ピトラの冒険27   千足とQの絵本ワールド



ごんぱち 

「うわぁ……おっきい!」
 大きな大きなオリの中には、大きな大きなかいじゅうがいました。
「おっきいオリ!」
 ピトラはさけびます。
「……ピトラ、オリにおどろかないでくださいよ」
 くびからカメラをさげたカソがいいます。
「こんなにおっきなオリ、はじめてみたもん」
「まあたしかに」
 高さ、はば、おくゆきが300メートルもある、ものすごいおおきなオリです。
 がんじょうなてつごうしの間に、ぶあついガラスがはまっています。
 そして中にいるかいじゅうは、アワみたいにボコボコしたハダをしていて、せなかにはトゲがいっぱい生えていて、5つの目の間からカミソリのようにとがったツノがはえています。それから、4つの足にはヤギのひづめみたいなものがついていました。
「でも、わたしたちは、かいじゅうを見に来たんですから」
「だって」
 ピトラはかいじゅうをみます。
「なんか、元気ないし」
 オリの中で、かいじゅうはほんの少し体をうごかすだけです。
 おきゃくさんたちは、それなりにおどろいたりかんしんしたりしていますが、それはどうぶつえんでゾウやキリンをみたときと、あんまりかわりません。
「それに、これだったら、オニヒトデのヒートとか、大きくなったゲンさんのほうがおっきいし」
「そりゃそうですが、わたしはこのかいじゅう『ニグラス』の、はくりょくあるしゃしんを、今週中にとらなきゃいけないんですよ」
 カソはカメラのシャッターをきりました。
「カソ、今日はしゃしんやさんなんだっけ?」
「ざっしきしゃですよ」

 ピトラとカソは、かいじゅうのオリのまえでじぃっとしています。
「ふぁあああ……ねえ、カソ」
 あくびをしながら、ピトラがいいます。
「なんですか?」
 カソはカメラをかまえたままで、へんじをします。
「ぼく、かえっていい?」
「入場料をおごるかわりに、ヒマつぶしのあいてをするやくそくでしょう。けいやくをやぶったら、いやく金をたっぷりもらいますよ、たっぷり」
「いいよ、お金いっぱいあるし」
「いいんですか? 高いですよ」
 カソはニタァァっとわらいます。
 そりゃもう、ものすごいズルそうな顔で、ニタアァァァっとわらいます。
 ぜつぼうてきなワナにあいてをおとしいれたときみたいに、ニタアアアァァァァっとわらいます。
 これはシャレにならないぐらいのいきおいで、ニタタタアアアアァァァァァっと!
「わ、わかったよ、いるよ。いるってば、けいやくはやぶらないってば」
「それはよかった」
 カソはニタッとわらいました。
(……あいかわらず、カソにだまされてる気がする)
「でも、いったいどんなしゃしんをとりたいの? もう、だいぶとったじゃない?」
「ニグラスみたいなかいじゅうがほえるところと、トゲをとばすところと、家とかをふみつぶすところをとりたいんですよ」
「ほえるところ、ねぇ」
 ピトラはオリの中のかいじゅうをながめます。
 ねむりはじめたみたいで、5つの目がどこかへひっこんでしまいました。
「あきらめた方がいいとおもうけど」
「なにを言ってるんです。プロはひきうけたしごとをなげだしたりしないものです」
「プロだったらできないしごとはひきうけないもんだと思うけど……」
「できないなんてとんでもない。ちょっとニグラスの気分がのればいいだけですよ」
「いえ、それはムリであります」
「どうしてですか?」
「ニグラスはねむりはじめると、1週間はおきないのであります」
「ああ、おっきいからのんびりなんだ」
「くわしいですね――って、あなたどなたです?」
「自分はとおりすがりの宇宙りょこうがいしゃの宇宙飛行士――おや、そこにいるのはピトラさん!」
 と、そこには、いつのまにかカモメの宇宙飛行士、ジョースターがいました。
「お久しぶりであります。ぜんぜん気づかなかったであります」
「……ぼくは、あんまり気づきたくなかったんだけどね、ジョー。なんとなくこのあとのハナシのながれに、ドンヨリしたカゲが見えかくれするんで」

「さあっ、しっかりこぐであります!」
「やっぱりだ、やっぱりオンボロ宇宙船だ!」
 ピトラとカソは、ジョーとガースといっしょに、宇宙船『イダテン』のオールをこぎます。
「ジョー!」
「なんでありますか?」
「この宇宙船、すてるんじゃなかったの?」
「しょぶんするお金がなかったのであります」
「だからって、つかうことないでしょーが」
「ほかに、かせぐほうほうがないんでヤンス」
「きちんとなおしてあるから、ダイジョウブであります」
 ジョーがゆびさすさきには、布でグルグルにまかれたパイプがあります。
「……なおした? あれがなおした?」
「水はもれなくなったであります。さあさあ、口をうごかさないで、手をうごかす。かいじゅうの星までもうすこしであります!」
「そうですよ、ピトラ。オリのなかではない、やせいのかいじゅうが見られるなんて、めったにないことですよ」
 カソはグイグイ、オールをこいでいます。
「カソ、いがいとチカラあるね?」
「わたしのチカラは、お金にしたがってふえるんですよ。しりませんでしたか?」
「……かいじゅうのしゃしん、ものすごく高く売れるんだね」
「そりゃ、かいじゅうですから」
「だって、ゲンさんとか、リュウさんとか、かいじゅうみたいなもんじゃない。めずらしくないとおもうけど」
「あのひとたちはえらいですから、しゃしんをかってに売ったらおこられるんですよ」
「なんか、イヤなりゆうだなぁ」

 宇宙船は、宇宙をつっぱしります。
「あー、つかれたぁ……」
「かんせいひこうにはいりやした、ひと休みするでヤンス。おひるごはんでヤス」
 ガースがピトラとカソに宇宙食を手わたします。
「ありがと」
 宇宙食は、まるいモチのかたまりみたいなものでした。
 かじってみると、ゼリーかモチをずっとかたくしたみたい。ほんのりあまくて、かすかなかおりがあります。べつにおいしくも、まずくもありません。
 かたさのわりには水けがあって、のどのかわきもおさまります。
(でもなんか、これでごはんって、そんしたきぶんだなぁ)
「さすがにわたしもつかれましたよ」
 カソも宇宙食をもぐもぐ食べています。
「ねえ、ジョー?」
「なんでありますか?」
「かいじゅうの星って、あとどれぐらい?」
「はい、あと100パーセクであります」
「パーセク?」
「おおよそ300光年であります」
「光年?」
「光が1年ですすむきょりですよ」
 2つめの宇宙食をたべながら、カソがいいます。
「……さっぱりわからないんだけど」
「わかりやすくいうと、4,000,000,000,000,000(4000兆)キロメートルであります」
「つかぬことをきくけど、ジョー」
「はい?」
「いままで、どれだけうごいたの?」
「400,000キロ。おおよそ、ちきゅうから月ぐらいであります」
「って!」
 ピトラは宇宙食をふきだしそうになります。
「つかないよ! とおすぎるよ! ムリだよ!」
「ピトラ、はじめるまえからあきらめてはいけませんよ」
「はじめてるよ! それではん日ぐらいずっとやってるって!」
「ははは、むろん、このままのすすみかたで行くわけがないであります」
 ジョーはピトラに手わたします。
「なに、これ」
「ワープせんようの、こうきゅうオールであります」
「……オールなの? ねえ、やっぱりオールなの?」

『これより、ワープに入る! そういん、はいちにつくんじゃ!』
 船長カモメのおやかたのどなりごえが、でんせいかんからつたわって来ます。
 ピトラたちは、オールをしっかりにぎります。
 ワープせんようのオールということもあって、ずっしりとおもく、じぃっと見ているとあたまの中がずれてしまいそうなむきにまがっています。
「カソ、こんなので本当にだいじょうぶだとおもう?」
 ピトラはとなりのカソにたずねます。
「ははは、わかいひとにはめずらしく見えるかもしれませんが、むかしの宇宙船は大体こんなでしたよ」
「わかいとか年よりとかは、かんけいないとおもうんだけど……」
「ワープ、5びょうまえ!」
 おやかたのこえに、ピトラはオールをにぎります。
「4」
 りょううでにチカラをこめます。
「3」
 りょう足をふんばります。
「2」
 おくばをかみしめます。
「1!」
 キッとまえをにらみます!
「2、3、4……」
「だああああっ! ふえてる! どうしてカウントふえてるの!」
『おおっとしっけい。まちがえた』
「たのむよ、もう!」
『まあカウントダウンはもういい。さっさとはじめてくれ。みんなでてきとうにこいでたら、ワープするんでな』
「……ジミなワープの入りかただなぁ」

 ピトラはオールをこぎはじめます。
 いや、こぎはじめようとしました。
「む」
 ずっしりとおもいオールは、ゆっくりしかうごかせません。
「むぎゅううううう!」
 ピトラは体ぜんぶにチカラをいれてこぎます。
 ぎ、ぎ、ぎぎぎぎぎ。
 オールはきしみをあげて、ゆっくりと宇宙をこいで――。
「うわっ、な、なんだ!」
 まどの外にみえる宇宙が、オールにかかれてうしろへ行きます。
「なっ、なな? な?」
「ワープせんようオールは、時空をこぎ、宇宙をゆがめてすすむのであります」
「そんなことしてだいじょうぶなの?」
「むこうからみれば、こっちがゆがんでいるのであります」
「そうなんだ」
「さあピトラ、口をうごかさないで手をうごかす! はやくつかないとこまりますよ」
「はいはい……」

『こぎかたやめぃ!』
 おやかたのごうれいで、ピトラたちはオールをこぐ手をようやくとめられました。
「うー、おもかったー」
 ピトラのうではガクガクにつかれています。あんまりオールをこぎすぎたので、うでがフワフワうかびあがりそうです。
 体中からふきだしたあせのシズクが、プカプカうかんでいます。
「ピトラ、ほら」
 カソがこえをかけます。
「――うわぁ!」
 まどの外にはおおきな星がみえていました。
 ちきゅうみたいに、青くはありません。りくちも海も、赤っぽいいろをしていました。
『ちゃくりくたいせいに入る、みんなブレーキのじゅんびをするんじゃい!』
 おやかたがどなります。
「ブレーキっていうと……」
「もちろん、これでぎゃくふんしゃでヤンス」
 ガースが、ワープせんようから、ふつうの宇宙ようオールにとりかえていきました。

 ズズズズ……。
 ホコリっぽい土の上に、宇宙船はゆっくりとちゃくりくしました。
「やー、つきましたね」
 カソがひょいひょいと外にでます。
 くうきはあるので、宇宙服はきていません。
「……カソ、ほんとうにチカラあるんだね?」
「なんですか、しみじみと?」
「宇宙船のブレーキ、カソひとりでやってたみたいなもんだったし」
「ピトラはしらないでしょうが、カモメの宇宙船はちゃくりくのときがひどいんですよ。がんばらないと、えらいことになるんです」
「いや、よくしってるけどね……」
「おはなしはそこまでであります」
 ジョーは、『イダテンツアー』とかかれたハタをもち、せびろをきてネクタイをしめています。
 もちろん、にあいません。
「本日は、イダテンかんこうをごりよういただき、まことにありがたいであります。これより、かいじゅうのすみかにランドボートで行くであります。おのりはおはやめに」
 大きいカヌーみたいなかたちのランドボートに、ピトラとカソとジョーはのります。
 ガースとおやかたは、宇宙船のてんけんです。
「うわ、このボートうかんでる! じめんの上なのに、水にうかんでるみたい」
「おもしろいですね」
「フウセンの木をくりぬいてつくった、ホバークラフトであります。さあ、しゅっぱつであります!」

「右手に見えますのが、岩であります。左手に見えますのが、木でありまーす」
 ピトラたちをのせた、ランドボートは赤い土におおわれたサバンナをはしりぬけていきます。
「このあたりの木は、赤い土からてつをとりいれるため、すこし赤いいろをしているのがとくちょうであります」
「かいじゅうたちは、これをたべるんですか?」
 しゃしんをとりながら、カソがたずねます。
「いいえ、ほとんどのかいじゅうは、なにかをたべるひつようはないのであります」
「そういうものなんですか?」
「もしも、かいじゅうがなにかをたべるのだとしたら、この星なんかあっというまに丸ボウズであります」
 ジョーの言うとおり、サバンナの木にはたべられたようなあとはありません。
「かいじゅうというのは、かみさまがてんばつのために作ったとも、大むかしのぶきとも、ほかのかみさまのなれのはてとも言われているのであります。だから、ジブンたち生きものとは、ねっこからちがうのであります」
「なるほど」
 と、そのとき、ランドボートがとまってしまいました。
「カソ、かわって」
 ピトラはいきをきらせながら、オールをカソにわたします。
「もう、こうたいですか?」
「こうたいもしたくなるよ。どうしてじめんをはしるものまで、オールでうごかさなきゃいけないのさ?」
「宇宙船イダテンには、ほかのどうりょくなんてつんでないであります」
「でんきとか、ガソリンとか、エネルギーってものはないの!?」
「ひとのチカラですませられるなら、それが1ばんであります」
「そうそう、ひとのチカラがいちばんやすいエネルギーですよ」
 カソがオールをかまえます。
「さあ、ジョーさん、ピトラ、いきますよ」
「あー、はいはい」
「カジはまかせるであります!」
「ぬぬうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
 カソがものすごいスピードで、オールをこぎはじめました。
 バショウセンのエキスが入っているオールは、ひとかきごとに風のかたまりをふき出し、ランドボートはそのいきおいですすみます。
 びゅううううううう……。
「はやいはやい」
 ピトラはとぶようにすぎていく、まわりのけしきをながめます。
 じそく100キロもこえているでしょうか。
「ピトラさん、きをつけないと――」
「うひぃっ!」
 たれ下がった木のえだが、ピトラのあたまのギリギリのところをとおりすぎていきます。ぶつかっていたら、ケガではすみません。
「あぶないであります」
「わかった……って、カソ、もうすこしゆっくりすすんでよ!」
「なにを言ってるんです、ときは金なり、タイム・イズ・カネーですよ」
 ぐんぐんスピードが上がっていきます。
 びゅぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 くうきていこうが大きくなって、ピトラはランドボートの中に体をしずめていないと、いきもできません。
 ごおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 カソのオールはなんだか、ジェットエンジンみたいなおとをたてています。
 山みちをいっきにのぼり、とうげから――。
「うわあああっっ、とんでる、とんでる!」
 ちょうどジャンプだいからとび出したみたいに、ランドボートはそらへまいあがります。
 と。
 きゅうにひらけた山のむこうには、あの、オリの中にいたものより、ずぅっと大きなかいじゅうたちが、なんとうも、なんとうもいました。

 かいじゅうのすみかです。
 いえ、そんな生やさしいものじゃありません。
 かいじゅうだらけ、かいじゅうがうじゃうじゃ、まさしくかいじゅう王国です。
 かいじゅうたちは、どれ1つとしておなじすがたのものはありません。
 けんかをしたり、じゃれあったり、はしったり、とんだり、オリの中にいたかいじゅうより、ずっと元気です。
「おおっ、すばらしい」
 カソがカメラをかまえたとき。
 せなかに手のひらみたいなかたちをしたヒレのついた、きょうりゅうでいうとティラノサウルスにちかい2本足のかいじゅうが、ピトラたちをギロリとにらみました。
 つぎのしゅんかん。
 かいじゅうは、白い、こうせんみたいな、炎みたいなものを、口からふき出しました。
「あぶないであります!」
 ジョーが、とっさにオールをまえにむけてふります。
「むぎゅぅ!」
 まえにすすんでいたランドボートが、ぎゃくふんしゃでいきなりうしろにもどったのです。ピトラの体はつぶされそうになります。
 でもおかげで、かいじゅうのこうげきが、ギリギリでそれていきました。
「せっかくのシャッターチャンスだったのに」
「そんなこと、言ってるばあいじゃないよカソ!」
 ピトラはかいじゅうたちをゆびさします。
 みんな、ピトラたちをにらんでいました。
「これは、にげたほうがよさそう……ですかね?」
「あたりまえでしょ!」
「さんせいであります、きんきゅうかそくでてんしんであります」
 ピトラとカソとジョーは3にんで、6本のオールをつかいはじめます。
「よいせっ! よいせっ! よいせっ! よいせっ!」
 今までのつかれはどこへやら、ピトラたちはもうれつないきおいでオールをこぎます。
「よいせっ、よいせっ!」
「はっ、はっ、はっ、はっ!」
「うんしょであります、うんしょであります、うんしょであります!」
 じそく200キロをこえようというスピードです。
 ズン!
 ピトラたちのすぐそばに、ピトラの50ばいもありそうなトゲがつきささります。
 体中にトゲの生えたかいじゅうが、とばしたのです。
「うひっ、なんか、さいきん、こういうの、おおいなぁ!」
「このまえっ、はっ、石におっかけ、られたんっ、でしたっけ」
「カソッ、どうしてっ、しってるの?」
「えーと、いや、なんとなくです。べつに、さばくの花のおうさまをよこどりしようとして、サワイさんをやとったとかじゃ、ありません」
「ピトラさん、カソさん、上であります!」
 見上げれば、コウモリみたいなハネでクビが3本はえたかいじゅうが、火の玉をはきながらとんできます。
「うわっ、火だっ!」
 ランドボートのすぐそばに、火の玉がおちてはれつします。
「あぶないっ、こんどは左!」
 ピトラがどなります。
 カソとジョーは、オールをうまくさばいて右へよけます。
 かんいっぱつ、火の玉はハズレ。
「右!」
 火の玉はハズレ。
「左!」
 またハズレ。
「うまいです、ピトラ!」
「上、上、下、下、左、右!」
 火の玉はぜんぶハズレ。
「やった!」
「いや……まだ、で、あります」
「へ?」
 きがつくと、空には、空とぶかいじゅうが、なんじゅっぴきもいました。
「あれって、ひょっとして……」
 そしてそのぜんぶが、口をくわっとひらきます。
「ひょっとしますよ!」
「ひょっとするであります!」
 あめみたいに、炎や、どくえきや、れいとうこうせんなんかがふりそそぎます。
「うわうわうわわわわっ!!」
 ばさっ!
 ピトラはおもわずオールをもって、空にむけてふっていました。
 ごおおおおおおおおおおっっっ!
 オールでまきおこった風が、とんでくるものをふきとばします。
「ああっ、そうでありました。オールは大きな風をおこすのであります」
「空をとんでいては、ふんばれませんしね」
 ピトラたちは、空にむけてめちゃくちゃにオールをふります。
 オールのおこす大きな風は、もうれつな嵐になって、空のかいじゅうたちのバランスをくずします。あるものはちじょうにおり、あるものはよそへとんでいってしまいました。

「やったっ!」
「まだ、ちじょうのかいじゅうがきてますよ!」
「はやくイダテンにもどるであります!」
 ピトラたちは、オールをこいでランドボートをはしらせます。
 でも……。
「はぁっ、はぁ、もう、ダメ」
 がんばらなくちゃとはおもいますが、ずぅっとオールをこぎつづけたピトラのうでは、こんどこそほんとうにうごかなくなっていました。
「がんばるであります、まけるなであります!」
 ジョーはカモメなので、もともとチカラがそれほどありません。
「よいせ、よいせ、よいせ……ふぅ」
 カソも元気がありません。
「カソもつかれたの?」
「いえ……しゃしん、とれなかったですし、いまがんばってもお金にならないので、どうもやる気が」
「いのちはお金でかえないんだよぉ、がんばってよ!」
「でも、いのちでお金はかえないですしねぇ。いや、がんばらなくちゃとはおもってるんですよ、ほんとうに」
 カソはオールをおもそうにうごかします。
 かいじゅうは、どんどんせまっています。
 トゲが、またちかくにおちます。
「うわっ!」
 ピトラはあわててオールをこぎます。
 でも、ながくはつづきません。
「ぜぇぜぇはぁはぁ……」
 うでがつかれきって、ピクピクふるえています。
 なんか、うでがピトラのものでなくなったみたいに、うごきません。
「なんのお!」
 ピトラはオールをがばっとかかえこんで、体ぜんたいでこぎはじめます。
「よいせっ、よいせっ、よいせっ!」
「よい、しょ、であります、よい、しょ、であります」
「わっせ、わっせ、わっせ!」
 かいじゅうたちの足は、ずっとはやく、どんどんあいだがつまっていきます。
「あきらめない、あきらめないぞ」
 ピトラたちはこいで、こいで、こぎつづけました。
 でも、ついに――。
 すぐうしろに、かいじゅうの大きな口がせまります。
 のどのおくに、炎のかたまりが見えました。
 このちかさで炎をあびたら、スミになってしまいます。
「ぜったい、あきらめるもんかあっ!」
 炎のあつさを、せなかにかんじながら、ピトラがオールをこいだとき。
 目のまえが、くらくなりました。

「え?」
 ピトラはあたりをみまわします。
「あぶないとこだったでヤンス」
 ガースでした。
 ピトラたちのランドボートは、スミになるよりいっしゅんはやく、宇宙船イダテンにすくいあげられていたのです。
「たすかった、の?」
「そうみたいですね」
「ガース、たすかったであります」
「おやかたがかいじゅうたちがさわがしいのにきづいて、来てみたんでヤンスよ」
 ワープせんようオールをつかっているのか、もう、まどの外は宇宙でした。
『おおい、はやくかわらんか。ワシひとりにいつまでこがせる気だ』
 でんせいかんから、おやかたのどなりごえがしました。

「――あー、ちっちゃいかいじゅう」
 ピトラとカソは、かいじゅう『ニグラス』のオリのまえのベンチにすわっていました。
「でも、これぐらいがいいですよね」
 カソはカメラのシャッターをきります。
「うん、これぐらいがいいよね」
 ピトラは「めいぶつかいじゅうアイス」をたべます。
「ほんものがいちばんってワケでもないよね」
「そうそう、こうやってよゆうをもって見たほうが、こまやかないいしゃしんもとれるってもんです」
 フィルムを入れかえて、カソはまたしゃしんをとります。
「きょうはあったかいですねぇ」
「そだねー」
「ピトラ、アイスちょっとくれませんか?」
「たかいよー、なんてね。いいよ」
「――かいじゅうのあじがしますね」
「うん。マズいよね、このアイス」
 ピトラとカソは、大きなあくびをしました。
 オリの中のかいじゅうも、ねむりながら1つ大きなあくびをして、ピン、とトゲをとばしました。

<おしまい>