by ごんぱち
まっくらな部屋の中でピトラは、またねがえりをうちます。
「ん……」
もう1かい。
「む……」
さらに1かい。
(……ねむれない)
ピトラは目をあけます。
雨の音がきこえます。
(今日、そとであそべなかったからかなぁ……)
ぎゅっと目をとじますが、まったくねむくなりません。
(明日も、ようちえんがあるのに)
かた目をあけて、とけいをみます。
ふとんに入ってから、ちっとも時間がすぎていませんでした。
(ヒツジをかぞえるとねむれるっていうけど)
ピトラはフッとわらいます。
(ラグヤが、あれはヒツジのシープとスリープのシャレだっておしえてくれたし……って、すなおにしんじてたらねむれるんじゃ……)
ねがえりをもう1つ。
(そうそう、アタマの中でゴルフをするといいって、なんかの本でよんだことがあるぞ)
ピトラはアタマの中で、ゴルフをはじめます。
(ええと、たしか、お父さんはあのゴルフクラブをもって、こう、ふるんだよな)
ゴルフクラブをふるイメージをアタマにうかべます。
(それで、ボールをうつんだ……ええと、それから?)
ピトラのアタマの中で、ボールがとんでいきます。
(それから、どうするんだろう?)
ピトラは、ゴルフのルールなんてしりませんでした。
(おわっちゃった)
やっぱりねむくはありません。
「あーーー、もう!」
ピトラは目をあけて、からだをおこしました。
ピトラは足音をたてないように、かいだんをおります。
まっくらなリビングに入り、ドアをしめました。
「へへへ」
ピトラはこえを出してわらいます。
「ねむくないなら、ねむくなるまでおきてればいいだけだもんね」
ポジティブです。
でんとうのスイッチを入れます。
リビングが、まぶしいぐらい明るくなります。
でも、あんまり明るいと、お父さんやお母さんに気づかれて、ふとんにもどされるかもしれません。ねむくないときに入るふとんは、ろうやとかわりません。
ピトラはイスにのぼって、でんとうのヒモをつかみます。
パチ、パチ。
これで、ちっちゃなでんきゅうだけになりました。
ピトラはソファにすわります。
だれもいないリビングはとてもひろく見えます。
「こうやって、ひとりですわってると、なんだか大人になったみたいだなぁ」
ピトラはリモコンでテレビをつけます。
と。
とつぜん、ものすごい音がしました。
「うわっ!」
あわてて音を小さくします。
「――夜中って、音が大きく聞こえるんだなぁ」
ピトラはチャンネルをかえます。
お父さんやお母さんや妹のポテトとみているときは、あんまりいろいろかえてはいけませんが、今はピトラだけ。
思うぞんぶんチャンネルをかえます。
夜中のばんぐみはいろいろで、えいがをやってたり、げいにんがくるしんでいたり、シロウトがいじめられていたり、ピトラのぜんぜんしらないアニメをやっていたりします。
「こんなじかんも、テレビってやってるんだなぁ」
ピトラには、テレビばんぐみのなかみは、よくわかりませんでしたが、なんだかこうやってチャンネルをかえていることがたのしく思えていました。
少しのあいだテレビをながめていたピトラは、ふと立ち上がります。
「なんか、おなか空いたなぁ」
だいどころに、ピトラは入ります。
じぶんでたべたいものをえらんでたべられるなんて、大人になったみたいです。
「――あった」
だいどころのたなには、ふくろに入ったおかしや、カンヅメ、バナナやミカン、ナシもあります。
「ほうちょうがつかえれば、ナシがたべられるんだけどなぁ」
ミカンをとります。
「いや、歯をみがいたあとだから、ミカンはへんなあじがしてイヤだな」
ミカンをもどします。
「まてよ、歯をみがいたんだから、きっとなにをたべてもおいしくないにちがいないや」
ピトラはなんどもうなずきます。
「そうだそうだ。これはしかたがない。ホントウはたべることもできるけど、あえてたべるのはやめておこう」
ピトラはたべものを、あったばしょへもどしました。
「うん、こういうことをじぶんできめられるのも、大人ってもんだよね。べつに、あとでバレておこられるのがこわいからじゃないよ、うん」
だれに、いいわけしてるんでしょう。
「水をのむだけにしよう」
ピトラはコップをとります。それに水をくんで、れいぞうこのれいとうしつから、こおりを1こ。
水の入ったコップをもって、ピトラはまたテレビのまえにすわります。
コップの中で、こおりが小さい「シュウシュウ……」というおとをたてて、とけます。
「なんだか、おさけみたいだなぁ」
ピトラはコップをすかして、テレビをみます。
うすぐらいリビングの中で、テレビはまぶしいぐらいあかるくて、コップとこおりはキラキラとひかります。
「キレイだなぁ」
しばらくながめてから、ピトラは水をのみました。
「えへへ、つめたくておいしいや」
水をのみおえたピトラは、カラになったコップをしずかにあらいます。
それから、しっかりふいて、もとにもどします。
テレビはあいかわらず、よくわからないばんぐみをやっています。
「だれかとはなしができないのは、ちょっとつまらないなぁ」
テレビのむこうのひとは、にぎやかにしゃべっています。
「そうだ」
ピトラは、デンワだいのそばに、ふみだいをもってきます。それから、デンワのじゅわきをとりました。
「あー、もしもし、ゲンさん? ぼく、ピトラだけど。げんきー? そう、げんきなんだ。ゲンさんがげんきじゃなかったら、なまえだおれだもんねー。なに? ちがう? そのゲンじゃない? あはは、じょうだんだよ、なんかしらないけどカメのなまえなんでしょ? うんうん、じゃあまたねー」
ピトラはじゅわきをおきます。
「あははは、ホントウにでんわしてるみたいだ」
もう1ど、じゅわきをとります。
「はぁい、ラグヤ? いくらなんでも今日はやりすぎだったと思うよ? となりのクラス、ずっとなきごえがきこえてたじゃない? まあ、もとはと言えば、ラグヤをつきとばしたひとがわるいんだけどさ、あれはウソだってしっててもこわいよ。ゆめに出るよ。いや、そりゃ、ちょっとスッキリはしたけどさ」
じゅわきをおきます。
「ふふ、なんだかおもしろいや」
――ピトラは、ひとりであそぶのが、かなりじょうずでした。
「サリス? このまえの虫しょうぶさ、アレ、たぶんぼくのかちだよ。あんなにでっかい虫、ぜったいサリスなんかにゃつかまえられないよ。へへへーん。でさでさ、こんどは玉のりでしょうぶしようよ。ぼくなんか、もう2ビョウのってられるから、サリスなんかにまけないよっ!」
こんどはどこでしょう?
「あー、ノクタ? あれ、まちがえた? ネコのくに? ああそうか、このまえのケガのてあてをしたネコのネコロマンサーさんだね。たのむよ、ハンカチきちんとかえしてくれないと。そりゃあ、キミのつかえるネコの王さま、チンギス・ニャーンが、あんこくだいじゃしんニャルラトホテプのいけにえにされそうだったのはしかたないけど、かりたものはきちんとかえせって、えらい人も言ってるでしょ? なに? えらい人はかえさない? それはウソのえらい人だよ――ふぁあああ」
ピトラは一つあくびをします。
「あー、なんか、ちょっとねむくなってきたなぁ」
クビをブルブルとよこにふります。
「いやいや、ねむくないねむくないっ!」
ピトラはじぶんの足をつねります。
「イタタタタ……ふぁふぁふぁふぁ、ねむ、イタタ、ねむくないタタタ……ふぁあああああ」
おおあくびです。
でもピトラはがんばります。
「いや、ここはコンジョウだ、コンジョウ! きちんとおきて――おきて……って、あれ?」
ピトラは、リビングの明かりをけして、じぶんのへやにもどって、ふとんに入ります。
(ねるんだよ、ねむろうとしてたんじゃないか)
目をとじます。
(――まったく、ノリツッコミなんてしてるばあいじゃない。ねむくなるまでってことなんだから、ねむくなったらねればいいんだよ)
ねがえりを1つ。
「……ん」
(そうそう、さっさか、ねよう)
もう1つねがえり。
(ねむいときは、ねるのが1ばん)
目をぎゅっととじます。
(だいたい、明日もようちえんあるんだし、しっかりねないと、おひるねまえに、ねむくなっちゃう)
でも、どんなに目をとじていても、今日にかぎってちっともねむくなりません。
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