソは、ガスマスクをかぶっていました。
「同じ手を二度使うことは、すでに凡策なんですよ!」
ガスマスクの目のところはケムリもすかして見えるスコープになっています。
「なんのおおお!」
カピタンはカソをふりほどこうとします。
ですが、カソはがっちりとカピタンをおさえて動きません。ものすごい力です。
「こ、このっ、はなれろ、このっ! ネズミがカピバラに、なぜっ!」
カピタンはじりじりとドアへ足を進めて行きます。
「ご主人!」
カソが、本屋の店主にどなります。
「このドロボウつかまえたら、ボーナスくれますよね!」
「そ、それどころじゃ、げほっ、ごほっ、げほっ、ないだろ!」
ケムリをすってセキをしながら、本屋の店主が言ったしゅんかん。
「えー?」
カソの力が思い切りぬけました。
そう、カソはお金にならないと知ると、その力は半分よりも少なくなるのです。
「今だっ!」
そのスキを、カピタンは、にがしませんでした。
クリスマスの夜。
ヒポクラ星の病院で、ルイゼがふっと目をさましました。
「あっ」
まだ日ものぼっていないのに。
まくらもとには、キレイなプレゼントの包みが一つ。
「わぁ」
ルイゼはゆっくりと体をおこして、プレゼントの包みをあけます。
中は、最新ゲーム機のハコでした。
「えへへ、やったぁ」
メッセージカードには『退院したら、イヤってほどあそべるよ』とあります。
「そうだよね、手術、がんばらなきゃ」
ゲーム機のハコを、ベッドの横のテーブルにおこうとしたすると。
「あれ?」
広げた包み紙にかくれて、まだ何かあります。
ルイゼが、包み紙をどけると。
そこには本が一冊。
プレゼントの下になっていたみたいです。
「これ……」
ちょっとよごれて、すこしキズがついた、つつまれてもいない本。
「おにいちゃん……?」
部屋の中を見まわします。
右を見て、左を見て、上――。
「……だれ」
「忍法天井はりつき」
天井には、カピタンがはりついていました。
「ニンポウ?」
「あーとー、じゃ、なくてオレサマはサンタだ」
ルイゼはカピタンをじぃっと見てから。
にこっと笑いながら。
――ナースコールをおしました。
「うひぃぃいぃぃぃ!」
宇宙自転車で、宇宙服を着たカピタンはひっしに宇宙をにげます。
『そこの自転車、とまりなさい!』
後ろからは、警察のパトロール宇宙船がおいかけます。
ただの宇宙自転車ではありません。ピトラ運送から盗んだ、フツヌシの作った宇宙自転車です。そのスピードは、パトロール宇宙船とも良い勝負です。
「いい話じゃなかったのかよ!」
たぶん、あの兄妹たちから見れば、わりと良い話で終わってると思います。
『キミには、べんごしをよぶケンリと、ふりな事をだまっているケンリがある! おとなしくつかまりなさい!』
「ちくしょう、おぼえてろ! 宇宙無敵銀河最強海賊カピタンは、エイキュウにハメツだ、ゴルァ!」
よい子も悪い子も、『ゴルァ』とか言ってはいけません。
冬がおわり、春が来て、夏のある雨の日のことです。
「こんにちは、ピトラ運送です。お中元のはいたつに来ました」
レインコートを着た、まだらうさぎのうんそうやさん――つまりはピトラがドアをあけます。
「あ、はーい」
男の子がハンコをもって来ます。
「雨の中ごくろうさま」
「ははは、どうって事ないですよ」
ピトラは営業スマイルです。
「――だれかお客さん?」
おくの部屋から、ルイゼが出て来ます。
「お中元ですよ」
ピトラが頭を下げます。
「なーんだ」
ルイゼはボロボロになった本をぶんぶんとふります。
「お兄ちゃん、早く!」
「わかったから!」
男の子はどなって、うけとりにハンコをおしました。
「ふふ、元気な妹さんですね。うちのとにてる」
ちょっとおかしそうに、ピトラは笑います。
「ちょっとぐらい病気してた方が、おとなしくてかわいげあったですけどね」
男の子は笑いました。
「あはは、元気な方がいいですよ」
「ふふ、じょうだんですよ。じゃ、ありがとうございました」
「まいどどうも!」
【おしまい】
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