お花見にいこう
by ごんぱち
ピトラ運送のかいぎしつに、ピトラたちはいました。
「……ピトラでしょう」
火ネズミのカソが言います。
「社長でありますな」
カモメのジョースターも言います。
「ってことで、明日の花見のばしょとりはピトラだな、がはははは!」
ゲンブのゲンさんが、ピトラのせなかをドンとたたきました。
「えー、ぼく社長だよ? お花見のばしょとりなんて」
ピトラはもんくを言おうとしますが――。
「でもわたしは、ギリギリまでひっこしの仕事がありますから」
「じぶんも、きんむ時間であります」
「おいらは、今からしゅっぱつして、つくのが明日だ」
「……そういうことなら、しかたないけど」
なっとくしきれていないカオで、ピトラはためいきをつきました。
ちかくの川のどてを、ゴザをかついだピトラがあるきます。
どてには桜の木がいっぱいはえていて、花がぽつぽつとさきはじめています。
「この木、桜だったんだ……」
いつもはただ木にしかみえませんでしたが、いまはちがいます。
うすいピンク色の桜の花が、きれいにきれいにさいています。さいていないつぼみも、もう花びらが見えて、いまにもさきだしそうです。
まだちょっと早いのか、お花見をしているひとはだれもいませんでした。
「へへ、しずかでいいや」
ピトラはゴザをしいて、すわります。
まわりの草は、やさしいお日さまのひかりをうけて、エメラルドいろにかがやいています。とおくに見える山は、にじいろをしています。ピトラの世界では、見られないけしきです。
そして、桜。
「きれいだなぁ」
ピトラはごろりとあおむけにねころがって、桜の花をみあげます。
こうすると、下をむいた桜の花が、いちばんよくみえます。
「あーあ、でもみんな、はやく来ないかなぁ」
「まったくだ。早くしたいもんだ」
「ねー」
「早く、パッとやりたいもんだぜ」
「パッと、ねぇ」
ピトラはじぃっと桜をみつめます。
「で、キミはだれ」
「オレは桜のヨシノってんだ。4649!」
桜の花が、カサカサとうごきます。
「ふーん」
「おっ、『花がしゃべったー』とか、リアクションはないのか?」
「その手のリアクションは、剣がしゃべった時でおわってるから」
ピトラはねころがったまま、あくびをします。
「なに言ってんだよ、カンドウする心をなくしたら、おしまいだぜ! そういうヤツが、ただただベンキョウだけをやって、つまらないセイシュンをおくるんだ!」
「ベンキョウとカンドウはかんけいないじゃない。うるさいからしずかにしててよ」
「おっと、そうはいかねえ、ちるまえに言いのこすことがあっちゃいけねえからなぁ」
「……ちる?」
ピトラはからだをおこして、ヨシノたちを見つめます。
ヨシノたちは、ちるどころか、まださきはじめです。
「おうよ、みにくくしおれるまえにちるのが、桜のこころいきってもんだぜ」
「ち、ちょっと、こまるよ!」
ピトラはヨシノのついているえだを、ぐいとつかみます。
「うわっ、なにすんだ!」
「まだちらないでよ、今日はお花見なんだから」
「花見だぁ? それこそちらなきゃいけねえ!」
「ど、どうしてさ?」
「みにくくなるまえにおわりたいんだ。おなじことを言わせるな。なあ、みんな!」
ヨシノがどなると――。
「そうだそうだ」
「じゃまするな」
「キレイなままでちらせろ」
「ひっこめ、花見きゃく!」
ほかの桜の花たちも、さわぎだします。
「うわ、みんなそうなの?」
「そうとも。だからほうっておいてくれねえか」
ヨシノたちの花びらがゆるみはじめます。
このままでは、みんな桜がちってしまいます。
「うわーーーーっ、ストップストップストオオオオップ!」
ピトラはヨシノをにぎりしめます。
「むぐぎゅ、な、な、なにをする」
「ちったらダメだってば! お花見なんだから、きょうはさいててよ!」
「はなせーーー」
ヨシノはじたばたあばれます。
「はなせ!」
「そうだそうだ、ヨシノをはなせ!」
「やめろ!」
ほかの桜たちもさわぎます。
「おちついてよ、もう」
ピトラはすこし手をゆるめます。
「まださきはじめたばっかりなのに、どうしてそんなにあせるのさ?」
「ふん、さきおわったあとにあるのはみにくくしおれたすがただけだ。だったら、キレイなままでちりたい。そう、みんなできめたんだ」
「だーーーかーーーらーーー、まだきみはキレイにもなってないでしょ」
「なんだと!」
ヨシノはまっさおになります。
「なんてことだ、もうしおれてきていたとは! さあさっさとちらなければ……」
花びらが1まいおちそうです。
「だーだーー、だから、そうじゃないってば。まださいてもいないんだから、キレイじゃないんだよ!」
「そんなバカなはなしがあるものか。花のいのちはみじかくて、わかければわかいほどキレイなのだ。そしてそのキレイなうちにいさぎよくちるのが、桜というものなのだ!」
「そうだそうだ」
「ひっこめ!」
「われわれをのジャマをするな!」
桜たちのだいがっしょうになりました。
ピトラはうるさくて、耳をたたまなければなりませんでした。
「……きみたちねぇ!」
桜よりも大きなこえで、ピトラはどなります。
「ちゃんとさいたら、今よりずっとキレイになるっていうのに、どうしてそんなにちりたいのさ?」
「桜はちるものだ。むかしからきまっているだろう」
「そうだそうだ」
「でんとうだ」
「だれでもしってることだ」
『そうだ、だまっていてもらおう!』
そのとき、ヨシノたちよりもずっと大きなこえがしました。
「なっ?」
『これは、われわれのもんだいなのだ』
桜の木でした。
『しおれた花をのこして、キタナイ木だとおもわれるより、さっさとちってしまったほうが、ずっといいのだ』
「そうだ、デンゼルさんの言うとおりだ」
ヨシノがさわぎます。
「さすがはデンゼルさんだ」
「そうだ、わかったらひっこめ」
「ぼくらはちるんだ!」
桜の花たちは、いきおいづいてさわぎます。
「……桜の木さん」
ピトラは、桜の木に手をかけます。
『なんだ、まだもんくがあるのか?』
「きみは、なんねん生きてるの?」
『え、あ……いや、そんなことはどうでもいいだろう!』
「きみは、ちらないの?」
『う、うるさい、かんけいないだろう!』
わさわさと桜の木はうごきます。
「ひょっとして、だけど、きみはじぶんがきたなくなるのがイヤで、生まれたての花たちに『さっさとちれ、さっさとちれ』ってふきこんだんじゃない?」
『そ、そ、そそそそそ、そんなことはない! さ、ささ、さ、さっさときえろ!』
「そうだそうだ、デンゼルさんをわるくいうとしょうちしないぞ!」
「デンゼルさんは、われわれのことをかんがえているんだ」
「さっさとかえれ」
「ひっこめ!」
「そうだ、われわれはなにもまちがっていない!」
ヨシノはどなると――。
はらり。
ひら、ぽと、ぽと、ぽと……。
花びらがおちていきます。
「わっ、ねえ、ちょっと!」
『そうだ、ちるのだ、どんどんちるのだ』
それにつづくように、みんなちっていきます。
「まってよ、ねえってば!」
『はははは、ちれちれぇえええ!』
でも、まださききっていない花びらは、しわくちゃで、ポトポト、ボロボロとおちるばかり。
そうして、すっかり花はなくなってしまいました。
「あーあ、ちっちゃった」
ピトラは、花びらまみれになったゴザをたたみます。
「もう、どうするんだよぉ。花、なくなっちゃったじゃないかぁ」
『うつくしいままでおわれたのだ。かなしいけれど、これでいいのだ』
さびしそうに、桜の木が言います。
「……かなしいって、きみがやらせたんじゃないか。なに、たにんごとみたいに言ってるんだよ?」
『わたしは、桜の花のあるべきすがたをおしえただけ。きめたのはヨシノたちだ』
「ええーーーっ!?」
ピトラはあきれて、あんぐりと口をあけてしまいました。
「……ほかに桜のさいてるところは、と」
ピトラはどてをあるきますが、もう桜はありません。
「んー、こまったなぁ」
ピトラがためいきをついたとき。
「ピトラさーーーーん」
とおくから、大きなトリが――いや、もうピトラのまえにちゃくりくしました。
「スーさん?」
「どこへいったかと思ったら、こんなところでなにしてるの、ピトラさん?」
スザクのスーさんが、くびをかしげます。
「なにって、花見のばしょとりを。でもまあ、桜はちっちゃったから、たしかになにをしてるかなんだけど」
「桜? どうして?」
「へ?」
「さ、いきましょ。みんなはじめてるわよ」
山には花がいっぱいさいていました。
「えー? お花見って、ウメの花だったの?」
ピトラはジュースをのみます。
「きまってるじゃないですか」
カソは、じゅうばこに入った、りょうりをたべています。
「花はウメだぞ、ピトラ」
ゲンさんは、なにかお酒をのんでいます。
「桜のようにグダグダとみょうなかんがえもなくて、かおりもいいのであります。ささ、社長、もういっぱい」
ジョースターがピトラのコップにジュースをつぎたします。
「ありがと――まあたしかに、ウメもキレイだもんね」
ピトラはウメの花をみあげます。青い空に、赤と白のウメがとってもキレイです。それに、心がウキウキするようなステキな、でもつよすぎないかおりがします。
「花見であって、桜見じゃないし」
「そうそう、キレイならいいのです。ささ、スーさん、いっぱいいかがですかな?」
セイリュウのリュウさんが、みんなにおしゃくをしてまわっています。
みんな、のんでたべて、うたったりあそんだり。
(いいな、お花見って)
ピトラがそんなことをかんがえながら、おだんごをたべていると。
『――ピトラ』
カソがピトラにそっと耳うちします。
『?』
『入学おめでとう』
「えっ、どうして知って――」
ピトラがききかえしたときには、もうカソはべつのところでお酒をのんでいました。
(気のせい……だったかな? カソだしねぇ)
「まあ、いいや」
とおくでウグイスの声がきこえました。
<おしまい>
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