ピトラの冒険66

 千足とQの絵本ワールド
Q書房■■■■
 サイフの中にはあと100円
 

ごんぱち

 サッカーボールが、ゴールがわりのてつぼうを通りぬけます。
「よっしゃああ!」
 ピトラはガッツポーズ。
 ころがって行ったボールを、サリスはひろって来ます。
「ピトラ、これで勝ったと思うなよ!」
 こんどは、ピトラがキーパーで、サリスがキッカーです。
 サリスはボールをおいて、ずぅっと下がってから――。
「ぬおおおおおお!」
 思いきりけとばしました。
 ボールは右へ。
 ピトラも同じほうへとんでいました。
 ぼすっ!
「ぎゃっ!」
 ボールは、ピトラの顔にまっすぐあたりました。
「ふ、ふふ」
 ピトラはたちあがります。
「見たか、がんめんブロック」
「……いやピトラ、ただ、とびすぎて手じゃなくて顔に当たっただけじゃないのか?」
「そんなことないヨ! そうていないだヨ!」
「『ヨ』がカタカナになってるぞ」
「そんなメタなこと言われても、ぼくにはちっとも分かんないヨ!」
 ピトラはボールをひろいます。
「さあ、もういっぽ……ふぅ」
「あぢー」
 ピトラとサリスは、がっくりとかたをおとします。
「あづいねー」
 太陽は、まだかなり上の方で、じりじりと公園と、そこにいるピトラとサリスをてらしています。
「のどかわいた!」
 サリスはボールをネットに入れて、水道にかけよります。
 コックをひねって、水を出します。
 でも、水はほそく、ちょろちょろと流れるだけでした。
 サリスは水を手ですくって口にいれます。
「ぬるいな」
「ぜいたく言っちゃいけないよサリス。この地球には、ぬるい水だってのめないひとが――」
 言いながらピトラもひと口。
「うあっ、ぬるいぃぃ!」
 水道は、日にてらされ、まるごとあったまっているみたいです。のんでも体の中があつくなりそうです。
「いらないー、こんなのいらないー!」
「ピトラ、ぜいたくはダメじゃなかったのか?」
「これは水じゃないから。どちらかというと、おゆだからいいの」
 もんくを言いながらも水をのんだピトラとサリスは木のかげですわりこみます。
「少しはすずしいね」
「そうだけどな」
 風はあまりありません。そもそも。
「「あー、のどかわいた!」」
 ふたりの声がハモりました。
「ピトラ、コンビニで、アイスでも食おうぜ」
「お金へいき? サリス」
「うーんと」
 サリスはポケットから、大きながま口のサイフをとりだします。
「……これだけだな」
 100円玉が1まい。
「おんなじだね」
 ピトラのファスナーつきのサイフにも、100円玉が1まいだけでした。

 ピトラとサリスは、公園から出て、コンビニへと歩きます。
「ノクタが外国に行くのはいつものことだけど」
 サリスがあせをぬぐいます。
 体が大きいだけに、よけいにあつそうです。
「ラグヤまでいないとはな」
「なんか、図書館でおもしろい本の100冊ぐらいのシリーズが見つかったから、読みおわるまでかようんだって」
「図書館か、すずしそうだな」
「でも1日中はいたくないね。本って、ゴロゴロしながら読むものだし」
「オレも少しは読むけど、マンガのほうがいいな。図書館にもマンガは少しはあるけど」
 ピトラとサリスの行く先に、自動販売機が見えてきました。
「あー」
「そうだな」
 ピトラとサリスは、ほとんどいっしょに足をとめました。
「ジュースも、いいなぁ」
「アイスよりたっぷりあるからな」
 カン、ペットボトル、ビン。ながかったりみじかかったり。ジュースに炭酸、スポーツドリンク、コーヒー、お茶、水。自動販売機には、いろんないれものの、いろんなのみものがならんでいます。
「350ミリリットルだと、120円で、500ミリリットルだと150円、か」
「ピトラ、このばあいどっちがトクなんだ?」
 間があきました。
「え、ええと、こういう時は、大きいほうがとくなもんだよ」
「そうか、そういうもんだよな、食べものでも、おおもりのほうがやすあがりだしな」
 ピトラとサリスをだますのはかんたんそうでした。
「い、いいんだよ! べつに算数の話じゃないんでしょう? それに、この計算って、わりきれないじゃないか。ぼくたち、まだ小学生の中くらいだよ?」
「そうだ、なんとなくってのは大事だぞ!」
 ピトラとサリスは、あらためて自動販売機を見ます。
 120円、150円とならぶなかに、100円のものがあります。
「……お楽しみカンか」
 いちばんすみっこにある、ハテナマークのかかれたカンです。100円ですが、なにが出てくるかわからないものです。
「サリス、どう思う?」
「というより、ほかは買えないな。お金がないから」
「まあ、お金をあわせて買って、わけるって手もあるけど」
「ピトラ」
 サリスがしんけんな顔をします。
「一本のジュースをふたりでのむなんて、それこそ思うつぼだぞ」
「……言われてみれば。これでケンカになって、けっきょくおとしてしまって、ほとんど飲めませんでした、なんてのはあるなぁ」
「そうだ、そういうこいつにスキを見せるようなのはよくないぞ」
 年上にむかって、こいつとはしっけいな。
「なにが出るかわからない、んだよねぇ」
「いちかばちかやってみようぜ。リンゴあじだったら、だいたいオレはかまわないぜ」
 サリスはあせをぬぐいます。さっき、水道で飲んだ水も、もうすっかりあせになってしまったみたいです。
「ちょっとまって! サリス」
 ピトラはサリスをおしとどめます。
「2つのことをかんがえようよ」
「どういうこった?」
「つまり、良いものが出た時と、悪いものが出た時さ」
「うーむ、良いものっていうと、アサメドリンクの『すっきりさっぱりアップル』が出ることだな。悪いのは……そうだ、ノホロの『ぜいたくリンゴ』が出ることだな。あれは、カンがちっちゃいんだ」
「サリス、頭がにえてるよ。おかしいよ、悪いほうがまともにかんがえられなくなってるよー」
「え?」
「良いものは、まあそれでいいよ。でもね」
 ピトラはお楽しみカンのハテナマークをにらみます。
「悪いのは、もっと悪いよ」
「どんな?」
「みじかいコーヒーが出てくるのさ。ミルクのたっぷり入ったヤツで、しかも自動販売機に入れたてだから、まだあんまり冷えてないんだ。しかたがないので飲んでみるけれど、口の中が冷たくなることもなく、さとうとミルクの甘さばかりが口の中にずっとのこって、どんどんどんどんノドがかわいていくけれど、サイフの中にはもうお金はなんにもない――」
「ぎゃあああああ!」

「いらっしゃいませー」
 コンビニの店員さんが、あいさつをします。
「こんにちは」
「こんちはー」
 ピトラとサリスは、アイスの入ったれいとうこの前に来ます。
「アイスがいちばんでしょ、サリス」
「そうだなピトラ、アイスがいいな、つめたいし」
 ふたりは、ガラスごしに、じっとアイスを見つめます。
 見つめます。
 見つめます。
 見つめます。
「サリス」
「なんだ、ピトラ」
 見つめます。
 見つめます。
「さっさと買ったら?」
 見つめます。
「買ったらコンビニから出なきゃいけないだろ」
「……まあね」
 クーラーがきいているコンビニの中はとてもすずしいのです。
「でもさ、買わないと、ノドはかわいたまんまだよ」
「でも、買ったら外に出て食べなきゃいけないから、あついよな」
 ふたりは、また、アイスを見つめます。
「いっそ、コンビニに住めたらいいのに」
「ピトラ、おかしなこと言いはじめてるぞ」
「おかしくなんてないさ。ポットだって、電子レンジだってあるし、チケットだって買えるんだよ」
「それって、ひとりぐらしの人のへやとかといっしょだろ」
「そうか、みんなひとりひとり、自分だけのコンビニをもってるんだね」
「なんか上手いこと言えてると思ったなら、それは大きなまちがいだぞ、ピトラ」
「……そうだ」
「ん?」
「アイスを一つ買うんだよ。いちど外に出て、それをふたりで分けて食べるんだ」
「それで」
「もう一つをえらびながら、ここでのんびりすごすというのはどうだろう」
「おちつけ、ピトラ。一つのアイスを分けるなんて、思うつぼだぞ」
「いや、ほら、そのソーダアイスなら、二つにわれるよ」
 ピトラがガラスごしに、ソーダアイスをゆびさします。
 ぼうが二つついていて、わけられるタイプのアイスです。
「ピトラ、あれはちがう。ひとりで食べるものだ」
「えっ?」
「かんがえてみろ、ウナギには三本クシがささっているけれど、ひとりで食べるだろう?」
「サリス」
「わかったか?」
「うちでは、ウナギはたまごやきに入れたり、太まきのおすしにしたりするから、それはわからないよ」
「くあっ! ひとてまかけるひとか! ピピラさんめ!」
「あの……ひとのおかあさんを、下のなまえでよぶのはどうかと」
 ピトラは、また、アイスをみます。
 氷っぽいアイスに、クリームみたいなアイス、だいふくに、モナカもあります。
「……うーん」
 ピトラはふと、となりのたなをみました。
 となりは、かみパックのジュースやお茶や牛乳がならんでいます。
「あ……」
「どうした、ピトラ?」
「かみパックだと、500ミリリットルで105円だね」
「ん? ああ、たしかにたっぷりのめるけど、ふたりで一本づつは買えないぞ」
「思ったんだけどさ」

 ピトラとサリスは、コンビニからもう少し歩いて、100円ショップにきました。
「おおっ、350ミリリットルが2本で105円だ!」
 売り場には、あんまりみおぼえのないジュースがいくつもならんでいます。ねだんは、2本で105円です。
「そうか、100円ショップにジュースが売ってるんだな。わすれてたぜ」
「ふふふ、お金がからむと頭がはたらくよ、ぼくは!」
「すごいぞピトラ、えらいぞピトラ、マネーのウサギピトラ、しゅせんどピトラ、お金が大好きピトラ!」
「わははは、そんなにほめないでよ!」
 サリスはリンゴのジュースを1本とります。
「もう1本をピトラがえらんで、いっしょにお金をはらって、おつりの95円をわければだいじょうぶだな」
「あ、47円にあまり1円だけど」
「1円なんて、とは言わないが、アイデアのぶんでピトラにやるさ」
「本当! いやぁ、さすがサリス、ふとっぱら!」
「……そんなにうれしがるのも、またおかしい気がするな」
 ピトラはオレンジのジュースを手にとります。
 とってもつめたくて、ずっしり重いカンです。ふると、ちゃぷんちゃぷんと音がします。それを聞いていると、なんだかもっとずっとノドがかわいてくるみたいです。
 ですが。
「さあ、買おうぜ、ピトラ!」
「――ちょおおおっっっっっとまったああああああ!」
 とつぜん、ピトラがおおごえでどなりました。
「また高いよ! もっと安いのがある! あわててた、わすれてた!」
「ええ? もういいじゃんかよ?」
「もうちょっと、もうほんのひといきで、ずっと安くジュースが買えるのに、サリス、キミは歩かないってのか! すべてを金でかたづける、そんなヤツになってしまったのか!」
「見そこなうな、オレは金なんかにしばられないぞ!」
「それでこそ、わがとも!」
 店のひとたちは、ピトラとサリスをちょっと心配そうに見ていました。

 十五分ほど歩いて、ピトラとサリスは、100円ショップからほんの少しはなれたスーパーマーケットにきていました。
「おおっ、350ミリリットルが一本40円だ!」
「ね? 安いでしょ、サリス?」
 スーパーマーケットのオリジナルのジュースでした。
「うむ、大したもんだ、言われてみればそうだった。よく思い出したな、さすがはピトラだ!」
「ははは、思うぞんぶんほめてくれていいよ」
「ふうむ、どれにしようかな。サイダーと、コーラと、レモンソーダ」
 サリスの手が止まります。
「なあピトラ?」
「なに? ほめことばなら、どしどしうけつけ中だよ?」
「ぜんぶ炭酸、だな」
「え?」
 ピトラも、ジュースを見ます。
 350ミリリットルのカンのサイダーと、コーラと、レモンソーダ。
 40円のねだんがついているのは、それだけで、ほかはもう少し高いです。
「炭酸……か」
 ピトラはつぶやきます。
(炭酸って、ベロがビリビリするからあんまり好きじゃないんだけど……)
 ピトラとサリスは、だまりこんでしまいました。サリスも炭酸はとくいじゃないみたいです。
(でも、100円ショップにもどるような元気はないし)
 もうノドがカラカラのカサカサです。あのぬるい水道の水だってほしくなるぐらいです。
(ええい、なるようになれ!)
 ピトラはサイダーをとります。
「ぼくはこれを買うよ!」
「だ、だったら、オレはこれだ!」
 サリスもつられてコーラをつかみました。

 しはらいをすませたピトラとサリスは、スーパーの外のベンチにすわります。
(炭酸、かぁ)
 小さくためいきをついて。
 ピトラはカンをあけました。
 ぶしっ!
 シュワシュワとアワが出るのをすこしすすって、それから、きちんと口をつけて。
 ごくり。
 ピリピリの炭酸がノドをチクチクといためつけます。
 いためつけますけれど。
 ごくり、ごくり、ごく、ん。
「ぶはああああっーーー、ふーーーー!」
 口のはしからこぼれかけたサイダーを、手でぬぐいます。
「……おいしい! なんだ? ぜんぜんへいきだ!?」
「本当だ? すごくうまい!」
 サリスも不思議そうな顔をしています。
 どうしてだか、炭酸なのにものすごくおいしく感じられるのです。
「おおいしいいい! 炭酸のピリピリがなんか、つめたくてきもちいい!」
 ごくり。
「シュワシュワするかんじが、うまい!」
 ごっごくっ。
「んまい!」
 ごくっ。
「むまい!」
 ごぐっっ!
「ぬまい!」
 こうして、ピトラとサリスは、サイダーとコーラをすっかりのみほしました。
「さあて、元気100ばいだ!」
「昭和の子どもみたいなセリフだな、ピトラ」
「いいんだよ! マンネリはだいじなんだよ!」
「……マンネリって、なんだ?」
「んーと、だから、その、なんか、よくあること、みたいなのだよ」
「ピトラ、ハンパなちしきは、かえってハジをかくぞ?」
「う、うるさいな。さあ、そろそろ帰ろう!」
 ピトラは、カンをにぎりつぶして、ベンチから立ちあがりました。

「はぁ、はあ、ふぅ、はぁ……」
 ピトラとサリスは、道を歩きます。
「あづいーー」
 あと少し、あと少しで、いつの間にかずいぶんとおくへ来てしまっていたのです。
「あせだくだー」
「まったくだなー」
 半分も歩かないうちに、ピトラとサリスは、体の中まであつくなってしまっていたのでした。
「こんなことなら、公園の水道でガマンしてればよかったんじゃねえか?」
「ちがうよ、サリス」
 あせがボタボタたれます。
「ぼくは、あのサイダーのあじをわすれない。これも、大人になれば、かがやける思い出になるにちがいないから」
「なんか上手いこと言って自分をごまかそうとしてるな、ピトラ」
「そんなワケないヨ! ありえないヨ! なにもごまかしてないヨ!」
「『ヨ』がカタカナになってるぞ」
「ツッコミむよう!」
 ピトラとサリスは、一歩、また一歩と歩きながら、おなかのそこから、大きなためいきをつきました。
「「あー、のどかわいたー」」

【おしまい】



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