ピトラの冒険39   千足とQの絵本ワールド

カステラをたべたい!   by ごんぱち

「はー、おいしそうだなぁ」
 ふとんにはいっているピトラは、絵本の「ぐりとぐら」をとじました。
 小さいころから大すきな絵本ですが、その中でも――。
「おいしそうだなぁ」
 タマゴをたっぷりつかった、やきたて、ふわふわのカステラをたべるシーンで、いつもよだれが出てしまいます。
 ピトラもカステラをたべたことはありますが、それはつめたいのをひときれづつです。
「やきたての、まだあったかいのを、おなかいっぱい……」
 ピトラは明かりをけします。
「そうだ、夢の世界で作ろう。夢の世界なら、そういうヒジョウシキなこともおきるはずだ」
 まくらがわりにしている、カメのゲンさんのぬいぐるもをポンポンとたたきます。
「じゃ、ひとつよろしくね、ゲンさん」

 ピトラが目をさましたのは、夢の世界でピトラがけいえいしている『有限会社ピトラ運送』の社長室でした。
「おかえりなさいであります、社長」
 カモメのジョースターが、ファイルをいっぱいかかえてやって来ます。
「ああ、ジョースター。ごくろうさま」
 ピトラは目をこすります。
「いくつか、むずかしい仕事が入ったのであります。社長にけっていしてほしいのであります」
 ジョースターは、ピトラの机の上にファイルをどさりとおきます。
「今日は仕事ってきぶんじゃないんだけど」
 ピトラはファイルを一つ手にとります。しょるいがぎっしりつまっていて、ナナメよみもむずかしそうです。
「だいたい、そういう仕事はおやかたにまかせてるじゃないか。宇宙船だってまだなおってないでしょ」
「その間に、自転車便をはじめようというていあんなのであります。あたらしいものなので、どうしても社長にきめてもらわなければいけないのであります」
「自転車便かぁ……もうかるかなぁ?」
「にもつをたくさんはこべるので、仕事をずっとたくさんうけられるのであります」
「でも、自転車買わなきゃいけないんでしょ?」
「いえ、それはフツヌシさまが、宇宙船のついでに作ってくれるそうであります。ふつうに買うはんぶんのねだんであります」
「なるほど……」

「おつかれさまでしたであります!」
 ジョースターが社長室から出ていきました。
「ふー、やれやれ」
 ピトラはためいきをつきます。
「夢ではたらいてるんだから、なんだかなぁ」
 まどの外の夜空には、星がいっぱいです。
「おつかれさま、かたもみしましょうか?」
「……タダならね」
「ガッチリやさんですね、ピトラ」
「だれのせいだかね」
 ピトラがふりむくと、そこには火ネズミのカソがいました。
「マッサージは三〇分で――」
「いらないよ。またマッサージ屋?」
「そうじゃありませんけど、これはいつでもできますし。ピトラとわたしのなかです、安くしときますよ」
「カソとぼくのなかってんなら、タダにしたらいいじゃない」
「ピトラ、タダで仕事をしちゃあいけません。タダの仕事は、ザツになります。お金はかならずもらわなきゃいけません」
「ほかのひとが言えば職人のりっぱな言葉だけど、カソはたんにお金がほしいだけでしょ」
 ピトラはカソと、会社の外に出ます。
「ピトラはお金いらないんですか?」
「すくなくとも、カソほどじゃないよ」
 街は、いろんなひとがあるいています。
「それでピトラ、ばんごはんは何を食べますか?」
「ばんごはん……そうだ、わすれるとこだった」
 ピトラはあたりをみまわします。
「カステラたべたいなーと思ってたんだ」
「カステラですか?」
 カソはくびをかしげます。
「パティシエクロヤマで売ってましたね、たしか」
「……あそこのおかしはマズイから」
「でも、このへんでおかしやさんと言えば、あそこだけですよ」
「これだからイナカは……」
「そもそも、くだものがおいしいですから、あんまりおかしを買うひとも少ないんですよ」
「くだものとおかしは、べつのものじゃないか」
「そうでもないんですけどね」
「まあ買おうとは思ってないよ、森でざいりょうをさがして、じぶんで作るから」
「森で――ああ」
 カソはポンと手をたたきます。
「しかし、あっちは野ネズミ、こっちはウサギと火ネズミじゃあ、すわりがわるいですねぇ」
「……どうでもいいよ、ぼくはカステラ食べたいだけなんだから」

 ピトラとカソは街のちかくの森にやって来ました。
 木のすきまから空いっぱいの、しかもいろんな色の星が見えて、まるでクリスマスツリーみたい。いいえ、クリスマスツリーの十ばいもキレイです。
「タマゴタマゴ……」
 ピトラはかいちゅうでんとうでてらしながら、森の中をあるきます。
 たまに、おどろいたフクロウやコウモリがバタバタととんでいきます。まわりのヤブでは、ときどきなにかの目がひかります。
「……ピトラ」
「なに?」
「これは、だいぶちがう気がするんですけど」
「たしかに」
「おいしいカステラをつくるというより、オバケたいじかなにかをするみたいです」
「……そだね」
 夜の森の中はきれいですが、つめたいかんじがして、いごこちがよくはありません。ピトラの世界よりもずっとあんぜんですが、それでもなんとなくこわくなるものです。
「かえろっか」
「ええ」
 ピトラとカソがもどろうとしたとき。
「あっ」
 ピトラがみつけました。
 木のむこうに、大きな大きなタマゴを。

「うわ、おっきい……」
 ピトラはタマゴを見あげます。
 ピトラの十倍も高さがある、大きなタマゴです。カタチはニワトリのタマゴとおなじ、さきがちょっととんがったタマゴがたです。
「すごいすごいすごい! これだったら、おっきなカステラが作れるよ。ねえ、カソ?」
「ピトラはこれはタマゴじゃ……」
 カソはなにか言いかけましたが――。
「あ、いやいや、すごい大きなタマゴですね。うん」
「じゃあ、もってかえって料理しよう」
 ピトラはタマゴを、もって、いや、もとうとして、その……もとうとしましたが。
「……もてない」
 もつというよりも、しがみついているだけです。
「だったらころがしましょうか」
「そうだね」
 ピトラとカソは、タマゴのはんたいがわにまわっておします。
「ぬーーーー!」
「むぎーーーーー!」
 ふたりは、いっしょうけんめいおします。
「ぎぎぎぎいぃっ!」
「ぬあああああああああっ!」
 タマゴは少しゆれるだけ。
「ダメだ、おもい」
 言いながら、ピトラのかおはわらっています。これだけ大きいタマゴなら、きっといっぱいカステラがつくれます。
「そうだピトラ、おしりでおしましょう」
「おしり?」
「手より足のほうがチカラがあるんですよ」
 ピトラとカソはタマゴにせなかをむけて立って、おしりで――。
 ぐいっ。
 ごろっ。
 タマゴはころがりました。
「やったっ!」
「このまますすめましょう」
 ぐいっ。
 ごろっ。
 ぐいっ。
 ごろっ。
 ぐぐぐいっ。
 ごろごろろ。
 ぐいぐいぐいぐい。
 ごろごろごろごろごろ。
 タマゴは草をおしつぶしながら、ゴロゴロところがります。
「ねえカソ?」
「なんですか、ピトラ?」
「あのさ、ちょっときになったんだけど」
「はい?」
「ぼくたち、おなじところをぐるぐる回ってない?」
 そうなのです。
 タマゴは、とがったほうを中心にして、ゴロゴロゴロゴロ、おなじところを回りつづけています。ちょうど、コンパスみたいに。
「ピトラ、タマゴは、おちてわれないように、ころがしても同じところにもどってくるカタチをしているんですよ」
「って、それじゃあ、ころがすイミないじゃん!」
「あ、そうでした」
 草のおしつぶされた円が、じめんにできています。
「しょうがない、ここでわろう。かまどを作って……」
「……われますかね?」
「だいじょうぶでしょ?」
 ピトラはタマゴをたたきます。
 べち、べち。
「ちょっと、かたそうだね」
 コン、コン、コン。
「こんなにかたいの?」
「ハンマーつかいますか? なかみをはんぶんくれるならかしますよ」
「もともと分けてあげるつもりだよ」
 ピトラはハンマーでタマゴをたたきます。
 カン、カン、カン、カン!
「もっとおもいきりやっても、われそうにありませんね」
「よおし!」
 両手でしっかりハンマーをにぎって――。
 ガン、ガン、ガン、ガン、ガン!!
「もういっちょう!」
 ガン、ゴン、ガン、ガン、ガン、ゴン、ガン!!!
「なんのぉっ!」
 ガガガガガガガガガガガガガガガン!!!!
「はぁ、はぁ、はぁ……か、かたい」
 ピトラの手からハンマーがおちます。
 ぜんぜんわれないし、ヒビもはいりません。
 はんたいに、ピトラの手がビリビリしびれて、ホネにヒビがはいりそうです。
「んー、やっぱりダメですか」
 カソもタガネを出して、ハンマーでたたきますが、キズぐらいしかつきません。
「ああそうだ、すっっかり忘れてましたよ。ピトラ、リンガにたのんだらどうですか?」
「え? でも、リンガはまだ刑務所だし」
「リンガは模範囚ですし、ピトラのカオでなんとかなるでしょう。リンガがいいですよ、リンガが。ね? すぐたのみましょう、今たのみましょう」
「んー、そうだね、そうしようか」
 ピトラとカソが刑務所に行こうとしたときです。
「あら、ピトラさんとカソさん」
 空から声がしました。
「あっ、スーさん」
「スーさん……」
 空からおりてきたのは、スザクのスーさんでした。
「おふたりとも、タマゴ岩をころがして、なにやってるの?」
「タマゴ……岩?」
 ピトラはききかえします。
「ええ、そうよ」
 スーさんは大きなタマゴ――ではなくて、タマゴ岩をみあげます。
「ホンモノのタマゴじゃ、ないの?」
「もちろんよ」
 くすっとスーさんはわらいます。
「だって、こんなにカラがかたかったら、ヒヨコがかえるときにわれないし、イキもできないでしょ?」
「でも、ほら、その、えーと……」
 ホントウのタマゴだと思いたいのですが、どうしてもスーさんの言うことのほうが正しそうです。
「そもそも、二〇万年ぐらい、ずっとそのままよ。カソさんはしってたと思うんだけど?」
「……カソ」
 こっそりとたちさろうとしていたカソを、ピトラはつかまえます。
「なにをかくしてるの」
「あはは、その、すっかりわすれてまして」
 カソはわらってごまかそうとしますが。
「ちがうよね、なんかあるよね、ええっ? この中に宝石とかがあるかもしれない、とか、思って、ダメでもともとでわらせてみようとか?」
「あはは、あたりです」
「カソ!!」
「今日はやけにこうげきてきですね、ピトラ」
「カステラ!」
「カステラのごげんはスペインのカスティリア……」
「カステラ! カステラ、カステラ!!」
「わ、わわ、わかりました、ちゃんとおごりますから、好きなだけ食べてください!」

「おまちどうさま」
 パティシエクロヤマのアリの店員が、オープンカフェのテーブルにカステラとお茶をおきます。
「いただきます」
 ピトラはカステラをほおばります。
「……むぅ」
 つめたくて、ボソボソしていて、さとうのあじばかりつよくて、お茶といっしょでもあんまりおいしくありません。
「あんまりおいしくないね、やっぱりここのおかしは」
「ええ、あんまりおいしくないですね」
 ふたりは、あんまりおいしくないカステラを、ゆっくりゆっくりたべます。
 お茶からのぼるゆげが、朝日の中でキラキラひかっていました。



<おしまい>