ピトラの冒険12   千足とQの絵本ワールド

ごんぱち 作

 やまみちはどんどんほそくなり、おひさまもかたむいてきました。
「……まち、たしかこっちのはずだけど」
 ピトラはふりかえります。
 ゲンさんとわかれてから、もう、ずいぶんあるいていました。
 どんどんどんどんみちがほそくなって、くらくくらくなってきます。
「……はやく、めがさめないかなぁ」
 どこかで、とりのなきごえと、はばたくおとがしました。
 くらやみのなかでは、きはピトラをおしつぶしそうなほどおおきくみえ、しげみはおそろしいものがかくれているようにかんじられます。
 ピトラは、たまらずにはしりだしました。
 でも、まっくらででこぼこなやまみちをはしるなんて、できません。
「うわああっ!」
 なにかにつまづいて、ピトラはころんでしまいました。
「い、いた、いたたたた」
 ピトラは、からだをおこしてひじをさすります。すりむいたみたいです。
「う……」
 なきたくなりましたが、がまんです。こんなところでないても、だれもたすけてくれません。
「かいちゅうでんとうでも、もってくればよかったなぁ」
 ぼやきながら、ピトラはつまづいたものをみました。
 ピトラのあたまぐらいある、おおきなまるい――。
「あれ?」
 ピトラは、みょうにツルツルしたそれをひろいました。
「クリ?」
「ああっ、それはオオオニグリ!」
 とつぜん、うしろからこえがしました。
「ゆずってください、ゆずってください、もちろんタダとはいいません、ざいもく20ぽんで!」

 こえのぬしは、カソでした。
 いつもどおりのひねずみのせびろに、リュックをせおって、てにはオノをもっています。
「カソ……どうしてここに?」
「きこりをやってるんですよ。いいきをさがしているうちに、ひがくれてしまって」
「って、りょうりにんのしごとは、どうしたのさ?」
「ころがるいしにコケははえない。じんせいはつねに、あたらしいかんどうがひつようなのです」
「あきっぽいだけじゃないの?」
「みがかるいといってほしいですね」
 はなしながら、カソはジロジロとピトラのクリをみています。
「それで、どうです、そのオオオニグリ、わたしにゆずってくれるきになりましたか?」
「どうして、そういうはなしになるのさ?」
 ピトラはクリをみます。
 おおきくてきれいなクリ。
 もっとも、おおきすぎて、おいしいかどうかはわかりません。
(クリっていえば、やきグリ、ゆでグリ、クリきんとん、マロングラッセに、モンブラン……)
 ぐぅぅぅ。
 クリのことをかんがえると、きゅうにおなかがすいてきました。
「ねえカソそんなことよりさ、ちかくのまちにいきたいんだけど、みちをしらない?」
 そのとき、カソはうれしそうなかおで、にやぁっとわらいました。
「ええ、おしえてあげますよ。そのクリとひきかえに」
(あ……しまった)
 カソのせいかくをわすれていました。
(なんか、あげたくないなぁ)
 カソがあんまりほしがるので、ピトラもクリがおしくなってきました。
「いいよ、どうせもうすぐおきるんだから。これ、ゆめのせかいのおみやげにして、もってかえっちゃお」
「そ、そそそ、それははんそくですよ!」
「おかあさんにりょうりしてもらおーっと。あ、おかしづくりだったらおとうさんもじょうずなんだよねー」
「わ、わ、わかりました。じゃあ、はんぶん、はんぶんでいいですから、まちへのみちをおしえますから!」
「わかりました。それならいいでしょう」
 ピトラはカソのこえまねをして、わらいました。

 カソはまちへのみちをおしえてくれました。
 くれましたが……。
「――えっ? いちばんちかくのまちで、はんにち?」
 ピトラはクリをおとしそうになりながら、ききかえしました。
「そうですよ。わたしは、のじゅくするよていだったんですけど」
 たしかに、カソのリュックには、テントがくくりつけてあります。
「えぇー」
 ぐぎゅるるるるるる。
 それをきくと、ますますおなかがへってきました。
「カソ、ばんごはんはどうするの? おべんとう?」
「これからあつめるよてい……だったんですけど」
 カソがピトラのクリをじろじろとみます。
「わかったよ。いっしょにたべよう」
「ちゃーーーーーーんと、はんぶんくださいね」
「わかってるよ」
(やくにたたなかったくせに)
 ピトラはそういおうとしましたが、やめときました。なにしろ、いっかいやくそくしています。
 それに、こんなにおおきなクリなら、はんぶんでも、おなかいっぱいになりそうだったからです。

 キリキリキリキリキリキリキリキリ……。
「へえ、ひのおこしかた、しっているんですか?」
 ピトラはきのえだのいっぽんをりょうてでころがし、もういっぽんのえだにこすりつけます。
 キリキリキリキリキリキリキリキリ……。
「まえに、ラグヤがおしえてくれたんだ」
 キリキリキリキリキリキリキリキリ……。
「ああ、よくリュウさんといっしょにいるかたですね」
 キリキリキリキリキリキリキリキリ……。
「ふぅ、ふぅ……」
 こすってもこすっても、ひはつきません。
「おかしいなぁ」
 ピトラはえだとえだのこすれるぶぶんをさわってみます。
「あついけど……」
 えだのさきが、ちょっとだけ、あつくなっていました。でも、ひのあつさにはとおくおよびません。
「うーん、ダメだね」
「じゃあ、コンロつかいましょうか」
「は?」
 カソは、リュックからでんきコンロをだしました。
「ちょ、ちょっと! そんなのもってるなら、さいしょから……あ」
 コンロには、でんきのプラグがついていました。
「……コンセントがないところで、そんなコンロどうするのさ?」
「もちろん、つかうんですよ」
 カソは、いしを1つひろって、それをべつのいしでたたきました。
 かちん!
 いしはまっぷたつにわれました。
「あっ!」
 ピトラはおもわずこえをあげていました。
 われたいしが、きいろくひかったのです。
「でんきがかたまったいし、でんこうせきです」
「……ヘンなせかい」
「たにんのせかいっていうのは、そんなものですよ。さ、いっしょにさがしてください」
「え? いまのでんこうせきじゃ、ダメなの?」
「ええ。まぶしいぐらいにひかっていないと、でんきがよわくてつかえませんよ」

 かちん!
 いしがわれます。
 われためんが、ぼやーっとひかります。
「クズいしかぁ」
 ためいきまじりに、ピトラはべつのいしをひろいます。
 カチン!
 まえのいしよりはマシですが、まぶしいとはいえません。
「つちにうまって、くうきにふれていないでんこうせきがいいんですよ」
 せなかあわせででんこうせきをひろうカソも、クズいしをすてます。
「くうきにふれていないいし……」
 ピトラは、いしをどんどんわっていきます。
「つちにでんきって、ながれないの?」
「このへんのつちは、セキエイがおおいですから、くうきよりもでんきはながれにくいんですよ」
「なんかわかんないけど、そうなんだ」
 ひろって。
 カチン!
 すてる。
 ひろって。
 カチン!
 すてる。
 ひろって。
 カチン!
 すてる……。
 ピトラはなんだかおもしろくなってきました。
 このへんのいしは、ほんとうにきもちよくわれるのです。
 そしてよくみると、われるときにとびちったちいさなちいさないしのカケラが、ほしみたいにかがやいてきえていきます。
 ひろって。
 カチン!
 すてる。
 ひろって。
 カチン!
 すてる。
 ぐぅぅぅぅ。
「カソ、なんか……ふぅ……つかえそうなでんこうせき、みつからないの?」
 ひろって。
「ピトラはどうです?」
 カチン!
「みつかったら、こんなこときかないよ」
 すてる。
「クズいしばっかり」
「そうですか。ああでも、ピトラ」
「なに?」
「ちりもつもればやまとなる、です。クズいしも、ひとまとめにするとけっこうなでんきになりますから、マシなのをあつめてつかってみましょうか」
「そうだね」
 ピトラはふりかえって、カソのほうをみます。
 カソもふりかえって、ピトラのほうをみます。
「わぁ」
 ピトラのすてたクズいしが、すごくおおきなやまになっていました。ひとつひとつのひかりはよわいですが、こうやってまとめてみると、なかなかきれいです。
「おもったより、いっぱいひろってたんだ」
 いまわった、なかなかひかりのつよいでんこうせきを、ピトラはそのやまにほうりました。
「ピトラ、でんこうせきというのは、あんまりひとまとめにしちゃいけないですよ」
「そうなの?」
「でんこうせきがげんかいをこえてあつまりすぎると、ちじょうのかみなり『ジライ』になって……」
 パチッ!
 パチパチッ!!
 でんこうせきが、ひばなをちらしはじめました。
「おわっ、ピ、ピトラ、ふせて!」
 カソがあわてて、ピトラにしがみつき、おしたおしました。
「うわっ、なにを!」
 ふたりがじめんにたおれたしゅんかん。
 ドカガガンッ!!
 ものすごいひかりとおとが、しました。

「お、おどろいた……」
 ピトラは、おそるおそるからだをおこします。
 まだくうきにでんきがのこっているのか、からだじゅうのけが、ざわざわとさかだっていました。
「ふー、だからいったでしょう」
 カソも、たちあがります。
「いうのがおそいよぉ」
 クズいしのやまは、ジライでふきとんで、じめんにあながあいていました。
 そして、ふきとんだいしは――。
「わぁ……」
 こなごなになったいしは、ひかりのこなになって、そらをただよっていました。それはまるで、ほしぞらがとおくとちかくに2つあるみたいでした。
「あっ、ピトラ」
「どうしたの、カソ?」
「ほら」
 じめんにできたあなのそこに、まぶしくひかる、おおきなでんこうせきがありました。
 カソは、ゴムのてぶくろをはめて、でんこうせきをひろいます。
「これなら、じゅうぶんですね」

 コンロのプラグのはのいっぽんをでんこうせきとつなぎ、もういっぽんをじめんにつなぎます。
 そして、あつくなってきたコンロのうえに、クリをおきます。
 ぐぎゅるるるるるるるる……。
「おなかすいたぁ」
「ばんごはんには、だいぶおそいじかんですからね」
 コンロはどんどんあつくなって、クリをあっためていきます。
 ときどき、カソがクリのむきをかえて、まんべんなくやけるようにします。
 すこしづつ、クリのやけるかおりがしてきました。
「ねえ、まだやけないのかなぁ?」
「もうそろそろだとおもいますよ」
 いいながら、カソはひねずみのせびろの、うわぎをぬぎました。
「あつくなったの?」
「ちがいますよ」
 ひねずみのせびろを、カソはクリとコンロのうえにかぶせました。
「わっ、あぶないよ!」
「ひねずみのせびろは、もえませんよ」
「……ああ、そうだっけ」
 マグマでももえなかったせびろです。これぐらいどうってことないのでしょう。
(なんか、ちょっとほしくなってきたなぁ)
 ピトラはぼんやりとカソのせびろをながめた、そのとき。
 バチーーーーーーン!!
 なにかのはじけるおとがして、せびろがもちあがりました。
「うわあああっ!」
 クリがはじけてとんだのです。
 でもさいわい、かぶせておいたせびろのおかげで、とおくへとんでいくことも、ピトラたちにぶつかることもありませんでした。
「びっくりしたぁ」
「たきびなんかでやいて、ケガをするひともいるんですけどね」
 カソは、クリのかわをナイフでむくと、ていねいに2つにきります。
「さあ、どうぞ」
「ありがとう」
 ピトラは、りょうてでクリをもって、かじりました。
 ホコホクしっとりしていて、クリのかおりがはっきりして、どっしりとあまい。かめばかむほどあまくなる。
 おいもみたいとか、おかしみたいとか、なにかにたとえられるあじではありません。
 クリです。
 もう、これでもかというぐらい、クリです。
 さいじょうきゅうのクリです。
 ためいきがでました。ことばにも、なりませんでした。
 ふたりとも、だまってクリをたべました。
 おいしいね、とも、いわず。
 もっとほしい、と、おもうまもなく。
 ほしと、でんこうせきの、わずかなあかりのなかで、クリをたべました。

 あとには、おおきなクリのかわだけがのこりました。

<おしまい>