カタツムリをとろう
ごんぱち
ゴレイト先生が、授業をしています。
「――電気をつくる方法として、ほかに原子力がある」
「はい先生」
タオーゼが手をあげました。
「ん、なんだい、タオーゼ君」
「ゲンシリョクって、なんなんですか?」
「原子力発電につかわれるエネルギーだよ、そんなことも知らないのかい? ははは」
ゴレイト先生につられて、クラスメイトのうちのなんにんかもわらいます。
「いや、だから、それがどういうエネルギーかって」
「原子力は原子力だよ、よけいなことをかんがえてないで、勉強しなさい」
「……はい、すみません」
なっとくのいかない顔で、タオーゼは頭を下げました。
「――さて、この原子力というのは、アメリカ、フランスについで、日本が3番目だ。アメリカは良いけれど、フランスなんかにまけるのはガマンならないね」
(なんでアメリカは良いのかなぁ)
ピトラはぼんやりとゴレイト先生の話をききながします。ラグヤも、苦笑いをしています。
「フランスなんかに、このうつくしい国日本がまけてはいけないよ。なにしろ、フランス人は、カタツムリを食べる上に、数をかぞえられ――」
チャイムがなりました。
「チャイムなんか、気にするか! これは日本をささえる子ど――」
チャイムがもう、ものすごい大きな音でなりました。ついでに、雨もざんざかふりはじめました。
ゴレイト先生がなにか言っていますが、ぜんぜん聞こえませんでした。
学校が終わり、ピトラとラグヤは帰ります。雨はいつの間にかやんでいました。
「――ゴレイト先生にも困ったもんだね」
ピトラは自分のかたをたたきます。こっているワケではありませんが、なんだかやってみたいきぶんなのです。
「……アイコクシンと元気のある子どもを、体あたりで育てるネッケツ先生だって、ひょうばんは良いらしいよ」
「だれがそんなひょうばんを?」
「……さあてね」
ラグヤはとてもバカにしたような顔で笑っています。
「――先生のことこんなふうに言って、ぼくたち悪い子なのかな?」
「……教えてもらうだけなら悪い子だけど、学ぶっていう意味ならこんなに感心な子はいないさ」
「ラグヤはあいかわらず、むつかしいことを言うなぁ」
「……ちょっとだけIQが高くて、ちょっとだけ読んだ本が多いだけさ」
「IQねぇ……」
ピトラは頭をかきながら、いけがきのアジサイの葉っぱを1まいつまみます。
大きくてしっかりした、いかにも葉っぱらしい形をした葉っぱ。
「ん?」
ピトラはふと、それに目をとめます。
「あ、カタツムリ!」
少しはなれたところの葉っぱに、カタツムリがいました。
「……なかなか大きいね」
「これはいいものだ」
ピトラはカタツムリの目をつん、とつつきます。
カタツムリの、のびていた目がきゅぅっとちぢんで、なくなってしまいました。
ピトラはカタツムリをとります。すると、カタツムリはどんどんちぢんで、すっかりカラにかくれてしまいました。
「へっ、おびえてるよ、このカタツムリ」
「……知らない人がきいたら、ザンコクな子だと思われるよ?」
「そ、そうかな。えーと、これは、アニメのセリフのパロディで」
「……ロコツにせつめいするのもどうかと」
ラグヤと別れたピトラは、カタツムリを持ったまま歩きます。
「でーんでん、むーしむーし、かーたつむりっと」
ピトラはカタツムリをながめます。
「フランスでは食べるのかぁ」
ぐるぐるまきのカラに、すっかりとおさまっています。
「まあ、貝みたいなもんだし、毒がなけりゃ食べられるよね、そりゃあ」
みたい、じゃなくて、貝そのものです。
しっかり大きくて、中がたっぷりつまっていそうです。
「フランス料理、か。たしか、すごくねだんが高いって」
ピトラの感覚は、昭和の子どものようです。
「……お母さんにあげたら、よろこぶかなぁ」
カタツムリが、べつのアジサイにもいます。
「いつも、5円安いとか10円安いとか気にしてるし」
「アジサイ、アジサイ、アジとサイ〜、サイは空手でつかうヤツ〜」
みょうな歌を口ずさみながら、ピトラは道を歩きます。
「おっ」
アジサイの葉っぱのうらに、カタツムリがいっぴき。
ピトラは、カタツムリのうしろにまわりこんで、そうっと手をのばしてから、いっきに。
「つかまえた!」
バタバタとあばれるカタツムリを、ひろったビニールぶくろの中に入れます。
「……ウソはやめようよ。カタツムリつかまえるのに、スキをうかがう必要とかないから。あばれたりもしないから」
ジミなさぎょうなので、ちょっとしたスパイスを。
「いれなくていーから――っと、もうもういっぴき見つけっ」
いろんな家のいけがきで、アジサイの花は、ちょうどいっぱいにさいています。
赤かったり、青かったり、ムラサキだったり、まん中のとこがつぶつぶだったり、花だったり、家によってちょっぴりづつちがいます。
ピトラはまた、べつの家のいけがきのアジサイをのぞきこみます。
アジサイの枝と枝の間に、クモが巣をかけていました。
雨のつぶが、引っかかって光っています。
「わあ、悪ものがぬすむネックレスみたいだ!」
――ピトラときたら、ロクなことを言いませんでした。
「かたつむり、かたつむりの、カラをとったら、ただのなめくじになるかと思いきや、アメフラシ〜」
けったいな歌をうたいながら、ピトラはなおも道をすすみます。
このへんの家は、いけがきではなくてコンクリートのへいです。
「こんなところは――あれ?」
みれば、コンクリートのあちこちに、小さいカタツムリがいっぱいいます。
「ほへー、こんなとこにいるんだ。気にしてなかったなぁ」
ピトラをいっぴきとります。
豆粒ぐらいの大きさの、小さいカタツムリです。
小さいですけど、きちんとカラがついています。
「んー、これは赤ちゃんかなぁ?」
ピトラはふくろの中のカタツムリと見くらべます。
10ばいもちがいます。
「これを食べるとなると……」
ピトラはちょっとかんがえこみます。
「カラをとるのがめんどうそうだし」
コンクリートにもどして、また歩き出しました。
「どこかにまだ、アジサイぐらいあるよね」
――ビニールぶくろの中に、カタツムリが20匹はいます。
「おー、さがせばあつまるもんだなぁ」
ふくろをのぞいて、ピトラはまんぞくげです。
ぐるぐるのカタツムリのカラがいっぱいで、なんだか目が回りそうなぐらいです。
「小さいころは、1匹、2匹しか見つけられなかったもんだけど」
ピトラはスキップまじりに歩きます。
「大きくなるって、すてきなことだね」
いけがきのつつじの花をトンとたたいて水しぶきをちらします。
大きい水たまりをひょいととびこえます。
ほんのちょっぴり水をふんでしまいましたが、だいたいとびこえました。
「よし、これぐらいならOK、OK」
それからもういちど、カタツムリを見ます。
カタツムリは、カラからのんびり顔を出したりひっこめたりしています。
「……でも、これ、どうやって料理するのかなぁ」
ピトラはくびをかしげます。
「家でいちども食べたことないし、ひょっとしてお母さんも料理のしかた知らないんじゃ?」
考えはじめると心配になるものです。
「せっかくあげても、『えー、こんなの食べられるのー』とか言われたら、がっかりだし」
ピトラは少しかんがえていましたが。
「そうだ!」
「分からないことはしらべる、これが学ぶしせいってヤツだよね」
ピトラは図書館に来ていました。
本だなには、いっぱい本がならんでいます。
みんな、本を読んだり、本をさがしたり、本をかりたり、本をかえしたりしています。
「えーと、料理の本、料理の本……」
大人の本の方へいきます。
「『おいしいおかし』『アレルギーの子のためのおやつ』『今日のこんだて』『イギリス料理を食べられるようにするまほうのレシピ』……と、このへんのたなかな」
ピトラは本のせなかを見ていきます。
「『がんばればおうちでできるフランス料理』――と、これかな?」
本をとって、ページをひらきます。
「カタツムリ、カタツムリ……」
いろんな料理の写真がのっています。
「なんだかわからないけど、おいしそうだなぁ」
カベにかかっている時計は、そろそろ5時で、たしかにおなかがすく時間です。
「っと、よだれよだれ」
ピトラが口をぐいとぬぐって、ページをひらくと。
「あ、これだ」
カタツムリみたいな貝が、くぼみのいくつもついたお皿にのっている写真がありました。
「えーと、エス……エスカルゴ? の、なんとか焼き?」
ピトラは首をかしげます。
「なんか、カタツムリとちがうかたちだなぁ」
せつめいを読みます。
「えーと、食べるのは、リンゴマイマイとアフリカマイマイ――あ、でも、日本でもクスリとして食べることもあった、って書いてある」
ピトラはランドセルの横にしばりつけたビニールぶくろを見ます。
「クスリ、は、べつにいらないけど」
本をもどして、ピトラは子どもの本のたなへ行きます。
「なんか、ほかにないかなぁ」
ピトラは何冊かカタツムリという言葉や、絵のありそうな本とっては読みます。
「……む?」
読みます。
「あれ?」
読みます。
「これも」
読みます。
「……うわ」
ピトラはゆっくりと本を閉じて、たなにもどしました。
ピトラはアジサイの葉っぱに、カタツムリをのせます。
「やれやれ」
カタツムリは、ゆっくりと体をのばして、のんびりと動きはじめます。
「『カタツムリが食べられるときいたボウヤが、いっぱいのカタツムリをもってかえって、ママがおおさわぎ』ってネタが、こんなにあちこちにあるとは思わなかったよ」
すっかりからになったビニールぶくろを、ピトラはポケットにつっこみます。
「あぶないあぶない、そんなオチじゃ、ゲイニンしっかくだもんね」
カタツムリは目をのばしはじめました。
「でも」
ピトラは、つん、と、カタツムリの目にさわります。
「けっきょく、食べるとおいしいのかな、君たちは?」
カタツムリはなんにも答えずに、ただ、目をきゅぅっとちぢめました。
【おしまい】
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