「うわぁ、なにこれ、へんなの!」
ピトラは、おもわずこえをあげました。
はりをよこいちれつにあつめたきかいです。
「……センバコキっていう、おこめづくりにつかうもの」
ともだちのラグヤが、ぼそっといいました。
「こんなので、どうやってつくるんだよ?」
いちばんからだのおおきなサリスが、これまたいちばんおおきなこえでたずねます。
「そうそう、どうやってつくるんだよ?」
いちばんせのちいさなノクタがくりかえします。
「……ええとね……あった」
ラグヤはほこりのなかから、ちいさなくさのみが、ぶどうみたいにいっぱいついているふさをひろいました。
「それは?」
「……おこめ」
「え? それが?」
それをセンバコキにひっかけると、くさのみだけがきれいにくきからはずれました。
そしてくさのそのみのひとつをつめでひっかいて、そとがわをはがすと、なかからしろいおこめがでてきました。
「うわあ、ほんとうだ」
「へー、よくしってんな?」
「そうそう、よくしってんな?」
「……へへ」
ラグヤはちょっとじまんげにわらいました。
「……たぶん、ここはのうかだったんだ」
このふるい、だれもいないいえのなかには、ほかにもいろいろなどうぐがありました。
「へえ、おもしれえ」
「うんうん、おもしれえ」
「じゃあ、ここできまりだね」
うれしそうにピトラはいいました。
「……うん」
「おう、ここがオレたちトゲナシサボテンぐみのひみつきちだ!」
「そうそう、ひみつきちだ!」
そのひのよる、ピトラはおとうさんのポポトさんとおふろにはいりました。
「――ひみつきち?」
ポポトさんがききかえします。
「うん。ほかのひとがはいってこれないように、ワナもつくってるんだよ」
うでをあらいながら、ピトラはこたえます。
「ワナかぁ」
せっけんをあわだてながら、ポポトさんはなんどもうなずきます。
「たのしそうだね」
「うん。でも、あぶないから、ちかよったらだめだよ」
「どこにあるんだい? ひみつきちは」
「それをいったら、ひみつきちじゃなくなっちゃうよ」
「それじゃあ、きをつけようがないなぁ」
ポポトさんはわらいました。
「なにはともあれ」
ピトラのせなかをごしごしこすりながら、ポポトさんはいいました。
「ひとにけがをさせないように、きをつけるんだよ」
「うん、わかってる」
「さぁ、つぎはシャンプーだよ」
「えぇーー?」
「……ここにロープをはって」
「そうそう、はるぞ」
ノクタがじょうずにロープをはしらにむすびつけます。
「じょうずだね、ノクタ」
かんしんしながら、ピトラはノクタのゆびさきをみます。
「ピトラ、よそみしないでちゃんともてよ」
「あ、ごめん」
センバコキを、ピトラはサリスといっしょにはこびます。
「これがいちばんだいじなワナになるんだからな」
ずずっ……ずず。
「うん。こんなのにふくがひっかかったら、もううごけないもんねー」
ずずず……ずず……ずずずっ……。
きかいはおもたかったですが、ちからもちのサリスといっしょなので、なんとかうごきました。
「ふぅ、つぎいくぞ、つぎ」
「ちょっと、やすもうよ」
ひといきついているピトラとサリスに、ラグヤがたずねます。
「……ここにしかけるワナ、スコップとクワ、どっちがいい?」
「クワってののほうが、とんがってていりょくがあるぞ」
「だめだよ、そんなのがたおれてきたら、おおけがしちゃう」
「……スコップにする。ノクタ、よろしく」
「うんうん、スコップにするぞ」
――それからなんにちもかけて、ひみつきちはかんせいしました。
ある、にちようびのことです。
「まあまあまあまあ!!」
でんわをしていたおかあさんのピピラさんが、おおきなこえをだします。
「?」
おとうさんのポポトさんと、いもうとのポテトといっしょにおやつのビスケットをたべようとしていたピトラは、てをとめました。
「――ええ、はい、うちにはきてません、それじゃあしつれいします」
ピピラさんはでんわをきりました。
「どうしたんだい、ピピラさん?」
「なにがあったの、おかあさん?」
「ピトラとおんなじくみに、ノクタちゃんっているでしょ?」
「ノクタがどうしたの?」
「しかられて、いえをとびだしたっきり、いなくなっちゃったんだって」
「ええっ!?」
ピトラとポポトさんは、いっしょにこえをあげました。ポテトはよくわかっていないらしく、ひとりでビスケットをたべています。
「しんぱいね、どこへいっちゃったのかしら」
だれにもみつからないばしょ。それは。
(ひみつきちだ!)
ピトラはきがつきました。
「ぼく、さがしてくるよ」
「いるばしょ、しってるの? どこ!?」
「ええと、そのそれは……」
「ピピラさん。ここはピトラにまかせよう」
ポポトさんは、おやつのビスケットをちいさなふくろにいれて、ピトラにわたしました。
「ピトラ、きずはつくってもいいけど、けがはしないようにね」
「うん、ありがとう!」
ピトラは、ひみつきちへまっすぐはしります。
「……ピトラ」
「あっ、ラグヤ! きみも?」
「……くるとおもったよ」
あんまりあしのはやくないラグヤにあわせて、ピトラはゆっくりはしります。
「ノクタがいなくなるなんてね」
「……サリスもらしい」
「えっ、そうなの?」
「……ノクタがさいしょにきたのがサリスのうちだったって」
「なにがあったのかなぁ」
「……そこまではわからない。たぶん、ぼくらには、たいしたことじゃないかもしれない」
ようやくひみつきちがみえてきました。
いえのたくさんあるなかに、ぽつんとあるうち。まわりをいたのへいでかこまれた、だれもすんでいないふるいうち。
でも、ピトラたちのてでひみつきちとしてつくりあげられたいまは、かんたんにはちかよれないおしろです。
「ねえ、ノクタ! サリス!」
ピトラはおおごえでよびましたが、へんじはありませんでした。
「いないのかなぁ」
「……いや、いる」
ラグヤは、いりぐちのもんのしたのほうをゆびさしました。
そこには、ロープがはってありました。
ラグヤがあしだけのばして、ロープをひっぱります。
バタン!!
「うわっ!」
クワがたおれてきました。
きがつかずにはいろうとしたら、したたかあたまをぶたれていたにちがいありません。
「……ぼくらのしらないワナだ」
(あとは、おとうさんとおかあさんにしらせればいいんだよね)
ピトラはふとそんなことをかんがえそうになりましたが、すぐにくびをよこにふりました。
このひみつきちをいちばんしっているのは、ピトラたちです。
ノクタとサリスをいちばんしっているのはピトラとラグヤなのです。
ピトラとラグヤは、にわをあるきます。
「……おとしあなもふえているかもしれない」
「うん」
ピトラはじぃっとあしもとをみながらあるきます。くさがぼうぼうはえていました。
「あっ!」
すこしはなれたばしょの、くさがすこしへんでした。そのぶぶんだけ、くさのむきがちがいます。
「おとしあな、みーつけっ!」
ピトラは、そのおとしあなをまたごうとしました。
「……まった、ピトラ」
「えっ?」
ラグヤがピトラのあしもとをゆびさします。
くさがむすびあわされていました。もし、あしがひっかかってころんだら、あたまからおとしあなにおちてしまうところでした。
「あ、あぶない」
「……ノクタのしごとだ」
それからピトラとラグヤは、ゆっくりゆっくりにわをあるき、ようやくうらぐちにたどりつきました。
「ん?」
ピトラがうらぐちのドアをあけようとしましたが、ひらきませんでした。
「カギがかかってるのかな?」
「……ここのカギはこわれている」
「だよねぇ」
ピトラはおもいきりドアをひきました。わずかにドアはうごきますが、ひらきません。
「やっぱり、げんかんからはいろうか?」
「……ワナは、げんかんのほうにおおくしかけた。はいるなら、ここがいちばん」
ピトラとラグヤがいっしょにひっぱると、もうすこしドアがうごきました。
「ぐぬぬぬ!」
「……むむむ!」
ぎり、ぎり、ぎり、ぎり――ばたん!
とつぜんドアがひらきました。
いきおいがつきすぎて、ピトラとラグヤは、しりもちをついてしまいました。
「い、いたたた、だいじょうぶ、ラグヤ?」
「……いたい」
みると、ドアのうちがわのノブに、ロープがむすびつけてありました。
ピトラはあしもとや、うえをみましたが、もうワナはありませんでした。
「……やっぱりうらぐちは、ワナがすくない」
「よし、はいろう」
ピトラとラグヤはひみつきちのなかにはいりました。
そのときです。
ずず……ずずず……ずずっ……。
おくのほうからかすかに、ものをひきずるおとがしてきました。
「!!」
「……ワナのいちをかえてる」
「いそごう!」
「……でも、どんなワナがあるか」
「ノクタたちがあわててる。ワナがかんせいしてないしょうこだよ!」
ピトラは、はしりだしました。ラグヤもそれにしたがいます。
へやをしきっているドアをいきおいよくあけ、なかにとびこみます。
ドアにしかけてあったバケツが、ピトラとラグヤのすぐうしろにおちました。
ずずずず……ずず……ずっ。
「……ええと」
「おとは、こっちからしてる!」
ピトラははしります。
はずれるようにしたゆかいたも、おおきないとまきみたいなものをつかったしかけも、いっきにとびこえます。
ず、ずずず、ずず。
ぶらさげておいたタケに、あたまをぶつけかけたり、ムシロをしいたゆかでころびかけたりしましたが、とにかくはしります。
ず、ずず……。
『はやくしろ!』
『でもでも、おもいよぉ!』
「ノクタ、サリス!」
ばんっ!
ピトラはドアをあけてへやにとびこみました。
そのとき。
あしにロープがひっかかっていました。
(しまった!)
スコップがたおれてあたまに――。
ピトラはおもわずめをつぶりました。
――が。
「あ……あれ?」
なんにもたおれてはきませんでした。
へやには、ノクタとサリスがいました。ふたりは、ワナにつかうはずだったスコップをてこにして、センバコキをうごかそうとしていました。
「はぁはぁ、ま、まにあわなかったー」
ノクタは、あおむけにたおれました。
「おれたちのまけだよ、ちくしょう!」
サリスも、すわりこみました。
ふたりがつかれているのもむりありません。ずっとワナをしかけなおしていたのですから。
「つかれた……」
「……もう、はしれない」
もちろん、ピトラとラグヤだって、へたへたとすわりこんでしまいました。
「はらへったなぁ……」
「うんうん、はらへった」
「……おやつをちゅうだんさせられた」
「あっ、そうだ」
ピトラはポケットからビスケットのはいったふくろをだしました。
「みんなでたべ――あ、あれ?」
ビスケットは、ばらばらにわれていました。
「われちゃってる……」
「わけやすくなっていいってもんだ! そのでっかいカケラもらいっ!」
「いい、いい。こっちのもらうぞ」
「……かたちとあじはかんけいない」
ピトラとラグヤとノクタとサリスは、ビスケットをたべたあと、いえにかえりました。
「うん、これでよし」
ポポトさんは、しょうどくのふたをしめました。
「もう、ほんとうにだいじょうぶだった?」
やぶれたピトラのズボンをぬいながら、ピピラさんがたずねます。
「へっちゃらだよ。ちょっと、しみるけど」
「でもみんなけががなくて、ほんとうによかったわ――あら?」
ふとピピラさんはくびをかしげます。
「ノクタくんって、けっきょくどうしていえからでていっちゃったの?」
「ええと……あ、きくのわすれてた」
「ははは、それぐらいでいいんだよ。ともだちっていうのはね」
ポポトさんは、わらってポテトをだきあげました。
「さ、ごはんにしよう。きょうはぼくがうでをふるったからね」
「はーい」
<おしまい>