
ごんぱち
いつものお昼休み、雨がふったのでピトラたちはへやのなかであそんでいます。
「――しまった! きのう、父の日だったっけ!?」
大きなこえで、ピトラはラグヤにききかえします。
「……うん。6月の3ばん目の日ようびは、父の日だね」
ポケットからてちょうをとりだして、ラグヤがカレンダーを見せました。
「なんだピトラ、ジニアスせんせいも、ずぅっと言ってたじゃないか、わすれてたのか?」
サリスがニヤニヤわらいます。
「そうだそうだ……わすれたのか?」
ノクタは、ふしぎそうなかおをしています。
「え、えーとさ、だって、ほら、日ようびは、ちょっとおそくおきて、朝ごはんたべて、朝のアニメみて、お昼ごはんたべて、ひみつきちであそんで、サザエさんみて、ばんごはんたべて、おふろにはいって、ちょっとあそんでねたんだよ。いそがしかったんだよ」
「……そこまで、きいてない」
「だいたい、みんなだってひみつきちに来てたのに、よくわすれてなかったね?」
「がははは、ピトラとはちがって、オレはしっかりしてるからな。あさのうちに、プレゼントをしたぞ」
サリスは、なんだかじまんげです。
「そうだそうだ、ちがうぞ。ノクタはまえの日の夜に、まくらもとにプレゼントをおいたぞ」
ノクタもノクタで、ちょっとうれしそう。
「ノクタ、それはクリスマスじゃ……」
「……ピトラ、そういうツッコミは、きちんと父の日のおくりものをしたひとが言うもの。ちなみにボクは、ばんごはんのあとにすませた」
「いじわるだ、キミらはいじわるだ!」
「へへへーん、ピトラがわるいんだろ?」
「そうだそうだ、ピトラがわるいぞ」
「……あるていどのイジワルさは、人生のスパイスだよ、ピトラ」
「こまったなぁ」
家にかえったピトラは、じぶんのへやでゲンさんのぬいぐるみの上にすわってかんがえます。
――ゲンさんにはわるいですが、大きなカメのぬいぐるみは、すわったり、ふみだいにしたり、マクラにしたりするのにちょうどいいのです。
「ゲンさん、どうしよっか?」
こっちのせかいのゲンさんは、しゃべりません。
「父の日をわすれるなんて」
ためいきをつきます。
「母の日はおぼえてたのに」
それがよけいマズいです。
トントン。
そのとき、ドアがノックされました。
「ひゃあああっ!」
かんがえごとをしていたピトラは、すわったまま20センチぐらいとびあがります。
「ピトラ、ばんごはんのじゅんびするから、ポテト見てて」
お母さんのピピラさんが、ポテトをピトラのへやにいれてます。
「あ、はーい」
「にぃーーーー」
おもちゃのハンマーをもったポテトが、ハイハイしてきます。
「うーん」
「にーーーーーー!」
「わかったよ、はいはい」
ピトラとポテトは、ピトラのぬいぐるみであそびはじめます。
「ポテト、このまえはかいじゅうがすごかったんだぞ」
「に?」
「こうやって、どしーーーん、どしーーーーーんってな」
ゾウのぬいぐるみで、せつめいします。
「んん!」
「でも、お兄ちゃんはつよいから、おっぱらったのさ! ホントだぞ」
「かーー?」
「カソがまた、すごかった。たしかに、すごかった。あいつはね、お金のことになると、ほんとうに力がでるんだ」
ポテトはうれしそうにピトラのはなしをききます。
「ねーーー」
「ああ、ネコの国のはなし? あれは、ラグヤと今、こまかいはなしを――ああそうだ、ポテト」
「?」
「父の日、キミもなんにもしなかったろ?」
「ち?」
「おとうさんの日だよ」
ポテトはくびをかしげます。
ポテトに父の日のことを言っても、まだわからないみたいです。
はなしがわからなくなったせいか、ポテトはへやの中をハイハイしはじめます。そして、ピトラのつくえをつたって、立ち上がります。
「……そうか」
ピトラは、母の日のようすをおもいだします。
「たしか、母の日にポテトがはじめてつかまりだちできて、お母さんが『さいこうのプレゼントだわ』って言って、お父さんも『はんぶんこして、父の日のプレゼントにもしてよ』って……」
ピトラはりょう手であたまをかかえます。
「だああああっ! 父の日になんにもしなかったの、やっぱりぼくだけじゃないか!」
つぎのひ、ピトラとラグヤとサリスとノクタは、ひみつきちにあつまっていました。
「……それで、けっきょく、きのうもなにもしなかったんだね」
すわるところがやぶれたソファーにこしかけたラグヤがいいます。
「なんだ、そうなのか? しょうがないな」
サリスはゆかにあぐらをかいています。
「そうだそうだ、ピトラはしょうがないな」
ノクタは、なおしたイスにすわっています。
「そ、それは、そうだけど、お父さんのかえりがおそかったんだよ」
あわててピトラはいいわけします。
「……なんじにねたんだい?」
「え? えーと、その、8じ」
「……フフフ。ずいぶんはやくねるんだね」
「そ、そうだよ。はやくねたほうがいいでしょ」
「……そうだね、フフ。お父さんが帰ってくるよりもはやくねたほうが、いいよね」
「うー」
ピトラはうなだれます。
「だって、父の日のプレゼントって、おもいつかないんだもん……」
「がははは、ばかだなピトラ、かたたたきでいいんだ、かたたたきで。うちの父さんは、それでよろこんだぞ」
「かたたたき……」
ピトラのあたまに、まえのできごとがおもいうかびます。
「ぼくのお母さんもお父さんも、かたがこることあんまりないんだよ」
「……そもそも、そういうのは父の日だからこうかがあるんだしね」
「そうか。ノクタはどうしたんだ?」
サリスがノクタにたずねます。
「ノクタは、しっぽうのネクタイピンをつくったぞ」
「ネクタイピン!?」
「ネクタイピン……」
「ガラスはともかくテツをけずるのが、たいへんだったぞ。1ヶ月かかったぞ」
「……そういう、ひじょうしきなのはおいといて」
「ノクタ、ひじょうしきか?」
ノクタはふしぎそうなかおをします。
「すまんノクタ。おれもそれはラグヤとおんなじいけんだ」
「で、ラグヤは?」
「……このまえようちえんでかいた、お父さんのカオの絵」
「あれ? たしかあれって、父の日のちょっとまえに、もってかえったんじゃあ?」
「……父の日まで、かくしておいて、うしろにてがみをかいてわたした」
「それは父さんよろこびそうだな」
「そうだそうだ、よろこびそうだ」
「うーん」
ピトラはあたまをかかえます。
「どれも、マネできないなぁ」
「……ピトラ」
ラグヤが、ピトラのかたをポンとたたきます。
「……マネをすることはない。なにがプレゼントかなんて、大したもんだいじゃない。ピトラのきもちがこもっていれば、いいんだ」
「ピトラ、ラグヤの言うとおりだぞ」
「そうだそうだ、言うとおりだ」
「みんな……」
ピトラはラグヤとサリスとノクタをみます。
「つまり、じぶんでかんがえろ、ってこと?」
みんな、大きくうなずきました。
ピトラはいえにもどります。
「――ただいまー」
「おかえりなさい、ピトラ。おふろわいてるから、ごはんのまえに入りなさい」
だいどころで、ごはんのしたくをしながら、お母さんが言います。
「はぁい」
ピトラは、おふろばのとなりのせんめんじょでふくをぬいで、おふろにはいります。
(こまったなぁ、なんにもおもいうかばない)
「ピトラ、入るよ」
と、ドアがあいて、お父さんのポポトさんがはいって来ました。
「あわっ! お、おお父さん」
ピトラはとびあがります。
「びっくりさせたかい? はは」
「あー、いや、そんなことないよ。おかえりなさい」
「ただいま……フゥ」
お父さんはなんだか、ゲンキがなさそうです。
(うわぁ、やっぱり、ぼくが父の日をわすれたからだ!)
でも、ピトラにはどうしたらいいのか、やっぱりわかりませんでした。
お父さんは、おふろにはいりながら、ためいきばかり34かいもつきました。
ばんごはんがおわり、お父さんがしょっきをあらい、お母さんはポテトといっしょにおふろに入ります。
テーブルをふいたピトラは、せんめんじょではをみがきます。
(もう、しょうがないか……)
はをみがきおえたピトラは、おふろのドアをそっとあけます。
「ね、お母さん?」
「どうしたの、ピトラ? そんなに小さなこえ出して」
お母さんは、ポテトといっしょにおゆにつかっていました。
「お父さん、ゲンキないよね?」
「ああ、そうね」
「やっぱり、ぼくが父の日わすれてたから……だよ、ね?」
「え? あらあらあら、そうだったかしら」
お母さんは、クスリとわらいます。
「あなたたち、やっぱりおやこね」
「どういうこと?」
「ためいきといっしょに、ブツブツ言ってるから、こっそりきいてごらん」
「?」
ピトラはよくわからないまま、せんめんじょから出て、しょっきをあらっているお父さんのうしろで、ききみみをたてました。
「……こまったなぁ、こまったなぁ、こまったなぁ」
お父さんはブツブツつぶやいています。
「お父さんの父の日わすれてた、どうしよう? もうおそいかなぁ? どうしよう、こまったなぁ……?」
そう。
お父さんも、じぶんのお父さん、つまりピトラのおじいちゃんにプレゼントするのをわすれていたのでした。
「ぷっ、ははは」
おもわずピトラはわらってしまいました。
「うわっ、な、なんだ、ピトラいつのまに」
「お父さんごめんなさい、父の日のプレゼントわすれてた。あははは」
「え? ああ、そうか。そうだ、あははは」
「ごめんなさい、ぷはははは!」
「あははははは」
「ははははははは」
あやまりながらわらったのは、これがはじめてでした。
「でさ、ピトラもわすれててさ、あはははは、わるかったね、お父さん」
お父さんは、じぶんのお父さん、つまりはピトラのおじいちゃんにでんわをかけて、やっぱりわらいながらあやまっていました。
「うん、やっぱりぼくの子だよ。あはははは、なんかおかしくって、うれしくって。あはははははは!」
なんだか、もう、すごいじょうきげんでした。
「え? お父さんもそういうことあったの、あはは、それじゃ、おやこ3だいのソコツものだよ。あはははははは! じゃ、ピトラにかわるよ」
「あははは、おじいちゃん、ごめんねー。ぼくににて、うっかりもののお父さんで!」
デンワのむこうのおじいちゃんは、とってもげんきそうでした。
<おしまい>
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