
ごんぱち
「ゆうびんでーす」
ゆうびんやさんが、ゆめのせかいにきていたピトラに、てがみをてわたしました。
「って……カソ。なにやってんの」
「ゆうびんはいたつですが?」
カソは、いつものひねずみのせびろに、ゆうびんきょくのマークがはいったぼうしをかぶり、じてんしゃにまたがっています。
「カソって、はたらくのがシュミなの?」
「どうしてそうおもうんです?」
「ええと、さ。ぼくたち、このまえ、たからみつけて、やまわけしたよね?」
「ええ」
「あれって、ものすごいきんがくだったよね?」
「ええ」
「そろそろ、ぼくがきこうとしていること、わかってくれないかなぁ」
「それはムリというものですよ、ピトラ。ひとのこころは、そうカンタンにはわかりません。また、わかったきになっても、ほんとうのところでは――」
「ひょっとして、だけど」
「はい?」
「もう、たから、ぜんぶつかっちゃった……とか?」
「そうですよ」
ピトラはあんぐりとくちをあけて、だまりこんでしまいました。
「さすがに、あれだけあると、いろんなものがかえましたよ」
カソはてちょうをひらきます。
「これで、『おかねがあったら、ほしいものリスト』の、9421ばんめまで、かえました」
「……そんなリストつくってるの?」
「べんりですよ」
カソは、いくつもてちょうをだします。
「こっちが『なんでもねがいごとを、っていわれたときのほしいものリスト』。こっちが『ぶつぶつこうかんのときの、ほしいもの&あげてもいいものリスト』。これが『プレゼントでほしいものリスト』それから、それから」
「いや、わかったから。もういいから――ええと、てがみだったよね」
ピトラは、きをとりなおして、てがみのふうをきります。
「あっ、これ……さかさまむらの、ロカからだ」
「いまは、さかさまボシですね。なんてかいてあるんです?」
「ええとね、たまにはあそびにきて、って」
ほんとうはもっといろいろかいてあったのですが、ピトラあてのてがみです。カソにおしえてよさそうなのは、そのへんだけでした。
「いくんですか?」
「いきたいけど……」
ピトラは、ブルッとふるえました。
さかさまボシへは、さかさまむらから、ずぅーーーーーーーーーーーーーーっとおちなければいけません。
(ロカにはあいたいけど、あれはこわいし、つらいし、ふうせんのみで、おなかパンパンになるし……)
「どのうちゅうせんでいくんですか? なんなら、わたしがかわりにチケットのよやくを……」
「うちゅうせん!? おっこちなくて、いいの?」
「しらなかったんですか?」
カソは「しまった」というかおをします。
「カソ……じょうほうりょうがとれたのに、とかおもったでしょ」
「あとばらいでも、けっこうですけど」
「カソがしんせつで、おしえてくれたんでしょ。へへへ」
「むぅ、ケチですねぇ」
「ケチでけっこう。カソほどじゃないしね」
「わたしはケチじゃありませんよ――ああっ、いけない、はやくしないとはいたつがおわらない!」
ピトラは、ひとりでながーーーーーーーーーーいエレベーターにのって、スペースポート――うちゅうせんのりば――へきました。
「って……そんなモノがあったってことが、おどろきだよ」
でも、このまえ、いちばでうちゅうせんがうってましたし。
「ええと、キップをかわなきゃ」
スイヘイのせいふくをきた、カモメが、あちこちでしごとをしています。
「あの、ちょっといいですか」
だいしゃをおしているカモメに、ピトラはこえをかけます。
「なんでありますか?」
「ぼく、さかさまボシに……」
「ああ、まっていました。さあ、こっちであります!」
カモメは、ピトラのてをひいて、あるきだします。
「えっ? あの、ちょっと?」
「いやあ、たすかるであります。なにしろ、このじきはいそがしくて」
「え? ええ?」
「きゅうりょうは、さきにおわたしします」
カモメは、ピトラにキップをわたします。
「ええと、おなまえは、カソさんでしたね。じぶんは、ジョースターであります。ジョーとおよびください」
「ええっ!?」
どうも、ピトラはカソとまちがえられたみたいです。
ピトラはわたされたキップをみます。
(フリーパス? ああ、1にちのうちなら、なんどでもつかえるキップだ)
「あのさ……」
「いやぁ、てつだっていただけないときいていたので、ガッカリしておりましたが、きていただけるとは。ほんとうにたすかるであります」
ピトラはあたりをキョロキョロみまわします。でも、カソのすがたはありません。いっていたとおり、きょうはずっとゆうびんやさんなのでしょう。
「ちょっとまってよ。ぼく、カソじゃないよ」
「えっ? でも、さかさまボシへ……」
「いきたいってだけだよ」
「そうでありましたか。これは、もうしわけありません」
ジョーは、がっかりしたかおで、あたまをさげます。
「では、ジブンはこれで。しつれいいたしました」
ジョーのうしろすがたは、とってもげんきがありませんでした。
「ちょっとまって!」
ピトラは、よびとめていました。
「さかさまボシまででよければ、てつだえるよ?」
スペースポートのながいつうろを、ピトラとジョーはあるいて、さんばしにきました。
「さあ、これが、われわれのうちゅうかもつせん、イダテンです!」
ジョーはまどのそとを、ゆびさします。
「うわぁ……」
おもわずピトラはこえをだします。
「これ、ほんとうに」
はじめてみる、うちゅうせんです。
「……ボロい」
そうです。
うちゅうせんは、ボロボロでした。
ロケットというよりも、トラックみたいなしかくいかたちをしています。それはいいのですが、ひょうめんはサビているのかかけているのか、ボロボロになっていて、まどもこまかいきずですりガラスみたい。まえについている、インセキよけのきんぞくばんなんか、1どわれたものをリベットでとめなおしてあります。
「みためはオンボロでありますが……」
うちゅうせんへつながるとびらがひらきます。
「なかは、ほら!」
「……もっとオンボロじゃない!」
かべはよごれていますし、あちこちに、ヘンなパイプがはりだして、ところどころみずがもれています。
ピトラはゆびさきで、かべをさわります。なんか、くろいのがゆびにくっつきました。
(いまからでも、まともなうちゅうせんにのったほうが、いいかもしれない……おかねあるんだし)
「ねえ、ぼく……」
「いやあ、ピトラさん、ほんとうにかんしゃであります! ありがとうございます!」
「まあ……うん、はは」
さきにおれいをいわれて、ピトラはわらうしかありませんでした。
「むむ、ジョースター! もどったか!」
「センパイ、おかえりなさい」
そのとき、おおきなこえがして、おくからカモメが2わでてきました。
「おやかた、ガース! アルバイトをつれてきました! ピトラさんです!」
「おおっ、いいからだをしとるのぉ!」
おやかたとよばれたカモメは、わらいます。
「いやあ、たすかりヤス」
ガースとよばれたカモメが、あたまをさげます。
「では、さっそくしゅっぱつするぞ!」
「了解であります!」
「ヘイ!」
ピトラたちは、そうじゅうせきにすわります。
「これをつかうであります」
「……え? ねえ、ジョー?」
「なんでありますか?」
「なに、これ」
ピトラは、てわたされたものをみます。
「そうじゅうを、てつだってもらうのありますが?」
「オールで、どうやって?」
そう、オールなのです。
ボートをこぐときにつかう、オール。
「もちろん、こぐであります」
「うちゅうせん、だよね?」
「カンジでうちゅうのふねとかいて、うちゅうせんとよむであります」
「エンジンは? ねえ、エンジンは?」
「そげなたかいもの、ついとるわけないじゃろう」
「さかさまボシはちかいでヤンスよ。ピトラさんにてつだってもらえれば、あっというまでヤス」
「だまされたーーー!」
ギィコ、ギィコ、ギィ……。
うちゅうせんのそとへつきだされたオールが、うちゅうをかきます。
「うー、つかれたー」
ピトラは、ためいきをつきました。30ぷんもオールをこぎつづけて、あせびっしょりです。
「やすまず、こぐであります」
となりで、ジョーもオールをこいでいます。
「こんなのですすむの?」
まどのそとには、まだスペースポートがみえます。
「ジブンたちが、けんこうづくりのために、ボートこぎうんどうをやっているとおもっているのでありますか?」
「そんなきがするよ」
「ぜんぜんちがうであります。このオールは、バショウセンのエキスがまぜてあるので、みずやくうきがなくても、すごいパワーですすめるのであります」
「……むずかしいことはよくわからないけど、ともかくムダじゃないっていいたいわけね」
「そのとおりであります!」
ピトラはオールをもちます。
(まあ、どうにしても、こぐしかないんだろうけど)
ギイィコ、ギィコ、ギィコ、ギィコ……。
たしかに、うちゅうせんのそとにだしたオールは、ひとかきごとにエネルギーのかたまりをつくって、そのはんどうでうちゅうせんはすすみます。
ギィコ、ギィィコ、ギィコ、ギコ……。
ゆっくりですが、かくじつにかそくして、おそくなりません。
「ねえ、ジョー?」
「なんです?」
「さかさまボシへいくんだったら、さかさまむらのうえにいって、おっこちたら……」
「うちゅうせんが、さかさまぼしにゲキトツするでありますが?」
「ああ……そうか」
このまえ、ピトラがぶじだったのは、ふうせんのみがあったから。このうちゅうせんをうかせるのは、たいへんそうです。
「ですから、さかさまボシへは、あのさかさまなじゅうりょくのそとをゆっくりすべっていくのであります」
「ふーん」
「さあ、もういいであります。あとは、こがないでもすすむであります」
いつのまにか、まどのそとをながれるほしは、はやくなっていました。
「では、そうじをおねがいするであります」
「うん」
ピトラは、シートベルトをはずしました。
と。
「うわぁ?」
ピトラのからだが、うきあがります。
そしてとびでたパイプへ――。
「あぶないっ」
ぶつかるまえに、ピトラはパイプにつかまります。
でも、つかんだてをちゅうしんにして、からだがぐるっとうごきます。
「あわわわ!」
「むじゅうりょくは、はじめてでありますか?」
あぶないところで、ジョーがピトラをささえてくれました。
「さいきんおもうけど、ぼくのじんせいって、はじめてじゃないことのほうがすくないとおもうよ」
「このクツをはくであります」
「クツ?」
ピトラはクツをはきます。すると、クツのそこが、ゆかにはりつきました。
「あ、うかない」
「ジシャクいりのクツであります」
「なるほど」
クツは、ペタペタとゆかにくっつきます。カベもてんじょうにもくっつきます。
「なんか、さかさまむらをおもいだすなぁ」
「おたのしみのところ、もうしわけないですが、そうじをおねがいするであります!」
「うん」
ピトラは、よごれたカベをそのへんにうかんでいたゾウキンでふこうとします。
「ピトラさん、そんなものはどうでもいいのであります! もんだいは、こっちであります!」
ジョーは、くうちゅうにうかんでいる、ガラスだまみたいなものをゆびさしました。
「あっ、なにこれ、キレイ!」
「みずであります」
「え? みず?」
ジョーはゆびさきで、それをかるくはじきます。
ぷるんとふるえて、2つにわかれます。その1つを、ジョーはパクリとのみこみます。つられて、ピトラももう1つをパクリ。
「わぁ、ほんとうにみずだ!」
「わかったら、うかんでいるみずを、ぜんぶのみほすであります」
「それ、そうじなの?」
「みずにぬれると、デンキがもれて、キカイがこわれるであります」
「メチャメチャあぶないよ! どうしてみずもれをなおしておかないの?」
「こんかいのしごとで、このうちゅうせんはしょぶんするよていなのであります」
「……やっぱり、タダのボロフネじゃないか!」
「タダではありません。すてるのにも、おかねがかかるのであります」
「なんのフォローもしてないよ、それ」
みずのたまが、ふわふわうかびます。
ピトラはそれに、ストローをあてて……。
ちゅぅぅぅぅぅぅ。
ごっくん。
みぎに1つ。
ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
ごくり。
ひだりに2つ。
ぢゅぅぅぅぅぅぅぅ。
ごくっ。
うえに4つ。
「んー、とどかない」
ピョンとジャンプをして――。
「うわっわわわっ」
とびあがったピトラは、そのまま、みずのたまへかおからぶつかりそうになりました。
でも。
くちをおおきくあけて、パクリ。
ごっっくん。
「どんなもんだい」
ピトラは、じまんげにわらいますが……。
いきおいのついたからだは、そのままてんじょうへ。
「うわっ、ぶつかる、ぶつかる、ぶつかる!!」
ジタバタとてあしをうごかしますが、とまりません。
ゴツン。
とうとう、あたまをゆかにぶつけてしまいました。
「イタタタタ……」
「だいじょうぶでヤンスか?」
となりの、かもつしつからガースがやってきます。
「あと10びょうはやかったら、だいじょうぶだったんだけどね、ガース」
ピトラは、あたまをさすります。
「やあ、だいぶかたづいたでヤンスね。もう、こまかいところは、ジブンがやりヤス」
「いいの?」
「ピトラさんは、おやかたのてつだいをしてほしいでヤス」
「うん。でも、そのまえに」
「なんでヤンスか?」
「トイレどこ?」
「ふー、なんだか、すぐトイレにいきたくなるなぁ」
トイレからでてきたピトラは、おしぼりでてをふきます。
「みずでてをあらえないのって、なんかイヤだな」
トイレのまえにかけられた、カガミをみます。
なんだかピトラのかおが、おつきさまみたいに、まるくなっていました。
「うちゅうって、なんかヘン――とと、おやかたからよばれてたんだっけ」
ピトラは、いちばんまえのへやへいきます。
ドアには、あんまりうまくないじで、『せんちょうしつ』と、かいてありました。
ピトラはドアをノックします。
「ピトラだけど?」
「おお、まちかねた」
ドアがひらき、おやかたがでむかえます。
「さあ、かけたまえ」
「うん」
ピトラはソファーにすわって、シートベルトをかけます。
「それでしごとって?」
「いやいや、もうカンセイこうこうにはいっておるのでな、ジョーとガースにまかせておいてかまわん」
むかいがわのソファーに、おやかたもすわります。うちゅうになれているせいか、そのうごきはとってもしぜんです。
「それより、キミがさかさまボシのえいゆう、ピトラだったんですな」
「えいゆう?」
「なんでも、さかさまむらのひとたちのために、さかさまボシをみつけたそうですのぉ」
「ああ、そういえば。でも、アレはおっこちただけだしなぁ」
「いやいや、なにがあるか、どうなるかわからないせかいにちょうせんする、そのフロンティアスピリッツ、みあげたものですぞ! あなたはぼうけんかのそしつがある」
「いやぁ、あはは、それほどでもあるけど。なんたって、ぼくもいろんなぼうけんをしてきたからねー」
ピトラはじまんげにむねをはります。
「そんなピトラくんをみこんで、せんがいさぎょうをおねがいしたい」
「へ? せんがい――なに?」
「せんがいさぎょう。うちゅうせんのそとで、さぎょうをするっていみですぞ」
「ち、ちょっと、まってよ、うちゅうせんの、そとにでるの?」
「こんなこと、ピトラくんにはカンタンすぎるでしょうが、どうにもわれわれにはきけんで」
ピトラはただ、くちをパクパクさせていました。
そりゃあ、ピトラだって、いろんなぼうけんをしました。でも、うちゅうのそとへだされるのは、こわいにちがいありません。
「でも……ほら、ぼく、うちゅうはじめてだし」
「なるほど! はじめてだからこそ、やるきになると! すばらしい! まさにぼうけんかです!」
「ぜったい、だまされた。ぜったい、ぜったい、だまされた」
ピトラは、うちゅうふくをきて、うちゅうせんのそとがわをあるきます。
あたまのうえにひろがるうちゅうには、どこまでいってもおわりがありません。
もしもクツのじしゃくがはずれて、ちょっとでもとびあがったら、そのままずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっととおくへとんでいってしまいます。
なんにもないところを、えいえんにただようのです。
「こわいいいいいい!」
ピトラはうちゅうふくとうちゅうせんをつなぐロープを、ぎゅっとにぎります。
「うう……」
ピトラはなきそうになりながらも、うちゅうせんのうえをすすみます。
そのとき、ぐらりとうちゅうせんがゆれました。
「うわっ」
ピトラは、びっくりしてかるくとびあがりました。
かるく。
でも、りょうあしは、うちゅうせんからはなれて。
「うわあああっ、わわわっ、おち、おちおちおちる!」
うちゅうせんが、どんどんとおくなっていきます!
「ひいっぃぃぃぃ!」
ピトラはおおあわてで、ロープをたぐりよせます。なんとか、クツのうらのジシャクが、うちゅうせんにくっつきます。
「あー、びっくりした! まったく、もっとやさしくうんてんしてよね!」
ピトラは、またソロソロとすすみはじめます。
(うー、やりたくないけど、やらなきゃおわらないし……)
ゆっくり。
ゆっくり。
ゆっくり……。
そのとき、またうちゅうせんがゆれました。
「うわっ」
こんどは、とびあがりませんでした。
でも。
うちゅうせんのよこを、てっぽうだまみたいなものが、いっしゅんでとおりすぎていきました。
「な、なんだ? アレ?」
ピトラは、まえをみます。
まえについている、インセキよけのきんぞくばんが、われています。
「ひょっとして、さっきとんでいったのは、くだけたインセキ?」
ピトラはブルッとふるえると、もう4つんばいになって、ハイハイしながらすすみました。
「ああ……ここか」
うちゅうせんのそとがわのいちぶに、ヒビがはいっています。
ピトラは、それにせっちゃくざいみたいなものをくっつけて、ふさぎました。
「あー、じゅみょうがちぢんだよ!」
うちゅうふくをぬいだピトラは、いすにこしかけます。
「おつかれであります。そろそろちゃくりくなので、シートベルトをしっかりしめるであります」
「えっ、もう?」
「もうであります」
なんだか、どんどんうちゅうせんがはやくなっていきます。
そして、まどのそとの、ほしの1つが、だんだんだんだんおおきくなってきます。
あおくてしろくてみどりで、まるで、ずかんでみたちきゅうそっくり。
「うわあ、アレ、さかさまボシだよね?」
「はいであります!」
「へえ……このまえは、あんまりしっかりみなかったけど、なかなかキレイな――」
さかさまボシを、うちゅうせんはとおりすぎていきました。
「ええっ、ちょっと!」
「いま、ブレーキをかけるであります」
うちゅうせんは、ぐぅっとさかさまボシのまわりをまわります。
「ぜんぜんおそくならないみたいだけど? ブレーキこわれてるんじゃない?」
「いまからかけるであります。どうぞ」
「……なに、これ」
「オールであります」
ジョーがピトラにてわたしたのは、オールでした。
「ジョー。これで、ぼくになにをしろって?」
「ブレーキであります。さあ、はやくしないと、ちゃくりくできないであります!」
「……はいはい」
しゅっぱつしたときとはんたいがわをむいて、ピトラはオールをこぎはじめます。
「よい……しょ! よいっっっしょ! よいしょおおぉっ!」
しゅっぱつするときより、ずっとおもたくなったオールを、ピトラはなんどもこぎます。
「おもいぃぃぃぃぃ!」
「がんばるでヤンス! しっかりとまらないと、ちじょうにゲキトツでヤンス!」
となりで、ガースが、まえではおやかたとジョーが、オールをこいでいます。フルパワーです。
うちゅうせんはおそくなりながら、さかさまボシのまわりをまわります。
「よいしょよいしょよいしょよいしょよいしょ!」
ピトラはガンガンこぎます。
「よいしょであります、よいしょであります、よいしょであります!」
ジョーもバリバリこぎます。
「ヨイショでヤンス、ヨイショでヤンス、ヨイショでヤンス!」
ガースもどんどんこぎます。
「うんとこどっこいせー、そら、あっとこどっこらせー」
おやかたは、えっちらおっちらこぎます。
「おやかた、テンポわるい!」
「みんようずきなので、しかたないですな」
「ムダぐちたたくヒマはないであります!」
「ゲキトツしたらバラバラでヤンス!」
「いっつもこんななの? パラシュートとかつけてないの!?」
「ついていたのでありますが!」
「このまえこわれたでヤンス!」
「だから、すてることにしたんですぞ」
「……もしもぼくがうちゅうせんをもつことがあったら、ぜったい、ぜったい、こんなボロふねにはしない。ゼッタイだ。ゼッタイ!」
じめんがせまっています。
ピトラたちはこぎました。
もう、しにものぐるいでこぎました。
ズズズズズ、ズササササッザザザザ!!
じめんを10000メートルもすべって、うちゅうせんはとまりました。
「きゅぅ……」
ちゃくりくのショックで、めをまわしていたピトラは、ヨロヨロおきあがります。
「……ジョー、ガース、おやかた、ぶじ?」
「もんだいないであります」
「へいきでヤンス」
「よいちゃくりくでしたのう」
ものすごいしょうげきだったのに、ジョーたちは、まったくへいきみたいです。
「よいちゃくりくって、アレで?」
ピトラは、あたまをさすります。コブはできていませんでしたが、なんだかいたいです。
「ジブンたちは、からだがかるいので、ちゃくりくのショックはちいさいのであります」
「はあ……」
「おおっ、すごいでヤス! つみにが、ぜんぜんこわれていないでヤンス!」
「ほんとうですな。これはすばらしい!」
「たいしたものであります!」
「……キミたちが、ふだん、どんなしごとをしてるのか、ぜんぜんしりたくないよ」
「あははっ、そいつぁタイヘンだったね」
ロカがピトラにおちゃをわたします。
「まさか、オールでこぐうちゅうせんがあるなんて、おもわなかったよ」
ピトラはおちゃをのみます。
とってもいいかおりのする、あったかいおちゃです。
「ま、なにはともあれ、ピトラとまたあえてうれしいよ」
「ぼくも、ロカとあいたいなっておもってたよ」
「それで、あれからなんか、おもしろいことあったかい?」
じぶんのぶんのおちゃをもって、ロカはすわります。
「うん。あるんだけどさ、ロカ?」
「なんだい?」
「どうして、このいえのなか、さかさまなの?」
そうなのです。
てんじょうにテーブルがくっついていて、ゆかからでんとうがはえています。とだなも、いすも、テレビやラジオも、みんなさかさま。
で、ピトラたちは、てんじょうみたいにみえるゆかに、ちょくせつすわっています。
「あははは、イヤさ、あたしたちって、さかさまのいえのつくりかたしかしらないんだよ」
「……それじゃ、さかさまむらとなんにもかわらないんじゃない?」
「いやいや。みちをあるいてておっこちることがなくなったから、おきゃくさんもふえたし、にぎやかになったんだよ」
「うちゅうせんがアレでもくるんだなぁ……」
「ねね、それで、いままで、どんなぼうけんしたんだい?」
「そうそう、これがすごいんだよ。まずは、リンガのことからはなそうかな……」
ピトラはぐっとおちゃをのんで、ロカのために、いままでのぼうけんのおはなしをはじめました。
<おしまい>
○豆知識と設定
<トイレ>
無重力状態では、トイレが近くなります。
本来、重力で足に溜まる分の水分が、上半身に留まり、脳が判断を誤るためです。
さしたる問題に感じられないかも知れませんが、映画『二〇〇一年宇宙の旅』等で語られるような長距離航行の場合、この現象は貨物としての水の更なる増加を招きかねませんので、「効率の良い」調達法が模索されます。
これ以上は言いません。
<顔がまんまる>
上記と同じ理由で、顔もむくむわけです。
ムーンフェイスと呼ばれる現象です。
<水漏れ>
宇宙船の水漏れは、電気系統の故障を招くため、実際に飲んで片付けた例があったそうです。
<地面に激突>
働く重力は一緒ですが、突入角度が急過ぎるからです。
<隕石>
地球に落ちてきた小惑星の燃え残りが隕石ですから、宇宙に隕石はありません。
ピトラの間違いです。
<貨物船『イダテン』>
大気圏突入はできますが、重力圏を脱出する力はありません。軌道エレベーターで、衛星軌道まで引っ張り上げてから、宇宙へ出航するタイプです。
よーするに、ファースト・ガンダムと一緒です。
|