ピトラのいもほり
ごんぱち
「はいはい、しっかりならんでかけ足!」
いつもジャージのゴレイト先生が、道をどんどん走ります。
「っと、まってよ、先生!」
みんなヘトヘトです。
「ほらぁ、がんばりがたりないぞう! ファイトだ! 一、二!」
「ほかのクラスは歩いてますよ!」
ピトラがどなります。
「ほかはほか、うちはうちだぞ、ピトラ君! そんな年で、みんなに合わせて自分を曲げることをおぼえちゃいけない! 大体、こんなのろいスピードでつかれてたらダメだ! もっときたえなきゃ! 健全じゃない肉体には、不健全な精神しか宿らないんだぞう!」
「……先生」
「なんだ、ラグヤ君! 歩いたらダメだろう!」
「……いえ、ボクは、道ばたに咲いている小さな花に目をとめて歩きたいんです。走りたくないとか、つかれるのがイヤとかそういうことはまったく、ぜんぜん、すっかりないんです。こういう小さい花を見すごすような、心のかわいた大人になりたくないんです」
ラグヤはそう言って、道ばたにさいているコスモスをゆびさしました。
「あ、う、ん……そ、そうだな、それが大事だ。スポーツの方が大事だが、花も大事だ。じゃあ、みんなコスモスを見たら、また走――」
「……先生、むこうにはキクがさいてます」
「じゃあキクまでみたら――」
「……その先のにわに、キンモクセイがあります」
「ええと、その後にから走――」
「……その後には、セイタカアワダチソウがあります」
「走るのは……こんどにする」
ゴレイト先生は、つまらなそうな顔で、歩いて行ってしまいました。
「ナイス、ラグヤ!」
タオーゼが、ニヤッとわらって、ラグヤをおいこしていきます。
「うん、たすかったよ、ラグヤ」
ピトラは汗をぬぐいます。
「……フフ、どういたしまして」
「でも、ゴレイト先生、すっかりネタキャラにされてる気がするね」
「……運命みたいなもんさ」
ピトラたちが来たのは、小学校のちかくのサツマイモ畑でした。
今日は、ピトラたちがそだてたサツマイモの、いもほりなのです。
畑のサツマイモは、ツルがすっかりかりとられて、後はほるばかりです。
「サツマイモのなえ、春に植えたんだっけね?」
「……うん」
「あれから何にもしてないのに、サツマイモができるなんてすごいなぁ」
「……いや、あそこにいる農家の人が、せわしてたから」
「え? だったら、ぼくたちがそだてたことにならないじゃない?」
「……ものたりなくなったら、自分でやるといい。学校っていうのは、みんなそういう勉強の入り口をたくさん教えてくれるものだよ」
ピトラたちがおしゃべりをしていると。
「さあ、みんな気をつけてほるんだよ! じゃあはじめ!」
ゴレイト先生の号令で、みんな畑に入りました。
畑の土は、校庭よりずっとやわらかくて、歩いてもゴツゴツしていません。
ピトラはしゃがんで、土をほります。
ひとかき。
ふたかき。
みかきしたところで、ゆびが固いものにあたりました。
「あった!」
ピトラは両手でつかんでそれをひっぱります。
ぎゅ。
ぎゅ。
ぎゅううううっ、ぼこあっ!
土だらけで、ずんぐり丸いサツマイモがぬけました。
「うわぁ、ヘン!」
赤くもありませんし、お店で見るようにラグビーボールみたいな形もしていませんでした。
「つぎは……」
ピトラは、土の中を手さぐりします。
ひとかき。
ふたか――。
「あっ」
また、固いものがゆびにあたりました。
ピトラがそれをつかんで引っぱると。
ぽこっ。
石が出てきました。
「なんだ、ちがった」
「がはははは、ピトラ、サツマイモをほるんだぞ、石をほってどうするんだ」
「そうだそうだ、石をほってどうするんだ」
となりのクラスのサリスとノクタがわらいます。
「ちょっとまちがえただけだよ!」
「石とサツマイモなんてぜんぜんちがうじゃねえか」
「いいんだよっ、つぎのをほれば! すぐにいっぱいほれるんだから!」
ピトラは土をほりはじめます。
「がはは、オレにかてるか?」
サリスもサツマイモをほりはじめました。
ピトラは土をほってさぐります。
きゅうに土をほりかえされて、びっくりしたミミズがにげていきます。
ひとかき。
ふたかき。
「あったっ!」
ピトラがつかんでひっぱると。
ぼこっ。
空きカンでした。
「すてた人、なに考えてるんだ?」
ピトラはまた、ほりはじめます。
ひとかき。
ふたかき。
みかき。
「よしっ!」
ツルのはしっこをつかみました。
ぎゅうううううううっとひっぱると……。
すぽっ!
えんぴつみたいに細いサツマイモが出てきました。
「だあああっ!」
さらに、ほります。
大きなサツマイモが出てきました。
「また、なんかもんだいあるんじゃないだろうなぁ」
大きなサツマイモです。
くさってもいないし、虫にくわれてもいません。
「ああ、よかった」
ピトラはちょっとだけざんねんそうな顔をして、またほりはじめました。
五つ目のサツマイモをほりだしたピトラが、サリスをみると。
サリスは一〇もサツマイモをほっていました。
サリスは体が大きくて力があります。だから、ほるのはとっても早いのです。
「うわ……まけるもんか!」
ピトラはサツマイモをほろうとしますが、なかなか見つかりません。
「……ピトラ」
ラグヤがこえをかけます。
「……ピトラ?」
「今いそがしいから後にして」
ピトラは土をほりますが、何にも出てきません。
「……ピトラ、そこ、もうボクがほった」
「え?」
言われてみれば、たしかに土がほりかえされています。
「なんかほりやすいと思った」
ピトラはあたりを見回します。
「ほられてないとこ、ほられてないとこ……」
でも、あんまり広くない畑で、ピトラたちの学年がみんなでほっているのです。
畑はもうすっかりほりかえされていました。
「ああっ、そんなぁ」
「ふふふピトラ、オレの勝ちだな!」
サリスがたくさんのサツマイモをかかえてわらいます。サリスひとりではもちきれずに、ノクタもかかえています。
「ううっ、今日のところはこれでかんべんしといてあげるよ!」
「がはは、時代劇の悪者みたいなセリフだな」
「そうだそうだ、悪者みたいだぞ」
「……主役のセリフじゃないね」
「って、ネタなんだから、年よりみたいなはんのうしないでよ!」
その日の給食の時間。
「さあ! みんなでほったサツマイモだぞ!」
大きなナベをもったゴレイト先生が、教室に入ってきます。
先生は、ピトラたちの給食のおぼんに、一つづつふかしたサツマイモをくばります。
「先生」
「なんだい、ピトラ君」
「あの、このサツマイモ、どうして」
「うん?」
「こんなにちっちゃいんですか?」
ピトラたちにくばられたサツマイモは、一つの四分の一ぐらいしかありません。
「ほかの学年にもくばったからだよ。それに、給食もあるんだから、あんまりたくさん食べたら、おなかをこわしてしまうだろう? さあ、いただこう!」
「はあ、いただきます」
ピトラはサツマイモをかじります。
「ははははは、自分たちで作ったサツマイモの味はかくべつだろう! 自分で汗水たらして作ったものを食べる、これが本当の仕事というものなんだ、そうじゃないものは、イザとなったらぜんぜんやくにたたない、ムダで、いらないものなんだ! だから、農業がいちばんえらいんだ、農家の人にはとってもとっても感謝しなきゃいけないぞぅ!」
サツマイモはさめていて、少なくともゴレイト先生が大さわぎするほどにはおいしくはありませんでした。
その日の晩。
「ふー、さっぱりした」
ピトラは、お風呂からあがります。
ドロと土でザラザラだった体が、すっかりきれいになりました。
じゅわしゅわじゅわぷちじゅわしゅわ……。
台所から、おいしそうな音と香りがしてきました。
お父さんが台所で天ぷらをあげて、お母さんはテーブルでサラダを作っています。
「お父さん、今日のご飯って?」
「天ぷらだよ」
お父さんのポポトさんが、あがった天ぷらをあみをかけたうつわにとります。
エビ、キス、シイタケ、エリンギ、オオバ、ニンジンのまびきな、ピーマン、ナス、カボチャ、ゴーヤ、えのきとニンジンとイカのかきあげ、それから。
「あっ、サツマイモ」
「ああそうか、ピトラは今日いもほりだったね。じゃあ、たくさん作りすぎたかな?」
「ううん、ううん、そんなことない」
わぎりにした、サツマイモの天ぷらです。赤い皮と、クリーム色をしたイモの色がすけて見えて、とってもきれいです。
ごくり、とピトラののどがなります。
「はは、ピトラはサツマイモが好きなんだね」
お父さんは、塩をひとつまみサツマイモの天ぷらにかけました。
「味、みてくれるかい?」
「ありがと、お父さん」
「あついから気をつけるんだよ」
ピトラはサツマイモの天ぷらをつまみます。
「あちあちっ」
がぶり。
サクリとしたコロモ。
ホクホク、でもコロモの油でしっとりとしたサツマイモは、ちょっぴりの塩の助けもあってとてもとても甘くかんじられます。
「おいしいいいい!」
「ははは、そうかい? そんなによろこんでくれるとうれしいな」
お父さんは笑って、もう一つサツマイモを切りはじめました。
【おしまい】
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