宇宙海賊カピタン 後編
by ごんぱち
「宇宙船『イダテン』がぬすまれたって!?」
ピトラはさけびます。
「……社長、どうして前編と同じようなセリフをさけぶのでありますか?」
ジョースターはふしぎそうな顔をしています。
「つづきもののルールなの! よけいなツッコミをしない!」
ピトラは宇宙港へつづくきどうエレベーターへはしります。
はしります。
はしって、はしって、はしって……。
「はぁ、はぁ、はぁはあ、とおいーー」
とおくに、きどうエレベーターは見えるのですが、なかなかちかづいて来ません。
「きどうエレベーターまでは、とてもとおいのであります」
ジョースターがとんでおいかけてきます。
「……ジョースターとべるの?」
「カモメでありますから」
「……とんでるの、はじめて見た気がするんだけど」
「そうでありますか? いつもとんでいたのでありますが」
「まあいいや。それじゃあ、のせてよ、とんだほうがはやいだろうし」
「ムチャを言われてもこまるのであります。じぶんは、社長をのせてとべるほど大きくないし、力もないのであります」
たしかにジョースターの大きさは、ピトラよりちょっと小さいぐらい。ピトラをのせてとべそうにはありません。
「だいたい、トリっていうのは、だれかをのせてとぶもんだと思ってたけど」
「それだけ力があったら、ピトラ運送はもっともうかっているであります」
「……そだね。うちの会社、ほとんどもうかってないもんね」
話しながらでも、きどうエレベーターはとおいままです。
「とおいーーー」
「自転車にのったらどうでありますか?」
「え? そんなのあったっけ?」
「このまえ、フツヌシさまにつくってもらった、法力アシスト自転車であります」
「あ、それなんかよさそうだね」
「それでは、自転車がとめてあるピトラ運送にもどるのであります」
「え」
ピトラはふりむきます。
ピトラ運送はずーーーーーーーーーっととおくです。
「……こんなにすすんでたのか。エレベーターはぜんぜんちかくにならないのに」
「ひぃ、ふぅ、ふぅふぅ」
ピトラは自転車のペダルをこぎます。
やっと、エレベーターののりぐちへとうちゃくしました。
「ふーーー、足がおもいよー」
ピトラは自転車からおります。
「おつかれさまであります」
ジョースターがハンカチをさしだします。
「やれやれ。でも、なかなか自転車もきもちがいいね。スピードもだいぶ出るし、のりやすいし」
「フツヌシさまのシゴトはカンペキであります」
「そだねー。性格はわるいけど、シゴトは正確だよねー」
「ダジャレでありますか。じぶんは、わらった方がいいのでありますか?」
「わらえなかったら、ながしてよ!!」
ピトラは自転車をみます。
鉄の色をしたくろっぽい自転車。
かざりみたいなものは、なにひとつありませんが、それがかえってカッコイイかんじです。
「サイクリングとか行きたいねー」
「どうかんであります」
「草原の中の道をはしったら、きもちよさそうだなぁ」
「今からでも行ってはどうでありますか? たしか、北の草原は花が見ごろだったはずであります」
「それもいいね――って! 宇宙船だよ、宇宙船!!」
「あ、わすれていたであります」
「しっかりしてよね、もう!」
「社長はおぼえていたでありますか?」
「ぼくは――そりゃわすれてたけども」
きどうエレベーターが、宇宙港にとうちゃくします。
ピトラはおおいそぎでイダテンのとめてあるドックへはしります。
ドックのとびらがひらくと――。
「イダテンが! イダテンが!!」
ガランとしたドックがあるだけでした。
「ない……ホントウに、ない」
ピトラはがっくりひざをつきます。
「ふむ、宇宙船みたいに大きいものをぬすむとは、かなりの大ドロボウですね」
「……カソ、なにしてるの」
「は? シゴトですが?」
カソは、いつものせびろをきて、黒いてちょうをひらいています。
「シゴトって、なに」
「刑事ですけど」
「アルバイトで?」
「ええ。2時から10時まで」
カソはドックのかべにかかった時計を指さします。時計は3時すぎ。
「アルバイトの警察……」
「なにかもんだいでも?」
「警察って、そういうふうにやっていいものなの?」
「やけにつっかかりますね。こんなのおやくそくなんだから、ながしてくださいよ」
「……まさか、ワイロなんかもらったりしてないだろうね?」
「ピトラ」
カソがピトラをにらみます。
「あ、ごめん」
「ワイロっていうのは、くれる人がいないとなりたたないんですよ」
「……くれたらもらうの?」
「バレなければ」
「やっぱりキミはゆだんならないひとだよ――って、カソなんかとしゃべってるばあいじゃない!」
「『なんかと』とはなんです」
ピトラはドックの中をもういちど見回します。
宇宙船をとめていたフックには、ハリガネ一本のこっていません。
「いったいだれが、なんのために!」
「ああ、それについては、はんこうカードがのこしてあったであります」
ジョースターがカードをさしだす。
「なになに?」
『ピトラ運送社長さんへ
はいけい
日ざしもつよくなり、おふろよりもシャワーばかりつかうようになった今日このごろ、いかがおすごしでしょうか。
さて、このたびオレサマ、カピバラのカピタンは、なぜだかわからないけれどヘンなほうちょうが見えたと思ったら、この世界にやってきました。
さいしょはものすごくおどろいて、こわかったのですが、気をとりなおし、がんばって宇宙海賊をやりはじめました。でも、宇宙にいる宇宙船はかずが少ないしうごいているのでつかまえにくく、あまりもうからないので、宇宙港でとまっている宇宙船をぬすむことにしました。
オレサマは、このままフォーマルハウトまでにげるけれど、おいつけるものなからおいついてみろ、やーい。
これからもっとあつくなりますが、くれぐれもかきごおりのたべすぎにはちゅういしてクダサイ。
けいぐ
宇宙海賊カピタン』
「これで犯人のなまえがわかったであります」
「……ああ、そーだね、イヤってほどわかったよ。なんかアタマの中がとっちらかってそうなことも、またリンガのせいで来たほかの世界のひとだってことも」
「おい、ピトラ!」
ねじりハチマキに大きなつつみをかついだフツヌシが、やってきます。
「イダテンがぬすまれたってぇじゃねえか!」
「うん、宇宙海賊カビパンとかそんなのに」
「カピタンだ!」
「ああ、そっか、カピタンカピタン。フォーマルハウトににげるって」
「だったら、さっさとおいかけろ!」
「宇宙港のじむしょに、ドックのゲートをひらくようにおねがいしましたよ」
「おいかけたいけど……」
「つかえ! こんなこともあろうかと思って、つくっておいた」
フツヌシがつつみをひらくと、中には。
「自転車だね」
自転車がたくさんです。
「おうよ、輪廻転生ジャイロをつんだ、超空間自転車だ。宇宙だろうが、火の中だろうが、ガンガンすすめるすぐれものだぜ」
「……でもやっぱり、エンジンはついてないワケね」
宇宙服をきたピトラは、自転車のペダルをふみます。
タイヤがひとまわりするごとに、ずん、ずんとすすんでいきます。ものすごいスピードです。
「これ、イダテンよりはやいんじゃ……」
「ざっと200ばいははやいな」
フツヌシがはしりながらこたえます。
「あの……こういうの、イダテンにつけない?」
「イダテンはオールだろう」
「やっぱりなんか、ペダルはむいてないとか、あるの?」
「いや、べつに」
「だったらつけてよ!」
「つけられないこともねえが、そういうことをすると、みんなガッカリするぞ」
「みんなって、だれさ?」
「わたしはガッカリしますね」
「じぶんもガッカリするであります」
「ガッカリするでガス」
「ガッカリですぞ」
みんながしみじみと言います。
「……いつのまに、親方とガースまで」
「は? さっきからいたでヤスよ」
「いたなら、しゃべってよ」
「おい、しゃべっているヒマはないぞ」
フツヌシがまえをゆびさします。
「フォーマルハウトだ」
大きな星がちかづいてきます。
「なにかがすめるのは、4ばん惑星ですね」
「……ねえ、ちょっとまってよ、イダテンどっかでおいこした?」
「いいえ」
カソがくびをよこにふります。
「みかけていないであります」
「見ていないでヤス」
「見とらんな」
「これだけはやいのに、おいこさないわけないでしょ! だまされてるよ、だまされてる! カピタンはこっちににげてないよ!」
「なるほど、ピトラなのにさえてますね」
「つっこんでるばあいじゃないよっ!」
ドリフトターンいっぱつ、ピトラは宇宙港にもどっていきました。
「あのカードがウソだったとすると、どっちににげたんだろう?」
ピトラたちは、宇宙港のドックの中で手がかりをさがします。
「宇宙はひろいですからね」
いろんな宇宙船がつかえるように、ドックはとてもひろくできていて、イダテンなら4隻ぐらいおさまりそうな大きさです。
「だいたい、いつぬすまれたんだろう?」
「それが、かんしカメラのまえに、これがおかれていたのであります」
ジョースターがカガミを出します。
「カガミ? そんなのバレるじゃない」
「いえ、こうすこしかたむけて、天井のほうがうつるようになっていたのであります」
「そっか、それじゃあぬすまれた時間はわかんないなぁ」
「いいえ、わかりますよ」
カソがにやりとわらいます。
「ぬすまれたのは、3時20分。今から2時間ほどまえですね」
「ええっ、どんな推理が?」
「ここに、ふきとばされてこわれた時計が」
かべかけの時計が、おちてこわれています。
「ドックの中でオールをつかったんでしょう。宇宙船のオールは、すごい風をだしますから」
「3時20分?」
ピトラは時計をみます。
「ってことは、ぬすまれたのは、ぼくたちがおいかけたあとじゃないか?」
「社長、こんなものを見つけたでヤス」
ガースがシートをもってきました。
「なにそれ?」
「見おぼえがねえな」
フツヌシがはしっこをもって、ひろげます。
ドックのかべのいろと同じ、大きなシートでした。大きな大きな、そう、イダテン一隻かくすこともできそうな。
「わかった、ナゾがとけたぞ!」
ピトラはさけびます。
「カピタンは、イダテンをかくしておいて、ぼくたちがさがしに出てゲートをひらきっぱなしにしているところをねらってにげだしたんだ!」
「なるほど、よくわかりましたねピトラ」
「うんうんん、これでガテンがいったであります」
「これにて一件落着でヤスね」
「めでたしめでたしですな」
「それじゃぼくは――」
「なんにもカイケツしてねーだろうが!」
フツヌシがどなります。
「さっさととっつかまえるぞ! このオレのイダテンに手を出すとはゆるさねえ!」
「いや、ぼくの宇宙船なんだけど……」
「オレがレストアしているときは、オレの宇宙船だ! ほれはやくおいかけるぞ!」
フツヌシは自転車にまたがります。
「イダテンはつくりかけだし、ワープ用オールもつんでねえ。こいつでおいつけないワケはねえ! いくぞ、やろうども!」
「……しきらないでよ、ぼくがせきにんしゃなんだから!」
フツヌシはものすごいいきおいで、自転車をはしらせます。
「ぼくが社長だっていうのに!」
ピトラもまけていません。
「オレの宇宙船だ!」
「ぼくのだよ!」
ものすごいスピードで、星がぜんぶ流れ星になったみたいに見えます。
「オレがっ!」
「ぼくが!」
はしっていると。
目のまえに大きなものがあらわれました。
「うわっ!」
「わあああっ!」
フツヌシは思いきりゲキトツしました。
ピトラはどうにかかわします。
「な、ななな?」
自転車とおなじ、鉄色をした宇宙船イダテンです。
「あー、しぬかとおもったぜ」
「……どうしてなんともないのさ、フツヌシ」
「おまえらみたいにヤワじゃないからな。ほれ、さっさとカピタンをとっつかまえてこい」
ぐしゃぐしゃにこわれた自転車を、フツヌシはトンカチでなおしはじめます。
「おまたせしました、ピトラ」
「おまたせであります」
「つかれたでヤス」
「いやぁ、としよりにはこたえますな」
カソたちもおいついてきました。
「よし、ふみこむよ!」
ピトラたちはハッチをあけて、イダテンの中に入ります。
「うわー、大きくなったね。すごくうごきやすいや」
イダテンの中は、これがあのボロ船かと思うぐらいピカピカで、ひろびろとしています。
「かんどうであります。これはすばらしいであります」
「でもあっちこっちに、おもかげがのこってヤスね」
「フツヌシさまのシゴトは、すばらしいですな」
ぴとらたちはおもいおもいに、宇宙船の中をさがします。
でも。
「だれもいないなぁ」
「いないであります」
「いないでヤス」
「おりませんな」
「――ふむ、カピタンはひとりですね。オールがひとりぶんしかつかわれていませんでした」
カソが、動力室からもどってきました。
「ひとりって?」
「宇宙海賊なんてのは、チームでうごくものですよ」
「ああ、なるほど。でも、それがどうかしたの?」
「いいですかピトラ、こういう時はまずあいてのたちばになってかんがえるんです」
「おもいやりだね」
「ちがいます」
「ちがうであります」
「ちがうでヤス」
「ちがいますな」
「……う、ツッコミがはげしすぎる」
「プロファイルです」
「プロ……パガンダ?」
「ことばはどーでもいいですから」
カソはひとつせきばらをします。
「まず、カピタンは、わたしたちとまともにやりあってもかてない、と、かんがえるでしょう」
「うん」
「そして、ドックにひそんで自転車のスピードも見てるはずですから、イダテンでにげきれないことも、おいついてくるおおよその時間もわかっているはずです」
「そうだね」
「宇宙船はほしくても、つかまるのはまっぴらです」
「そりゃそうだ」
「だとしたら、もう、にげることばかりかんがえるでしょう」
「でもどうやって? つくりかけのイダテンじゃ、自転車にはかてないんでしょ?」
「だとしたら、自転車をぬすめばいいんです」
「でもどうやって?」
「そこですね。みんなが自転車からおりて、目をはなしている時なんてのがあるといいんですが」
「そんなにつごうよく――って、今がまさにそれだよ!」
ピトラたちは、ハッチの外に出ます。
すると、自転車ではしりさっていく大きなカピバラのうしろすがたがありました。ほかの自転車は、みんなとおくへなげられてしまって、ひろうのは時間がかかりそうです。
「ああっ!」
「どうやら、あのカピバラがカピタンみたいですね」
「イダテンとおなじ色の布が見つかったであります。これをかくれみのにして、外にはりついていたみたいであります」
「くぅぅ、カピタンめ……」
「どうしたピトラ、カピタンはつかまえたか?」
しゅうりのおわった自転車にのって、フツヌシがもどってきました。
「フツヌシ、そとにいたなら気づいてよ!」
ギ、コ、ギ、コ、ギ、コ、ギ、コ……。
「うー、ひさしぶりだと、つかれるー」
ピトラたちはイダテンの動力室で、オールをこぎます。
つくりかけのせいか、あんまりオールに手ごたえがありません。
「これというのも、みんなカピタンのせいだ。こんどあったらタダじゃおかないぞ」
「そうですね。たっぷり賠償金をもらいましょう」
「……いや、そういうタダじゃないんだけど」
ピトラは息ぎれまじりのため息をつきます。
「あーあ、さんざんだなぁ、今回は」
「でも社長、イダテンがとりかえせてよかったであります」
「そうでヤス。ふこうちゅうのさいわいでヤス」
「そういうこった。あんまりおちこむな、この世界で宇宙海賊なんてレアものだぞ」
「宇宙海賊っていうより、こそどろじゃないか。それに、ほとんどすれちがいだし」
イダテンは、のんびりと宇宙をすすんでいきました。
【おしまい】
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