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くらい、ながい、せまい、どうくつでした。
「うひゃっ!」
えりくびに、しずくがおちて、ピトラはおもわずこえをあげます。
「どうしたピトラ!」
まえをあるいていたカメのゲンさんが、ふりむきました。どういうしかけなのか、ゲンさんのコウラはライトみたいにひかって、まわりをてらしています。
「あ、いや、くびに、みずがおちただけだよ」
「なんでぇ、おどろかすなぃ! がははは」
がははははははは。
がははははは。
がははは。
がは……。
ゲンさんのわらいごえが、どうくついっぱいにひびきわたります。
「えへへ」
えへへへへへへへ。
えへへへへへ。
えへへへ。
えへ……。
ピトラのわらいごえも、ひびきました。
それからふたりは、またどうくつをあるきはじめました。
10ぷんほどあるいたあと。
「ピトラ、あっちみてみな」
「え? うわっ!」
にじいろのスイショウが、ならんでいました。
おおきいの、ちいさいの、ちゅうぐらいの、すなつぶみたいなの、はしらみたいなの。
ぜんぶが、きらきらにじいろにかがやいています。
「すごい……」
「だろう」
「カソがすきそうだね」
「ああ、あいつはなんどももってかえった」
「やっぱり」
「でも、そとにでると、ただのスイショウなんだ、これが」
「へぇ、そうなんだ?」
「ひかりのぐあいらしいんだがな」
「それじゃ、ここにあったほうがスイショウもうれしいだろうね」
「ただのスイショウはどこにいっても、いつになってもスイショウだとおもうけどな?」
「そんなことないって」
ピトラとゲンさんは、どうくつのおくへとあるきます。
と。
ちゃぷ。
「うわっ! つめたい!」
ピトラはあわててあしをひっこめます。
ふときづくと、めのまえにおおきなみずうみがありました。
どうくつはおくへいけばいくほどひろくなっているみたいで、みずうみのむこうがわはみえません。
「こんなにひろいみずうみがあるんだ……」
「おうよ。これで、どうくつたんけんのしゅうてんってなもんだ」
「ふうん。ありがとう、ゲンさん、おもしろかったよ」
ピトラがおれいをいって、かえろうとしたときです。
あしもとのぬれたいしが。
つるっ。
ばっっしゃああああああん!
ばっしゃあああああん!
ばしゃああああん!
ばしゃあああん!
しゃあああん!
ゃあああん!
あああん!
あぁん!
ぁん!
……きりたいー。
「つめたいぃぃぃぃぃぃぃ!」
つめたぃぃぃぃぃぃ!
つめたぃぃぃ!
つめたぃ!
めたぃ!
ぃぃ!
……だれかくるだー。
「おいおい、だいじょうぶかピトラ!」
「だ、だいじょうぶ」
びっしょりぬれたおしりをさすりながら、ピトラはたちあがりました。
「それより、なんかおくのほうから、こえ、しなかった?」
「こえ?」
「きりたい、とか。だれかこい、とか」
「がはははははは、まさか!」
がははははは、まさか!
がははは、まさか!
はは、まさか!
さか!
……ちを、よこすだー。
「うわっ、ほんとうにしやがった!」
「だれかいるよ、たすけなきゃ!」
「よし、ピトラ、のりな」
「うん」
ピトラをコウラにのせ、ゲンさんはみずうみをおよぎだしました。
ひろいひろいみずうみでした。
みずはスイショウみたいにきれいで、こおりみたいにつめたくて、かがみみたいにたいらです。
ただ、ゲンさんがおよぐなみだけが、どこまでもひろがっていきます。
「ゲンさん、つめたくない?」
「ゲンブのゲンさんにゃ、このぐらいへでもねえって」
「……ほんとうは?」
「ちょっとつめたい――って、なにいわせやがんでぃ!」
いわせやがんでぃ!
せやがんでぃ!
がんでぃ!
でぃ!
……いのちよこせー。
「なんか、へんなことばっかりいってるみたいな……」
「すごくつらいんじゃねえか? いそごう!」
1じかんほどすすんだあと、ようやくむこうぎしにとうちゃくしました。
「……うー、うごかないじめんだ」
ピトラはゲンさんからおります。
「のりものによわいな、ピトラ」
ゲンさんも、みずからあがります。
「――あれ?」
ピトラは、あたりをみまわします。
いきどまりです。
そして、ピトラとゲンさんいがい、だれもいません。
「みょうだな?」
ゲンさんが、くびをかしげます。
「だれかがいたのは、たしかみたいだよ」
ピトラは、いわにつきささっているみじかいけんをひきぬきました。けんは、とってもきれいでした。
『おお、よくきただな』
どこからか、みょうなこえがしました。
「え?」
「すがたがみえねえなぁ」
ピトラとゲンさんはキョロキョロします。
『ここだ、ここ!』
「ひょっとしたらゆうれいか?」
「まさか、そんなのが」
『ここだ、っつーに』
「だよなぁ。ゆうれいはピトラのせかいのいきものだし」
『こらああああああ!』
「おわっ」
「うわっ!」
ピトラはおどろいて、けんをおとしました。
かしゃん!
『いたっ、いたた、なにするだ!』
「ねえ、ゲン、さん?」
じめんにころがったけんを、ピトラはみます。
「それ、しゃべらなかった?」
「どうも、そういうことらしいな」
ゲンさんはなぜか、こわいかおをしました。
『やっときづいただな、オラはリンガってなまえで――』
「ピトラ、そのけんいわにもどしとけ」
『そ、そそ、そっただこど!』
「え? いいの?」
『いいわけねえべ! これからおまんをあやつって、いちまんのいのちをうばわなきゃいけねえだよ! そうして、いちにんまえののろいのけんになるだよ!』
「いちまんにんを、ころす?」
「こいつはのろいのけんだ」
ゲンさんはけんのリンガをにらみます。
「ぜったいにこわれないし、さびないし、きれないものはない。でも、もっているといきものをきらずにはいられなくなる、おそろしいけんだ」
「べつに、なにもきりたくならないけど」
リンガのヤイバが、ギラリとひかります。
いわにささっていたというのに、おれてもいないし、かけてもいないし、さびてもいません。
「……どうやら、まだつくられたばかりの、よわいけんみたいだが、あぶないことにはちがいねぇ。さ、いわにもどすんだ」
『ま、まつだよ!』
リンガがあわててさけびます。
『オラはべんりだ、ぜったいだ、そんはさせねえだ』
「どうべんりなの?」
「ピトラ、はなしをきくな!」
『おまんのきにいらないやつ、だれでもきりころしてやるだ』
ギラリとリンガがひかります。
「そ、そんなひといないよ! だいたい、きったらいたいよ!」
『そげなこといわねえで! いちまんのいのちをうばったら、なんでもきれるようになるだ。いえのかべだって、くうきだって、せかいのさかいめだって、なんだってきりさけるだ!』
「そんなあぶないもの、もっていられないよ」
『たのむだ、おねがいしますだ! オラぁ、 オラぁうまれてすぐに、しっぱいだっていわれて、ここにふういんされて、もうきりたくってしかたないだ! おまんだって、メシくわなきゃハラへるべ? シュミやらなきゃストレスたまるべ? どうくつのおくにとじこめられてたらブルーになるべ?』
ぽかっ。
ゲンさんがリンガをたたきました。
「わかったろ、ピトラ? こんなけん、ロクなもんじゃねぇ。ただただあぶないだけだ」
「でも……」
『たのむだよー、たのむだよー!』
リンガは、なみだをながしながら(たぶん、めがあったなら)さわぎます。
ピトラはそのようすに、なんだかリンガがかわいそうになってきました。
「ねえ、リンガ?」
『なんだべ?』
「いちまんのいのち――って、いったよね?」
『んだ』
「――おおっ、これはよくきれますね!」
りょうりにんをやっている、ひねずみのカソが、おおきなサカナをきります。
どうくつからもどったピトラとゲンさんは、りょうりやさんにいました。
「おまえ、なんでもやるな……」
ゲンさんは、カソのてもとをしんぱいそうにみます。
「どうリンガ?」
ピトラがたずねます。
『ああ、ええだ、ええだ! すばらしいだ!』
カソのての、ほうちょうがわりのリンガが、よろこびのこえをあげていました。
「はい、おさしみ、おまちどうさま」
カソが、ゲンさんにおさしみをだします。
「たしかにほうちょうなら、まいにちいのちをうばうけど……」
ゲンさんはむずかしいかおで、おさしみをみます。
「のろいのけんできったとおもうと、なんだかなぁ」
「ゲンさん」
ピトラはおさしみをとります。
「おさしみをきったんだから、リンガはのろいのけんじゃなくて、ほうちょうなんだよ」
「そういうもんかねぇ」
「――あげだしどうふおまちどうさま」
『またせただ!』
ほうちょうのリンガは、とってもうれしそうにキラリとひかりました。
<おしまい>
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