by ごんぱち
トンネルをぬけると、雪国でした。
「うわー、すごい!」
ピトラはこえをあげます。
「こっちは、もうすっかり雪げしきですねぇ」
むかいのせきで、カソはえきで買ったおちゃをのんでいます。
「ぼく、こんなにたくさん雪見るの、はじめてだよ」
「そうですか。わたしはたまに来ますよ」
れっしゃは雪の町の中をはしります。
「やっぱり雪おろしで?」
「いえ、このまえは、雪のちょうこくをつくりに」
「ふーん」
まどの外は、白い雪にすっぽりおおわれています。
やねにぶあつい白い雪が、ぼったりとのっているようすは――。
「なんだか、ケーキにクリームをぬったみたいだなぁ」
「ははは、ピトラはくいしんぼうですねぇ」
「だって、本当ににてるよ?」
「おなかでも空いてるんじゃないですか?」
「まあたしかに」
「安くしときますよ?」
カソはスーツケースの中から、白いクリームのたっぷりのったショートケーキをとりだしました。
「……って、そんなものいつ買ったの?」
「こんな時のために、いつも入れてあるんです」
「ムリあるでしょ、それ!」
えきのそとの道は、雪がふみかためられてまっ白です。
「うわぁ、白い雪だ!」
「雪が白いのはあたりまえですよ」
「ふつう、道の雪は、茶色でしょ」
ピトラの町で雪がふったら、道は土がまじってドロドロになるのです。でも、ここの雪はまっ白のまま。土の上のそのまた上のそのまた上ぐらいに雪がのっているのです。
「すごい、キレイだなぁ」
ピトラが雪の上にいっぽふみだすと――。
ずるり。
「うひゃああっ!」
足が雪の上でおもいっっっっっきりすべって、ピトラはあおむけにころんでしまいました。
「い、いたたたた……」
「だいじょうぶですか、ピトラ?」
「おしりうった」
ピトラはたちあがります。ふんばった足も、すこしすべります。
「雪はすべるから気をつけてって言ったでしょう」
「うー、こんなにすべるとは思わなかったよ」
今までピトラがふんだことがある雪は、ドロドロ。ふみかためられたまっ白な雪なんてはじめてです。
「すべりどめのあるクツをそのへんで買いましょう」
「えっ!?」
「なにをおどろいてるんです?」
「カソ、もってないの?」
「じぶんのぶんは、もってますけど」
「だって、ぼくからお金をまきあげるために、買っておくのがカソってもんでしょう?」
「……ピトラ、キミはわたしのことをなんだと思ってるんですか」
「金にとってもきたない火ネズミ」
「お金はだいじですよ。なんでも買えるんですから」
「買えないものだってあるんじゃない?」
「それはまだお金がたりないか、つかいかたがわるいだけです」
「言いたいことはわかる気がするけど、マネはしたくないなぁ」
「マネーのことだけに、マネはしない、ですか、あははは。これはうまい、あはははは」
「……そんなことは言ってない」
えきビルのクツやですべりどめつきのクツを買ってから、ピトラとカソは、あらためてそとにでます。
ピトラはジャンパーにけいとのぼうしとすべりどめつきのクツ、カソはいつもの火ネズミのせびろにすべりどめつきのクツです。
「あー、すこしはすべらないや」
ピトラのあたらしいクツは、雪のうえでもぎゅっととまります。もちろん、力をいれすぎたらとまりませんが。
「あんしんしちゃいけませんよ。すべるとか、すべらないとかじゃなくて――」
「うひゃあっ!」
「すべるばしょと、すべらないばしょがごちゃまぜになっているときに、いちばんころぶんですから」
「……そういうのをはやく言って」
うつぶせにたおれたピトラは、おきあがります。
「でもすごいなぁ、こんなに雪がいっぱいなんて、なんだかウソみたいだ」
ピトラは雪をつかみます。サラサラで、すなみたいです。なげると、ぱぁっとひろがりました。
「ピトラの家は、あったかいところですか?」
「ここよりはあったかいけど、ゆめの国のなかのほとんどのところよりはさむいよ。カソのとこは――って、カソはホームレスだっけ」
「ちゃんとありますよ。かえってないだけで」
「やっぱり、しっかりもののいもうととか、こうるさいお父さんとかお母さんとか、きんじょのしゃちょうとかがいて、けっこう子どもあつかいされたりするの?」
「……ちょっとあたってるだけにシャクですね」
ピトラとカソは、とある家のまえまできました。入口の戸のまえに、もう1まいガラスの戸があります。雪にうまらないくふうです。
「ごめんください、雪おろしに来たカソですが」
カソがうちがわの戸をノックすると――。
戸がしずかにひらき、とてもせのひくい人が出て来ました。
「――カソさん……ですね」
せはひくいですが、からだはガッチリしていて、きものみたいなふくをきています。
「じぶん、コロポックルの、コロクルと……申します」
コロクルは、きっちりとあたまをさげます。雪でこおりついたような、むずかしいかおをしています。
「このたびは、じぶんたちの……雪おろしを、ひきうけていただき、ありがとう……ございます」
「いえいえ、こちらこそあれだけのお給料を出していただけるなら、大かんげいですよ」
「だよねー。でも、あんなにお給料出してへいきなの? コロクルさんたちで、できないの?」
「……じぶんたちは、ぶきよう……ですから」
ピトラとカソは、はしごでコロクルたちの家のやねにのぼります。
雪おろしをする家には、めじるしに黄色いハンカチがつけてあるので、すぐにわかります。
「うわー、やねにのぼるなんて、はじめてだよ」
やねのまんなかに来たピトラはキョロキョロとあたりをみまわします。
まっ白い雪につつまれた町が、とってもキレイです。たまに、風で雪がまいあがって、それがお日さまの光をはんしゃして、ダイヤモンドをくうきにとかしているみたいです。
「ピトラはさんざ高いところに行ってるでしょう?」
「……やねの上は、またべつものだよ。まあリュウさんととんだときが、いちばんちかいかなぁ」
ピトラは雪おろしようの、うすくてかるいものでできたスコップをかまえます。
「それじゃあっ!」
ざくり!
ピトラはスコップいっぱいに雪をすくいます。
雪はふわふわで、思ったよりずっとかるいです。
「……と」
かるい、ですが。
「どうしよう」
ピトラが雪をもちあげたのは、やねのまんなか。雪をどこにすてればいいのか、わかりません。
「ピトラ、雪おろしは、はしっこからやるんですよ」
「……今、気づいたよ」
ピトラはやねのはしっこへあるこうとしますが。
ずるり。
「ひゃあああっ!」
足がすべりました。
いきおいで雪がどさどさとおちて――。
「うわっ、うわっ、わわわっ!」
ピトラはあわててやねにしがみつきます。雪はズルズルとおちましたが、ピトラはどうにかこうにかとまりました。
「気をつけてくださいよ。雪おろしのときのジコはすごくおおいんですから」
「まさか、いのちがけとは、思わなかったよ」
「おおかれすくなかれ、いのちをオロシガネでけずってお金にするのが、シゴトってものですよ」
「ゆめもきぼうもないなぁ」
「はい、ピトラ」
カソがロープをわたします。
「はいはい」
ピトラはロープをじぶんのおなかにまきます。カソもロープのはんたいがわを、おなかにまいています。
これで、ふたりがやねのむこうがわとこっちがわにいれば、どっちがおちかけても、やねのてっぺんにひっかかってとまります。
「わたしは北のやねをやるので、ピトラは南をおねがいします」
「うん」
さくっ!
さくっ!
ピトラはやねのはしっこから、雪をおとしていきます。
ときどき足がすべってころびそうになりますが、ロープがあるのであんしんです。
やねのうえに、どっしりのっかったゆきは、大きなスコップですくうと、なんだかぎゅうにゅうプリンみたいで、パッとなげすてるとサラサラと風にまぎれてとんでいきます。
夢のせかいの雪は、ピトラたちのせかいの雪よりもかるいみたいです。
「キレイだなぁ」
さくっ。
パッ。
さくっ。
ぱっ!
しばらくつづけていると、体があったかくなってきました。あせがながれます。
「……でも耳はつめたいなぁ」
ぼうしの中の耳を手でぎゅっとおさえたとき。
ガクリ!!
きゅうに、ピトラの体がうしろにひっぱられました。
「うわっ、わわわっ!」
ピトラはあおむけにたおれます。
でも、やねの上のほうに、ぐんぐんひっぱられていきます。
「うわっ、うわっ、わわわっ!!」
ひっぱられて、そのままやねのむこうに――。
「なんのっ!」
ピトラは雪にしっかりうでをくいこませて、ふんばります。やわらかい雪を、ずいぶんとけずってから、やっとうごきはとまりました。
「なんだ、いったい?」
「ピトラーー、ひきあげてくださーーい!」
「……カソがおちてたのか」
そのあと、ピトラはいちどもおちそうになりませんでした。
「おいしいとこどりされた……」
「ううっ、さむかった!」
ピトラははしごをおります。
「じゃあ、つぎの家ですね」
「うん」
ピトラとカソは、べつの黄色いハンカチがついている家を見つけ、やねにのぼります。
「ううっ、ゆびさきとかつめたい」
「そうですか?」
カソはへいきなカオです。いつもとおんなじふくなのに。
「……カソ」
「なんです?」
「ひょっとして、火ネズミのせびろって、あついものだけじゃなくて……」
「ええ、さむいのもだいじょうぶですよ。あついのは、2000どぐらいまで、つめたいのはマイナス273どまでだいじょうぶです」
「マイナス300どぐらいだったら?」
ピトラとカソは、またやねのこっちがわとあっちがわにわかれて、雪おろしをはじめました。
「おんどっていうのは、そんなにつめたくはならないですよ」
「えー? そうなの?」
「ねつのエネルギーがゼロになるのが、マイナス273どなんですよ」
「じゃあ、そこをゼロどにすればいいじゃない? なんでそんなへんなすうじなのさ?」
「ふつうのゼロどは、水がこおるおんどなんですよ」
「そんなすうじ、つかわなきゃいいのに」
「つかいなれたものは、そうかんたんにはすてられないものなんですよ」
ピトラとカソは、そのあともどんどん雪おろしをつづけて、もう黄色いハンカチのある家のやねは、みんな雪がなくなっています。
「これで、さいごっ!」
ピトラは雪をやねからすてました。
「おつかれ……さまでした、こちらで、あったまって、ください」
コロクルが、ハシゴの下からこえをかけます。
「はあい」
「やあ、シゴトはおわったときがいちばんきもちいいですねぇ」
ピトラとカソはハシゴをおります。
「さ……どうぞ」
コロクルの家の中に、ピトラとカソはあんないされます。
「うわ、あったかい……っていうか、あつい」
そう。
家の中は、しんじられないぐらいあったかくなっています。大きなヒーターが、家中をあたためているのです。
「さむい、ですから」
「それにしたって、やりすぎだと思うんだけど」
ピトラはジャンパーとセーターをぬいで、シャツだけになります。それでもまだあついです。夏といっしょです。
「ほどほどにしないと、もったいないじゃない?」
「じぶんたちは、ぶきよう、ですから」
コロクルはだいどころから、ナベとおわんをもってきます。
ナベの中には――。
「あっ、ぜんざいだ」
「おしるこですね」
「ええっ、ぜんざいだよ」
「おしるこでしょう?」
「……いえ、ゆでアズキの、サトウにに、モチを、いれたもの、です」
「いやまあ……」
「まちがってはいませんけど」
コロクルは、おわんに「ぜんざい」、もしくは「おしるこ」、もしくは「ゆでアズキのサトウににモチをいれたもの」をつぎます。
手もとがあぶなっかしくて、ちょっとおわんのふちにアズキがついてしまいました。
「どうぞ」
「いただきまーす」
「いただきます」
あったかくてあまいアズキと、やわらかいおもちがからんで、とってもおいしいです。いえ、それだけではありません。
(ん? なんか、いいかおりがして、あまさもちがって)
「おや、オオオニグリではありませんか」
カソがおわんから、ちいさくきられたオオオニグリのかけらをハシでひろいます。
「そうだ、オオオニグリだ。どっかでたべたことあると思った」
まえにピトラが山の中でカソとたべたことがある、大きくておいしいクリのことです。
「いえ、これは……エゾオオオニグリです」
「ああ、このへんだとそうですね。カラがあったら見せてください。ぜひ」
「はい」
コロクルはだいどころに行きます。
「カソ、オオオニグリならまえも見たじゃない? なんでわざわざカラなんか?」
「エゾオオオニグリはですね――」
「おまたせ、しました」
「うわっ!!」
ピトラはぜんざいをふきだしそうになりました。
コロクルがかかえていたのは、大きな大きな――そう、うんどうかいの大玉ころがしにつかう玉みたいな、おっきなクリだったのです。
「すごいでしょう、ピトラ?」
「……たしかにすごいんだけどさ」
「なんですか」
「大きさでゴリおしするのはどうかとおもうよ」
「いえ、大きいだけじゃ……ないんです」
コロクルはクリをひっくりかえします。中をぬいたクリのカラでした。
「あの……中がつまってるんだけど」
「はい」
クリのカラは、とってもぶあついのです。ぶあつすぎて、みのぶぶんは、ただのクリよりすこし大きいぐらい。つまり、99パーセントがカラ。
「そのしょくぶつ、ムリあるでしょ。めがでないでしょそんなにカラあつかったら!」
「めがでるまで、1000年かかります」
「だから、オオオニグリよりも高いんですよ。さあ、これでもめずらしさをうたがいますか?」
じまんげにカソがむねをはります。
「めずらしいことはわかったけど、おいしさはフツウだなぁ」
「かーっ、ピトラはあいかわらずもののかちがわかってない! クリをあじでしかかんがえられないなんて」
「たべもののかちは、あじできまるもんだよ……」
ピトラはぜんざいをたべます。たべます、が。
「ふー、なんか、あつくなってきた」
「あったまり、ましたか」
「それどころか、あついよ」
いつのまにかピトラはあせだくです。
「つめたいもの、ない?」
「ありません。いつも、おきゃくさんに、いわれるんですが……もうしわけ、ございません」
「いや、そんな、このよのおわりみたいなカオであやまられてもこまるんだけど」
「これは、もともと、そういうカオです」
「と、つめたいもの、つめたいもの――そうだ!」
ピトラはポンと手をたたきました。
「雪があるじゃない! あれにアズキをかければ、こおりアズキだ」
ピトラたちはそとに出ました。
出ましたが。
「……ない」
雪がありません。
すっかりありません。
雪を山ほどつんだトラックがとおくになっていきました。
「ちょっとぐらい、のこしとけばいいのに」
カラのおわんを、ピトラはざんねんそうにみつめます。
「じぶんたちは、ぶきよう、ですから」
もうしわけなさそうに、コロクルがアタマをさげます。
「あやまることでもないけど……雪、どっかにないかなぁ、いいかんがえだとおもったんだけど」
「ああ、でも、雪なら」
つぎのしゅんかん。
どさあああああああああっ!
雪が、ふってきました。
おちてくるみたいに、おもいきり。
「すぐに、ふります」
ピトラのおわんには、雪が山もり。
ピトラにも、雪が山もり。
「さむいっ、つめたいっ、うひゃあっ!」
ピトラはおおあわてで、家の中にもどりました。
「うわっ、あつい!」
家の中はとってもあつくて――。
「よーし、こおりアズキだ」
ピトラはアズキをかけましたが……そのときには、もう雪は水になっていました。
「むぅ、もういちど!」
それからピトラは7回ためしましたが、こおりアズキにはできませんでした。
「どうして、どうしてこんなにはやくとけるんだ!」
「あの……ピトラさん」
えんりょがちにコロクルが言います。
「アズキを、さまさないと、こおりは、とけます」
「それを、はやく、言ってよ!」
「もうしわけありません、ぶきよう、ですから」
「言うぐらい、ぶきようでもできるでしょ?」
「わたしはただ、おもしろかったので」
「カソはそーだろうねぇ」
かえりのれっしゃが、雪のふる町の中をはしりぬけていきます。
家のやねにどんどん雪がつもっていきます。
「……なんか、来たときより、雪がふえてる気がするんだけど」
「雪のおおい町ですからね」
「コロクルさんの家も、やっぱり雪にうまってるのかなぁ。ムダになっちゃったかなぁ?」
「雪が2ばいつもったら、家がつぶれてしまうんですから、ムダじゃないですよ」
「そっか……ふぁふぁ、つかれた」
クリームをとおりこして、スフレみたいにふりつもる雪を見ながら、ピトラは目をとじました。
「ふふ、おつかれさま」
「……ピトラ、ちょっとピトラ、みてごらん」
「ふにゃ?」
目をさますと、お父さんのポポトさんがピトラをゆさぶっていました。
「ほら、そとそと!」
お父さんにおいたてられるようにして、ピトラはカーテンをあけます。
すると。
「わぁ……」
雪が、ふっていました。
「はつ雪だよ。こんなにはやいのはめずらしいね」
「うん。つもるかなぁ?」
「それはどうだろう?」
「つもったら、やねの雪おろしやるよね? ぼく、とくいだからまかせてね」
「そのときはたのむよ。あははは」
雪はしずかにふりつづきます。
冬が、やってきました。
<おしまい>
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