ピトラの冒険37   千足とQの絵本ワールド

お花見にいこう   by ごんぱち

 ピトラ運送のかいぎしつに、ピトラたちはいました。
「……ピトラでしょう」
 火ネズミのカソが言います。
「社長でありますな」
 カモメのジョースターも言います。
「ってことで、明日の花見のばしょとりはピトラだな、がはははは!」
 ゲンブのゲンさんが、ピトラのせなかをドンとたたきました。
「えー、ぼく社長だよ? お花見のばしょとりなんて」
 ピトラはもんくを言おうとしますが――。
「でもわたしは、ギリギリまでひっこしの仕事がありますから」
「じぶんも、きんむ時間であります」
「おいらは、今からしゅっぱつして、つくのが明日だ」
「……そういうことなら、しかたないけど」
 なっとくしきれていないカオで、ピトラはためいきをつきました。

 ちかくの川のどてを、ゴザをかついだピトラがあるきます。
 どてには桜の木がいっぱいはえていて、花がぽつぽつとさきはじめています。
「この木、桜だったんだ……」
 いつもはただ木にしかみえませんでしたが、いまはちがいます。
 うすいピンク色の桜の花が、きれいにきれいにさいています。さいていないつぼみも、もう花びらが見えて、いまにもさきだしそうです。
 まだちょっと早いのか、お花見をしているひとはだれもいませんでした。
「へへ、しずかでいいや」
 ピトラはゴザをしいて、すわります。
 まわりの草は、やさしいお日さまのひかりをうけて、エメラルドいろにかがやいています。とおくに見える山は、にじいろをしています。ピトラの世界では、見られないけしきです。
 そして、桜。
「きれいだなぁ」
 ピトラはごろりとあおむけにねころがって、桜の花をみあげます。
 こうすると、下をむいた桜の花が、いちばんよくみえます。
「あーあ、でもみんな、はやく来ないかなぁ」
「まったくだ。早くしたいもんだ」
「ねー」
「早く、パッとやりたいもんだぜ」
「パッと、ねぇ」
 ピトラはじぃっと桜をみつめます。
「で、キミはだれ」
「オレは桜のヨシノってんだ。4649!」
 桜の花が、カサカサとうごきます。
「ふーん」
「おっ、『花がしゃべったー』とか、リアクションはないのか?」
「その手のリアクションは、剣がしゃべった時でおわってるから」
 ピトラはねころがったまま、あくびをします。
「なに言ってんだよ、カンドウする心をなくしたら、おしまいだぜ! そういうヤツが、ただただベンキョウだけをやって、つまらないセイシュンをおくるんだ!」
「ベンキョウとカンドウはかんけいないじゃない。うるさいからしずかにしててよ」
「おっと、そうはいかねえ、ちるまえに言いのこすことがあっちゃいけねえからなぁ」
「……ちる?」
 ピトラはからだをおこして、ヨシノたちを見つめます。
 ヨシノたちは、ちるどころか、まださきはじめです。
「おうよ、みにくくしおれるまえにちるのが、桜のこころいきってもんだぜ」
「ち、ちょっと、こまるよ!」
 ピトラはヨシノのついているえだを、ぐいとつかみます。
「うわっ、なにすんだ!」
「まだちらないでよ、今日はお花見なんだから」
「花見だぁ? それこそちらなきゃいけねえ!」
「ど、どうしてさ?」
「みにくくなるまえにおわりたいんだ。おなじことを言わせるな。なあ、みんな!」
 ヨシノがどなると――。
「そうだそうだ」
「じゃまするな」
「キレイなままでちらせろ」
「ひっこめ、花見きゃく!」
 ほかの桜の花たちも、さわぎだします。
「うわ、みんなそうなの?」
「そうとも。だからほうっておいてくれねえか」
 ヨシノたちの花びらがゆるみはじめます。
 このままでは、みんな桜がちってしまいます。
「うわーーーーっ、ストップストップストオオオオップ!」
 ピトラはヨシノをにぎりしめます。
「むぐぎゅ、な、な、なにをする」
「ちったらダメだってば! お花見なんだから、きょうはさいててよ!」
「はなせーーー」
 ヨシノはじたばたあばれます。
「はなせ!」
「そうだそうだ、ヨシノをはなせ!」
「やめろ!」
 ほかの桜たちもさわぎます。
「おちついてよ、もう」
 ピトラはすこし手をゆるめます。
「まださきはじめたばっかりなのに、どうしてそんなにあせるのさ?」
「ふん、さきおわったあとにあるのはみにくくしおれたすがただけだ。だったら、キレイなままでちりたい。そう、みんなできめたんだ」
「だーーーかーーーらーーー、まだきみはキレイにもなってないでしょ」
「なんだと!」
 ヨシノはまっさおになります。
「なんてことだ、もうしおれてきていたとは! さあさっさとちらなければ……」
 花びらが1まいおちそうです。
「だーだーー、だから、そうじゃないってば。まださいてもいないんだから、キレイじゃないんだよ!」
「そんなバカなはなしがあるものか。花のいのちはみじかくて、わかければわかいほどキレイなのだ。そしてそのキレイなうちにいさぎよくちるのが、桜というものなのだ!」
「そうだそうだ」
「ひっこめ!」
「われわれをのジャマをするな!」
 桜たちのだいがっしょうになりました。
 ピトラはうるさくて、耳をたたまなければなりませんでした。
「……きみたちねぇ!」
 桜よりも大きなこえで、ピトラはどなります。
「ちゃんとさいたら、今よりずっとキレイになるっていうのに、どうしてそんなにちりたいのさ?」
「桜はちるものだ。むかしからきまっているだろう」
「そうだそうだ」
「でんとうだ」
「だれでもしってることだ」
『そうだ、だまっていてもらおう!』
 そのとき、ヨシノたちよりもずっと大きなこえがしました。
「なっ?」
『これは、われわれのもんだいなのだ』
 桜の木でした。
『しおれた花をのこして、キタナイ木だとおもわれるより、さっさとちってしまったほうが、ずっといいのだ』
「そうだ、デンゼルさんの言うとおりだ」
 ヨシノがさわぎます。
「さすがはデンゼルさんだ」
「そうだ、わかったらひっこめ」
「ぼくらはちるんだ!」
 桜の花たちは、いきおいづいてさわぎます。
「……桜の木さん」
 ピトラは、桜の木に手をかけます。
『なんだ、まだもんくがあるのか?』
「きみは、なんねん生きてるの?」
『え、あ……いや、そんなことはどうでもいいだろう!』
「きみは、ちらないの?」
『う、うるさい、かんけいないだろう!』
 わさわさと桜の木はうごきます。
「ひょっとして、だけど、きみはじぶんがきたなくなるのがイヤで、生まれたての花たちに『さっさとちれ、さっさとちれ』ってふきこんだんじゃない?」
『そ、そ、そそそそそ、そんなことはない! さ、ささ、さ、さっさときえろ!』
「そうだそうだ、デンゼルさんをわるくいうとしょうちしないぞ!」
「デンゼルさんは、われわれのことをかんがえているんだ」
「さっさとかえれ」
「ひっこめ!」
「そうだ、われわれはなにもまちがっていない!」
 ヨシノはどなると――。
 はらり。
 ひら、ぽと、ぽと、ぽと……。
 花びらがおちていきます。
「わっ、ねえ、ちょっと!」
『そうだ、ちるのだ、どんどんちるのだ』
 それにつづくように、みんなちっていきます。
「まってよ、ねえってば!」
『はははは、ちれちれぇえええ!』
 でも、まださききっていない花びらは、しわくちゃで、ポトポト、ボロボロとおちるばかり。
 そうして、すっかり花はなくなってしまいました。
「あーあ、ちっちゃった」
 ピトラは、花びらまみれになったゴザをたたみます。
「もう、どうするんだよぉ。花、なくなっちゃったじゃないかぁ」
『うつくしいままでおわれたのだ。かなしいけれど、これでいいのだ』
 さびしそうに、桜の木が言います。
「……かなしいって、きみがやらせたんじゃないか。なに、たにんごとみたいに言ってるんだよ?」
『わたしは、桜の花のあるべきすがたをおしえただけ。きめたのはヨシノたちだ』
「ええーーーっ!?」
 ピトラはあきれて、あんぐりと口をあけてしまいました。

「……ほかに桜のさいてるところは、と」
 ピトラはどてをあるきますが、もう桜はありません。
「んー、こまったなぁ」
 ピトラがためいきをついたとき。
「ピトラさーーーーん」
 とおくから、大きなトリが――いや、もうピトラのまえにちゃくりくしました。
「スーさん?」
「どこへいったかと思ったら、こんなところでなにしてるの、ピトラさん?」
 スザクのスーさんが、くびをかしげます。
「なにって、花見のばしょとりを。でもまあ、桜はちっちゃったから、たしかになにをしてるかなんだけど」
「桜? どうして?」
「へ?」
「さ、いきましょ。みんなはじめてるわよ」

 山には花がいっぱいさいていました。
「えー? お花見って、ウメの花だったの?」
 ピトラはジュースをのみます。
「きまってるじゃないですか」
 カソは、じゅうばこに入った、りょうりをたべています。
「花はウメだぞ、ピトラ」
 ゲンさんは、なにかお酒をのんでいます。
「桜のようにグダグダとみょうなかんがえもなくて、かおりもいいのであります。ささ、社長、もういっぱい」
 ジョースターがピトラのコップにジュースをつぎたします。
「ありがと――まあたしかに、ウメもキレイだもんね」
 ピトラはウメの花をみあげます。青い空に、赤と白のウメがとってもキレイです。それに、心がウキウキするようなステキな、でもつよすぎないかおりがします。
「花見であって、桜見じゃないし」
「そうそう、キレイならいいのです。ささ、スーさん、いっぱいいかがですかな?」
 セイリュウのリュウさんが、みんなにおしゃくをしてまわっています。
 みんな、のんでたべて、うたったりあそんだり。
(いいな、お花見って)
 ピトラがそんなことをかんがえながら、おだんごをたべていると。
『――ピトラ』
 カソがピトラにそっと耳うちします。
『?』
『入学おめでとう』
「えっ、どうして知って――」
 ピトラがききかえしたときには、もうカソはべつのところでお酒をのんでいました。
(気のせい……だったかな? カソだしねぇ)
「まあ、いいや」
 とおくでウグイスの声がきこえました。



<おしまい>