
びゅぅぅぅぅうぅぅうぅぅうぅぅぅ!!!
はげしいかぜが、きをゆらします。
ばちばちばたばちばたばたばちばち!!
あめが、きのはっぱをたたきます。
「――やっぱり、そとにでないほうがよかったんじゃない?」
ピトラは、リュウさんからかりたレインコートをきていました。
「ははは」
リュウさんは、ながいからだをおおきくして、ピトラをおおいます。
「かぜにさからわず、あめにぬれたからだをうけいれれば、あとはただ、たのしみだけがのこりますよ」
「ぬれたら、かぜをひくとおもうんだけど」
「かぜをひいたって、いつかはなおります。だいじょうぶですよ」
「……どこも、だいじょうぶじゃないよ」
(やっぱり、ゲンさんのいえにいたほうがよかったかなぁ)
「そもそも」
リュウさんは、すこしからだをちいさくします。
「こんなあらしは、このゆめのせかいでもめずらしいです。たのしまないてはありませんよ」
そのとき、ものすごいかぜが、ピトラとリュウさんをふきあげました。
「うわ、わわわ!」
ピトラとリュウさんは、とんでいました。
レインコートは、かぜをうけてまるでパラシュートみたいにひろがります。
「うわっ、わ、お、おちる!」
「だいじょうぶ。さっきのんだ、ふうせんのみのおちゃは、1じかんはもつんですよ」
ピトラのよこを、リュウさんはきもちよさそうにとんでいます。
「さぁ、りょうてをひろげて、かぜにのって」
「ええと、こう?」
ピトラはりょううでをひろげます。
「うわわっ」
みぎうでをまげるとみぎに、ひだりうでをまげるとひだりに、あたまをあげるとうえに、とんでいきます。
「うごけるんだ」
「ええ。じゆうに、とはいきませんけどね」
しばらくのあいだ、ピトラとリュウさんは、かぜにのってとびました。
したに、まちがみえます。
がいとうはついていますが、あらしのせいで、くるまもとおらず、コンビニエンスストアやホテルもまっくらです。
あめがつよくなってきたので、ピトラは、あまつぶをよけながらとびます。
「えへへ」
みぎへよけて。
ひだりへよけて。
うしろ。
まえ。
ちゅうがえり!
ピトラとリュウさんは、きのはっぱみたいにとびます。
ぴゅぅひゅうとなるかぜは、だれかがうたっているみたいです。
ざわざわとゆれるきぎは、がっきのおと。
ばちばたとなるあめは、はくしゅみたいです。
たまにひかるカミナリは、しょうめい。
まるで、おおきなステージで、えんそうをきいているみたいです。
ピトラはあおむけになって、かぜのなかをただよいます。あめにかおをうたれましたが、なんだかどうでもよくなっていました。
「あー、たのしかったけど、さむいや」
1じかんほどして、ピトラとリュウさんは、まちへおりました。
まちのいえは、みんなあまどをしめています。
(やっぱり、あらしのひにであるくのは、リュウさんだけなんじゃ……)
「すこしあたたまりにいきましょう」
リュウさんは、おおどおりをあるいていきます。
ときどき、かぜにふきとばされたきのえだや、はっぱがリュウさんにへばりつきますが、おどろくようすもいやがるようすもありませんでした。
「つきましたよ」
リュウさんがたちどまります。
「え、ここ?」
それは、シャッターをしめたコンビニでした。
「おやすみじゃない?」
「あらしのひは、いうなればハレ。ハレのぶたいには、いつもとちがったことがおきるもの。かくれていたものはあらわれ、おもてにいたものはかくれる。せいじゃがぎゃくてんするのです」
(……またリュウさんが、わかんないこといいだしたぞ)
「つまり」
リュウさんは、コンビニのうらにまわります。
「こういうことです」
うらぐちがひらきました。
いえ、うらぐちのとびらいがいのかべが、ぜんぶがばりとひらきました。
「――いらっしゃい」
みせにはいると、てんいんがあいさつしました。
「あらしのなかおつかれさま。どんなものをおさがしですか?」
「……リュウさん」
「なんですか?」
「ふしぎなかんじのコンビニだけど」
てんいんをゆびさします。
「なんで、カソがみせばんしてるわけ?」
「ピトラくん、ひとをゆびさすのはしつれいですよ」
「おしごとですよ、ピトラ」
カソはわらいます。
「このまえは、きこりしてなかったっけ?」
「よのなか、いろんなしごとがあるものですよ。ねえ、リュウさん?」
「ああ、そうだね。さあて、なにをいただきましょうかね」
(なにを、って)
ピトラはみせのなかをみまわします。
うすぐらいあかりにてらされたみせには、たながならんでいます。
が。
(なんにもおいてない……)
そうです。
たなも、れいぞうこも、にくまんをふかすおんぞうこも、みんなからっぽです。
「――では、タオタオをいただきましょう。しはらいは、ゲキリンのカケラで」
リュウさんは、そういってあごのしたのウロコをおって、カソにさしだしました。
「はい、まいどありがとうございます」
カソは、カウンターにおおきなまるいものをおきます。
ピトラのあたまぐらいおおきくて、みじかいけがはえていて、うっすらピンクいろで、ビクビクとうごいています。
「うわっ、なにそれ?」
「タオタオですよ」
リュウさんはうれしそうに、そのまるいものをのみこみました。
(うわっ、たべものなんだ、それ)
「ふー、あらしのひはこれがいちばんですね」
「リュウさん、もっといいものをかえばいいのに」
カソはそういいながらもうれしそうに、リュウさんのウロコのカケラをレジにしまおうとします。
「カソくん、おつりはピトラくんのおかいものにあててください」
「え? あ……はい、そうですか。まあ、かまいませんよ」
「ピトラくん、えんりょせずになにかかうといいですよ」
「ありがとう、リュウさん」
(カソはぜったいそんをしないだろうから、べつにえんりょするきはない……けど)
「ねえ、リュウさん」
ピトラはたずねます。
「なんですか?」
「ここって、なにをうってるの?」
「コンビニでうっていないものですよ」
わかったような、わからないようなこたえです。
(コンビニでうってないもの?)
リュウさんがさっきかっていた、タオタオとかいうものをおもいだします。
たしかに、あんなきみのわるいものは、コンビニではうっていません。
(でも、あれはほしくないや)
「うーんと……」
コンビニでうっていない、それでいてピトラがほしいもの。
(ええと、おかしとか、ほんはうってるし……おもちゃだってうってるし)
ふしぎなものです。
いつもはほしいものがいっぱいあったきがするのですが、いざとなると、なかなかおもいうかばないものです。
とくに、なにもないみせのなかでは。
「ねえ、カソ?」
「はい?」
「どんなのがあるの? たとえば」
「それはおおしえできませんね」
カソがにまっとわらいます。
「もちろん、そのじょうほうをかいたい、とおっしゃるなら、はなしはべつですけど――たかいですよ」
(……だろうとはおもったけど)
ピトラは、じろじろとカソをみます。
(いっそ、ひねずみのせびろでも、もらっちゃおうかなぁ。でも、いまはそんなにほしくないし、ほしくないものをもっててもしょうがないし。ああ、こんなことなら、ほしいものをきめとくんだった……)
ピトラがいろいろいろいろかんがえていると、コンビニのあかりがあかるくなってきました。
「え? なに? なにがおきるの?」
「そろそろあらしがやみます」
カソは、にやにやわらいます。
「おかいあげは、おはやめに。べつにかいたいものがなければ、それでいいんですよ。さあさあさぁさあさあ」
たなに、ぼんやりとふつうのしょうひんがあらわれはじめます。
「わ、わかった、えーと、それじゃ、それじゃあ!」
(うってないもの、うってないもの!)
ガラガラガラガラ。
シャッターがひらかれます。
あらしはやみ、あおいそらに、あさひがのぼっていました。
あかるいみせのなか。しょうひんがぎっしりならんだたな。レジには、てんいんさん。
コンビニは、すっかりもとにもどっていました。
「あらし、やんじゃったね」
ピトラはコンビニからでます。
「ええ」
リュウさんが、ぐっとからだをのばします。
「――ピトラくん」
「わぁ……」
リュウさんがゆびさすさきには、おおきなにじがかかっていました。
「かえちゃった」
そう、ピトラがかったのは、にじでした。
ゆめのせかいのにじが、あおくすみきったそらに、きらきらとかがやいていました。
「こんどのあらし、いつかなぁ」
「それはですね」
リュウさんはふわりとそらにあがって、からだをおおきくします。
「わからないから、たのしいんですよ」
おひさまのひかりをあびてかがやくリュウさんは、もうひとつのにじみたいでした。
<おしまい>
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