
ごんぱち
ガタン……ゴトン……ガタン……ゴトン……。
まどのそとを、ゆうひにそまったビルやいえやでんちゅうなんかが、とおりすぎていきます。
おとうさんのポポトさんとピトラは、でんしゃにのっていました。
きょうは、ポテトのけんしんにでかけたおかあさんとまちあわせて、そとでごはんをたべるのです。
ガタン、ゴトン!
「うわたっ!」
「おっと、あぶないよ、ピトラ」
でんしゃがゆれて、ころびそうになったピトラを、おとうさんがつかまえます。
「あ、ありがと、おとうさん」
「きをつけるんだよ。ぼくのてに、しっかりつかまってなさい」
「うん……」
ピトラは、おとうさんのてをつかみます。
おおきくてがっしりしたて。
これならあんしんです。
でも。
(ちぇっ)
ピトラは、なんだかおもしろくなさそうです。
(もう、ひとりでたてるのに)
とおくにあるドアをみます。
ドアのよこには、てつのてすりがついています。でも、でんしゃは、こんでいて、てすりにつかまりにいくことはできません。
(いまだって、ちょっとゆれて、よろけただけなのに)
ピトラは、おとうさんのつかんでいるつりかわをみあげます。
(ぼくだって、あれにつかまれたら、おとうさんにたよらないでもへいきなのに)
つりかわは、ピトラのあたまよりもずぅっとうえにさがっています。しろいつかまるわっかが、でんしゃのゆれとはんたいがわに、ゆらゆらゆれています。
(かっこわるいなぁ。まわりのおきゃくさんも、ぼくがひとりじゃたてないっておもってるのかなぁ)
そうおもいはじめると、とまりません。
みぎのサラリーマンも、ひだりのがくせいも、さっきせきをゆずったおじいさんまで、ピトラをわらっているみたいにおもえてきました。
(じょうだんじゃない、ぼくだって!)
ピトラは、キッとつりかわをにらみました。
ぐぅぅぅぅぅっとうでをのばして、ピトラはつりかわをつかもうとします。
(もっとだ!)
ぎゅぅぅぅぅぅぅぅ。
(まだまだ!)
せのびをして。
(なんのなんの)
ゆびをのばして。
(もう、す、こ、し)
ゆびさきがつりかわにさわり――ません。
(くぅうぅ!)
そのときです。
でんしゃがガタンとおおきくゆれました。てをのばしていて、ただでさえバランスがくずれていた、ピトラはころび――ません。
「あぶないよ? ピトラ」
ころぶまえに、おとうさんがまた、ピトラをささえていました。
(もう! かっこわるいったら! ころぶぐらいへいきなのに)
ピトラはおとうさんのよこがおを、うらめしそうにみあげます。
それから、つりかわも。
(こんどこそ!)
ピトラは、もういちどつりかわにうでをのばします。
そのとき。
「なんだいピトラ、つりかわにさわりたかったのかい?」
おとうさんは、ピトラをだきあげようとします。
「やめてよ!!」
ピトラはおもわずおおきなこえをだして、おとうさんのてをふりはらっていました。
「ピトラ?」
「あっ、その、ご、ごめんなさい……」
「ピトラどうして……あ、ひょっとして」
おとうさんは、ピトラのめをみました。
「ひとりでつかまりたい、そうおもったんだね?」
「うん!」
さすがはおとうさんです。ピトラのかんがえることが、よくわかってます。
「よし、わかった。ぼくはてだししないから、おもいっきりためしなさい」
「ほんとう!?」
「もちろん。ああ、いつのまにかピトラも、おおきくなっていたんだねぇ」
「えへへ」
ピトラはつりかわに、うでをのばします。
さっきは、おとうさんにかたてでつかまっていましが、いまはちがいます。
さっきよりも、ずっとうでがのびます。
ぎゅぅぅぅ。
「ううううん!」
「がんばれ、ピトラ」
ぐぅぅぅぅぅぅぅ。
「もすこしっ」
「がんばれがんばれ、ピトラ!」
ぎゅううううぅぅぅぅぅ。
ガタン!
そのとき、でんしゃがまたおおきくゆれました。
ビタン!
ピトラはころびます。
「いたたたた」
でも、じぶんでたちあがります。もうおとうさんも、たすけません。
「なんのなんの!」
「まけるな、ピトラ!」
「はいっ!」
あらためて、せのびをはじめます。
さっきより、ずっといきおいをつけて、おもいきり。
ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「もっとだっ!」
「がんばれピトラ! もうすこし」
むぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
「くぅっっ!」
「まだのばせるぞピトラ、まだのばせるよ!」
ぶにゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「へんなおとがしたって、がんばるぞっっ!」
「コンジョウだよ、ピトラ、コンジョウだ!」
ぎゅぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!
「もう、ぜんぜんせのびのおとじゃないけど、まけるもんかっ、コンジョーだっ!」
「ピトラ、ただのコンジョーじゃダメだっ! ドコンジョーや、ナニワのドコンジョーやっ!」
「ここって、カンサイだっけ?」
「コンジョーにりくつはいらないよ、ピトラ!」
「わかったよ、おとうさん!」
のびきったあしさき、ひざ、こし、せなか、かた、ひじ、そしてゆびさき。
そのすべてが、ちょっぴりづつ、ちょっぴりづつ、たしかにのばされます。ねらいはただひとつ、つりかわだけ!
「ピトラ、ファイトだああああっ!」
「うおおおおおおっ!!」
のびきったゆびのさきが。
つりかわに。
つきました!
ゆびさきにふれたつりかわを、ピトラはゆびさきでたぐりよせてしっかりとつかみます。
「やった!」
「すごいぞピトラ!」
「やったんだよね、ぼく、ね? おとうさん!」
「そうとも。すごいぞピトラ。さすがはぼくのむすこだ!」
おとうさんは、かおいっぱいでわらいます。
「すごいなぁ。ピトラはいつのまにか、こんなにおおきくなっていたんだなぁ。おとうさんはうれしいよ、やった!」
「えへへへ」
ピトラは、つりかわにつかまったまま、わらいます。
なんか、もう、ちょっとあしがうきそうになっていましたが、たしかにピトラがつかんだつりかわです。
「ぼく、こんどから、つりかわにつかまれるからね!」
「うんうん。そうだね、そうだね……」
ピトラとおとうさんが、かたをたたきあってよろこんでいると。
「あの……」
だれかがこえをかけました。
「え?」
「へ?」
ピトラとおとうさんがふりかえります。
そこには、こまったようなかおをした、しゃしょうさんがたっていました。
「しゃしょうさん?」
「なんのようですか?」
「いや、なにって……しゅうてんなんですが」
「ええっ!」
「しまった! ああっ、ピピラさんとのまちあわせじかん、すぎちゃってる!」
ピトラとおとうさんは、ころがりおちるようにでんしゃからおりました。
――そのあと、30ぷんもまたされたおかあさんとポテトから、おとうさんもピトラもこっぴどくしかられたことはいうまでもありません。
<おしまい>
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