ピトラの冒険13   千足とQの絵本ワールド


 はいしゃさんは、ピンクのカベをしていました。
「さあ、ついたよ」
 ピトラとてをつないでいた、おとうさんのポポトさんがいいます。
「あ、あのさ、もう、なおったんだけ……ど?」
 ピトラは、ほっぺたからてをはなして、むりやりわらいます。
「ピトラ、ざんねんだけど、むしばは、ちょっといたくなくなっても、またすぐにいたみだすんだ」
「だ、だいじょうぶ。きょう、ちゃんとはみがきしたし」
(このままにげちゃおうかなぁ……でも、それはいくらなんでも、かっこわるすぎるし)
「ここのせんせいは、ノクタくんのおとうさんとおかあさんなんだから、あんしんだよ」
「わか、わかってるけど」
 そうなのです。ノクタのおとうさんとおかあさんの、はいしゃさんなのです。
 あそびにきたことは、なんかいかあります。でも、かんじゃさんになるのは、はじめてです。
(よくわからないけど、みんないたくてこわいっていってたし……)
 このまえよんだえほんでも、テレビでやっていたアニメでも、パソコンでみたマンガでも、みーんなはいしゃさんはいたいっていっていたのです。
(あの、ノクタのおとうさんと、おかあさんが?)
 とってもいたいことを、やさしいかおのままでする、ノクタのおとうさんとおかあさんをかんがえると、ものすごくこわくなってくるのです。
「さ、なおしてもらって、さっぱりしよう」
「うん……」
 ピトラはうつむいたまま、はいしゃさんのドアをくぐりました。

「――あら、ポポトさん。こんにちは」
 うけつけのおねえさんが、にっこりとわらいます。
「こんにちは」
「ピトラちゃんもこんにちは」
「こんにちは……」
 おとうさんとピトラも、あいさつします。
「30ぷんぐらいでもどるので、ピトラをおねがいできますか?」
「はい、きいてますよ」
「いっちゃうの?」
「かいものするっていってたよね?」
「うん……」
 いわれてみればそうでした。でも、このふあんなときに、ひとりにされるのはつらいものです。
「おわるころにはもどるよ」
 おとうさんは、でていってしまいました。
 ピトラは、スリッパにはきかえて、まちあいしつにはいりました。
 まちあいしつには、おとこのこがひとり、ソファーにすわって、ほっぺたをおさえていました。
 としはピトラとおなじぐらいだけれど、からだはなかなかおおきい、でも、はいしゃさんがこわくてちっちゃくなっている――。
「サリス!?」
「――え? あっ! ピトラ!」
 サリスでした。

 ピトラはサリスのとなりにすわります。
「ピトラ、むしばか?」
「ちょっと、はがいたいだけだよ。サリスは?」
「オレもそうだぞ」
 サリスはちょっとじまんげにわらいます。
「もっとも、こんなのどうってことないけどな」
「ボクだって、こんなのへいきだよ」
 ピトラもまけずにいいかえしました。
 ピトラとサリスはにらみあいます。
「オレのむしばって、ズキズキいたむけど、へいきだぞ」
「なんだい、そんなの。ボクのむしばなんて、ガンガンいたむけど、へいきだよ!」
「このズキズキは、ほっぺたつねったのの、100ばいぐらいいたいけど、へいきだぜ」
「ボクのガンガンなんて、ドアにゆびをはさんだときの100ばいだけど、ぜんぜんがまんできるよ」
「オレのむしばは、シンケイをぬかなきゃダメだけど、へいきだ」
「ボクのむしばだって、その、シンケイをぬくよ」
「ふふん」
 バカにしたみたいに、サリスがわらいます。
「ピトラ、おまえシンケイがなんだかしってるのか?」
「し、しってるよ。サリスは?」
「もちろん……しって、るぞ」
 はなしがとぎれました。
「それから、だな、タンスのかどにあしのこゆびをぶつけたときより、いたいけど、だいじょうぶだぞ」
「ほうちょうで、ゆびをきったときよりいたいけど、へいきだね!」
 そのとき、ドアがひらいて、はいしゃさんがかおをだしました。
 しろいふくをきていて、おおきなマスクでかおをはんぶんぐらいかくした、ノクタのおかあさんでした。
「サリスくん、どうぞ」
「はひ!」
 サリスがびくっと、たちあがりました。
 みぎあしと、みぎてがいっしょにでています。
「ピ、ピトラ、いってくるけど、オ、オ、オ、オレはぜんっっぜんっへいきだぞ」
(サ、サリスがさきかぁ……)
 ホッとしたような、かわいそうなような、そんなきもちになりかけたピトラですが――。
「ピトラくんも、おまたせ」
「ぴあっ!?」
 すぐに、はいしゃさんすがたのノクタのおとうさんが、ピトラをよびました。
 ピトラはソファーからたちあがるまでに、あしがふるえて、2かいしりもちをついてしまいました。

 ピトラとサリスは、ならんですわります。
「ちょっとうごくよ」
 ノクタのおとうさんがそういうと、せもたれがたおれて、いすがぐーんともちあがりました。
(なんか、すごいなぁ)
 よこには、カガミみたいにピカピカの、いろんなカネのどうぐがならんでいます。ほかにもへんなきかいがあったり、じゃぐちみたいなものがあったり、はじめてみるはいしゃさんのなかは、ふしぎなものでいっぱいです。
(でも……やっぱり)
「はい、ピトラくん、くちをおおきくあけて」
「は、はい」
 ピトラはくちをあけます。
「――ふむ、おくばが2ほん、むしばになってるよ」
「えー、おーあお」
 『へー、そうなの』といおうとしましたが、くちをあけっぱなしだったので、ことばになりませんでした。
「このへんは、ハミガキがむずかしいから、きをつけないとね。じゃあ、けずってつめることにするからね」
「あい」
(こんなにかたいはが、けずれるのかなぁ)
 そのとき、となりのこえがきこえました。
『だいたい、おていれはいいみたいだけど、たしかに1ぽん、かるいむしばがあるわね。けずってつめますからね』
『おお』
(サリスのほうが、かるいむしばなんだ)
「じゃあ、いたいのはちょっとだけだから、ガマンするんだよ」
 チュィィィィィィィィィン!
 ちいさなドリルが、おとをたてはじめました。
(――いたいんだ)
 ピトラはぐっとはをくいしば――る、ことはできないので、てをぎゅっとにぎります。
「ちからはいれないほうがいいよ。てんじょうをみててごらん」
 ピトラはてんじょうをみあげます。
「あ」
 てんじょうからは、ぬいぐるみがぶらさげてありました。しかも、まるでそらをとんでいるみたいに、うまいかたちになっています。
「ノクタがああいうのをかざるのがじょうずでね」
 そのなかのひとつは、おおきなトリのぬいぐるみでした。あかくてとってもきれいで、どこかでみたような――。
(えっ? まさか?)
「けずるよ」
「!!」
 おくばに、なにかがふれました。
 キキキキキキキキキキ!
 こすれるかんしょくと、やかましいおと。
 そして。
(いたい!)
 ズキリ、といたみました。
「あああ!」
 おもわず、ピトラはこえをだしていました。なみだがボロボロでます。
『わああああ!』
 となりでは、サリスがこえをあげてないていました。

 ちりょうのおわったピトラとサリスは、まちあいしつにもどりました。
「ピトラ、ないてたな」
「サリスのほうが、おおきなこえだったじゃないか」
「バ、バカいうな。ピトラのほうがおおきかったぞ」
「じゃあ、おんなじぐらいかな」
「そう、そうだ、おなじぐらいだ!」
「そう」
 ピトラがにんまりわらいます。
「ボクのむしばは2ほんだったからね」
「あ……」
 サリスがだまってしまいました。
「もしもサリスみたいに1ぽんだけなら、ぜんぜんなかなかったとおもうなぁ。ボクは」
「そ、そんなわけないだろ」
「いまかんがえてみれば、ちゅうしゃよりいたくないよ」
「ピトラはちゅうしゃのときないてただろ」
「サリスだってないてたじゃないか――」
「――サリスちゃん」
 そのとき、うけつけのおねえさんが、サリスをよびました。
「はい」
「きょうのおかねはね……」
(ええっ?)
 ピトラはおどろいてめをまるくします。
 サリスが、じぶんでおかねをはらっているのです。つまり、ピトラがいくのもイヤがったはいしゃさんに、ひとりできたということです。
「――はい、おつかれさま。ちゃんとハミガキするのよ」
「ありがとうございました」
 サリスはおねえさんにあたまをさげてから、クツをはきます。
「またな、ピトラ」
 にんまりとサリスはわらいます。
「オレは、ひ・と・り・で、かえるから」
「ボ、ボクだってひとりで――」
「ピトラちゃん、おとうさんがすぐにおむかえにきますから、ちょっとまっててね」
(うむぅ……)
 ピトラはがっくりしたまま、まちあいしつのイスにこしかけました。
 はのいたみは、すっかりなくなっていました。

<おしまい>