ピトラの冒険65

 千足とQの絵本ワールド
Q書房■■■■
 しろありたいじ
 

ごんぱち

 ピトラは夢の世界の草原の中で目をさましました。
「ん、と……あれ? どこ、ここ?」
 色々な色の花や草が生えていて、虹の中にいるようです。
 ピトラはあちこちを見まわします。
「なんだ、ピトラ運送のちかくの公園じゃないか」
 目をこすりながら立ちあがります。
「社長室に出ようと思ってたのに、やっぱりたまにねらいを外しちゃうなぁ」
 ピトラ運送のある方へ、ピトラは歩き出そうとします。
 しますが。
 足が、とまりました。
「……ん?」
 なぜって。
 ピトラ運送の、二階だてのビルがあるはずのところに。
 ――お城があったからです。

「えーと……?」
 ピトラは、お城にちかづきます。
 こまかいところはともかく、お城です。やねの上には、シャチホコもちゃんとついてます。
 そして、ピトラ運送はありません。
「なんだ? なんだ、一体なんだ? 夢でもみてるの?」
 お城の前でピトラはきょろきょろしたり、ちょっと歩いたり。
「どうすればいいんだ? 何があったんだ? ぼくの会社は? え? どういうツッコミをすれば……そうだ、つっこまなきゃ!」
 ピトラはハッとして顔をあげます。
「会社がお城になっちゃったら――けっこうステキだよ! 一国一城の主だよ! って、文字どおりだよ! ひねりがないよ!」
「あ、ツッコミが聞こえると思ったら、やっぱり社長でありますな」
 カモメのジョースターが、やって来ました。
「どうも、こんにちはでヤス」
「おお、今日は外に出たんですな。良かったですぞ」
 ガースと親方もいっしょです。
「こんにちは、みんな」
 ピトラはあいさつをしてから――。
「ははぁ、分かって来たぞ」
「なんでありますか? まずは、自分がなにも知らないということを知らなければ、てつがくしゃになれないであります」
「ジョースター、みょうなことを言ってごまかしてるけど、君だね? そうだよ、君はいつも社長のイスをねらっていたもの。ぼくがいない間に、会社を自分のものにして、ビルをお城に作りかえたんだ!」
「なんてことを言うのでありますか!」
 ジョースターはピトラをにらみます。
「自分は、やっていないのであります!」
「いくら社長でも、それはひどいでヤス。ジョースターはなにもやってません。まだ」
「そうですぞ、社長。ジョースターはそんなことをしていませんぞ、まだ」
「ガース、親方! ありがとうであります。どうです、自分は、今回はまだ、なにもやっていないのであります!」
「……『まだ』ね」
 ピトラが肩をすくめて、お城をながめます。
「ねえ」
「なんでありますか?」
「お城、大きくなってる気がするんだけど」
「二の丸がふえてヤスね」
「わたりろうかができましたな」
「なに、なにがおきてるの! セキニンシャは!?」
「おちつくであります社長」
「これがおちついていられるか! きいてないよ、うったえてやる!」
「社長、キレないで聞くでヤス」
「キレてなーい! キレてないよ! ぼくをキレさせたら大したもんだよ!」
「かんたんに言いますと、城アリが出たんですぞ」
「白アリ?」
「いえ、城アリ」
「だから、白アリでしょう?」
「字で書くと、こうです。白じゃなくて城、英語で言うとキャッスル、フォーク語でいうとシャトー」
「フォーク語?」
「いわゆる白アリは、たてものの木を食べてしまういきものですが」
 お城は、またカベがいちまいふえています。
「城アリは、たてものをどんどん作っていってしまうのです」
「ダジャレから生まれたような生き物だなぁ」
「まったく、いいかげんであります、ダジャレなんて」
 カモメのジョースターが言いました。
 カモメのジョースターが言いました。
 でもまあ世の中、あんがいそういうものです。

 ピトラはお城を見上げます。
 テレビや写真で見たお城とそっくりです。
「よく考えると、これでも悪くないなぁ」
「そうですかな?」
「だって、お城がぼくのものだなんて、なんかカッコイイでしょ。オダノブナガみたいで」
「なかぬなら、うらのお山にすててしまえ、カナリヤでありますな」
「なんかくっついてるよ、なんか!」
「こんにちは、いっきゅうけんちくしです」
 いっきゅうけんちくしがやって来ました。
「――は?」
「私がよんだのです。ああ、おねがいします」
 親方が、いっきゅうけんちくしにおじぎをします。
「はい、おまかせください」
 ぽくぽくぽくぽくぽくぽく――チーン。
「できました。このお城は、震度四の地震でたおれます」
「ええと……どこからつっこめばいいかな、カソ」
「なにか、お気にめしませんでしたか?」
 いっきゅうけんちくしは、火ネズミのカソでした。
「けんちくしのシカクをもっているのは、お医者さんのめんきょまでもってるカソだから良いとして」
「さすがはピトラ。わかっていらっしゃる」
「いっきゅうけんちくしの、いっきゅうは、おぼうさんの一休とちがうから!」
「は? そりゃそうでしょう? 一級二級の一級ですよ」
「だったら、さっきのモクギョとリンの音はなんなのさ?」
「ああ、それは、なにかみんなから見てあんまり面白くない時に出て来る『しばらくおまちください』のテロップといっしょですよ」
「まぎらわしいよ!」
「そうですか?」
「……と、これでかんけいないところのボケはぜんぶひろったよね」
「そうですね」
「そうですな」
「そうでありますな」
「そうでヤスね」
 ピトラはすぅっと息をすいこんで。
「――震度四でたおれるってええ!?」
 長い、ノリツッコミでした。

 ピトラたちは、お城の中を進みます。
 お城の中は、木をノリでかためたようなものでできていて、お城というよりどうくつの中みたいです。
「ガース、今、どのへん?」
 ヘッドランプつきのヘルメットをかぶったピトラは、右のカベをさわりながらたずねます。
「会社は、この先五〇メートルのはずでヤス」
 ガースは地図と、めもりつきの車輪をころがしながら、こたえます。
「むきは、このまままっすぐでだいじょうぶ?」
「へいきでヤス、が」
「あ」
 つぎのへやにはいると、いきどまりでした。
「またいきどまりか」
「またでありますね」
「またですな」
「またですね」
「またでヤス」
 ピトラはかべを右手でさわりながら、もと来た道を歩きます。
 少しすすむと。
「む、また分かれ道だ」
 右手でかべをさわっているので、右へ右へ。
 このままずっと右へ右へと歩いていけば、迷わないのです。
「まったく、メイワクだなぁ、城アリっていうのは!」
「もともとは、ほかの星のアリのはずですが、たまに宇宙船にまぎれてやって来ることがあるようですな」
「ってことは、火に弱かったり、生きものにタマゴを生んだりするんじゃありませんか?」
「……そういうのをみんなはきたいしてないんじゃないかな、カソ」
 もうしばらく歩くと、またいきどまりになりました。
「うーむ」
 ピトラはカベをたたきます。
 手ざわりは木みたいですが、がっしりしていてビクともしません。
「これ、本当に地震でくずれるのかな」
「さわってわかるぐらいなら、とっくにくずれてますよ、ピトラ」
「まあ、そういうものなんだろうけど」
 ピトラたちはそのまま歩いて――。
「あれ? 明るい?」
「外ですな」
「いい空気がやっとすえるであります」
「入り口にもどって来たみたいでヤスね」
 ピトラたちが入って来た場所でした。
「ええーー? だって、しっかりさがしてたのに?」
「ピトラ、右手でカベをさわりつづけるっていうのは、たしかにどうくつで迷わない方法ですが」
「だったら、なんで」
「ぜんぶをくまなく歩くための方法ではありませんよ」
「え? あ……そっか」
 その時です。
「あらあらあらごめんよっ!」
 ねじりハチマキにハッピをきた一匹のアリが、すごいスピードで走っています。
 手には、木のクズのねんどみたいなものをもっていました。
「あ、城アリですね」
「城アリでありますな」
「城アリですぞ」
「城アリでヤスね」
「な! どうして外に!」
「ピトラ、たてものというのは、外へ外へと作っていくものでしょう?」
「……気づいてたなら、教えてよ!」

 城アリは、口から木くずのねんどみたいなものをはきだし、どんどんカベを作っていきます。
 みるみるうちに、カベができあがります。
 そばにつみあげられていた材木をかじっては、木くずのねんどを作り、また、カベを作る。カベをつくってはねんどを作り、ねんどを作ってはカベを作ります。
 ものすごいスピードです。
「ちょっと、城アリさん!」
 ピトラがどなります。
 が。
 どなった時には、城アリはもういなくなっていました。
「ちょっ、ひとの話を!」
 右のカベができたとおもったら左、左に行こうとしたら上、上にのぼったらこんどは右。
 城アリはちょっともじっとしていません。
 まわりの電信柱にもカベをつくって、やぐらみたいにしています。
「力づくでとめますかな?」
 親方がうでまくりをします。
「やめた方がいいですね。アリは、ものすごく強いですよ」
 城アリは大きな木材をひょいひょいともちあげています。
「でも、このままじゃ、会社が迷路のおくになっちゃう」
「社長室から出るのに、毛糸玉がいるかも知れませんね」
「知りあいのモンタっていうミノタウロスが、いい迷路さがしてるんでヤスが、ゆずってあげちゃあ?」
「そんなのダメであります。自分の社長イスはだれにもわたさないであります!」
「……ジョースター、君の社長イスでないことはたしかだと思うんだけどね」
 城アリは、草の一本一本にまで、カベを作っています。
「なにやってるんだろうね、城アリってのは」
「なにかたてものがあれば、カベややねをふやすし、せっけいずがあればその通りに作ります。雨がふろうがヤリがふろうが空がおちてこようがね」
「空がおちて……あのさ、ひょっとして、城アリって昔、パーイカとかいう町のてんじょうなんか、作らなかったかな?」
「わかりませんけど」
 カソは首をよこにふります。
「少なくとも、城アリにたのんだら、すぐにできたでしょうね。まあ、じきにボロボロとくずれるでしょうけど」
「……ゼッタイ、やめさせないと」

「でやああああ!」
 ピトラたちは、アミをもって城アリにとびかかります。
「アミでおさえれば、どんなに力があってもからまってうごけないはずだ!」
「あらあらごめんよっ!」
 ずぼっ!
 城アリは、アミをあっさりとつきやぶって、走って行ってしまいました。

「こんどはどうだ! アミにハリガネが入ってるんだぞ!」
 ピトラたちは、また、アミで城アリをおさえようとします。
「どいたどいたぁ!」
 ばりっ!
 城アリは、やっぱりアミをつきやぶって、走って行ってしまいます。

「それなら、フツヌシから買った、ファイン・ヒヒイロカネのアミだ!」
 ピトラたちは、またまた、アミで城アリをおさえつけようとします。
「ファイン・ヒヒイロカネは、金よりかるいけれど、ダイヤよりもかたく、しかもものすごく高いんだ!」
「ムダムダムダムダァァァァ!」
 ずるずるずるずるずるずるずる。
 城アリは、アミをおさえているピトラもろともひきずって走ります。
「いたいっ、ひきずってるっ、すりむける、いたいっ、いたいっ!」
「いたいであります!」
「おわっ、いたいですぞ!」
「給料ももらってませんし、力が出ませんねぇ」
「このまま引きずられたらケガをするでヤス!」
 ピトラたちが手をはなすと、城アリは頭にアミをひっかけたままで、走りさってしまいました。

「ううっ、止まらない……」
 すりきずだらけになったピトラは、がっくりとすわりこみます。
 城アリは、どんどん城を大きくしています。
「あの力にはりあえるのは、アリか、ゲンさんぐらいのものでしょう」
 カソは火ネズミの背広のホコリをはらっています。
「じゃあ、そのどっちかにたのめば」
「アリは、自分の仕事いがいのことは、なにもやらない生きものですから、ムリです」
「……それはなんとなく分かるけど、じゃあゲンさんに」
「力はありますけど、スピードがゼロですよ。かんたんによけられてしまいます」
「すっごく大きくなってもらえば」
「星ぐらい大きくならなければ、同じことですよ」
「むきーーーー!」
 ピトラはうなって、頭をかきむしります。
「こうしている間に、どんどんぼくの会社が迷路のおくに!」
「あわてない、あわてない。ひと休みひと休み」
「カソ、やっぱりそっちの一休でしょ! 一級ちがうでしょ!」
「ちっちゃなお友だちに分からないネタはどうかと思いますよ、ピトラ」
「再放送ぐらいやってるでしょ!」

「おらおらおらおらっ!」
 城アリは、どんどんカベをつくっていきます。
 道ぞいにならんでいる木をつないで、ヘイにしていきます。
「ああ、量ばっかりでできが悪いやな」
 ぼやきながらも、城アリはどんどんさぎょうをつづけます。
 その時です。
 とつぜん、城アリの目の前がまっくらになりました。
「うわっ!」
 城アリは自分の顔にさわります。
「な、なんだ、紙じゃねえか」
 紙をすてようとした城アリでしたが、ふと、手をとめます。
「ん? んんんーー!?」
 きっちりとした、マス目の付いた紙。
「おおおおっ、これはたてものの設計図じゃねえか!」
 城アリは思わず声を上げます。
「これなら、きちんとしたものが作れるぞ!」
 言うが早いか、城アリは設計図どおりにたてものを作りはじめました。
「ふむふむ、カベが二メートルのあつさで、ゆかも二メートル、まどはなし、高さは二メートルでてんじょうのあつさは二メートル……」
 ぶあついカベの、サイコロみたいなたてものがどんどんできあがっていきます。
 カベのうちの三つと、てんじょうがすっかりできあがりました。
「あとは、内がわのカベに彫刻か。お安いご用だ!」
 城アリは、たてものの中に入ると、カベに彫刻をほりはじめます。
 こまかい彫刻を、じっくりじっくりほっていきます。どんなに仕事の早い城アリでも、さすがに時間がかかります。
 半分ほどすすめたところで。
「ん?」
 とつぜん、まっくらになりました。
「ん? ん? んんんんーー?」
 城アリはあたりをみまわします。
 でも、まっくらでなにも見えません。
「ん? どうしたんだ? 夜になったのか?」

「城アリさん!」
 サイコロみたいなたてものからつきだしたつつに、ピトラが声をかけます。
『ん? だれだ? ここはどこだ? なにがあった?』
 つつから、城アリの声がします。
「それは、ろうやの設計図だよ。キミが中に入っているスキに、ぼくたちが入り口をふさいだのさ」
『どうしてそんなことをしやがんでぇ?』
「当たり前であります、自分の社長イスを迷路のおくにしまいこんだのであります」
「さあ、もうたてものをかってにたてたりしないってヤクソクするなら、出してあげてもいいよ」
『えっ……』
 城アリは困ったような声になります。
『そんなことを言われても、あっしはたてものを作っていないとウズウズしちまって』
「なにかべつの、メイワクのかからないことをすればいいでしょ」
「ピトラ、それ、ぜったいムリですよね?」
「それができたひとは、ぜんぜんいませんぞ」
「できないでありますね」
「ゲームやる集中力を、勉強にさいてくれたら、とか言うのと同じでヤス」
「ううっ、まあ、それはそうなんだけど」
『おねがいだ、こんなところにいたら、たいくつでおかしくなっちまう! あっしに、仕事を、もっと仕事を! たてものをつくらせてくれええええ!』
「……こりゃ、やっぱり刑務所かなぁ」
『刑務所では、家を作らせてくれますかね?』
「んなワケないでしょ」
『ひぃぃぃぃぃ!』
「社長、そろそろゆるしてあげようじゃありませんか」
 親方がわらいます。
「うん……そうだね。もうなんか、ハンセイとかそういうのと、ちがう気もするし」
『出してもらえるんで!? 家も作らせてもらえるんで?』
「そのかわり、ですね」
 カソがにやぁっと笑います。
「タダ働きは、してもらいますよ」

 ビル、家、でんしんばしらに、道……。
「すごいなぁ、あれ、ぜんぶ城アリが作ったの?」
 ピトラはおどろいて、目をみひらきます。
「そうですよ」
 カソはうなずきます。
 そしてその町は。
 つぎつぎと怪獣にこわされていきます。
 スクリーンの中で。
「映画のセットを作らせるとはね」
 ピトラはポップコーンをほおばります。
「こわれやすいなら、こわすものを作らせればいい、そういうことです」
 じまんげに言って、カソはピトラのポップコーンをつかんで食べます。
「なにより、給料をほとんど出さなくていいのがうれしいですね」
「……あんまりムチャな働かせ方したらダメだよ?」
「もちろんです。イヤイヤやる仕事ほど、できの悪いものはありませんからね」
 カソはまた、ポップコーンを食べます。
「カソ、そんなに食べるなら、自分でも買えばいいじゃないか」
「なにを言ってるんです。映画館のポップコーンというのは、みんなでつつくからおいしいんですよ」
「それは、ワリカンとかで買った時の話でしょ。カソ、お金ゼンゼン出してないじゃないか」
 スクリーンの中では、町がどっかんどっかんこわれていきました。

【おしまい】



お便りお待ちしています。
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