ピトラの冒険43

千足とQの絵本ワールド
Q書房■■■■
 おちてくる!
 

「ちぇっ、なんだって、社長のぼくが、とどけものなんか」
 ピトラは、「ピトラ運送」とかかれた自転車をこぎます。
 ゆめの世界の海ぞいの道は、気もちのよい海風がふいています。
 でもピトラはふきげんそうです。
「これも、宇宙船がかんせいしないのがわるいんだ」
 自転車のカゴには、つつみがひとつ。
「あのカビパンとかいうドロボウめー、ムチャなうごかしかたしてっ」
 カピタンです。ピトラは、おぼえがわるいのです。
「わざとだよっ!」
 しばらくすすむと、道のはしにふといふとい木が立っていて、その先にたてものが見えて来ました。
「ああ、あれだ、パーイカ町」
 ピトラはホッとしたカオで、ペダルをこぎます。
「やれやれ」
 ふと、空を見上げます。
 気もちよくはれた青空に、まっしろなキラキラ光る雲。
「いい天気だな」
 ピトラのきげんは、すこしよくなっていました。

「ピトラ運送です、おとどけものに来ました」
「ありがとうありがとう」
 モグラが、にもつをうけとります。
 モグラの町です。
 みんな、ヘルメットをかぶっています。フルフェイスの。
「こちらのサインをおねがいします」
「はいはい」
 モグラは、「アナーゼル」と、サインをかきます。
「やあやぁ、まっていたんですよ」
 モグラのアナーゼルが、つつみをひらくと、中から、あたらしいヘルメットがでてきました。
「これこれ、これさえあれば、あんしんってもんです」
「オートバイにでものるんですか?」
「オートバイ? どうしてどうして、そんなことをきくんです?」
 アナーゼルはふぎしそうです。
「だって、ヘルメット」
「ははぁ、ははぁ、運送やさん、あなたは、外のひとですね?」
「外?」
「町の外、町の外ですよ」
「ああ、うん、そうだよ?」
 ピトラは言いかけて、にがわらいをします。
「……ってことは、この町も、なんかおかしなことがおきるの?」
「おかしなこと? そんなそんなことはおこりませんが?」
「おかしな町にすんでるひとは、みんなそう言うんだよ……」
 うけとりをポケットにしまいます。
「えーと、ヘルメットがいりそうなことにまきこまれるのは、かなりイヤだから、これで」
 ピトラはいそいそと家をでようとしましたが。
「あっ、そのままそのまま出るとあぶないですよ」
 アナーゼルがよびとめます。
「やっぱりかっ、やっぱりなんかあるんだ! なにがあるのさ? さあ、もうおどろかないぞ」
「ちょっとちょっとまっててください。オカマぐらいならありますから」
 古くてベコベコで、まっくろなオカマを、アナーゼルはもってきます。
「かぶるの? やっぱりかぶるの?」
「はいはい。そうしないと」
「そうしないと?」
「空が、空がおちてきたとき、あぶないですよ」

 ピトラはアナーゼルのげんかんさきから、空を見上げます。
 青い空にまっ白な雲。
「おちるのかぁ……」
 ピトラはためいきをつきます。
「おやおや、めずらしいですね」
 ちょっとおどろいたカオで、アナーゼルはピトラを見ます。
「このはなしをこのはなしをきいたひとは、だいたい『そんなことあるわけない』ってわらうんですよ」
「この世界でそのリアクションはむしろおかしいでしょ」
「ですがですが、空がおちてくるなんて、ここだけですよ」
「そりゃあ、空がおちてくるのはここだけだろうけど、空におちるばしょだってあるし、はねまわるスイカだってあるんだから、ふしぎレベルでいうと9ぐらいだね。100だんかいで」
 ピトラはオカマをあたまにかぶります。
「じゃ、ありがとうございました、空にぶつかってケガするのもまっぴらだから、かえります」
 ピトラがさっさとはしって行こうとすると――。
 ゴッ。
 にぶいおとがして、ピトラに青いカケラがぶつかりました。

「うーー」
 ピトラが気がつくと、アナーゼルとおいしゃさんのモグラが、しんぱいそうにピトラをのぞきこんでいました。
「ここは……」
 アナーゼルの家のベッドでした。
「どうもどうもすみません、さしあげたオカマ、穴があいていたようで、そこに空がちょくげきを」
「小さい空でよかったですな」
 おいしゃさんは、ピトラのアタマをそっとさわります。
「うむ、もうだいじょうぶ」
「は、あ、ありがとうございます。えーとちりょうだいは?」
「いりませんよ。このパーイカ町では、空がおちたときのひがいは、みんなから少しづつあつめたお金でなおすことになっているんです」
「ふーん」
 ピトラはベッドからおきあがります。
「うん、だいじょうぶみたい」
「それはそれはよかった。では、こんどはこれをかぶって」
 アナーゼルは、ピトラにふとんをわたします。
「おふとん?」
「ビリビリですが、いかれないこともないでしょう」
「まあ、そこのぬけたオカマよりはいいかも」

 ふとんをかぶったピトラは、町の出口にむけてつっぱしります。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
 1びょうでもはやく、このあぶない町から出なければいけません。
「はぁはぁ」
 でも……。
「ひぃっ、ふぅふぅ」
 どんどん、ゆっくりになっていきます。
「ふふぁ、ふっ、ぶはー」
 そしてとうとう」
「うーー、ダメだ、むぅー」
 ピトラはたちどまってしまいました。
「あついーー」
 ふとんなんかかぶってはしれば、あついにきまってます。
「ちょっときゅうけい……」
 ダラダラながれるあせは、ひきそうにありません。
「ちょっとだけ、風をとおそう」
 ピトラがばさり、と、ふとんをめくったしゅんかん。
 ガゴッ!
 また、にぶいしょうげきが、ピトラののうみそをゆらしました。

「だいじょうぶ、だいじょうぶですか?」
 また、ピトラは、アナーゼルのベッドの上。
「来たときは、ぜんぜんおちてなかったのに……」
 ピトラはなんとか体をおこしますが、アタマがグラグラします。
「ああ、さっきはさっきは、10年に1どの、空があまりおちてこない時間だったんですよ」
「……つっこむ気にもならないよ」
「ふとんも、ふとんも、ダメでしたか」
 アナーゼルは、あたらしいヘルメットをかぶって、古いほうをピトラにさしだします。
「ではでは、これをどうぞ」
「ありがとう。それと、ありがとうついでにさ」
「なんです?」
「こんど空にあたってたおれたときは、かんびょうしなくていいから、町の外にほうり出しておいてよ」

 ――そして、30分のあと。
 ピトラは、目をひらきます。
「いたたた……」
 町の入り口の道のわきにねかされていました。
「やれやれ、やっとだっしゅつできた」
 ねころがったまま、ピトラはためいきをつきます。
「だいたい、夢のくせに、どうしてこう、いたいんだか」
 町の入り口の大きな大きな木を見上げます。
「まあ、夢だからいたくなかったなんてこと、べつにないけど。あれも、だれかが作ったハナシだろうなぁ」
 木はずぅっとのびていて――。
「ん?」
 ずぅぅぅぅぅぅぅっとのびてのびてのびて……空につながっていました。
「んんんん??」
 そして、町の外と中とで、空の色がちがっていました。
「なんだ、こりゃ? 作りものじゃないか?」
 そう、町の空は、作りものでした。てんじょうに色がぬってあるだけ。しかもだいぶ古いみたいで、よく見たらヒビもはいっています。
「こんなの、おちて当たり前だよ! さっさとかたづけなきゃ!」

 ピトラは、町やくばにやってきました。
「いやいや、そんなことをされてはこまります」
 町やくばの町長モグラは、あわてて首をよこにふります。
「どうして?」
「この空は、10000年まえに、この町の上に広がる空があんまりきたないので、見えなくするように、町のみんながきょうりょくして作りあげた、だいじなものなんです。ちょっとやそっとおちるからと言って、とりはずすなんてとんでもない」
「ちょっとやそっと?」
 ピトラはまだコブののこるアタマを見せます。
「これが、ちょっとやそっと? じょうだんじゃない、あぶないよ、ものすごくあぶない。死んじゃったらどうするのさ」
「ははは」
 町長はわらいます。
「空がおちてくるのは、ほんのちょっぴりづつです。あたって死んだひとは、いませんよ。しんぱいのしすぎですよ」
「だから、ほんとうにひがいが出てからじゃ、おそいでしょ?」
「そのときのために、きちんとみんなでお金を出しあって、ちりょうだいやしゅうりにあてているんです。あなたのそのケガも、それでなおしてもらったでしょう?」
「わかった、あれを片づけるお金がないんでしょ? お金なら出すから」
 ピトラはつうちょうを見せます。
 でも。
「お金でどうこうなるハナシではありません」
 町長はきっぱりと言いました。
「この空は、わたしたちのほこりです、タマシイです。タマシイはお金で買えるようなものではないのです!」
 町長はまどの外に広がる空をゆびさします。
「このうつくしい空のためなら、空のカケラのひとつやふたつ、なんの気にもならないでしょう」
「……ねえ、君たちは、この空がキレイだとおもうの?」
「もちろん」

 ピトラ運送にもどったピトラは、社長室でイスにもたれます。
「ふー、つかれたー」
「モグラの町の空ですか。聞いたことはありましたが」
 OLすがたのカソが、わらってお茶をのみます。
 もちろん、ピトラはつっこみません。
「あぶないのに、あんなの」
「ほんとうにあぶないところにいるひとは、それに気づかないものですよ」
「かたづけてあげるって言うのに、まるでぼくをわるものみたいにさぁ」
「いやがるのをムリにやったら、まちがいなくわるものですよ」
「いいことをしてるんだから、正義でしょ?」
「ピトラ」
 カソは、ずず、とお茶をすすります。
「いいひとも、わるいひとも、目ざす目的って、あんまりかわらないんです。もんだいは、やり方です。正義ってのは、やり方なんですよ」
「むずかしくてよくわかんないけど」
「まあ、ピトラなら、分かるんじゃないですか? いずれ」
「だといいけど」
 社長室のまどから見える空は、どんよりくもっていました。

【おしまい】

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