ピトラの冒険21   千足とQの絵本ワールド


ごんぱち       


 ピトラとカソは、ほうちょうのリンガがつかまっている、けいむしょへきていました。
「「ダメだ! だせるわけないだろう!」」
 もんばんは、ライオンのようなすがたをした、2ひきコマイヌでした。
 イヌといっても、そのおおきさはピトラよりもずっとおおきく、ながいキバをはやしたカオは、ものすごくおそろしいのです。
「で、でも……ぼくはリンガのともだちで」
 ピトラのこえはふるえます。
「「ダメだ!」」
「ひぃぃぃぃぃ!」
 コマイヌにどなられ、ピトラはなみだがこぼれそうになります。
「カ、カソ……あれ?」
 ピトラはカソのほうをむきますが、カソはいつのまにかいなくなって――いいえ、ずっとはなれたばしょで、かくれていました。
「カソ! ぼくだってこわいのに!」

 ピトラたちはけいむしょにちかいまちの、ちゃみせにもどりました。
「ふむ、リンガをだすのは、むずかしいみたいですね」
「さっさとカソがにげちゃうしね」
「カオをおぼえられたらたいへんでしょう」
「なんとでもいえるよ。でもどうする? しのびこむ?」
「そうですね。でるときはリンガにたのんで」
 カソはメモちょうをとりだします。
「ともかく、さくせんを、かんがえましょう」

「えへへ、こんにちは」
 えんびふくにシルクハットでへんそうしたピトラとカソが、またけいむしょにきました。
「「なんだ、おまえたちは!」」
 コマイヌたちは、ふたりをにらみます。
「お、おしごと、たいへんだね」
 ピトラはわらいます。
「おつかれでしょう、おやつなんて、いかがですか」
 カソが、おおきなホネをさしだします。
「「おまえたち」」
 コマイヌはギョロリとしためで、ピトラとカソをにらみます。
「「われらがそんなもので、うごくとでも、おもっているのか!」」
 ものすごいこえでどなられて、ピトラとカソのからだじゅうのけが、うしろをむいてしまいました。
「ひぃぃぃぃぃぃ! ごめんなさい!」
「うひゃあああああ! しつれいしましたあああ!」
 ピトラとカソは、ころげるようににげていきました。

 はしってはしって、はしってはしって、ようやくピトラとカソはまちにもどりました。
「はぁはぁはぁはぁ、こわいよ、あのコマイヌたち!」
 ピトラはなみだをボロボロながしています。ほんとうにこわかったのです。
「マジメですねぇ、コマイヌさんたちは」
 おおきなホネをもったまま、カソはかたをすくめます。
「この『コマイヌさんにホネをあげてなかよくなって、けいむしょのなかにいれてもらって、リンガをこっそりつれだそう』さくせんは、しっぱいでしたね」
「なまえも、ながすぎたしね」
「ホネがムダになっちゃいましたね。いります?」
「ホネなんてたべないよ」
「えいようあるんですけどね――チュゥゥゥゥゥゥ」
 カソはホネをくわえて、なかのズイをすいます。
「……せめて、りょうりしてたべてよ」
「さてさて、つぎのさくせんをかんがえてましょう」

 カメラをさげ、カメラマンにへんそうしたカソが、けいむしょのまえにきます。
「やぁやぁ、コマイヌさんたち、おつとめごくろうさまです」
 ていねいにカソはおじぎをします。
「「なんのようだ?」」
「いやぁ、わたしはたびカメラマンでして。はたらくひとたちをさつえいしているんです」
 カソはカメラをみせます。
「「カメラマン?」」
「はい。とらせていただけませんか? ゆうめいなコマイヌさんたちがはたらいている、りりしくってカッコイイおすがたを」
 2ひきのコマイヌは、かおをみあわせます。
「おとうとがよいなら、ワシはかまわぬ」
「あにじゃがよいなら、ワシもかまわぬ」
「やあ、これはこれはありがたい。ささ、しせんくださーい」

 ――ばしょはかわって、けいむしょのヘイのまえ。
「よい、しょ! よい、しょ」
 カソがカメラでコマイヌたちをひきつけているあいだに、ピトラはツタのからまるヘイをよじのぼっていました。
「こんな、こと、やって、いい、の、かな」
 ダメにきまってます。
(でも、リンガにせっかくあえるチャンスなんだし……たからも、ほしいし)
 ピトラはツタをつかんで、よじのぼります。
 よいしょ、よいしょ、うんとこせ、どっこらせ。
 もうすこし。
 ぷちっ。
「うわわわわあああわわわ、あ、あぶない、あぶない」
 ツタがきれておちそうになりましたが、どうにかまたのぼります。
 どこいしょ、どっこいしょ、うんとこしょ。
 ぶちっ。
「うひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 ツタはどうにもきれやすくて、のぼりづらいことのぼりづらいこと。
 それでもピトラはがんばります。
 よいしょ、えっこら、どっこいせっ!
「よしっ、もうすこしだ!」
 もういっぽ。
 このむこうにリンガが。
 リンガが。
「ピトラ!」
「え?」
 したをみると、カソがはしってきました。
 そのうしろから、コマイヌの1ぴきがすごいスピードでおいかけてきています!
「バレましたピトラーーー」
「うひゃあああああ!」
 おどろいたピトラはゴロゴロところげおち、カソといっしょにいちもくさんににげます。
「まて! またんかーーー!」
「まっても、なにもくれないでしょう!」
 カソは、はしります。
「ひぃひぃわぁああああああ!」
 ピトラもはしります。
 コマイヌはとってもあしがはやくて、ぐんぐんピトラとカソにちかづいてきます。
「うひいぃぃぃぃぃぃぃ!」
「うわうわうわうわっっ!」
「まてーーーーー!」
「ピトラ、コマイヌにつかまってください、そのスキにわたしがにげます!」
「カソこそつかまってよ!」
「ともだちのために、じぶんをぎせいにする。うつくしいじゃありませんか!」
「うつくしくなくていいよ!」
「ひとは、うつくしさをもとめなくなったら、おしまいですよ!」
「つかまったら、いま、おしまいだよ!」
「――そうだっ」
 カソはバッグから、たべのこしのホネをとりだし、なげました。
「むっ!」
 コマイヌのきがそれたいっしゅんのスキをついて、ピトラとカソは、にげていきました。
「ホネできをそらせてにげる、ニンポウ、ホネトンのじゅつです」
「そんなのきいたことないよ……」

「あー、こわかった」
 ピトラとカソは、またちゃみせにもどります。
「カソが、あと1ぷんじかんをかせげばよかったのに」
 ピトラは、すりむけたひじをさすります。
「コマイヌひきつけるのはたいへんなんですよ! あと1メートル、ピトラがはやくうえにのぼっていればよかったんです!」
 ふたりはにらみあいます。
 が、すぐにふたりともためいきをつきます。
「……ぼくたちがケンカしてても、しょうがない、か」
「そうですね」
 ふたりはみずをのみます。
「『カメラマンのフリをしてコマイヌさんをひきつけるスキに、ヘイをこえてリンガをつれだそう』さくせんもしっぱいですね」
「あー、あ、もう!」
 ピトラはアタマをかかえます。
「リンガがすぐそこにいるのに、たからもすぐそこなのに、リンガ、たから、リンガ、たから……」
「あいたいのはどっちですか?」
「たから……い、いや、リンガ、リンガ!」
「しかし、けいむしょってのは、はいるのもタイヘンなんですね」
「なかにいるひとにしてみれば、でるのがたいへんなんだろうけど――」
 ふとピトラはかおをあげました。
「カソ、あの、さ」

 またへんそうしたピトラとカソが、けいむしょのヘイをのぼります。
「こああああああああああっ!」
 コマイヌのいっぴきがやってきました。
「うわっ!」
「ひぃっ!」
「おまえたち、どういうつもりだ」
 コマイヌはどなります。
「さっさと、なかにもどれ!」
 そう、ふたりはヘイをうしろむきにのぼっていたのです。
 コマイヌには、けいむしょのなかからにげだそうとしているようにみえた、というわけです。
「はい……」
「もうしません」
 ピトラとカソは、かおをみあわせてにんまりとわらいました。

 ピトラとカソは、コマイヌにつれられてけいむしょのなかにはいります。
 けいむしょのなかでは、いろんないきものたちが、やさいをつくったり、イスをつくったり、ふくをつくったり、しごとをしていました。
「へー、ろうやにとじこめられてるんだとおもった」
「ふつうは、はたらくんですよ。なにもしないでくらせるんだったら、みんなはいりたくなるでしょう?」
「やっぱりくわしいね、カソ」
「やっぱりってなんですか、やっぱりって」
「しゃべらずにあるけ!」
 コマイヌにどなられて、ピトラとカソは、くびをすくめます。
 それからふたりは、たてもののなかにつれていかれました。
 かいだんをのぼって、のぼって、のぼったところに、おおきなドアがありました。ドアに、もじがかいてあります。
「『しょちょうしつ』?」
「けいむしょの、いちばんえらいひとのへやですね」
「えらいひと……」
 ピトラはブルッとふるえます。こんなこわいコマイヌよりも、さらにえらいひとです。
 コマイヌがドアをノックします。
『なんだい』
 おんなのひとのこえです。
「コマイヌのギョクキです。だっそうしゃをつれてきました」
『おてがらだね、はいんな』
 ドアがひらきました。
「うわあ……」
 ピトラはおもわずこえをだしました。
「キレイ……」
 そこには、まっしろなトラがいました。いえ、ふつうのトラとはちがいます。おおきくてりっぱで、ヒゲはハリガネみたいにふといのに、からだのしろいけめにみえないぐらいほそくて、それじたいがキラキラといろんないろにひかっています。
「このちっこいのが、だっそうしたって?」
 トラは、ぐぅっとピトラにかおをちかづけます。
「おかしいねぇ、みおぼえがないよ」
「えっ、そんなはずは。たしかにヘイをおりようとしていたところを……」
 コマイヌは、とってもこまったカオになります。
「ははぁ、なるほど」
 トラはうなづきます。
「ボウズ。うしろむきにのぼったね?」
「はい……」
 ピトラはうなずきました。
「あっ! も、もうしわけありません!」
 コマイヌは、トラにふかくあたまをさげます。
「ガハハハ、このボウズたちがいちまいうわてだっただけさ。つぎにきをつければいいよ」

 コマイヌは、しょしょうしつからでていきました。
「アタイはビャッコ。このへんじゃ、ヤッコさんでとおってるよ」
 トラ――ヤッコさんは、わらいます。
「ひょっとして……」
 ピトラはまじまじとヤッコさんをみます。
 このキレイでふしぎなかんじは。
「ゲンさんのしりあい?」
「おや、アタイがきこうとしたんだけどね。そうかい、それでそんななんだね」
 なっとくしたように、ヤッコさんはうなづきます。
「なまえは?」
「ピトラです」
「ふーん。ちょうど、あのボウズとおんなじぐらいだな……で、どうだい、ゲンさんはノソノソやってるかい?」
「うん。すっごくノソノソだよ」
「ガハハハハ、そいつはなによりだね。で、そっちは」
「ひねずみのカソです。おうわさはかねがね――」
「ああ、ひねずみぞくの、ドラむすこね」
「ドラ……」
「で、いったいなにしにきたんだい? ここはオマエさんたちがみても、おもしろいものなんてないよ?」
「あの、はいりこんでごめんなさい。でも、ともだちに、あいたかったんです」
「ともだち? ああ、リンガのことだね。のろいのほうちょうの」
「えっ、どうしてわかるの?」
「オマエさんのとしをかんがえれば、ここに3ねんもはいってるしりあいはいないだろう? それよりあとにはいってきて、ゲンさんとかかわりがあったのは、リンガだけだよ」
「あわせて、もらえますか?」
 ピトラはしんぱいそうにたずねます。
「ちょうりばにいるから、あってかえんな。そとには、だせないけどね」
「と、とうぜん、そとになんか、ださないよ」
「も、モチロンです」
 ピトラとカソは、ビクッとしながらも、わらいました。

「あっ、リンガ!」
 リンガは、ちょうりばのかべに、ひっかけられていました。
「ますます、ほうちょうににてきましたね」
『ん、また、あたらしいしょくざいだか?』
 リンガが、ねむたそうなこえをだします。
「リンガ! ぼくだよ、ピトラだよ!」
『ピトラ!? うわっ、ほんとだ! ピトラだ、ピトラだぁ!』
 よっぽどうれしかったのでしょう。リンガは、あたりをはねまわりました。
「うわっ、わっ、わわっ、あぶない!」
「うひゃあっ!」
 ピトラとカソは、ものかげにかくれます。
 ……ほうちょうが、はねまわってはいけません。
『お、とと、すまないだ』
「あー、おどろいた」
「くうかんをきってとびまわれるなんて、ますますちからをつけてますねぇ……」
『ピトラ、おまん、いったいなしてこっただとこにいるだ? だれかのワナにかかっただか? だったら、ワナにかけたヤツをおしえるだ。そいつのいのち、すっかりうばいとってやるだ』
「だから、そういうのはダメだってば。べつにつかまったわけじゃないよ」
 ピトラはリンガのまえにすわります。
「かわりませんね、リンガは」
 カソも、となりにすわります。
『ああ、カソ。おまんは、どのつみでつかまっただ?』
「ひとぎきのわるいことを、いわないでください」
『それで、いったいどうしてけいむしょにいるだ?』
「リンガに……あいにきたんだよ」
『それだけじゃないべ?』
 リンガには、わかっていたみたいでした。
『オラのチカラがひつようなんだべ』
「えっ、わかるの?」
『えんりょすることはないべ。ピトラとオラのなかだべ』
「ありがとう、リンガ……でも、そとにでられないんじゃ、やっぱりムリだよ」
「そうですね。さすがに、ヤッコさんがしょちょうじゃ、だっそうはムリですし」
『まあはなしてみるだ』

 ピトラとカソは、リンガにたからのこと、けっかいのことをせつめいしました。
『そげなことなら、そとにでるひつようなんて、ないだ』
「ええっ!」
「ホントウですか?」
『リンガさまをなめちゃいけないだ。くうかんをきれるってことは、きょりなんてかんけいないってことだべ。ちょっとオラをもつだ』
「うん!」
 ピトラはリンガをもちます。まえよりも、なんだかおもたくなっています。
『けっかいのほうに、きっさきをむけるだ』
「えーと、どっち?」
「それはですね」
 カソが、ちずとコンパスでほうこうをかくにんします。
「ええとヒガシですね」
『ヒガシだな』
「えっ?」
 リンガのきっさきが、ヒガシにむきます。
「うわっ! うでがかってにうごいた!」
『あっ、すまないだ。つい』
「……リンガ、あなた、ほんとうにチカラつけてますね」
『ピトラ、あいずしたらマルをつくるだ』
「うん」
『1・2・3』
「えいっ!」
 ピトラがリンガのきっさきでマルを――。
『4・5……』
「ちょっと! あいずじゃなかったの!?」
『え? ふつう5ではじまるもんだべ?』
「きいたことないよ! じゃあ、3・2・1でやってよ」
『カウントダウンだな。わかっただ。3……』
「いっとくけど、ゼロ、でうごかすからね」
『1じゃないだか?』
「1でいいよ」
『3……2……1――で、ええだな?』
「かくにんしなくていいから!」
『なしておこるだ?』
「おこってないよ!」
『んだば、3・2・1』
「えいいいっ!」
 ピトラはマルをかきました。
 と。
 マルはくうかんにできたあなになり、あなのむこうがわがみえてきます。
『はやくはいるだ』
「ありがと、リンガ!」
「ごきげんよう、リンガ」
 ピトラとカソは、くうかんのあなにとびこみました。

 とおもったら、もうむこうがわについていました。ドアを1つくぐるみたいなものです。
「ここ、けっかいのうちがわ?」
 ピトラはあたまをふります。
「まちがい……ないみたいですよ」
 カソがつぶやきます。
 がんじょうそうな、いしづくりのへやのなかには。
 きんのアクセサリーやおきもの、ほうせき、まほうのかたなやヨロイ、めずらしいほん、めをみはるようなおりもの、きれいなきれいなうつわ、こうぼく、やくそう……などなど。
 たからものが、やまのようにならんでいました。
「これって……たからもの、だよね」
「もちろん」
「これだけあったら、なんでもかえるよね?」
「かえますよ!」
「やったああああ!」
「やりましたよ!!」
 ピトラとカソは、てをとりあってはしゃぎまわります。
 そのとき。
「ほほぅ、リンガにくうかんをきらせるとは、かんがえましたね」
 すぐうしろでこえがしました。
 ピトラとカソがふりむくと、そこには。
「リュウさん?」
「リュウさん、どうしてここが?」
 セイリュウのリュウさんが、プカプカうかんでいました。
「このまえ、わたしのうえをとおったでしょう?」
「あっ、あのねっとうのかわ?」
 そういえば、リュウさんはかわでした。
「ごめいとう」
「え、ええと、その、このたからは、その」
「リ、リュウさん、あの、このことはひみつにしておいてください。それから、あの」
 ピトラもカソも、おおあわてです。
「ははは、よこどりなんかしませんよ」
「ああよかった」
「ありがとうございます」
「おふたりは、なににつかうんです?」
「えーと」
「どうしましょうか」
 ピトラとカソは、カオをみあわせました。
「ゆっくりかんがえるといいですよ。あわてることはありません。じんせいは、なまけるほどながくはありませんが、あわてるほどにはみじかくありませんから」
 リュウさんは、くうちゅうでくるっとまわります。
「はこびだして、しょくじにでもしましょう。てつだいますから、おごってください」
「ありがとう、どうやってはこぼうかっておもってたんだ」
「じゃあピトラ、リュウさんのごはんは、ピトラがおごってくださいね」
「カソは、ぜんぶじぶんではこぶの?」
「……むぅ」
 ピトラとカソは、リュウさんにてつだってもらい、ぶじ、たからをぎんこうにあずけました。
 ピトラがたからをなににつかうのかは、もうすこしあとのおはなしです。
<ひとまず おしまい>