はいしゃさんは、ピンクのカベをしていました。
「さあ、ついたよ」
ピトラとてをつないでいた、おとうさんのポポトさんがいいます。
「あ、あのさ、もう、なおったんだけ……ど?」
ピトラは、ほっぺたからてをはなして、むりやりわらいます。
「ピトラ、ざんねんだけど、むしばは、ちょっといたくなくなっても、またすぐにいたみだすんだ」
「だ、だいじょうぶ。きょう、ちゃんとはみがきしたし」
(このままにげちゃおうかなぁ……でも、それはいくらなんでも、かっこわるすぎるし)
「ここのせんせいは、ノクタくんのおとうさんとおかあさんなんだから、あんしんだよ」
「わか、わかってるけど」
そうなのです。ノクタのおとうさんとおかあさんの、はいしゃさんなのです。
あそびにきたことは、なんかいかあります。でも、かんじゃさんになるのは、はじめてです。
(よくわからないけど、みんないたくてこわいっていってたし……)
このまえよんだえほんでも、テレビでやっていたアニメでも、パソコンでみたマンガでも、みーんなはいしゃさんはいたいっていっていたのです。
(あの、ノクタのおとうさんと、おかあさんが?)
とってもいたいことを、やさしいかおのままでする、ノクタのおとうさんとおかあさんをかんがえると、ものすごくこわくなってくるのです。
「さ、なおしてもらって、さっぱりしよう」
「うん……」
ピトラはうつむいたまま、はいしゃさんのドアをくぐりました。
「――あら、ポポトさん。こんにちは」
うけつけのおねえさんが、にっこりとわらいます。
「こんにちは」
「ピトラちゃんもこんにちは」
「こんにちは……」
おとうさんとピトラも、あいさつします。
「30ぷんぐらいでもどるので、ピトラをおねがいできますか?」
「はい、きいてますよ」
「いっちゃうの?」
「かいものするっていってたよね?」
「うん……」
いわれてみればそうでした。でも、このふあんなときに、ひとりにされるのはつらいものです。
「おわるころにはもどるよ」
おとうさんは、でていってしまいました。
ピトラは、スリッパにはきかえて、まちあいしつにはいりました。
まちあいしつには、おとこのこがひとり、ソファーにすわって、ほっぺたをおさえていました。
としはピトラとおなじぐらいだけれど、からだはなかなかおおきい、でも、はいしゃさんがこわくてちっちゃくなっている――。
「サリス!?」
「――え? あっ! ピトラ!」
サリスでした。
ピトラはサリスのとなりにすわります。
「ピトラ、むしばか?」
「ちょっと、はがいたいだけだよ。サリスは?」
「オレもそうだぞ」
サリスはちょっとじまんげにわらいます。
「もっとも、こんなのどうってことないけどな」
「ボクだって、こんなのへいきだよ」
ピトラもまけずにいいかえしました。
ピトラとサリスはにらみあいます。
「オレのむしばって、ズキズキいたむけど、へいきだぞ」
「なんだい、そんなの。ボクのむしばなんて、ガンガンいたむけど、へいきだよ!」
「このズキズキは、ほっぺたつねったのの、100ばいぐらいいたいけど、へいきだぜ」
「ボクのガンガンなんて、ドアにゆびをはさんだときの100ばいだけど、ぜんぜんがまんできるよ」
「オレのむしばは、シンケイをぬかなきゃダメだけど、へいきだ」
「ボクのむしばだって、その、シンケイをぬくよ」
「ふふん」
バカにしたみたいに、サリスがわらいます。
「ピトラ、おまえシンケイがなんだかしってるのか?」
「し、しってるよ。サリスは?」
「もちろん……しって、るぞ」
はなしがとぎれました。
「それから、だな、タンスのかどにあしのこゆびをぶつけたときより、いたいけど、だいじょうぶだぞ」
「ほうちょうで、ゆびをきったときよりいたいけど、へいきだね!」
そのとき、ドアがひらいて、はいしゃさんがかおをだしました。
しろいふくをきていて、おおきなマスクでかおをはんぶんぐらいかくした、ノクタのおかあさんでした。
「サリスくん、どうぞ」
「はひ!」
サリスがびくっと、たちあがりました。
みぎあしと、みぎてがいっしょにでています。
「ピ、ピトラ、いってくるけど、オ、オ、オ、オレはぜんっっぜんっへいきだぞ」
(サ、サリスがさきかぁ……)
ホッとしたような、かわいそうなような、そんなきもちになりかけたピトラですが――。
「ピトラくんも、おまたせ」
「ぴあっ!?」
すぐに、はいしゃさんすがたのノクタのおとうさんが、ピトラをよびました。
ピトラはソファーからたちあがるまでに、あしがふるえて、2かいしりもちをついてしまいました。
ピトラとサリスは、ならんですわります。
「ちょっとうごくよ」
ノクタのおとうさんがそういうと、せもたれがたおれて、いすがぐーんともちあがりました。
(なんか、すごいなぁ)
よこには、カガミみたいにピカピカの、いろんなカネのどうぐがならんでいます。ほかにもへんなきかいがあったり、じゃぐちみたいなものがあったり、はじめてみるはいしゃさんのなかは、ふしぎなものでいっぱいです。
(でも……やっぱり)
「はい、ピトラくん、くちをおおきくあけて」
「は、はい」
ピトラはくちをあけます。
「――ふむ、おくばが2ほん、むしばになってるよ」
「えー、おーあお」
『へー、そうなの』といおうとしましたが、くちをあけっぱなしだったので、ことばになりませんでした。
「このへんは、ハミガキがむずかしいから、きをつけないとね。じゃあ、けずってつめることにするからね」
「あい」
(こんなにかたいはが、けずれるのかなぁ)
そのとき、となりのこえがきこえました。
『だいたい、おていれはいいみたいだけど、たしかに1ぽん、かるいむしばがあるわね。けずってつめますからね』
『おお』
(サリスのほうが、かるいむしばなんだ)
「じゃあ、いたいのはちょっとだけだから、ガマンするんだよ」
チュィィィィィィィィィン!
ちいさなドリルが、おとをたてはじめました。
(――いたいんだ)
ピトラはぐっとはをくいしば――る、ことはできないので、てをぎゅっとにぎります。
「ちからはいれないほうがいいよ。てんじょうをみててごらん」
ピトラはてんじょうをみあげます。
「あ」
てんじょうからは、ぬいぐるみがぶらさげてありました。しかも、まるでそらをとんでいるみたいに、うまいかたちになっています。
「ノクタがああいうのをかざるのがじょうずでね」
そのなかのひとつは、おおきなトリのぬいぐるみでした。あかくてとってもきれいで、どこかでみたような――。
(えっ? まさか?)
「けずるよ」
「!!」
おくばに、なにかがふれました。
キキキキキキキキキキ!
こすれるかんしょくと、やかましいおと。
そして。
(いたい!)
ズキリ、といたみました。
「あああ!」
おもわず、ピトラはこえをだしていました。なみだがボロボロでます。
『わああああ!』
となりでは、サリスがこえをあげてないていました。
ちりょうのおわったピトラとサリスは、まちあいしつにもどりました。
「ピトラ、ないてたな」
「サリスのほうが、おおきなこえだったじゃないか」
「バ、バカいうな。ピトラのほうがおおきかったぞ」
「じゃあ、おんなじぐらいかな」
「そう、そうだ、おなじぐらいだ!」
「そう」
ピトラがにんまりわらいます。
「ボクのむしばは2ほんだったからね」
「あ……」
サリスがだまってしまいました。
「もしもサリスみたいに1ぽんだけなら、ぜんぜんなかなかったとおもうなぁ。ボクは」
「そ、そんなわけないだろ」
「いまかんがえてみれば、ちゅうしゃよりいたくないよ」
「ピトラはちゅうしゃのときないてただろ」
「サリスだってないてたじゃないか――」
「――サリスちゃん」
そのとき、うけつけのおねえさんが、サリスをよびました。
「はい」
「きょうのおかねはね……」
(ええっ?)
ピトラはおどろいてめをまるくします。
サリスが、じぶんでおかねをはらっているのです。つまり、ピトラがいくのもイヤがったはいしゃさんに、ひとりできたということです。
「――はい、おつかれさま。ちゃんとハミガキするのよ」
「ありがとうございました」
サリスはおねえさんにあたまをさげてから、クツをはきます。
「またな、ピトラ」
にんまりとサリスはわらいます。
「オレは、ひ・と・り・で、かえるから」
「ボ、ボクだってひとりで――」
「ピトラちゃん、おとうさんがすぐにおむかえにきますから、ちょっとまっててね」
(うむぅ……)
ピトラはがっくりしたまま、まちあいしつのイスにこしかけました。
はのいたみは、すっかりなくなっていました。
<おしまい>
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