ごんぱち作

きょうりゅうのくに
おとまりにきたラグヤのバッグにつまっていたのは、リュウのぬいぐるみでした。
「……セイリュウのリュウさんっていうんだ」
「へえ、リュウさん」
ながいからだ、がっしりしたあし、おそろしげながらたのもしそうなかお、そして、リビングのでんきをはんしゃしてかがやくウロコ。
「……しんだひいじいちゃんから、もらった」
「ふうん。ねえ、リュウさんって――」
「――ピトラ、ちょっと!」
そのとき、おかあさんのピピラさんが、だいどころからこえをかけました。
「なに?」
「スーパーのふくろそこにあるでしょ、タマゴとおにく、もってきて!」
「ええーっ?」
たしかにスーパーのふくろはちかくにありましたが、あそんでいるところをじゃまされて、ピトラはとてもいやなかおをしました。
「ぼくたちいま、いそがしい――」
「……タマゴはたのむ」
でもラグヤは、ふくろからにくのパックをとりだし、もっていきます。
「はいはい、もっていけばいいんでしょ!」
ピトラがむくれたまま、タマゴのパックのはしっこをもって、だいどころにむかおうとしたときです。
「あっ!」
「……あ」
てをふったいきおいで、タマゴのパックがポーンととんでしまいました。
ぐしゃり。
タマゴのはいっていないハンバーグでばんごはんをすませたピトラとラグヤは、いつもよりいちじかんよふかしをしたあと、ピトラのへやでねむりました。
(ちぇっ)
ふとんでよこになったあとも、ピトラはなんだかねむれませんでした。
(おかあさんがいけないんだ。いいとこでジャマするから)
ねがえりをひとつ。
(あーあ、おてつだいなんかしたくないなぁ)
ねがえりをもうひとつ。
(おかあさんより、つよくなればいいのかなぁ。きっとそうだ。あーあ、つよくなれな……い……か……なぁ……)
ピトラはめをあけました。
「ああ、よくねた――あ、あれ?」
とんがったみたことのないかたちのき、くさ、とおくにみえるやまのかたちもちがいます。ちかくにながれるかわは、あきカンひとつおちていなくて、ものすごくきれいでした。
ピトラのへやではありません。ふとんもありません。
「……ゆめの、せかい?」
「ごめいとう」
どこかからこえがしました。
「えっ、だれ?」
「ははは、わかりませんか?」
ずずずずずずずずず。
かわが――めのまえのかわが、たちあがりました。
「な! な、なななな!?」
かわはそらまでのぼったかとおもうと、いっちょくせんにおりてきました。
「わあああああっ!」
つぎのしゅんかん、かわはピトラのめのまえで、いっかいてんしてとまりました。
「しっけい、すこしおどろかせてしまったようですね」
かわは、いつのまにかりゅうになっていました。かわのようにながいからだと、きらきらとひかるウロコをしています。
「……やっぱりリュウさんだったんだ」
と、もりのなかから、ラグヤがでてきました。
「やあラグヤくん。ごきげんうるわしゅう」
「……ピトラ、びっくりした?」
「いや、なんていうか」
くちごもるピトラに、ラグヤがいいます。
「……これはね、ゆめだけどゆめじゃない。リュウさんのちからで、おみやげがひとつだけもってかえれるゆめなんだ」
「ああ、そのへんはゲンさんとおんなじなんだ……でも、ここってどこ?」
「はは、そのといはわたくしにとって、むいみ」
リュウさんはわらいます。
「セイリュウのほんしつはかわ。ゆくかわのながれはたえずして、しかれどももとのみずにあらず。じくうこえつねにたびをつづけるのが、わたくしのじんせい」
ずん……ずん……。
「えーと、よくわかんないんだけど……」
「……ふつうにこたえてよ、リュウさん」
ずん……ずん……ずん……。
「ははは、わかりました。ばしょでいうなら、ゴンドワナ」
ずん……ずん……ずん……ずん……ずん!
「じかんでいうなら、おおよそ150000000ねんまえ」
ずん!!!!!!
じなりとともに、もりのなかからおおきなおおきなおおきな、みあげるほどおおきな――。
「きょうりゅうの、じだい……?」
「ごめいとう」
くびながのきょうりゅうのせなかにのると、まわりのきがちいさくみえます。
ずん! ずん! ずん! ずん!
あるくたびに、まるでじしんみたいにじめんがゆれ、もりのいきものたちがにげていきます。
「……セイスモサウルス。じしんりゅう。ぜんちょう40メートルをこえる、ちじょうでいちばんおおきないきもの」
ピトラとラグヤがのっていることなんかおかまいなしに、セイスモサウルスはながいくびをみぎひだりにうごかして、きのはっぱをたべながらすすんでいきます。
「リュウさん、よくこんなにおおきいきょうりゅうとおはなしできたね?」
「ははは、わたしはきょうりゅうとは、なかがよいのですよ」
リュウさんはわらいながら、ぷかぷかとうかんでいます。
「……ありがとう、リュウさん」
ラグヤはとてもうれしそうにわらいます。
(すっごいなぁ)
ピトラはセイスモサウルスのせなかにさわってみます。ウロコにおおわれたはだは、あたたかでした。
(ほんものの、きょうりゅうだ)
セイスモサウルスは、ほんでみたよりもずっとずっとずっとずっとおおきく、いきをして、あしおとをたて、あたたかく、なんかウシみたいなにおいがします。
うしろをみると、おおきなあしあとができています。たぶん、じどうしゃだってぺしゃんこです。
(もしもこんなにおっきなきょうりゅうが、ぼくのものだったら、おかあさんもなんにもいわないかな)
「ねえ、リュウさん!」
「なんですか?」
「このきょうりゅう、おみやげにしてもってかえれないかな?」
「……もってかえる?」
ラグヤはびっくりしたかおをしています。
「もちろん、なんでもおみやげにできますよ」
「ほんとう!?」
「ただ、あなたがてにいれたものにかぎります」
「てにいれるっていうと……」
「きょうりゅうのせかいは、つよいものがぜったいですから、たたかってかつひつようがありますね」
「たたかうって、これと?」
ピトラはおもわず、かたをすくめました。
セイスモサウルスのあしおとにおどろいて、もりのなかからトリのようなものがとんでいきます。
「……いまのが、よくりゅうのランフォリンクス」
トカゲみたいにちいさいきょうりゅうのむれが、はしってにげていきます。
「あれは!?」
「……コンプソグナトス。ちいさいけど、にくしょく」
「よくわかるね、ラグヤ」
「……きょうりゅうとか、すきだから」
うれしそうにラグヤはわらっています。
「あれは?」
「……ステゴサウルスのおやこ」
「そっちは?」
「……プロトケラトプスになりかけの、まだかせきがはっけんされてないしゅるい」
「あっ、あれは、しってるよ」
ピトラは、うしろのほうからものすごいはやさではしってくるきょうりゅうたちを、ゆびさしました。
「ティラノサウルスだよね?」
「……このじだいにティラノサウルスはいない。あれはアロサウルス」
「さすがはラグヤくんですね」
アロサウルスたちは、どんどんきょりをつめてきます。
ずん!
「かっこいいなぁ、あれをおみやげに――」
「……ピトラじゃ、かてないとおもう」
「むぅ」
ずん!
ずん!
セイスモサウルスは、スピードをあげています。
「ひょっとして、だけどさ」
「……うん」
「あのアロサウルスたち……」
どんどんきょりが、つまっていきます。
ガブリ!!
アロサウルスが、おおきなくちで、セイスモサウルスのしっぽにくいつきました。
「このセイスモサウルスを、きょうのばんごはんにするつもりらしいですね」
「ぼくにもわかったよ!!」
セイスモサウルスも、まけずにしっぽをふりますが、アロサウルスはしっかりくいついてはなれません。
にひき、さんびき、よんひき……。
おおきなアロサウルスが、もっとおおきなセイスモサウルスのしっぽに、どんどんくいついていきます。
「リュウさん、とめて!」
「……アロサウルスたちも、たべなきゃいきていけない」
「わたくしたちは、たちよっただけのたびびと。このしぜんのたたかいにてをだすことは、できません」
セイスモサウルスのながいしっぽに、いくつもキズができて、ちがながれます。
「でも!」
「みていてください、セイスモサウルスも、ただやられるわけではありませんよ」
リュウさんがいったときです。
ぶんっ!
セイスモサウルスは、ぐいとふみこんで、からだぜんたいでしっぽをふりました。ものすごいちからです。くいついているアロサウルスもろとも、しっぽがもちあがりました。
つぎのしゅんかん。
ばあああぁぁぁんっっ!!
まるでばくはつみたいなおとが、あたりにひびきわたりました。
セイスモサウルスは、しっぽにくいついたアロサウルスたちをハンマーがわりに、あとからとびかかろうとしたアロサウルスをなぎたおしたのです。
これにはアロサウルスたちもたまりません。すっかりたたかうきをなくし、ふらふらとにげていきました。
「ほら、こういう――おや?」
いつのまにか、ピトラとラグヤは、セイスモサウルスのうえからいなくなっていました。
「あー、びっくりした」
ピトラはおしりをさすります。
「……うん」
あたまについたはっぱを、ラグヤはぱたぱたとはたきおとします。
さいごのこうげきのときに、セイスモサウルスのせなかがおおきくゆれて、ピトラとラグヤはもりのなかにおちていたのです。
「リュウさん、しんぱいしてるかなぁ?」
「……リュウさんはこういうとき、わざわざさがしにこない」
「そうなの?」
「……だいじょうぶ。めをさませばいいだけ」
「ああそっか」
「……それに、セイスモサウルスのうえからじゃみれなかったものがみられる」
ピトラとラグヤはあるきます。
ピトラたちのじだいのもりとは、ぜんぜんちがいます。そもそもトリがいませんし、ムシもかたちやおおきさがちがいますし、しょくぶつもちがいます。
(ん? あれはイチョウかな?)
――まあ、なかにはおなじようなものもありますが。
ふたりがしばらくあるくと、きがたおされているばしょにたどりつきました。
「……あ」
ラグヤがたたたっとはしって、たちどまりました。
「……ふーん」
「なに、それ?」
みたところ、ところどころにしろっぽいものがみえる、ただのつちのやまです。
「……ええと、まあいいか」
ラグヤがつちのやまをてでほると、なかからおとなのてのひらぐらいのおおきさのタマゴが、いくつもでてきました。カラはがんじょうそうで、はいいろをしています。
「きょうりゅうのタマゴ!?」
「……そう」
「あのアロサウルスのかな?」
「……どうだろう」
ピトラはタマゴをじっとみつめます。
「こんなにいっぱいタマゴをうむんだね」
「……うん。でも、じっさいにかえるのはひとつかふたつ。のこりは、さきにうまれたきょうりゅうのごはんになる」
「へえ……」
ピトラのあたまのなかで、かんがえがいっしゅんでまとまりました。
「だとしたら、さ」
ピトラは、タマゴのなかで、いちばんおおきくてきれいなものをとります。
「いっこぐらい、ぼくがもってかえっちゃって、いいよ、ね?」
「……うーん、どうだろう?」
「だいじょうぶだいじょうぶ。もってかえるよ。おみやげは、きょうりゅうのタマゴだ!」
ピトラのきょうりゅう。ピトラがタマゴをかえして、そだてたきょうりゅう。
(ぼくのきょうりゅうだ!)
「……でも、それってたぶん、あんまり……」
ラグヤのこえがとおくになっていきます。
「……く……ぃ……」
(ぼくの……くの……ぼ……の…………)
「――ふぁあぁああ」
めをさましたピトラのてが、ふとんのなかで、なにかにあたりました。
「ん?」
ふとんをはがしてみると、まちがいなくあの、きょうりゅうのタマゴがありました。
「タマゴだ」
ずっしりおもいタマゴは、ニワトリのタマゴの4つか5つぶんありそうです。
「――ラグヤのいたずらかな?」
ところが、ピトラはとなりでねむっているラグヤをみながら、くびをかしげています。
そうです。
ゆめからもってかえられるのは、ひとつだけ。タマゴをえらんだピトラは、それいがいはぜんぶ、そう、ぼうけんのきおくもふくめてぜんぶ、おいてきてしまったのです。
「ちょうどいいや」
ピトラはタマゴをもって、だいどころにいきました。
「――おかあさん、おはよう」
「あら、ピトラおはよう。ラグヤちゃんは?」
「まだねてるよ……あのさ、きのうは、タマゴわっちゃってごめんなさい」
「いいのよ。おてつだいしてくれたんだもの」
おかあさんのピピラさんはやさしくわらいました。
「それで、その――はい、これ」
「あらあらあらあら、おおきなタマゴねぇ!?」
ピピラさんは、タマゴをでんとうにすかしてみます。
「うん、おいしそうよ」
「よかった。じゃあ、つかってよ」
「ありがとう、これでおいしいオムレツがつくれるわね」
こん。
かしゃっ!
じゅぅぅぅぅぅぅぅ……。
タマゴのやけるおいしそうなかおりが、だいどころいっぱいにひろがります。
きょうもいいひに、なりそうです。
<おしまい>
「きょうりゅうのくに」の用語解説
・セイスモサウルス……全長四〇〜五〇メートルに達する地球史上最大の動物(シロナガスクジラで三十メートル。アフリカゾウの体高三メートル)。
頭と尻尾を丁度釣り橋の様に水平に浮かせて移動していたと考えられている(二本足で立ち上がる事、首を高く上げる事等は不可能)。また、この巨体を維持するために、常に食事を続けていたとも言われる。歩くスピードは時速四、五キロ程度だが、「足を止める」というロスなくエサを食べるのには適していらしい。
恐竜の体温の描写は「恐竜温血説」に準ずる。これは、活動力とサイズから考え、爬虫類とはいえ恐竜の体温が冷え切る事はなかったであろうという説。
ジュラ紀後期(約一億五〇〇〇万年前)に生息。
尚、劇中でラグヤが「地震竜」と言っているが、これは彼の愛情故の誤りで、セイスモサウルスを原語通りに訳せば「地震トカゲ」で、大層格好悪い。
・アロサウルス……体長一〇メートル超。ジュラ紀最強の肉食動物であったと考えられる。
群を作って狩りを行い、自分の何倍もある草食恐竜をしとめられた。ただ、仮に一対一でセイスモサウルスに挑んだとしても、勝つ確率はゼロに等しかったであろう。何しろ、己の身体の四倍の体長だとして、単純計算、体重は百倍近くになるのだ。
ティラノサウルスが出て来るのは、この数千万年後になるので、重なることはあり得ない。ちなみに「あれはジュラ紀の生物だ」で、有名なゴジラは、このアロサウルスではなく、白亜紀のティラノサウルスがモデルらしい。
・恐竜の巣……タマゴを放射状に産んで土を被せ、地熱や太陽熱(当時の平均気温は現在よりも高い)で孵化させるのが一般的であったという。但し、子育て等にはあまり熱心ではなかったらしい。また、先に生まれた子供が、未孵化のタマゴを食べる事は実際にあったらしい。
タマゴの大きさは、恐竜の身体と比べると意外なほど小さい(最大で容積六リットル前後)。呼吸や孵化時の便宜から、殻をそれほど分厚く頑丈なものに出来なかった事が理由と考えられる。
人間が食べた際にいかなる味がするかに付いては不明だが、化学薬品を一滴も摂取せず、十分すぎる程の運動をして育った生き物の新鮮な有精卵が不味い道理はない。
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