ピトラの冒険46

千足とQの絵本ワールド
Q書房■■■■
 さむい、さむい、雪の夜
 

ごんぱち

「うぶーー、さむいっ」
 じぶんのへやにもどって来たピトラは、ハロゲンヒーターをつけます。
「まったく、たまんないよー」
 まどの外を見ると、強い風にあおられて、大きな雪がびゅうびゅうぼたぼたふっています。
 これから夜になると、もっとふって来るにちがいありません。
「あーーー、さむいっ。ヒーターでもゼンゼンあったまらないなぁ」
 ピトラがふりむくと。
「あれ?」
 いつもなら、オレンジ色に光ってあったまりだすはずのヒーターが、まったくうごいていません。
「あれれ?」
 ピトラはスイッチをカチャカチャやってみますが、つきません。
「コンセントかな?」
 コンセントはきちんとつながっています。
「おかしいなぁ。うんともすんとも言わないなんて?」
 ヒーターが「うん」とか「すん」とか言う方がおかしいです。ピトラは、さむくてどうかしているのです。
「どうもしてないよっ!」
 ピトラは電灯のヒモをひっぱります。
 かち。
 ところが。
 かち、かち。
「あ、あれ?」
 かち、かち、かち。
「ええーーーっ?」
 なんどひっぱっても、電灯はつきません。
「うわ、電気がとまってる!」

「あらあら、まあまあまあ、困ったわねぇ」
 だいどころでは、お母さんのピピラさんが首をかしげています。
「あっ、お母さん、電気がとまってるよ」
「そうみたいね。こっちもタイヘンだわ」
 だいどころのコンロは火がついていますが、かんきせんも、オーブントースターも、電子レンジも、電気ガマもうごいていません。
「ピピラさん」
 お父さんのポポトさんと、妹のポテトがだいどころに入って来ます。
「どうやら、雪のおもさで鉄塔がたおれたみたいだよ。明日までなおらなさそうだって」
「たおれたみたいだ」
 ポテトがかかえたラジカセからは、ラジオほうそうがながれています。
「あらあら、どうしましょう? 電気が使えないのに、こんな雪なんて」
「そうだね、へやもさむいし、困ったね」
 お母さんとお父さんは少しかんがえていましたが――。
「まあ何とかなるわ」
「そうだね、どうにかなるだろう」
「って、お父さん、お母さん! 電気がなかったらさむいんだよ、タイヘンなんでしょ?」
「にいちゃんは、しんぱいしょうだな」
「ほんとうにタイヘンなんだって!」
「まあおちつきなさい、ピトラ」
 お父さんは、にっこりわらいます。
「お父さんとお母さんに、まかせておきなさい」

 ピトラとポテトは、ぴったりくっついて、ダイニングのイスにすわり、毛布にくるまります。
 あかりは、懐中電灯だけ。
「うー、いくらかはあったかいけど、やっぱりくらいし、さむいなぁ――うひゃああっ!」
「あ、にいちゃん、せなかあったかいぞ」
「こらっ、ポテト! せなかに手をつっこむな!」
「え? にいちゃん、あったかくないのか?」
「ポテトがあたったかいなら、ぼくはつめたいよ!」
「そうか。みんながしあわせにはなれないものなんだな」
「……どこで聞いたんだよ、そんな言いまわし」
 話しているうちに、さむさは少しまぎれます。
「そうだ、ラジオでも聞いてたら、もっと気がまぎれるかもしれないぞ」
 ピトラはラジオをつけます。
『――コウツウジョウホウです。ツキト町2丁目コウサテンは、テットウトウカイによるテッキョサギョウチュウのため、2キロのジュウタイ。フッキュウはヤハンスギになるヨテイ……』
「……なに言ってるのかよくわからない」
「おもしろくないぞ、にいちゃん。チャンネルかえよう」
「うん」
 ピトラはダイヤルをまわします。
 きゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃん、ざあああああああああああっ!
 ラジオからへんな音がしてきます。
「うわっ、な、なんだ?」
「にいちゃん、こわした?」
「ちがうよ!」
 ピトラがめちゃくちゃにダイヤルをまわしていると――。
『――へえ、それじゃあ、30はイタチか? バカ言ってんじゃないよ、20さいのことをはたちてんだよ。だからな、ヨタロウ――』
 へんな音が、きゅうにふつうの音にかわりました。
「ほらみろ、きちんとかわっただろう」
「みえない、きこえるだけだ」
(ふー)
 ピトラは、こっそりためいきをついて、ラジオを見ます。
(ラジオのチャンネルって、わかりにくいなぁ)
「にいちゃん、あんまりおもしろくないぞ。テレビにしよう」
「……だから、停電でテレビがつかないから、ラジオをつけてるんでしょ」
「でも、たいくつでさむい」
「まあ、それはぼくもだけど」
 ピトラはラジオをけします。たしかに、大人むけのばんぐみばかりで、おもしろくありません。
「そうだ、おしくらまんじゅうでもしようか」
「ふたりで?」
「え? おしくらまんじゅうって、そういうものでしょ?」
「……にいちゃん、ともだちすくないんだな」
「ほっといてよ!」
 ピトラとポテトは、リビングでせなかあわせに立って。
「おしくらまんじゅっ!」
「おされてなくなっ!」
 ふたりでぎゅうぎゅうおしあいます。
「おしくらまんじゅっ!」
「おされてなくなっ!」
「ねえっ、にいちゃん!」
「なんだっ、ポテトっ!」
「おしくらまんじゅうって、どんなまんじゅうかなっ!」
「なかみが、はみでてるんじゃないかなっ!」
「なるほどっ、おされてつぶれてるんだなっ!」
「そういうことっ! はぁ、はぁはぁ」
「ちょっと、あったまってきたな」
「うん。そうだけど」
 おなかやせなかはあったかいのですが、へやがさむいので、手足はまだつめたいままです。
「まだうごきたりないんだよ。すもうでもとろう」
「よし、いいどきょうだ、にいちゃん」
 ピトラとポテトはがっぷりよつにくんで、うわてなげ、したてなげ、いぞりに、かわずがけ、たいおとしに、じごくぐるま、しがみついたりころがったり。どっちがかったかまけたか、まるでわかりません。
「おーい、ピトラ、ポテト」
「じゅんびができたわよ」
 ダイニングから、お父さんとお母さんがこえをかけました。

「わあっ、すごい」
 ピトラは思わずこえをあげます。
 テーブルの上は、お皿に立てたロウソクがいくつもおいてあります。
 太いのや細いの、赤くてねじれたの、お父さんとお母さんの写真がついたのまで。
「なんかキレイだね。クリスマスみたいだ」
「おお、にいちゃん、うまいことをいう」
 そして、テーブルのまんなかには、カセットコンロに土なべがかけられ、ゆげがしゅんしゅんふき出しています。
「おなべかぁ」
「あったまるよ」
 お父さんが、おなべでたいたご飯を、ちゃわんにつぎます。
「いただきまーす」
 ピトラは、土なべの中にハシをのばします。
 ロウソクと、コンロの火しかないので、土なべの中はカゲになってよく見えません。
「でも、今日ってなべだったっけ?」
 小ばちにとっても、まだよくわかりません。
「ううん、ちがうわよ」
「うん。ちがったね」
「え? それじゃあざいりょうは――」
 ぱくり。
 ピトラは小ばちにとった、なにかをひとくち。
「……キャベツ?」
「そうよ。やさいのにっころがしと、トンカツをつくろうとしてたんだけど」
「なべの方が体も、へやもあったまるからね」
「は……はぁ」
 サイコロぐらいに切った肉。ニンジン、サトイモ、ゴボウ、シイタケにレンコン。ついでにモヤシ。それがミソでこいめに味つけしてあります。
「なにをたべてるのか、わからなくなってくるなぁ」
「でもおいしいよ。さすがはピピラさん」
「うん。おいしい、かあちゃん」
「おほほほ、ほめて、もっとほめて!」
 くつくつにえている土なべの前はとってもあったかいし、なべりょうりもあつあつで、いつのまにかピトラは汗をかいていました。
「ふー、ごちそうさま!」
 お父さんとお母さんが、食器をかたづけはじめます。
「あっ、もっていくよ」
 ピトラがたちあがろうとします。
「くらくてあぶないから、今日はいいよ」
「そう?」
 ピトラはすわりなおそうとして、やっぱりやめて、まどのところへ行きます。
 火をつかったので、戸がちょっぴりあけてあります。
 ピトラは、そのすきまから、外を見ました。
「あれ?」
 雪はつもっていましたが、もうやんで、風もおさまっていました。
「お父さん、雪、やんでるよ」
「どれどれ」
 お父さんも外をのぞきます。
「おっ、いいぐあいにつもったね」
「うん」
「どうせ、家にいてもなにもできないし、ちょっとあそんで来ようか」

「わあ明るい!」
 げんかんから出たピトラは、思わずさけびました。
 月と星の明かりが、雪をしろくうかびあがらせています。
 街灯も、家の電灯も、なんにもないのに、ロウソクの火だけだった家の中より、ずっと明るいのです。
「雪が光ってるのかな?」
「星明かりを反射してるんだよ」
「ゆきダルマつくるぞ、にいちゃん、きょうそうだ!」
「まけないよっ」
 ピトラとポテトは、雪ダルマにする雪玉をつくってから、ころがします。
 ころ、ころ、ころ、ころ。
 一回りごとに雪がくっついて、雪玉は大きくなっていきます。
「よいしょっ、よいしょっ」
 ごろ、ごろ、ごろ、ごろ。
 だいぶ大きくなってきました。
「うんーーしょっ、よいーーーしょっ!」
 ごろっり、ごろっり、ごろっり。
 大きくなった雪玉は、雪をねこそぎくっつけてしまいます。
「よいしょおっ!」
 石やドロもまきこんで、よごれた大雪玉が二つ、できあがりました。
「きたないね」
「うん、きたないぞ、にいちゃん。きたなさなら、ポテトのかちだ」
「ははは、たしかにきたないな。ピピラさん、そっちおねがい」
「ええ」
 お父さんとお母さんがポテトの作った方の大雪玉を、ピトラの作った大雪玉の上に。
 ずん。
「よし、これで」
「そうね」
 ぱかっ!
 ポテトの大雪玉が、われてしまいました。
「うわっ、にいちゃん、どうしてくれる!」
 ポテトが、雪玉をにぎっては投げ、にぎっては投げ。
「ぼくがわるいんじゃないだろっ」
 ピトラもまけていません。雪玉をきゅっとにぎって投げつけ、雪合戦のはじまりです。
 まだあまりとけていない雪玉は、ぶつかってもぱぁんとはじけて、ぜんぜんいたくありません。
 おたがいに、雪でまっしろになったら、つぎはちかくの空き地へ。
 空き地は、道よりも雪が多くつもっています。
 その、まっしろで、平らな雪の上に――。
「えいっ」
 ピトラは大の字になって、うつぶせにたおれこみます。
 立ち上がると、ピトラのかたちに雪がへこんでいました。
「へへへ」
「ポテトも!」
 ポテトは、手と顔だけ、ぎゅっと雪にくっつけます。あとには、くっきりポテトの顔のあと。
「あはははは」
「じゃあ、ぼくはよこむきにしとこうかな」
 お父さんはよこがおです。
「なら私は、頭の上にしとこうかしら」
 お母さんにいたっては、さかだちして頭のてっぺんの形。
「ピピラさん……」
「お母さん、それはどうだろうと思うよ」
「いや、おかあさん、かっこいいぞ」
 ピトラたちがわらっていると。
 ひゅぅぅぅぅぅぅ!
 風がとおりぬけました。
「うー、そろそろさむくなって来たわね」
「こんな時はあったかいおフロ……は、ムリだったね」
 ピトラはちょっとざんねんそうです。ふだんはおフロぎらいなのに、かってなものです。
「……もう、そんなにきらいじゃないよ」
「なあに、おフロがなくても、あったまるさ」
 お父さんがにっこりわらいました。

 お父さんとピトラとポテトとお母さんが、くっついてふとんに入ります。
「……ぼく、だいぶまえから一人でねられるんだけど」
「大人はさむがりなんだよ。ピトラは、ぼくにこごえてしまえって言うのかい?」
「そうじゃないけどさ」
「さ、ねましょ、明日のあさは、はやおきしなきゃ」
 お母さんが懐中電灯をけすと、へやはまっくらになりました。
 ピトラはちょっとにがわらいをしてから、ふとんに入ると、お父さんのうでにぎゅっとしがみつきました。

 外でびゅうびゅうと風の音がします。
 でもピトラたちは、ちっともさむくありませんでした。

【おしまい】

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