ごんぱち作

おとうさんがないている
「あっ、それ、かんじゃダメ!」
ピトラはあわてて、ゲンさんのぬいぐるみをひったくりました。
おもしろそうなものをとりあげられたせいで、いもうとのポテトがピトラをにらみます。
「これは、おにいちゃんのだいじなぬいぐるみなの!」
なっとくいかないかおをしたポテトは、ゆかにころがっていたおもちゃのハンマーをひろいます。
ピコ! ピコ! ピコ!
それからポテトは、ハンマーでピトラをなんどもたたきはじめました。
「ふん、そんなのでたたいてもいたくないよーっ、だ!」
ピトラは、ポテトをほうっておいて、ゲンさんのぬいぐるみをたなのうえのだんにおきます。
ピコ! ピコ!
「うるさいなぁ、なんどやっても……」
ポカッ!
「いたっ!」
ポカッ、ポカッ、ポカッ!
「いた、いたた、いったいなにを!」
ピトラがふりむくと、ポテトはやっぱりハンマーをもっていました。ただし、うえしたさかさまで。
「もつとこでぶった!」
ピトラはポテトからハンマーをとりあげると、おなじようにもつところでひっぱたきました。
バシッ!
「うわああああああああん!」
「ふふん、すっとした」
おおごえでなきさけぶポテトをみて、ピトラはわらおうとしました、が。
「ピトラ、ポテトいじめちゃだめでしょ!」
いつのまにか、おかあさんのピピラさんが、ドアのまえでこわーいかおをしていました。
ポテトにごめんなさいをいわされてから、ピトラはばんごはんをたべました。
「ねえ、おかあさん、おかわり」
ピトラがからのおちゃわんをだします。
「ごめんねピトラ、てがはなせないからじぶんでついで」
おかあさんはポテトに、ごはんをたべさせています。
「……じゃあいいよ」
ピトラはおさらとおちゃわんを、そのままながしだいにおきました。
「ただいま……」
ピトラがじぶんのへやにはいろうと、げんかんのまえをよこぎったとき、おとうさんのポポトさんがかえってきました。
「あ、おとうさ……ん?」
ピトラはめをみひらきました。
いつもとちがう、くろいふくをきたおとうさんは、まっかなめをしていました。
「ど、どうしたの、おとうさん?」
「いや……なんでもないんだ」
おとうさんは、おかあさんたちのいるダイニングへいってしまいました。
バタン。
ダイニングのドアが、おとをたててしまりました。
ピトラはしばらくそのばにたちつくしていました。
(……おとうさんって、なくんだ)
そりゃそうです。
でも、それぐらいピトラはびっくりしました。
おとうさんがないたところなんて、みたことがなかったのです。
(いったいなにがあったんだろう?)
ピトラはダイニングのドアごしに、ききみみをたてました。
(なんでもないっていってたけど……)
『……さぁ……が、ポテトが……』
こえがあんまりよくきこえません。
『……ぶちょうのむすめさんみたいに……』
おかあさんのこえもしますが、よくきこえません。
『ううっ、うぅ、えくっ……』
あとはなきごえだけでした。
(な、なにがあったんだろう? たいへんだ!)
つぎのひのようちえん。
「……くろいふくっていったね?」
ようちえんのともだちのラグヤがききかえします。
「うん」
「おとうさんが、ないてたんだな」
からだのおおきなサリスが、むずかしいかおをします。
「そうだそうだ、ないてたんだな?」
ちいさなノクタもしんぱいそうです。
「うん。すごくかなしそうだった。なんどもポテトのなまえをよんでた」
ピトラはうつむきます。
「……くろいふく、ぶちょうのむすめさんみたいに、ポテトちゃん……」
そのばであるきまわりながら、ラグヤがくびをかしげます。
「どう? ラグヤ?」
「わかるのか? ラグヤ?」
「そうだそうだ、わかるのか?」
ラグヤはあしをとめました。
「……ピトラ、ポテトちゃんは、びょうきとかしたことある?」
「ええと――」
ピトラはすこしかんがえていましたが、すぐにおもいだしました。
「そうだ、すごいねつをだすことがあったよ。さいきんはあんまりないけど、ミルクをはいちゃうことも」
「……そう、か」
ラグヤのかおがくらくなります。
「……いいにくいけど」
「なに、なんなの!」
「……ポテトちゃんは……」
ようちえんがおわったあと、ピトラ、ラグヤ、サリス、ノクタの4にんは、ピトラのいえにやってきました。
『……くろいふくは、おそうしきのふくだ』
ラグヤのことばが、ピトラのあたまのなかでぐるぐるまわります。
『……ピトラのおとうさんは、ぶちょうのむすめさんのおそうしきにいった』
ポテトを、ピトラのへやにつれてきます。
『……そのむすめさんのびょうきは、ポテトちゃんのとおなじだったんだ』
(ポテトが?)
ラグヤたちが、ポテトとあそんでいます。にぎやかなことがすきなポテトは、うれしそうです。
(べつに、いなくなったってこまらないけど)
ピトラはポテトをみます。
いつもどおりのいたずらっこ。ピトラのぬいぐるみをかんだり、たたいたり、ひっぱったり。
「……これがクロコダイル、アリゲーターとのみわけかたは――」
「ほら、たかいたかい」
「サリス、すごいちからだぞ!」
えをかいていれば、よってきてメチャクチャなせんをかきます。
ねんどできょうりゅうをつくっていたときは、はんぶんかじってしまいました。
(……なんだか、ほんとうにいらなくなってきた)
「……きょうそうだ」
「おう! ハイハイなんてひさしぶりだ」
「そうだそうだ、でもまけないぞ!」
ラグヤたちがポテトと、ハイハイきょうそうをしています。
(あれはポテトにかなわないよ。ポテトはやいもん……)
ポテトは、はしっています。
すごくはやく。
そしてたのしそうに。
「……ポテトちゃんのかちだ」
「うおっ、はやいな、ポテト!」
「はやいぞ!」
(いなくなる――か)
ずっと。
これからさきずっと。
(ひっこしたおともだちみたいに、ずっとあえない? ううん、もっとずっと、にどとあえない……)
ピトラには、ちょっとかんがえられませんでした。ポテトはいて、あたりまえなのです。
(べつにこまらないけど。ジャマされなくなるんだし)
くいっ。
でも……。
くぃくぃっ!
ポテトが、ピトラのそでをひっぱっていました。かおをじぃっとみていました。
いっしょにあそぼう?
そういっているみたいでした。
「ポテト……」
「ただいまー」
おとうさんがかえってきたのは、よるおそくでした。
「おかえりなさい、ポポトさん――あら、おさけのんでるの?」
おかあさんが、ちょっとおどろいたかおをします。
「えへへ、ぶちょうと、ね」
ダイニングのいすに、おとうさんはだらりとこしかけます。
「おなじむすめをもつものどうし、はなしがはずんじゃったんだ」
「からだだいじょうぶなの? ぶちょうさんもあなたも」
おかあさんはコップにみずをいれて、おとうさんのまえにおきます。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、だよ、ピピラさん――ポテトは?」
「ぐっすりねむってるわ。どうしてだかわからないけど、ピトラたちがいっぱいあそんでくれたのよ」
「そっかポテトは……ぐすっ」
おとうさんはひとつしゃくりあげると、みずをのみほしました。
「ほら、なかないの」
「だって、ポテトもぶちょうのむすめさんみたいに」
ティッシュをとって、はなをかみました。
「いつかはおよめにいっちゃうかとおもうと、ぼくは、かなしくってさびしくって……」
<おしまい>
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