もってかえっちゃいけないよ
ごんぱち
「――たまてばこのふたをあけると、ものすごいケムリが出てきました」
自分のへやで、ピトラはポテトに絵本をよんであげています。
「そして、うらしまたろうは、おじいさんになってしまいましたとさ」
ピトラは、絵本をとじました。
「えーーーっ、なにそれ、おかしいぞ」
ゆかにすわって聞いていたポテトが、ぷぅとほっぺたをふくらませます。
「にいちゃん、ちゃんとよまないといけない」
「ちゃんとよんだよ」
ムッとしたかおで、ピトラは絵本を本棚にしまおうとします。
「だって、おかしいぞ」
「なにがだよ?」
「オトヒメさまだ」
「は?」
「どうしておじいさんになるようなものをあげるんだ?」
「え?」
ピトラはもういちど、絵本のひょうしを見ました。
言われてみれば、オトヒメさまは、どうしてうらしまたろうにたまてばこをあげたのでしょう。
「えーと、たぶん、たまてばこには、うらしまたろうの本当の年が入ってるんだから、ちかくにないといけないんだよ」
「それならどうして、あけたらおじいさんになっちゃうっていわないんだ? オトヒメさまは、とってもいじわるだぞ」
「……そんな気もするけどさ、いちおうあけたらダメって言われてたんだし、やくそくをやぶったうらしまたろうもわるいんだよ、きっと」
夜、ピトラはふとんでよこになります。
(……ああ言ったけど、本当のところ、どうなんだろう? むかしばなしって、よくそういうのあるよね)
ゲンさんのぬいぐるみに、ぎゅっとしがみつきます。
(でも、ぼくがそういうことになったら、ちゃんとやくそくをまもるけどなぁ)
まぶたが重くなって、頭がぼんやりしてきます。
(そうだ、ぜったいあけないで、しあわせにくらすよ。そのほうが、ぜったいリアリティがあるってもんだ)
目をあけると、ピトラは夢の世界に来ていました。
「えーと……」
ねころがったまま、くびだけうごかしてまわりを見ます。
キレイな草の生えた草原で、空にはにじがかかっていました。
「ああ、テンノウ山へむかう道だ、ここ」
少しはなれたところに、道がとおっています。
「なんかひさしぶりだなぁ」
おきあがらずに、ピトラはぐっとのびをします。
風は、きもちよくピトラをなでていきます。
「町にいることが多いけど、たまにはここでひるねしてるのもいいかもなぁ」
キレイな草の上は羽のふとんよりもやわらかく、それでいて、体がしずみこんで動けなくなることもなく、100年だってねていられそうです。
ピトラはしばらくぼんやりと空を見つめていました。
にじのそばで、鳥や竜や道士がふわふわととびまわっています。
ピトラがねむたくなりはじめたころ。
「な、なんだ、ここ?」
どこかで聞いたようなこえがしました。
「ん?」
ピトラは体をおこします。
「えっ、なに、ここ? どこ? 家じゃない?」
キョロキョロ見回しながらさわいでいるのは、見おぼえのあるピトラとおなじぐらいの年の男の子――。
「タオーゼ?」
「あっ、ピトラ!」
タオーゼはかけよって来ます。
「なんだ、どうしちまったんだ、これって、なんなんだ? どうなっちゃったんだ? これがりくとうみの間の国ってヤツか?」
「安心しなよ、ふふん」
ピトラはちょっとじまんげです。
「ここは夢をみてる時にだけ来られる世界だよ」
「でも、いつも見る夢と、ぜんぜんちがうぞ?」
「まあ、ただ夢を見ればいいってもんじゃないからね」
この時とばかり、ピトラはじまんげです。
「ぼくもゲンさんといっしょにいないときは、あんまり来られないし」
「へぇ、ピトラ、キミは、よく来るのか?」
「こっちの世界じゃ、社長だからね。たまには顔を出さないと、社員が心配するんだよねー」
とてもじまんげです。
ピトラにはあんまりニガテなことはありませんが、ぎゃくにとびぬけて出来るものもないので、こういう時ぐらいしか、じまんできないのです。
「そんなことないよ!」
「ん、どうした?」
「あー、いや、こっちの話」
おこるのは、本当のことを言われたしょうこです。
「……うるさい」
タオーゼはすなおにおどろいています。
「社長か、すごいんだな、ピトラ」
「いやぁ、それほどでもあるけどね」
「ピトラって、ニガテなことはないけれど、とびぬけて出来ることもない、ジミなヤツだと思ってたけど、夢の世界にかぎっては、そうでもないんだな」
「……おこらないから。本当のことじゃないから、おこらないから!」
ピトラは顔を引きつらせながら、なんどもつぶやきました。
次の日の朝。
「おはよう」
ピトラは、教室に入ります。
「ああ、おはよう」
タオーゼがいつものように、あいさつをします。
(……あれ?)
そう、いつものように。
あんまり話をしないクラスメイトに、ひとまずなんとなくするようなあいさつ。
(夢の世界で、いろいろ話して、なかよくなったのになぁ?)
あいさつしたあと、タオーゼはほかのなかのよいクラスメイトとはなしをつづけています。
(ははぁ、わかったぞ)
ピトラはかんがえます。
(タオーゼは、あれを自分だけの夢のことだと思ってるんだ。だったら……)
「いやぁ、ひさしぶりににじをみたなぁ」
ピトラはタオーゼに聞こえそうなこえで、おおごえでひとりごとを言います。
ところが。
タオーゼはぜんぜん気づきません。
(聞こえなかったのかな?)
「あんなにキレイなにじは、ひーさしぶーーりだったなぁ!」
でも、タオーゼはなんにも気がつかないようです。
「キレイな草原でねころがって、にじを見ると、まさに夢、夢夢、ゆーーーめーーーー、ごこちだよねーー!」
「……そうだね」
やっとへんじをしました。
「って、なんだ、ラグヤか」
ラグヤが。
「……うん。ボクはラグヤだ。それ以上ではあっても、それ未満ではない」
「またワケのわからない、それでいてそこはかとなく、えらそうな言い方を」
「……きのうのにじは、キレイだったね」
「ラグヤもいたんだね、それがさ」
ピトラはタオーゼを見ます。
「タオーゼもいたんだけど」
「……ああ、またかい?」
「またって?」
その時、タオーゼの話が、ピトラの耳に入って来ました。
「――今日さ、朝おきたら、なんかまくらもとにはっぱがあってさ。なんか分かんないからすてたんだけど、まったく、だれのイタズラだったのか」
ピトラは、ラグヤと顔を見あわせます。
「タオーゼ、モノをもってかえっちゃったんだ?」
「……うん。今まで、ボクもなんどかあったけど、かならずね」
ラグヤはうなずきます。
「だ、だって、ちゃんと言ったよ、ぼく」
ピトラはあわてて言います。
「もって帰れるのは、たった一つだけだから、おみやげは冒険のきおくにしなきゃ、ぜんぶ忘れちゃうって」
「……あの世界は、はじめて来たひとには、もちかえりたいものが多すぎるんだよ」
「はじめてじゃないんでしょ?」
「……はじめてだよ。きおくがないんだから」
「あ……そうか」
「……さいしょの一回で持って帰っちゃうひとは、そのあと何回来ても同じことをしちゃうさ」
何日かあと。
ピトラは夢の世界で、にもつをはこんでいました。
こうえんをとおりかかった時。
「おおっ、ピトラ!」
ベンチにすわっていたタオーゼが、手をふります。
「こんなところにピトラがいるなんて、なんだ、これ? どうなってるんだ? すっげーキレイでたのしいのな!」
「ああ、うん、夢の世界だよ。ちょっととくべつなね」
「へーーー、すっげーなーーー! それでピトラはなにやってるんだ?」
「社長なんだけどね、手が足りないから、にもつのはいたつ」
「へーー、ピトラ、夢の世界だと社長なのかぁ!」
「うん、まあね」
「ふうん、ピトラが社長なんておも……し、ろ……」
タオーゼはねむたそうな顔になって来ます。
「ん、なんだ……」
「夢が覚めるんだよ」
ピトラはうすまっていくタオーゼに言います。
「おみやげに、モノをもってかえろうとしちゃダメだよ」
「でも、こんなにキレイ石、はじめて見るんだぜ」
タオーゼは、石をにぎりしめたまま、ゆっくりと目をとじました。
タオーゼと石は、きえていました。
「ひょっとして……」
だれもいなくなったベンチを見ながら、ピトラはつぶやきます。
「オトヒメさまって、なんにんもうらしまたろうみたいな人を見て来たのかもしれないなぁ」
ピトラは、はいたつにもどりました。
【おしまい】
●つっこまれる前に
浦島太郎の話は、大元を辿ると「亀比売(乙姫の原型。亀の化身)と島子(太郎の原型。美形で風流な人だった様子)の恋物語」という形だったそうです。
玉厨子(玉手箱)は、里心の付いた島子と別れる時に、亀比売が泣く泣く「もう一度再会を望むのならば、決して開けないで下さい」と言葉を添えて渡されるという、開けたら男としてどうか、みたいなシチュエーションで渡された、心変わりの暗喩のような代物だったようです。
開けた理由も好奇心というより、最愛の人と別れて来たのに、肉親や知人の独りもおらず寂しさ余って、と取るのが自然。そしてその後も、互いを想う歌で締められているという、映画化したらそれなりに客の入りそうな悲恋譚になっています。
http://www.fan.hi-ho.ne.jp/samata/index.htm
ですが、ピトラたちが読んでいるのは、例の
「『にんげん奇想天外』第一問は、人間に開けてはならない箱をあげたらどうなるでしょーかっ?」
としか思えないような展開になっているヴァージョンなので、疑問はもっともであるのです。
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