真夜中の蚊ボーイ
by ごんぱち
――ぅぅぅぅぅんんんんんん、
パンッ!
――――ぅぅぅぅんんんんぅぅぅぅんんん……。
パンッ、パンッパンッ!
「あああっ、もうっ!」
ピトラは、がばっと体をおこします。
「うるさいっ」
まくらもとのデンキスタンドのあかりをつけます。
まっくらだったへやが、いきなり明るくなって、ピトラはちょっと目をパチパチさせます。
「……いなくなった、かな?」
ピトラはへやの中をみまわします。
「まったく、蚊はうるさいんだからっ」
――ぃぃぃんんん……。
パンッ!
「いたたたた」
耳のそばをとおる音がして、ピトラはじぶんのカオをひっぱたいてしまいました。
「ちょっとくらいかゆくてもいいけど、うるさいのはガマンできないなぁ。これじゃ、ぜんぜんねむれないよ」
じっとしていると――。
うぅぅぅんんんん……。
パンッ!
たたいた手の中に、蚊はいません。
ぃぃぃぃぃぃぃんんんんん。
パンッ、パパパンッ!
やっぱりからぶり。
……ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんんんん。
バシッ、ビシッベシッボフッ!
ゲンさんのぬいぐるみをつかってひっぱたいてみましたが……。
ぅんんんんんんんんんぃいぃぃぃぃ……。
やっぱり蚊はいなくなりません。
「ああっ、もうっやめやめっ!」
ピトラはスタンドのあかりをけして、タオルケットにくるまりました。
ぷぅぅぅぅぅぅんんんんんん……。
(聞こえない聞こえない)
ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……。
(ムシムシムシムシ)
ぃぃん。
(止まった、か、な?)
ぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんん。
「うるさいっ!」
また、ピトラはおき上がります。
「もう、ただでさえあつくて、ねぐるしいのに」
ピトラはへやから出ます。
「ちょっと水でものもう」
かいだんをおりて、だいどころへ。
だいどころのとなりのダイニングは、まだあかりがついていました。
「おや、ピトラ、どうしたんだい?」
ダイニングで、お父さんのポポトさんが、テレビをみています。
「あ、お父さん」
「どうしたんだい?」
「ねむれなくって……」
「なにかなやみごとかい?」
「そうじゃないんだけど、蚊がうるさくって」
「蚊が?」
お父さんはクビをかしげます。
「おかしいな、ピトラのへやには蚊とりのキカイがおいてあるはずなんだけど」
「えっ? そうなの?」
「ちょっと見せてごらん」
ピトラとお父さんは、ピトラのへやにいきます。
「うん、あるある」
お父さんは、ピトラのつくえの上から、蚊とりのキカイをとりました。
「あ、こんなとこに」
「そうか、ポテトがいじらないように、ここにおいたんだったな」
お父さんはカバーを外します。
「あ、クスリがきれてるね。これじゃあ、蚊がおちないのもムリはないな」
「そうだったんだ」
「クスリのかえはなかったけど、たしか……」
一かいにおりたお父さんは、せんめんだいの下をゴソゴソとさがします。
「あったあった」
まるいカンをもっていました。
「なにそれ?」
ピトラはクビをかしげます。
まるくて、ニワトリの絵がついていて、見おぼえがあるような、ないようなカンです。
「さいきんは、あんまりつかわないけど」
お父さんはフタをとります。
ふわり。
かいだことのある、においがしました。
「あっ、カトリセンコウ!」
中には、うずまきの、緑色のカトリセンコウがぎっしり入っていました。
「おじいちゃんと、おばあちゃんの家にしかないと思ってたよ」
「うちは、ピトラが生まれてからあとは、火をはちょっとあぶないから、使わなくなってたんだけど、もうだいじょうぶだよね」
お父さんは、カトリセンコウを一つとります。
カトリセンコウは、二つがぴったりくみあわさったかたちをしていて、手でひっぱるとかんたんに二つにわかれます。
わかれたうちの一つのさきっぽを、お父さんはだいどころのコンロであぶります。
すぐにカトリセンコウのはしっこに火がつきました。
「ふっ」
お父さんは、炎をふきけします。
「あれ、けしちゃうの?」
「炎をけしただけだよ。火はのこってるよ」
カトリセンコウのさきっぽは、赤く光りながら、しずかに灰になっていきます。たちのぼるケムリは、かいだおぼえのある、カトリセンコウのにおいです。
お父さんは、カトリセンコウの入っていたカンのフタをひっくりかえします。
フタのうらは、コウロになっていて、そこにカトリセンコウをセットします。それからお父さんは、ピトラのへやの机にそれをおきました。
「火はあぶないから、いじらないようにね」
「はあい」
「じゃあ、おやすみ。ふぁふぁふぁ」
「おやすみなさい」
ピトラは、つくえの上のカトリセンコウをみつめます。
カトリセンコウは、コウロの中でケムリを出しながらゆっくりともえていきます。
へやは、いつもとちがうにおいです。
「なんか、うちじゃないみたいだ」
もえているカトリセンコウのさきっぽは、赤く光っていて、なんだかホウセキみたいです。それが、生きものみたいに、じっくり、じっくり、じっくり、じっくり、緑のカトリセンコウをたべていくみたいです。
「……なんか、火に見えないなぁ」
ピトラはゆびを赤いところにちかづけてみます。
うっすら、ねつをかんじます。
「火なんだ……火って、メラメラうごくばっかりかと思ってたけど……いや、まてよ?」
ピトラは首をかしげます。
「夢の世界で、ヨウガンを見たっけ。あれも火みたいだったなぁ」
カトリセンコウを見つめます。
そう、赤く光るようすは、ヨウガンににています。
「それだけじゃなくて、えーと、えーと……ああそうだ、センコウ花火の玉にもにてるんだ」
ピトラのことは、まったくおかまいなしで、カトリセンコウはもえます。
「きょねん、花火やったっけ。ラグヤがおしえてくれたけど、センコウ花火はななめにもつとながもちするとか」
糸みたいなケムリが、ゆっくりとのぼります。
「いつだかわすれたけど、ようちえんでスイカわりもやったっけなぁ」
なんだか、まるくて緑色をしたカトリセンコウは、スイカみたいです。
「そうだスイカと言ったら、夢の世界でスイカのガードマンやったっけ」
ピトラはにがわらいをします。
「スイカドロボウかとおもったら、スイカがにげるのをつかまえるなんて、タイヘンだったなぁ」
カトリセンコウは、しずかに、しずかにもえていきました。
つぎの日の朝。
「おはよう、ピトラ」
お父さんがピトラのへやのドアをあけます。
「あれ? お父さん」
ピトラはふりむきます。
カトリセンコウのまえにすわったままで。
そう。
ピトラはずぅぅぅぅぅぅぅっと、カトリセンコウを見つめていたのです。
「どうしたんだい? ゲンキのないカオをして。やっぱり蚊がうるさかったかい?」
「んー、あ、いや、蚊はぜんぜん気にもならなかったけど――ふぁふぁふぁ、ふぁああああああ」
ピトラは大きな大きなアクビで、すっかり白い灰になったカトリセンコウが、ぽろりとくずれました。
【おしまい】
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