「ふぁふぁふぁふぁ……」
ピトラは、めをこすりながら、ふとんからおきあがりました。
ズン。
まくらもとに、けんがおいてあります。
「――あれ?」
ピトラはくびをかしげます。
「れれれ? おみやげはぼうけんのきおくにしたはずなのに?」
けんをもちます。
ズン。
じぃぃぃぃぃぃぃぃっとみつめます。
「……リンガ?」
「ん、あ、あ?」
けんが、しゃべりました。
「やっぱりリンガだ。どうして?」
「お、ああ、おう、ピトラ、やっとあえただ!」
けんは、もと・のろいのけんのリンガです。なんだか、まえよりもずっとこえがはっきりしています。
「あえたって――リンガ、ぼくにあいにきたの?」
ズン。
「んだ、ちぃとたのみてぇことが――」
そのときです。
『きゃあああああああっ!』
だいどころのほうから、おかあさんのピピラさんのさけびごえがしました。
「おかあさん――わああああっ!」
ピトラも、おおごえをあげていました。
なぜって、まどのそとに、おおきなセイスモサウルスのかおがあったからです。
ズン!!
ひときわおおきなあしおとがして、いえがゆれました。
『りんじニュースをもうしあげます! ツキトちょうに、きょうりゅうがあらわれました!』
テレビは、どのチャンネルもニュースになっていました。
『――みなさんは、あまどをしめて、そとにでないようにしてください!』
(な、なんで、きょうりゅうが?)
ピトラにはさっぱりわかりませんでした。
(あんなのにふまれたら、いえだってつぶされちゃう)
「しんぱいしないで、ピトラ、ポテト」
おかあさんが、ポテトをおんぶしたまま、ピトラをぎゅっとだきしめます。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶだからね」
トゥルルルルルルル!!
おかあさんがでんわをとりました。
「あっ、ポポトさん! ええ、だいじょうぶ。さっき、すぐそばをとおったけど、ピトラもポテトもぶじよ――そんなあぶないわ! でも、へんにうごいたらポポトさんが――ううん、そんなことないけど、うん、うん、わかった。でも、あぶないとおもったら、ひきかえしてね? ぜったいよ?」
おかあさんが、ためいきをついて、じゅわきをおきます。
トゥルルルルルルルルル!
どうじに、またでんわがなりました。
「もしもし? え? ラグヤくん?」
「ラグヤ?」
「はい」
おかあさんが、じゅわきをピトラにわたします。
『……ピトラ?』
「どうしたの、ラグヤ?」
『……まどを、あけて』
「え?」
『……ピトラのへやの、まど』
ピトラがへやにもどると、ラグヤがまどのそとにいました。てには、たぶんおとうさんかおかあさんのけいたいでんわをもっています。
(ラグヤ、どうして?)
ふしぎにおもいながらも、ピトラはまどをあけます。
ラグヤはあたりをきにしながら、まどからピトラのへやにはいりました。
「……たいへんだ、ピトラ」
ラグヤはあらいいきをしています。ピトラのいえまではしってきたのでしょう。
「……あの、セイスモサウルスが、なぜだかゆめのせかいからこっちへきてしまった」
「あの、って?」
ピトラはききかえします。
「……ピトラ、おぼえてないの?」
「きょうりゅうにあったことなんてないよ?」
「……そうか、あのときピトラはきょうりゅうのタマゴをおみやげにして、ぼうけんのきおくはなかったんだ」
「え? きょうりゅうのタマゴ?」
「……ええと、それはいいから」
かんがえがうまくまとまらないのか、ラグヤはくびをふります。
「……あのセイスモサウルスは、ゆめのせかいからきたにちがいない」
「ゆめのせかい、かぁ」
「……ここにはセイスモサウルスのたべものはないし、きこうもちがう。はやくもとにかえしてやらないと」
「でも、ぼくらになにかできるのかな?」
「できるだ! いんや、ぜひやってもらいたいだ!」
「……けんがしゃべった?」
「いや……それはいいから」
「すまないだ」
リンガは(もしもあたまがあるなら)ふかくあたまをさげました。
「ぜんぶ、オラがわるいだ」
「どういうこと、リンガ?」
「……けんが、しゃべってる」
「それはいいってば」
「オラ、カソのりょうりやで10000のいのちをうばって、いちにんまえののろいのけんになれただ」
「ええっ?」
ピトラはリンガをまじまじとみます。
たしかにまえよりも、ずっときれいで、なんでもきれそうにみえます。ちょっとほうちょうみたいなかたちにもなっていましたが。
「ちょっとまってよ、このまえゆめであってから、1かげつもたってないじゃない?」
「えんかいのよやくが、たてつづけにはいっただよ」
「はあ……まあ、よかったね」
「それがよくねえだ……」
リンガのこえには、ぜんぜんげんきがありません。
「いちにんまえになって、なんでもきれるようになっただよ」
「よかったじゃない」
「なんでも、だぁ」
「……つまり、ゆめのせかいと、ボクたちのせかいのさかいめを、きっちゃったってこと?」
かんがえていた、ラグヤがいいました。
「んだ。おまん、ピトラとちがって、アタマいいだな?」
「……えへへ」
「なにしろはじめてだったで、かげんができねえで、グッサリせかいをきっちまっただよ。んで、きょうりゅうが1ぴき、まぎれこんだだ」
リンガは、なんだかラグヤのほうにはなしています。
「わかっただか?」
「……じゃあ、もういちどせかいをきれば、あのセイスモサウルスは、もとのせかいにもどせるの?」
「んだ」
「せかいをきるって、どういうこと? なにがなんだかわかんないよ??」
「ピトラはあたまがわるいだな」
「ラグヤとくらべないでよ!」
「よし、ピトラ、ちょっとオラをもつだ」
「こう?」
ピトラはリンガのえをもちます。
「したら、マルをかくだ。くうちゅうに、くるっと」
「ええと……」
ピトラは、リンガをぐるりとまわしました。
「え?」
「……!」
リンガのするどいきっさきがとおったところに、きれめができました。なにもないはずの、くうちゅうに、きれめができたのです。
それから、きれめはまっくらなあなになったかとおもうと、むこうがわにみどりのくさがみえました。
「えっ? あれは」
「……ゆめのせかいだ」
「ふぅ……んだ。これが、せかいのさかいめがきれたってことだ」
「つながってるの?」
ピトラはあなのむこうの、くさをつかんでちぎりました。
しゃらん。
がっきみたいなおとをたてて、くさはちぎれました。
(ほんとうに、ゆめのせかいのくさだ)
ピトラがあなからてをぬくと、あなはしぜんにふさがっていきました。
「わかっただか? せかいのさかいめのきりかたは、そんだけだ」
「……つまり、リンガがセイスモサウルスのまわりを1しゅうすればいい」
「んだ!」
「ぼくもいま、いおうとおもってたんだよ!」
ファン、ファン、ファン、ファン……。
『みちをあけてください! みちをあけてください!』
パトカーが、サイレンをならしながら、のろのろとおりすぎていきました。
どうろは、じどうしゃがだいじゅうたい。はんたいに、ほどうにはだれもいません。
「だいじょうぶかなぁ」
リンガをバッグにいれたピトラとラグヤは、パトカーのむかうほうへはしります。
「……セイスモサウルスをきずつけなければいいけど」
「ともかくいそぐだ!」
「いわれなくてもいそぐよ」
おかあさんに、なにもいわずにいえをでているのです。
のんびりはしていられません。
いえのあいだをかけぬけ、おふろやさんのまえをはしり、こうえんをよこぎります。
ピトラたちがしばらくはしっていると、パトカーのサイレンのおとがどんどんおおくなってきました。
「……いた」
ラグヤがぼそっとつぶやきました。
「うわぁ」
ピトラはおもわずこえをあげてしました。
ゆっくりあるくセイスモサウルスのうしろを、パトカーがなんだいもおいかけていました。
セイスモサウルスのなんとまぁ、おおきいこと、おおきいこと。
このみちをいままでとおったことのある、どんなくるまよりもおおきいにちがいありません。
まわりのいえよりも、ずっとおおきいです。
バキバキバキバキ!
ふとくてがっしりしたあしが、またいちだい、じどうしゃをふみつぶしました。ふといふといしっぽのつけねにふれて、どうろひょうしきがおれまがります。
パトカーも、セイスモサウルスをとめられずにいます。
「……まえより、おおきくみえる」
「すごいなぁ……」
「かんしんしてるばあいじゃねえべ! さっさとあなをつくるだ!」
「……そうか」
「そうだったね」
ピトラとラグヤは、ぜんそくりょくではしりだしました。
「ギリギリまでちかづいたら、あいずするだ! くうかんをきりはじめるだ!」
「わかった、けど」
ピトラとラグヤは、はしります。
はしります、けど。
「ひぃ、ふぅ、へぇ、はぁ……」
「……はぁ、はぁ、ほぅ、はぁ、ふぅ」
「なにやってるだ! まだおいついてもいないだ!」
「ま、まってよ!」
ピトラははしりながら、どなります。
ゆっくりあるいているみたいですが、セイスモサウルスは、おもったいじょうにはやいのです。
(でも、がんばればなんとか)
『そこのぼうやたち! とまりなさい! ちかづいたらあぶない!』
パトカーから、こえがしました。
(うわあっ!)
「……さくせんをねりなおそう」
「あっ、おい、なにするだ、どこいくだ!」
ピトラたちは、セイスモサウルスからはなれていきました。
「はぁ、はぁ……パトカー、おってきてないよね?」
あるきながら、なんどかピトラはふりむきます。
「……だいじょうぶ、ボクたちをあいてにするひまはないみたい」
ラグヤはしゃがみこんでいます。
「1しゅうするだけでも、タイヘンだんな」
リンガのこえも、しょぼんとしています。
「どうしようか……」
「……けいかくをたてなおそう。ボクたちのあしじゃ、まわれない」
ピトラたちは、ひみつきちのあきやにはいりました。
「でも、どんなけいかくでも、ボクらがセイスモサウルスのまわりをはしらなきゃいけないのはいっしょだよ?」
「……なげるとか」
「それでへいきなの?」
「きょうりゅうのいるばしょに、あなができればいいだ。でも、そんなにとおくまでオラをなげられるだか?」
「あっ、そうか」
ピトラがげんかんのドアをあけたときです。
バタン!
「うわっ!?」
めのまえに、スコップがたおれてきました。
「……あぶない」
(び、びっくりした。なんで、スコップのわながうごくんだ?)
「ん、ピトラか?」
「そうだそうだ、ピトラとラグヤだぞ!」
ひみつきちのおくから、こえがしました。
「サリス、ノクタ!」
おくのへやからでてきたのは、サリスとノクタでした。
「なんできみたちまで?」
「きょうりゅうをみにきたら、おまわりさんにおこられそうになってな。がははは」
「でもでも、おっきかったぞ」
リンガと、ピトラたち4にんは、パトカーのいないじゅうたくちのなかのどうろをはしります。
「リンガをリレーするのかぁ」
ピトラはかんしんしたかおで、ラグヤをみます。
「……ボクたちひとりひとりで、1しゅうするのはムリだけど、みじかいきょりならぜんりょくではしれるから」
すこしじまんげに、ラグヤはわらいます。
「かくにんするぞ。オレはセイスモサウルスのうしろはんぶんをはしる」
「うんうん、ノクタはひだりだぞ」
「……ボクはみぎ。そして」
ピトラはうなずきます。
「ぼくが、まえをよこぎる」
「だいじょうぶだか? ピトラ、しっぱいしたらふみつぶされるかもしれないだぞ」
リンガはしんぱいそうです。
「だいじょうぶ。はしるきょりはみじかいんだから」
そういいながら、ピトラのしんぞうは、ドンガドンガあばれていました。
「それより、サリス、ノクタ、ありがとう。こんなたいへんなことに、てをかしてくれて」
「……ごめん」
「なにいってんだ、ピトラ、ラグヤ。こんなおもしろそうなこと、なかまはずれにしたらそのほうがおこるぞ」
「そうだそうだ、おこるぞ」
とおくに、こうそくどうろにまえをふさがれて、ほうこうをかえている、セイスモサウルスのおしりがみえてきました。
ピトラたちは、かおをみあわせうなずき、それぞれのばしょへ、はしっていきました。
ちかみちをして、ピトラたちはセイスモサウルスをかこみます。
セイスモサウルスをうえからみて、みぎうえがピトラ、ひだりうえがノクタ、ひだりしたがサリス、みぎしたがラグヤ。
リンガのリレーは、ノクタからはじまって、ひだりまわりにしかくをかくかたち。
(いちについて)
ピトラは、セイスモサウルスのむこうがわのノクタにむけて――。
(ようい)
てを、あげました。
(ドン!!)
リンガをいれたバッグをかついで、ノクタがはしりだしました。
ピトラは、セイスモサウルスをみあげます。
いえよりもおおきく、あたまのさきからしっぽのさきまで、ものすごいながさ。からだもやまみたいにおおきくて、あしおとは、じしんみたいにあたりをゆらします。
(これの、まえを、はしるのか)
カチカチカチカチ……。
(あれ? なんのおとだろう?)
ノクタがサリスにリンガをバトンタッチしました。
サリスはものすごいスピードではしります。
カチカチカチカチカチカチ……。
(やっぱり、サリスはすごいや)
カチカチカチカチカチカチカチカチ……。
セイスモサウルスのうしろと、よこはんぶんぐらいをいっきにはしりぬけ、サリスがラグヤにリンガをバトンタッチ。
(はやいはやい。ぼくたちひとりひとりだったら、ぜったいこんなにはやく、ながくはしれないよ。ラグヤすごいなぁ)
「……ピトラ!」
ラグヤがまえにたおれこむようにしながら、リンガのはいったバッグをピトラにわたしました。
ピトラはバッグをせおいます。
(うわぁ、すごくもちやすくなってる。さすがノクタのさいくだ)
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……。
ピトラははしりだそうとしました。
(あれ?)
ところが、ぜんぜんすすみません。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……。
「……ピトラ!!」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……。
(ああ、なんだ。ぼく、ふるえてるんだ)
ふるえて、はがカチカチなっていました。しんぞうがバクバクなって、からだじゅうがしんぞうにゆらされてるみたいで、あたまがきゅぅっとしめつけられるみたいにいたくなります。
(こんなにこわいこと、どうしてするなんていったんだろう? サリスにまかせなかったんだろう?)
もう、いっぽも、はしれそうにありませんでした。
「ピトラ、もう、ええだ」
とおくで、リンガのこえがきこえたきがしました。
(ほら、リンガもいいっていってる)
ピトラのあしは。
(いいって)
――あしは。
「それはかっこわるいでしょ!」
ものすごいはやさで、はしりだしました。
リンガのつくったきれめが、ピトラのはしったとおりに、すぃっとのびていきます。
セイスモサウルスのおおきないっぽが、ピトラにせまります。
でも、もうピトラはとまりませんでした。
セイスモサウルスのましょうめんをはしりぬけ、さいしょにノクタのいたばしょへ。
きれめは、つながりました。
きれめのうちがわがまっくらいあなになり、セイスモサウルスは、あなのなかにきえていきました。まるで、うみにふねがしずむみたいでした。
はしりおえたピトラのよこを、サイレンをならしながらパトカーがとおりすぎていきました。
ピトラたちは、ひみつきちにもどっていました。
「いやー、つかれたー」
ピトラはあおむけになります。
「……うん。でも、よかった」
ラグヤも。
「そうだな」
サリスも。
「うんうん、よかったぞ」
ノクタも、ねっころがります。
「かってにいえをぬけだして、おかあさんにしかられるかなぁ」
「……だいじょうぶだとおもう」
「だな。セイスモサウルスがいなくなったせいで、みんなゆめでもみてたみたいなかおしてたし」
「そうだそうだ、しかられないぞ」
(そっか)
「ぷっ」
ピトラはちょっとおかしくてわらいます。
(あんなにこわいおもいをしたのに、いまはおかあさんにしかられるのがこわいなんて)
ピトラはからだをおこしました。
ふとみると、みんなねむっていました。
「リンガも、おつかれさま」
ところが、リンガはへんじをしません。
「リンガ?」
バッグから、リンガをだします。
ピカピカかがやいていたリンガのヤイバが、くすんでいます。
「ど、どうしたの?」
『そいつぁ、ちからをつかいすぎたんだな』
「あっ、ゲ、ゲンさん!?」
くうちゅうに、リンガがつくったのとおなじようなあながあいて、そこからカメのゲンさんがかおをだしていました。
「おう、ピトラ」
「ゲンさん、こっちにこられるの?」
「ゲンブのゲンさんをなめちゃいけねぇ」
ゲンさんはてをのばして、リンガをつかみます。
「あっ、どうするの?」
「せかいのさかいめをかってにきったんだ。おいらたちがどれだけくろうしたか。まあ、おしおきだろうな」
「そんな! リンガはわざとやったんじゃないんだよ!」
「わかってる。でもな、おしおきってのは、わるいことをしたヤツをくるしめるためにあるんじゃねぇぜ」
「え?」
「わるいことを、あらいながして、ゆるすためにあるのさ」
ゲンさんとリンガは、ふっときえました。
「リンガ……」
もう、なにものこっていませんでした。
「また、あおうね」
ピトラたちのきおくのほかには。
<おしまい>
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