ピトラの冒険36   千足とQの絵本ワールド

ハリ・ポトと文殊(もんじゅ)の知恵   by ごんぱち

 ちく、ちく、ちく、ちく。
 お父さんのポポトさんが、コタツに入ってゾウキンをぬっています。
「ピトラ、ゾウキンは2まいでいいんだよね」
「そうだけど……買えばいいのに」
 ピトラは、ポテトとブロックであそんでいます。
「古いタオルで作れるものを、わざわざ買うこともないさ」
 お父さんはハリをうごかします。
 ハリはこまかくうごいて、タオルをぬいあわせます。それからぬい目をキュッとゆびでのばすと。
「はい、できあがり」
「わぁ」
 きっちりしかくい、きれいなゾウキンができあがりました。ぬいめもまっすぐで、みだれていません。
「おお、とうちゃん、すごい」
 ポテトもパチパチ手をたたきます。
「じゃあ、もう1まい」
「ねえ、お父さん、ぼくもやってみたい!」
 ピトラは、ハリ山からハリをとります。
 と。
「ピトラッ!」
 お父さんが大きなこえを出しました。
「えっ!?」
「あ、とと、まだハリはあぶないから、やめなさい」
「はい、ごめんなさい」
 ピトラは、あわててハリをハリ山にもどそうとします。
 が。
「あ、あれ?」
 つまんでいたはずのハリが、ありません。
 びっくりしたはずみで、おとしてしまったのです。
「あ、ハリなくなっちゃった。ごめんなさい、おとうさん」
 ピトラはアタマを下げてから、ポテトとまたあそぼうとします。
「ととと、ピトラ、ストップ!」
 お父さんは、また大きなこえを出します。
「な、なに?」
「じっとしてなさい、いまさがすから!」
 お父さんは、コタツに目をちかづけてハリをさがしはじめます。
「え? でも、見つからなくなっちゃったし、もう……」
「ぜったい見つけなきゃ」
「どうして?」
「ささったらたいへんだろう?」
「あ」
 かんがえてみれば、このヘヤの中に、ハリがあるのです。足にささったりしたらたいへんです。
「でもさ、でもさ、こういうときはほかの世界に行っちゃったり」
「行ったかどうかわからないだろう?」
 お父さんはコタツの上をかたづけはじめます。
「ハリはこわいんだ。トゲなら出てくるけど、ハリはどんどんカラダの中へはいってしまうんだよ」
「中?」
「そのまま、けっかんをとおって、心臓にささってしまうことも――」
「た、たいへんだぁ!」
 ピトラもきゅうにこわくなって来ました。
 あるくのもしんちょうに、ゆかのタタミを足さきでさぐりながら。
「にいちゃん、ブロック!」
 ポテトがどなります。
「それどころじゃない、ハリをさがさなきゃ」
「ブロック!!」
 ポテトは、つくりかけのブロックをもったままかけよってきます。
「うわああああっ、こ、こら、ポテト!」
「あぶないっ」
 お父さんがポテトをだきあげます。
「とうちゃん、たかい!」
「そうそう、たかいだろう」
(お父さんがポテトをあやしているうちに、ぼくが見つけるから)
(気をつけるんだよ、ピトラ)
 ピトラとお父さんは、目だけであいずしました。

「ハリ……」
 ピトラはハリをさがしはじめます。
 お父さんはポテトにかかりきりなので、あてにできません。
(しょうがないなぁ……って、もともとはぼくがおとしたんだった)
 ピトラはコタツの上をじっくりとながめます。
 大きさは3センチか4センチ、太さは1ミリもあるかないか。カガミみたいにピカピカして、そばの色がうつってしまうステンレススチールのハリは、とっても見つけにくいのです。
(でも、見つけなきゃ、ささっちゃう!)
 コタツの上には、なにも見えません。
(ちょっと、こわいけど……)
 ピトラはコタツの上を、手でなでてみます。
 あんまりはやくうごかすと、ささってしまうかもしれません。
 そうっと、そうぅっと。
 心臓が、ドキドキいっています。
 でも、みつけないといけません。
 そうしないと、お父さんか、お母さんか、それともポテトか、やっぱりピトラか、ともかくだれかにささるかもしれません。
(ぼくにささるのはイヤだなぁ……いや、ほかの人にささると、いたくはないけど、すごくイヤなきぶんだろうなぁ)
 そんなことをかんがえながら、コタツの上をなでていると。
 コツン。
 なにかが、手にあたりました。
「あった!」
 ハリがたしかにありました。
 ありました、が。
 コロコロコロコロコロコロコロコロ……。
 ころがっていきます!
「うわっ、わわわっ!」
 あわててつかもうとしますが、ぎゅっとにぎったらささってしまいます。
 おっかなびっくり手をのばしていると。
 コロコロコロ……ポト。
 コタツのうえからおちてしまいました。
「うわあああっ、しまった!」

「見つからない?」
 お父さんはポテトをおんぶして、ピトラを見ます。
 ポテトはねむたそうにはしていますが、おろしたらすぐにあるきまわって、ハリをふんでしまいそうです。
「う……コタツの上にないことだけは、たしかだと思う」
 ピンポーン。
 そのとき、げんかんのチャイムがなりました。
『……ピトラ、あそびに行かない?』
 そとからこえがします。
「あっ、ラグヤだ」
 ピトラは、つまさき立ちでソロソロとあるきます。
「ない……よ、ね」
 ゆかのうえをさぐって。
 さぐって。
 さぐって。
「うん、うん、な、い、ね」
 どうにかハリをふまずに、げんかんへ。
 かちゃり。
「あ、ラグヤ――と」
 ドアのまえには、サリスとノクタとラグヤがいました。
「あそびに行こうぜ」
「そうだそうだ、あそびに行こう」
「……それとも、ようじでもあった?」
「そうじゃないんだけど、いま、うちの中がたいへんなんだ」
「……たいへん?」
 ラグヤがくびをかしげます。
「うん。ハリをおとしちゃって」
「がははは、ピトラはよわむしだな、ちっぽけなハリがおちてるからってこわいのか!」
 サリスは、ばかにしたようにわらいます。
「そうだそうだこわ――サリス」
 ノクタが、きゅうにしんけんなかおになりました。
「ハリはあぶない。とってもあぶない」
「そ、そうなのか?」
「ものすごくいたい。だから、ハリのあつかいはたいせつ」
「ノクタ、ハリつかったことあるの?」
「たまにシャツとかつくる」
「……いくらきようだからって、ようちえんじのシュミとはおもえないね」
「そのへんにつっこんでるバアイじゃないんだよ。とにかく、ハリをさがさなきゃいけないから、あそびにいけないよ」
「なに言ってるんだ、ピトラ」
 サリスがどんとじぶんのむねをたたきます。
「ハリだったらオレが5びょうで見つけてやるぞ」
「5びょうはムリでしょ」
「それでも、ピトラなんかよりは、ずっとはやくみつけられるさ」
「なんだって?」
 ピトラはムッとします。
「ぼくのほうがはやいよ!」
「いーや、オレだ」
「そうだそうだ、サリスがはやいぞ」
 ノクタはサリスのみかたをします。
「ぼくだ!」
「オレだ!」
「サリスだ!」
「……きょうそうしているばあいじゃないよ。ホントウにあぶないんだから」
 ぴしゃりと、ラグヤが言います。
「あ」
「う」
「そうだった、ゴメン」
「おじさん、オレたちがさがすぜ、まかせてくれ!」
 サリスがげんかんから、リビングのお父さんにこえをかけます。
「ありがとう。でも、キミたちがケガをするとたいへんだから」
「だいじょうぶだぞ、ノクタにまかせろ」
 ノクタがげんかんにおかれた、おきゃくさんようのスリッパをはきます。
「でもさ、それじゃすぐぬげちゃうよ?」
 そう、おきゃくさんようのスリッパは大きすぎて、ピトラたちの足にはブカブカです。
「ノクタにまかせろ、と言ったぞ」
 ノクタはポケットからヒモをとりだして、足とスリッパをむすびつけます。しっかりむすばれて、どううごいてもはずれません。これならだいじょうぶそうです。
「おっ、すごい。ノクタ、オレもやってくれ」
「ぼくも」
「……おねがい」
 ノクタはパパパッとスリッパをむすびます。
「ほー、ノクタくん、ヒモのむすびかたうまいなぁ」
 お父さんはかんしんしています。
「フツウだぞ。ノクタの父さんと母さんなんか、コメツブにもじをかけるぞ」
「それをフツウとおもわれてもこまるんだけど……」
「よし、じゃあ、さがすぞ」
「そうだそうだ、さがすぞ」
「……タタミの上スリッパだけど、すみません」
 ピトラたちは、コタツのあるリビングに入ります。
 スリッパをハリがつきぬけるのはよほどのことです。もう、ソロソロあるくひつようはありません。
「コタツの上はさがしたから、もうないよ」
「じゃあ、コタツをどければいいな!」
 ノクタがコタツのいたをもち上げます。
(うわ、よくあんなのもちあがるなぁ)
「どこにおく?」
「ああ、ええと、げんかんにおねがい。あっちまでは、行ってないと思うから」
「よし」
「それからラグヤ、虫メガネもってたよね。かして」
「……うん」
 ラグヤがポケットから虫メガネをとりだして、ピトラにわたします。
「えーと、ハリハリハリ……」
 ピトラは虫メガネをつかって、ハリをさがします。
 でも、ハリらしきものはみつかりません。それに、コタツかけのもようがゴチャゴチャしていて、なんだか目がまわってきそうです。
「うーん、どこだぁ?」
「コタツの上にはないな」
「そうだそうだ、ないな」
「……うーん」
 そんな中、ラグヤはハリをさがそうとしないで、クビをひねっています。
「ラグヤ、ラグヤもさがしてよ!」
「……なんだか、そうやってさがしてても、見つからない気がする」
「って、ほかにどうしようもないでしょ?」
「……ハリ、だよね」
「そうだよ。さいしょから、そう言ってるでしょ」
「……ふむ」
 ラグヤはもうしばらくかんがえていましたが――。
「……ピトラ」
「なに?」
「……ジシャク、ある?」
「あるけど」
 ピトラはコンパスをわたします。
「……ええと北はこっちだから――ってこれは、ほういジシャク。フツウのジシャクだよ」
「あ、ええと、こっちか」
「……そうそう、水をまいて――ってこれはヒシャク」
「それじゃこれは」
「……ハネをひろげるときれいで――ってこれはクジャク」
「とと、こっちか」
「……これはカツラシジャクのカセットテープ。ノリツッコミできないよ、こんなの」
「ゴメン、わかりにくいボケで」
「……それはいいから、ジシャク」
「はあい」
 二人とはなれたところで、ノクタがサリスにささやきます。
「サリス、あの二人たのしそうだな」
「あんまりかかわるなノクタ、かえってこられなくなるぞ」
「わかった」

 ずり、ずり、ずりずりずり……。
 ピトラたちは、手にU形のジシャクをもって、コタツからタタミの上までなでていきます。
 ジシャクなら、ハリがくっつくし、手にささることもありません。
 カチリ。
「あっ!」
 ピトラがジシャクをもちあげます。
 ジシャクにくっついていたのは。
「ネジかぁ」
 どっかのネジでした。
「どこから外れたのか、ちょっとしんぱいだなぁ」
 お父さんがにがわらいをします。あいかわらず、ポテトをおんぶしたままです。
 カチッ。
「おおっ、見つけたぞ、ノクタが見つけたぞ!」
 ノクタがジシャクを見せます。
「なんだ、クリップか」
 カチリッ。
「ホチキスのハリだぞ、これ」
 サリスがジシャクからホチキスのハリをはずして、すてます。
 それからしばらくのあいだ、ピトラたちは、ジシャクでハリをさがしつづけました。
 ネジ、クリップ、ホチキスのハリ、ビンのフタ、ハサミ、スズ、ベルトのバックル……。
 どれもこれも、ハリではありません。
「……ちらかってるね、ピトラ」
「ほっといて」
 ――と。
「ただいまー」
 お母さんのピピラさんがかえって来ました。
「あらあらあらあら、ラグヤくん、サリスくん、ノクタくんいらっしゃい」
「……おじゃましてます」
「こんにちはおばさん」
「こんにちは、ピトラの母さん」
「どうしたのポポトさん、コタツひっくりかえして?」
「っと、入っちゃダメだよ、ピピラさん」
 上がろうとするお母さんを、お父さんが止めます。
「ハリをおとしちゃったんだ」
「あらあらあらあら、そうだったの?」
 お母さんは、スリッパをはいて、リビングにやってきます。
「うん、だからぼくたちがジシャクで」
「まかせてくれ、おばさん」
「そうだそうだ、サリスにまかせろ」
「……もうじきみつかると思う」
「ちょっとみんなじっとしててね」
 お母さんはそう言ってから、明かりをけしました。
 ゆうがたで、もうヘヤはうすぐらいです。
「なにするの、お母さん? これじゃあ見えないよ?」
 ピトラが言いかけた時です。
 お母さんは、デンキスタンドを手にもって、コタツをてらします。
 すぅっとコタツの上を光がなでていき――。
 キラッ!
 なにか、光りました。
「あ」
「え?」
「おう」
「……そか」
 ピトラが光ったものにジシャクをちかづけると。
 カチッ!
 ジシャクにくっつきました。
「ハリだ!」

 ラグヤとサリスとノクタがかえったあと、ピトラたちはコタツでばんごはんをたべます。
「――そうだったの、タイヘンだったわねぇ」
 お母さんはわらいます。
「ごめんなさい、ハリをおとしちゃったから、こんな」
 ピトラはアタマを下げます。
「こんどからは気をつけるんだよ」
 お父さんはそう言って、ビールをのみます。
「そうだ、きをつける、にいちゃん!」
 ピーマンの肉づめをたべながら、ポテトが言います。
「ポテトには言われたくないよ!」
「それでポポトさん、ゾウキンはできあがったの?」
 思い出したように、お母さんがお父さんにたずねます。
「うん。できたよ。ひさしぶりだけど、けっこううまくできた」
「そう、買わないでよかった」
 お母さんはわらいます。
「ほかに、入学式までによういするものって、あったかしら?」
「もう、だいたいそろったと思うよ」
 お父さんもえがおです。
「ピトラももう小学生かぁ」
 なんどもお父さんはうなずきます。
「なんだかピトラは、ようちえんのじだいが、ものすごくながかったみたいな気がするわね」
「それは、ぼくもそう思うなぁ――そうだ、ねえピピラさん」
「なに?」
「ビールもう一本、あけない?」
「そうね、そうしましょ」
 お父さんとお母さんは、とっても、とってもうれしそうでした。
(なんだい、二人だけで話しちゃって)
 ピトラはちょっとふくれて、ピーマンの肉づめをたべました。



<おしまい>