ピトラの冒険16   千足とQの絵本ワールド



 じめんにひくくツルがのび、ピトラのあたまよりもおおきいスイカが、いくつもできています。
「ふむ、きょうは5つへっていますね」
 スイカのかずをかぞえていたひねずみのカソが、くびをよこにふります。
「5つも?」
 ピトラはスイカをまじまじとみます。
 そとがわはピトラのせかいのスイカとおなじですが、そこはゆめのせかいのスイカです。きっととてもステキなものにちがいありません。
「じゃあやっぱり……」
「はい。よなかのスイカばん、ピトラにもおねがいします。きゅうりょうとして、ここのスイカをひとつさしあげるやくそくでしたよね」
「うん」
(スイカドロボウをつかまえるのかぁ)
 ピトラはぶるぶるっとみぶるいしました。
(えへへ、ガードマンみたいでかっこいいや)

 ゆうがた、ピトラとカソはまたスイカばたけにきました。
「カソ、そういえばさ、ほかのスイカばんのひとはいないの?」
「いませんよ。だれがきゅうりょうだすとおもってるんです」
「あ、そ」
 くらくなっていくそらに、ほしがすこしづつでてきます。
(よなか、ねむくならないといいけど……)
「はいピトラ」
 と、カソが、すいとうからなにかをついで、ピトラにさしだします。
「なにこれ?」
「ねむくならないのみものですよ」
 くらくてよくみえませんが、くろっぽいのみものです。
「ひょっとしてコーヒー?」
 ピトラは、たまにおとうさんがあさにのんでいるコーヒーをおもいだしました。『これでめがさめた』とかいっていたはずです。
「ベイリまめのせんじじるです。コーヒーの10000ばいめがさめますよ」
「へえ、そんなのがあるんだ。ちょうどいいや」
 ピトラはそれをぐいっとのもうとして――。
「ふはっ、に、に、に、にが、にがい! なにこれ!」
 さとうをいれないコーヒーの10まんばいもにがいのです。ほんのちょっぴりしたさきにふれただけなのに、にがさがくちのなかにのこります。
「このにがさ、めがさめるでしょう?」
 たしかに、くちのなかにのこるこのにがさは、ひとばんかかってもきえそうにありません。こんなくちで、ねむるなんてムリそうです。
「……あたまがスッキリするとか、そういうめのさめかたじゃないの?」
「きぶんがいいときよりは、きぶんのわるいときのほうがねむれないものでしょう?」
「まあたしかに。ありがと、カソ――うぇぇ」
「なあに、おれいはいわなくていいですよ」
 カソは、いつもどおりにやぁっとわらいました。
「だいきんとして、きゅうりょうのスイカをはんぶんへらさせてもらいますから」
「……ほんとうに、おれいをいわないほうがよかったよ」
「もっとほしかったらどうぞ。2はいめからはタダでいいですよ」
 カソがすいとうをみせました。
「もう、いってきも、のみたくないよ!」

 ほしはキラキラとさまざまないろにまたたき、てをのばせばとどきそうです。
 いつもなら、そのうつくしさにみとれるところです。
 でも。
(にがい、にがい、にがい、にがい、にがい……)
 すごいこうかです。
 ピトラはちっともねむくありませんでした。
 これはほんとうにべんりなのみものです。
「じょうだんじゃないよ……うー、にがい」
 ピトラはくちをあけて、ベロにかぜをあてます。
 となりでは、カソがきもちよさそうにねむっています。
(だいたい、カソのもってくるしごとって、ロクなものがないなぁ)
 ピトラは、かいちゅうでんとうでスイカばたけをてらします。
(そりゃ、きゅうりょうのスイカはほしいけど)
 そのときです。
 ガサッ!
 もりのほうで、なにかおとがしました。
「だれ!?」
 ピトラは、パッとかいちゅうでんとうでてらします。
 バサバサバサバサバサッ!
 ホーウ、ホーゥ、ホーウ……。
「なんだ、フクロウか」
 ピトラはおおきくためいきをつきます。
(でも)
 ふとピトラはかんがえます。
(スイカドロボウって、いったいどんなひとなんだろ?)
 スイカを5つももっていくドロボウです。
 ピトラよりおおきいにちがいありません。
(ちゃんとつかまえられるかなあ?)
 あたりをみまわします。
「そうだ、おとしあなをほっておこう」
 ピトラはあなをほりはじめました。

 なんじかんたったころでしょうか。
「ひぃ、ふう、はあ、はぁ……」
 あなができあがりました。
 ひとつだけ。
(ダ、ダメだ。スイカばたけをひとまわりなんて、とてもほれないや)
 できあがったあなをみます。
 ピトラのひざまであるふかいあなです。
(でもスイカを5こももてるドロボウだったら、こんなのひとまたぎだ)
「しかたない」
 ピトラは、いしをひろいます。
(ひとにいしをぶっつけたらいけないっていわれてるけど……)
 てのなかにおさまるぐらいの、ちいさないし。
(えーと、さいしょにカソといっしょに『ドロボウ!』ってさけぼう。それでにげないなら、おどしでなげればいいや。いしをいっぱいよういしておけば、こわがってちかよらないにちがいない)
 ピトラは、いしをあつめはじめます。
 おおきいいし、ちいさいいし、ちゅうくらいのいし、とがったいし、まるいいし。
 いろいろないしが、どんどんあつまっていきます。
「よし。これだけあればだいじょうぶだろう」
 いしは、ピトラひとりぶんぐらいのやまになりました。
「そうだ。カソにこのいしをはんぶんうるのもいいなぁ」
 ピトラはにんまりわらいます。
「カソだって、ドロボウをまえにしたら、いしがほしくなるにちがいないや」
 いしを、ぽんとほうります。
「それで、さっきのきゅうりょうぶんをかえしてもらおう」
 そのときです。
 ジリリリリリリリリ!!
「どわあああっ!」
 とつぜんものすごいおとがして、ピトラはいしをおとしてしまいました。
「わ、わ、わわわ!」
 スイカドロボウがみえません。
 スイカドロボウはどこでしょう。
「な、なな、な?」
 ジリリリリリリリリリリリリリ!!
 すっかりあわててしまったピトラは、かいちゅうでんとうをつけることもできずに、ただキョロキョロあたりをみまわしました。
「――ああ、こうたいのじかんですね」
 カソが、のんびりとめをさましまして、とけいのスイッチをおしました。
 ジリリリ。
「な、な、なんだ、めざましどけいだったのか」
「なんだとおもったんですか?」
「い、いやぁ、なんでもないよ」
 ピトラはカソに、かいちゅうでんとうをわたしました。
「じゃあぼくはねるね」

 にがい。
 こわい。
 にがい。
 こわい。
 にがい。
 ベイリのしるがまだくちのなかでにがくて、スイカドロボウがどこからくるのかわからなくて、なんだかピトラはちっともねむれません。
 スイカを5こももっていくスイカドロボウ。
(ひょっとしたら、うでが5ほんはえてるのかもしれない……)
 かんがえればかんがえるほど、ふあんになってきます。
(そんなのをつかまえること、できるのかなぁ)
「……カソ」
 ねころがったままで、ピトラがカソにこえをかけます。
「なんですか?」
 スイカばたけをじっとみながら、カソがへんじをします。
「カソはさっきのベイリまめのしる、のまないの?」
「わたしはさっきねむりましたから、めはさめてますよ」
「いや、ねんのためということもあるし」
「ひつようありません。わたしはよるにはつよいんです」
「でもほんのいっしゅんねむったスキに、ってこともあるでしょ?」
「ないです」
「ぜったい?」
「ぜったい」
「あああああ、にがい!」
 ピトラはおきあがります。
「カソもこのにがさをあじわってよ! ぼくだけにがいおもいするなんて、ふこうへいだよ!」
「ピトラ。こうへいであることが、かならずしもいいこととはかぎらないんですよ。よのなか、とくをするひともいれば、そんをするひともいる。でも、だからこそ、しあわせをよりつよくかんじることができるのです」
「しらないよ、そんなこと。にがくてちっともねむれないんだよ!」
「でしょうねー。わたしはなめるのもイヤです」
「そんなものをぼくにのませたの?」
 ガサガササッ!
「!!」
「あっ!」
 スイカばたけのほうからおとがしました。
 ピトラとカソは、おとのほうへはしります。
「いつのまにはたけのなかに!?」
「え?」
 スイカがどこかへもちさられようとしています。
「にがしません!」
「ドロボー!」
 ピトラはどなると、スイカにしがみつきました。
 びたん! ばたん! べたん!
 それは、おおきくはね、ピトラはふきとばされそうになります。
「がんばって、ピトラ!」
 カソもいっしょにそれをおさえこみます。
 びた、べた、ば……た。
「あれ、れ? なに、だれもいない?」
 きがつくと、ピトラのしたにはスイカがひとつあるだけで、スイカドロボウのすがたはありませんでした。
「なにいってるんです、ピトラ」
 カソはスイカをもち、シールをはります。
「ドロボウってなんですか?」
「へ? スイカばんでしょ?」
「そうですよ。うれたスイカがにげるのをつかまえるしごとです」
「スイカがにげる?」
「しらないんですか? タネをとおくにとばすためにはたけのそとへいっちゃうんですよ? ピトラのせかいにだって、タンポポとかホウセンカとか、タネをとばすしょくぶつあるでしょう?」
「こんなにあばれるスイカはないよ!」
「あれ? そうでしたっけ。あはは、こりゃしっけい」
「はじめにいってよ、もう! ぼくはてっきりドロボウだと……」
 ガササッ!
「ほら、つぎのスイカが!」
「うわっ!」
 ワササッ!
「おっ、こっちも!」
「ひゃあ!」
 ザワワッ!
「こんどはそっち!」
「ぎゃふん!」
 それからピトラとカソは、あさまでスイカをつかまえつづけました。

 ――ピトラはめをさましました。
 カーテンからあかりがさしこみ、へやのてんじょうがみえます。
 ゆめのせかいからもどってきたみたいです。
「ふぁふぁああああ」
 めをパチパチやりながら、こすります。
「なんだか、ぜんぜんねたきがしないよぉ」
『ピトラー、ごはんよー!』
 したのかいから、おかあさんのこえがきこえます。
「たのむから」
 ピトラはおおきなためいきをついて、めをとじました。
「もうすこしねむらせて……」

<おしまい>