オーストラリアはあったかい
ごんぱち
学校が終わり、ピトラとラグヤは帰り道。北風がぴゅうぅぅぅとふきぬけていきます。
「ううっ、さむい」
ピトラがぶるりとふるえます。
「……さむいね」
ラグヤはピトラよりも服を着ていますが、同じぐらいさむそうです。
「公園より……」
「……秘密基地がいいね
ピトラとラグヤは、秘密基地の空き家へむかいました。
まわりの家は、クリスマスのかざりつけをしていますが、秘密基地だけはなんにもなくて、黒っぽいかべです。
二人は、だれも見ていないのをたしかめてから、秘密基地の門をくぐり、かってぐちへまわります。
ドアをあけ、中にはいると。
「あー、なんか、ちょっとあったかいね」
「……風もないしね」
それから、ワナをよけて、いちばんおくの部屋に入りました。
「ふー、やれやれ。まったく、さむいよね、12月って」
「……うん」
「12月でこのさむさじゃ、1月になったらどらぐらいさむいか」
「……そうだね」
「まして、7月になったら、みんなこおっちゃうんじゃないかな」
「……そうだね」
ラグヤはピトラのボケをつぶしながら、部屋においてある古いざっしをひらきます。
「……オーストラリアなら、12月は夏なんだけどね」
「え?」
ピトラは目を丸くします。
「オーストラリア? どうして?」
「……地球の北と南で、季節がぎゃくなんだよ」
「どうして?」
「……地球が回ってる中心が、太陽とちょっとかたむいてるから、光の当たる量がかわって季節ができる。これが、一方にかたむいてる時には、北の半分に夏が来て、はんたいがわにかたむいてる時は、南の半分に夏が来るんだ」
「なんとなく分かった気がする」
ピトラは分かったフリをしてごまかしました。
「……分かってないね」
「そこにいちいちつっこんだら、ひとのかんけいってうまくいかないよ」
「……それは言える」
「オーストラリアかぁ」
ピトラはつぶやきます。
「あったかそうでいいなぁ」
「……8月ごろは、さむいんだけどね」
「そうだ!」
「……なに?」
「秘密基地のこのへやを、オーストラリアみたいにしてみよう!」
一度家に帰ったピトラとラグヤは、いろんなにもつを持って、また秘密基地にもどって来ました。
「じゃん、じゃじゃーん!」
「……古いね」
「いいでしょ!」
ピトラはリュックから、ハロゲンヒーターを出します。
「まずはあったかくないとね!」
「……なるほど、まずはかるいジャブのボケだね」
「ボケてないよ! ちゃんとあったかくなるし、とっても安全なんだよ!」
「……なんだ、天然か」
「なんてこと言うんだよ、ラグヤ! ぼくがボケるときは、しっかりいっしょうけんめいがんばってるよ! 天然なんて、芸ともよべない、笑われ芸といっしょにされたくないね!」
「……じゃあとりあえず、つっこんでおくけど、電気はどうするの?」
「ちゃんとコンセントあるでしょ、ほら」
ピトラはかべのコンセントにプラグをさしこみましたが。
「あれ? あれ? つかないぞ?」
「……空き家に電気は通ってないよ。電気もタダじゃないんだから」
「そっか、さいきんはそうなんだ」
「……昔から電気はお金で買うものだよ」
ラグヤがバッグから、つかいすてカイロをいくつも出します。
「……これなら、電気はいらない。クツの中と、おしりと、わきの下と背中に入れると、体ぜんぶがあったまるよ」
「どれどれ?」
ピトラはカイロをラグヤに言われたところに入れていきます。
「あ、本当だ、ちょっとポカポカしてくる――よし、それじゃつぎだ」
新聞を出します。
「ほら、この写真、オーストラリアだよ」
なにかのせんでんなのか、カラーページに、大きくオーストラリアの大きい岩の写真がのっています。
「……いいね。ボクはこれだ」
ラグヤがもってきたのは、カレンダーでした。海岸で水着をきているサンタクロースの写真です。
「ぶははは、ヘンな写真!」
「……太っててあつくるしいよね」
二人は、新聞とカレンダーをかべにはります。
「それからこれ!」
ピトラはラジカセを出してMDをかけます。
なんだかあったかそうな、ほんわかした音がながれてきます。
「……ピトラ」
「音がだいじだからね、ふふふ、どうだい、さえてるだろう?」
「……それは、ハワイアン。オーストラリアじゃない」
「!」
「……それよりピトラ、どうしてそんなMDもってるの?」
「お父さんがたまにやるんだよ」
「……音はこれぐらいかな」
ラグヤがMDをいれかえます。
しっとりした音楽がながれてきます。
「……オーストラリアの歌手が名前に入ってる曲だよ」
「ひねりすぎだよ! そもそも日本の曲じゃないか、これ」
「……じゃあ、波の音にしておこうか」
「そういうのがあったら先に出してよ」
ラジカセから波の音が聞こえ始めます。
「それからこれもはろうかな」
ピトラが出したのは、ドクロのマークのついた、海賊のはたです。
「キャプテン・クックっていう人がいたんでしょ」
「……キャプテンは、海賊っていうイミじゃないよ」
「またまたぁ、ラグヤ、からかわないでよ」
「……まあ、いいけど」
「しあげはこれ!」
コアラ、キウイ、カンガルー、ポッサム、カモノハシ。
「……そういえば、ぬいぐるみコレクターだったね、ピトラ」
「まあねー」
「……ボクはこれぐらいかな」
マヌケな顔をした、やたらと頭の大きい像です。
「なにこれ?」
「……モコイ」
「おしゃかさま?」
「……モコイ」
あちこちにコアラやカモノハシのぬいぐるみが見え、オーストラリアの写真の新聞紙や、カレンダーがはられ、海賊の旗があって、波の音がして、モコイの像がおかれて、しかもカイロでポカポカです。
「あー、なんか、いい感じだね」
「……ただあったかいだけでも、ありがたいしね」
ピトラとラグヤは、すっかりオーストラリアっぽくなった部屋の中で、あぐらをかきます。
「さて、それじゃあ、オーストラリアっぽい事をやろうよ」
「……オーストラリアねぇ」
「この前サッカーで勝ってたから、サッカーだ!」
「……いいよ」
ピトラとラグヤは、小さなゴムボールで、サッカーをはじめます。
ピトラがシュートをしようとすると、ラグヤがジャマをして、ラグヤがボールをとると、ピトラがとりかえします。
「えいっ」
「……うぬ」
ラグヤがシュートしようとして、足をふりあげたところを、ピトラがスライディングで一気にボールをはじきとばして――。
「やったゴール!」
「ふふん、ヘタだな、ピトラ」
ボールが、ゴールにしているカベに当たるギリギリのところで、とつぜん入って来たサリスにはじきとばされました。
「なにするんだよ、サリス!」
「がははは、それはおれがききたい」
「そうだそうだ、ききたいぞ」
やっぱりノクタもいっしょです。
「ピトラとラグヤ、なにをやってたんだ?」
「オーストラリアの気分になってたのさ」
「オーストラリア?」
サリスとノクタも、カイロを入れて、オーストラリア気分です。
「うーん、まだ夏っていうにはさむいな」
「そうだそうだ、さむいぞ」
「……でも、電気もないしね」
「よし、それなら」
ピトラはコアラのぬいぐるみをとって、となりの広い部屋へ行きます。
「中からあったまるしかないよ」
「中から?」
「オーストラリアっていうのは、ラグビーがさかんだそうだからね」
「ラグビーってどうやるんだ?」
「手をつかっていいサッカーみたいなのでしょ」
「……ちょっとちがうけど」
「なんでもいいぞ、ノクタはまけないぞ」
ピトラとラグヤ、サリスとノクタでチームになって、ゲーム開始です。
コアラのぬいぐるみをもって、むこうのカベにタッチすれば、ピトラたちの点、こっちがわのカベにタッチすればサリスたちの点です。
「それっ!」
ピトラがラグヤにコアラのぬいぐるみをなげます。
うけとったラグヤを、サリスがつかまえようとします。
ラグヤはつかまれながら、ピトラへぬいぐるみをパス。
「よしっ、このまま!」
ピトラが走ろうとしますが。
どかっ!
ノクタがピトラの足にしがみついてタックルです。
「うわっ!」
「サリス、今だぞ!」
ピトラの手からこぼれたぬいぐるみをひろって、サリスがこっちのカベにタッチ!
「がはは、1点だ」
こんどはラグヤがぬいぐるみをピトラへなげます。
すばやくサリスがピトラにタックルをかけようとしますが。
「もってないよー」
ピトラは両手をひらいてヒラヒラ。
「ラグヤだ! なげたフリをしたんだ!」
サリスとノクタがラグヤにむかいます。
ラグヤは走ってにげます。
でも、サリスとノクタがはさみうちです。にげられません。
でも。
「……ふふ、引っかかった」
くるりとふりむいたラグヤの手には、ぬいぐるみはありません。
「はい、こっちも1点だ!」
ピトラがむこうのカベをタッチ。
「な! どこにもってたんだ」
「……ピトラはわきにかかえてたんだよ。手だけ見てごまかされたね」
「こんどは負けないぞ!」
「ぼくだって!」
ピトラが点をとれば、ノクタがかえす。サリスが点をとれば、ラグヤがかえす。
けっきょく、百二十対百二十五で、サリスとノクタのチームが勝ちでした。
「ふぅ、ふぅ、あつい」
おくの部屋にもどって、ピトラは床の上にすわりこみます。
「そうだな、あついぞ」
「ああ、あついな」
「……夏ぐらいあついね」
ラグヤが魔法ビンを出して、ふたをとってゴクリ。
「……はい」
「ありがと」
ピトラもゴクリ。
「これは――」
「麦茶だな」
「そうだそうだ、麦茶だぞ」
「いいねぇ、やっぱり麦茶だよ」
「おうよ、麦茶にかぎるなぁ」
「うんうん、麦茶がおいしいぞ」
「……家に水出しのパックがのこってたからね」
オーストラリアはどこへ行っちゃったのか、だれもつっこみませんでした。
そうこうしていると。
町内放送で、夕方のチャイムがなりました。
気がつけば、まどから入ってくる光もほとんどありません。
「そろそろ帰らなきゃ」
「そうだな」
「もうすっかりくらいぞ」
「……いそごう」
ピトラたちは大いそぎでにもつをまとめて、秘密基地の勝手口から出ると。
ひゅううううううう!
「ううっ、さむい!」
「……日本にもどってきたってかんじだね」
「うおっ、本当にさむいな」
「そうだそうだ、すごくさむいぞ!」
「お、ピトラ、おかえり、ただいま」
ピトラが帰って来た時に、ちょうどお父さんのポポトさんも帰って来たところでした。
「ただいま、おかえり、お父さん」
「あらあらあら、おかえり、ポポトさん、ピトラ。良いタイミングね、すぐに手をあらってらっしゃい」
お母さんのピピラさんの声が、台所の方からします。
「はーい」
「はい、すぐいくよ」
ピトラとお父さんは手を洗ってうがいして、ついでに顔をあらいます。
「にいちゃん、おとうさん、はやく」
妹のポテトがテーブルでまっていました。
「はい、ピトラ、ポテト、あぶないからちょっとはなれてるのよ」
お母さんが、湯気のたつ土鍋をもってきます。
フタをとると――。
こんにゃく、だいこん、きんちゃく、はんぺん、ゴボウ天、コンブ、ロールキャベツに、つみれ。
「あ、おでんだ」
「おでんだね」
「おでんだ、おでんだ!」
「じゃ、いただきます」
ピトラは、あつあつのはんぺんをひとかじり、つゆをひとすすり。
「んー、オーストラリアもいいけど」
ポカポカとしてきました。
「日本の冬も、悪くないなぁ」
【おしまい】
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