ENTRY 1
春緑(ハルミドリ)
棗樹◆◆
さくらがちるあしもとで
つつじはロケットみたいなつぼみをかたくして待ってる
じいちゃんちの田んぼではレンゲの花がまんかいだって
坂の上のポプラはまだはだかんぼう
こずえにまきついた銀の風が
すみれいろの空にすいこまれてゆくよ
きゅうくつな上着とぶかぶかのくつ
ていねいにおけしょうしたおかあさんと
ずぼんつりをしたおとうとをつれて
今日はさいこうにへんなぎょうれつ
ひなたぼっこをしていたねこのたろうも
あたらしいくつのにおいをかいで、へんな顔をした
ピンクと水色の花びらでかざられた
アーチをくぐって
しらないひとになまえをきかれ
しらないこと手をつながされる
しらないこがぐいと手をひっぱって
うわばきがぬげそうになる
なきそうになる
しらないうたをうたって
しらない教室にいった
しらないせんせいがぼくのまえにたった
しらない、いいにおいがした
せんせいがこくばんになまえを書いた
しらない字だった
よめません、とだれかがいった
せんせいはにっこりわらって
よみかたをおしえてくれた
みんなでくりかえした
しらなかった字が
ぼくのせんせいのなまえになる
「はる、みどり」
(ハル ミドリ)
ぼくのせんせいは はる みどり せんせい
ENTRY 2
思い出
お気楽堂◆◆
梅の香りで春を知り
汗ばむ肌で夏を感じ
赤とんぼに秋を告げられ
セーターを着て冬に入る
毎年そんなふうに過ぎればいい
なにも特別なことなどなくていい
君がいなくなっても
春には梅が咲き
夏には汗をかき
秋には赤とんぼが舞い
冬にはセーターを着る
僕が知っていればそれでいい
梅の香りも
汗も
赤とんぼも
セーターも
君がいたときは
もう少し違っていたんだと
僕が知っていればそれでいい
今日は天気がいいから
高尾山にでも行かないか
足が糸のような蜘蛛を見たことや
冷たい蕎麦で汗が引いたことや
蛸杉を必ず撫でることや
お正月のケーブルカーの混雑や
増える分にはかまわないのさ
今日は
そうだなぁ
どんぐりでも拾って来ようか
ENTRY 3
詩作ノススメ
越冬こあら◆◆
多少の身分の違いなら 大目に見てやるから
諸君も詩作に 励みたまえ
何回目かの十一月が 中途半端に始まり
終わろうとして
「まだ元気です」なぞと書き綴るくらいなら
死なない冬に レクイエムを贈りたまえ
食前食後の アイスクリームを
嗚呼 バイオマス!
現時点に 特定空間に
生息する生物の 総量よ!
穴の空いた衣装でさえ
見ない振りをしてやるから
内臓から湧き上がってくる 空虚をパワーに変換し
原稿用紙に ぶっつけたまえ
眠らずにただ眠らずに 公園のベンチで語る
君たちは外で できるのだから
大志の志(シ)
変死の死(シ)
必至の至(シ)
姉妹の姉(シ)
肢体の肢(シ)
士農工商の士(シ)
四苦八苦の四(シ)
詩作に励んでくれたまえ
ENTRY 4
肖像
植木◆◆
いつまでも
明るい午後が続きそうな
秋晴れの日だと云うのに
チェロのハードケースと僕には
これっぽっちの共鳴も
起こりはしない
偶然なんて
思わず出た溜息ぐらい
信じてはいないけど
鏡のある部屋で
掠れたシャンソンのように
立ち続ける無為な午後
はたして君は
その無邪気な眼差しで
カンバスに撫肩の曲線と
錠前付きの体を
度の強い眼鏡や
赤いがらんどうを
うつしとれるかい?
ENTRY 5
史上最低のおどり
ながしろばんり◆◆
史上最低のおどりで街をいく。
猫は逃げ、
犬は吠え、
鳥は落ち、
車は燃える。
弟から顰蹙、
猿は泄らし、
馬も泄らし、
列車は博多へ。
立看板は倒れ、
道路はうねり、
洋食屋は潰れ、
参道は亀だらけ。
ことばは崩壊し、
戦乱の世になり、
両足がくたびれ、
UFOは謎の自爆。
小学生は後を追い、
ベビーカーは飛び、
志村はだっふんだ、
高校生は烟草を吸う。
海苔屋の親爺は逃げ、
自転車は車輪が脱れ、
鹿はここにはいなく、
蝿はちくわの穴に隠れ、
世はすべてこともなく。
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