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キトラの冒険
作:ごんぱち
その101『フツヌシのたのみごと 中編』
まっくらな宇宙の中に、ぽつんとただよう星。
青い海と緑の大地におおわれた、宝石のようなその星には、たくさんの命があふれています。
ほんの少し温度が高ければ、命を育てる水はひからびてしまっていたでしょう。ほんの少し温度が低ければ、すべては氷にとざされてしまっていたでしょう。
奇跡のようなその星に、ぐうぜん立ちよった宇宙旅行者は、名前をつけました。
「なんとかいう星にとうちゃーく!」
「なんとかいう星についたであります!」
「なんとかいう星についたでヤス」
『なんとかいう星につきましたな』
「……もうそれでいいのだ」
キトラたちは操舵室に集まります。
「酸素をとりこむとなると、イダテンでの着陸をしないといけませんな」
親方が少しむずかしい顔をします。
「うぇー、アレ疲れるんだよねぇ」
キトラはためいきをつきます。
キトラ達が軌道エレベーターのない星に行く時は、だいたいイダテンは衛星軌道に残って、着陸はイダテンにつんであるランドボートでしているのです。
大きなイダテンを丸ごと地上におろしたり、宇宙にもちあげたりするよりも、軽いランドボートの方がずぅっと楽なのです。
「ランドボートに空気をつめてイダテンに持って帰ったらどうでありますか?」
「ランドボートのタンクは、ギリギリつめこんでも3日分ですぞ。メインのタンクで半年、サブシステムの植物浄化で五年もつイダテンとはケタがちがいますな」
「そういうサブシステムがあるのに、よく3分の2も減ったもんだなぁ」
「どこか故障しているのでありますか?」
「フツヌシ様にかぎって、それはないハズでヤスが」
「気にしたってしかたないよ、今は酸素を補給しなきゃ」
キトラは動力室へむかいます。
「やれやれ、ひさしぶりでありますなぁ」
「ダーさんもしっかりがんばってほしいでヤス」
「わ……わかったのだ」
イダテンが少しづつ角度をふかくしていき、なんとかいう星におりていきます。
『いいですぞ、いいですぞ、そのままの角度でゆっくりブレーキをかけて行くのですぞ』
スピーカーから親方の声がします。
「わかってるよ、やってるよ」
キトラ達は、いつも進むのと逆をむいて、オールをこぎます。
なんとかいう星へ落ちる早さとつりあうぐらいの力でオールからエネルギーが出て、ゆっくりとイダテンは地上におりていきます。
「ぬぐぐぐぐぐぐ……全然、ゆっくりじゃ……ない」
ゆっくり、と言っても、空気との摩擦で燃えつきるスピードよりもおそいというだけで、ものすごいスピードにはちがいありません。
「は、はは、だらしないのであります、大気圏突入は、ランドボートでも、よく、やっている、ので、あります」
引きつった顔でジョースターは笑いながら、オールをこぎます。
「スピードが、なかなか……落ちない、じゃ、ないか! もっと、しっかりこいでよ、みんな!」
イラッとしてキトラはどなります。
ものすごいスピードで落ちるイダテンの中で、キトラ達は逆の重力でしぼられるみたいに苦しいのです。
「やってるであります! やっているのにやってないみたいな言い方をするなんて、社長はわからずやであります!」
「うるさいでヤス! しゃべっているヒマがあったら、手を動かすでヤス」
「み、みんな、集中するのだ、ケンカはいけないのだ」
「ケンカなんてしてないよ! つかいすてのゲストキャラはだまっててよ!」
「つ……つかいすて? ひとが気にしていることを、ひどいのだ! ひどいのだ!」
『ブレーキがきいてませんぞ、何をやっているんです!』
スピーカーから親方のどなり声がします。
いつの間にか、キトラ達はにらみあいをはじめていました。
「なんだよ」
「なんだとはなんだであります」
「なんだとはなんだとはなんだでヤス」
「なんだとはなんだとはなんだとはなんだなのだ!」
『子供ですか、あなたたちは』
「うるさい、中年!」
低レベルなののしりあいです。
「うるさい、アラフォー電波!」
**しばらくお待ち下さい**
そうこうするうちに――。
「って、ああああっ、地面、地面っ、ちょっ、みんな、ブレーキなのだ!」
ダーさんが怒鳴ります。
まどには、いっぱいに地面が見えています。草の生えた固い地面。このままのスピードでつっこんだら激突です。イダテンはバラバラになってしまいます。
いっそ、そうなってしまったら、どんなにかスッキリするか知れませんけどね!
「じょうだんじゃ、ない!」
キトラ達は大あわてでオールを力いっぱいこぎはじめました。
ものすごいいきおいでスピードが落ちます。
「ぐぇええええっ!」
「げへええっ!」
「むぎゅぅぅぅ!」
「くぎゅうう!」
『のぐぉっ!』
あんまりすごいスピードでブレーキをかけたものですから、キトラ達はシートに体をおしつけられ、つぶされそう。
それでもなんとかオールをこいで、こいで、こいで、こぎつづけました。
ずざああああああああああっっ!
何千メートルもすべってから、イダテンはなんとか止まりました。
「うー、体がおせんべいになったみたいだ」
キトラはイダテンからおります。
体がぺったんこになって、ヒラヒラしています。
「ないよ! 20世紀のアメリカのアニメじゃないんだから!」
「まったく、ひどい目にあったのであります」
イライラした顔で、ジョースターはイダテンからとびおります。
「イダテンでおりるなんて、ムチャだったんでヤス」
ガースもイライラがおさまらないみたいです。
「キトラ……さんたち、さっさと酸素をつみこんで、この星をはなれるのだ」
「なんですかな、それは、このわたしの作業がおそいって言っているのですかな」
親方が空気をとりいれるためのポンプをとりだしながら、ダーさんをにらみます。
「そんな事言って――いや、すまないのだ。ただ、はやくダマスクスを見つけたいだけなのだ」
「なんだいなんだい!」
キトラはどなります。
「けっきょく、ぼくの仕事がおそいって言いたいんだろう?」
「そんなこと……いや、すまないの……」
「ああそうだよ、いい顔して引きうけといて、ダマスクスを見つけられないで、こんなケチな星で空気なんか集めてるよ! そりゃあもうしわけないだろうね! あっちは鍛冶屋の神様で、こっちはただの成金のシロウト社長だ! 見つけるよ、見つければいいんでしょ!」
「社長ひとりで見つけられるのなら、とっくに見つかっているのであります、あはははは!」
「なんだって!? いちばん役に立たない社員のクセに、口ばっかりたっしゃだね、ジョースター! いーよ、だったら見つけてあげるよ、そのかわり覚悟完了しとくんだね! ぼくがダマスクスを見つけられたら、キミはクビだ!」
「そんなのをまつまでもないであります。こっちからやめてやるであります。ちっともお世話になってないけど、お世話になりましたであります!」
ジョースターは、バサリと羽をひとふり、飛んで行ってしまいました。
「ふんっ、勝手にしなよ!」
キトラは宇宙服を着ると、イダテンにつんである宇宙自転車にまたがり、飛んで行ってしまいました。
「ふん、なんだい」
キトラは宇宙自転車のペダルをふみます。
宇宙自転車は、にもつは全然つめませんが、加速は人力宇宙船の中でトップクラスです。
たちまちなんとかいう星をはなれて、宇宙へ飛び出しました。
「ジョースターもみんなも、いちいち上げ足とるような事言って」
どんどんなんとかいう星が遠くなって行きます。
「もう顔も見たくないよ。あのダーさんってひとも、早くダマスクスを見つけたいだけなんて、イヤミな事を……イヤミな……あれ?」
キトラはふと、ペダルをふむ足をゆるめます。
「ダーさんがダマスクスを見つけたいのは当たり前だし……ぼくだってそうだぞ?」
首をかしげます。
「あれ? なんでだ? なんでぼく、腹を立ててたんだ?」
考えれば考えるほど、キトラは自分がなにを怒っていたのか、よく分からなくなって来ました。
「あれ……いや、そもそも、ぼく、何やってんだ? いくら怒ったって、ワープができない宇宙自転車じゃ、ダマスクスを探すこともできないじゃないか」
キトラはなんとかいう星にむきをかえます。
「なにやってんだ、ぼく? みんなにあやまらなきゃ!」
「なんでヤス? ダマスクスを探しに行ったんじゃなかったんでヤスか」
なんとかいう星にもどって来たキトラを、ガースがにらみます。
「宇宙自転車で、小惑星帯にもどれるワケないでしょ、ガース」
ガースの顔をみると、キトラのイライラはつのって来るのです。
「キミのほうが宇宙に出てたキャリアは長いのに、そんなことも分からないなんて、なーにやってたのかなぁ、アハハハハ!」
「あのやっっっっっすい給料じゃ、キャリアをみがく気もうせヤスね。ウヒヒヒヒヒ!」
「安い!? あの給料が安い!? もうけのほとんど全部を給料にしてやってるのに、安いだって!? 本当ならぼくが出した会社のビルや宇宙船のお金を回収したっていいのに、それを給料にしてやってるのに、安いだって!?」
キトラの頭には完全に血がのぼっています。
「こんな恩知らずの社員、顔も見たくないよ!」
「こっちだって、ケチなタコ社長の顔なんて見たくないでヤス!」
キトラは宇宙自転車に乗って、また、宇宙へと飛び立って行きました。
「なんだ、ガースのヤツ! 給料が安いだって!? つぶれる一歩手前だったあの会社を、だれがすくったと思ってるんだ!」
キトラはぐいぐいペダルをふみます。
「ぼくがいなけりゃ、みんな今ごろニートじゃないか!」
なんとかいう星が遠ざかっていきます。
「ニートがいっぱいだから、ニーツだ! ニーツ、ニーツァー、ザ・ニーツェスト。ツェストォオォオオオオオ! 一撃目を外したら負けだと思ってる……って、ちょっとちがうよ! なんかちがうよ! どこの薩摩武士だよ!」
ペダルをふむ足が止まります。
「うん、今の一人ツッコミはなかなか……あれ? また、なんか、みょうな感じで腹を立ててたな」
キトラは首をかしげます。
「なんか……おかしいぞ」
なんとかいう星をじぃっと見つめます。
「あの星に行ったら……っていうか、あっちの方に近づいたら、なんか、イライラする気がする」
胸と頭に手をあてます。
「なんのきっかけがあるんじゃない。ただ、イライラする。ケンカせずにはいられない」
宇宙自転車のむきをかえます。
「あの星から、はなれなきゃダメだ! さもないと、みんながバラバラになっちゃう!」
キトラはなんとかいう星にもどって来ました。
「ふむ……だとすると、このイライラは、星のせいということですかな。社長のいいかげんな指示で仕事がおくれているせいではなく?」
「あ……ああ、そうだよ」
キトラと親方はにらみあいます。
「分かったのだ、どんなにいけすかないナマイキなくだらないヤツに見えても、この空間のせいなのだ」
「なにかのせいにすれば良いとか、簡単でヤスね」
「ああ、簡単さ、君らの頭の――いや、星からはなれてみれば……わかるさ」
キトラは頭の血管が切れそうになっています。
「まあ、1回ぐらいは話に乗ってあげても良いでしょうな。どうせだまされるんでしょうが」
「ははははは、それはありがたいね」
「でも、ジョースターはどうしヤスか」
そうです。
最初に飛んで行ってしまったジョースターは、どこに行ったか分からないのです。
「あんなヤツどうでも……い、いや、そりゃあいっしょに連れて帰るさ」
「あんなの、わざわざ連れて帰る事もないと思いますがな」
「そうでヤス、自分で勝手に行ってしまったんでヤス」
「めんどうはゴメンなのだ、さっさとダマスクスを見つけにもどりたいのだ」
「ぼくもそうなんだけどね」
キトラはイライラしながら、大きくためいきをつきました。
「自分で自分をしかりつけたい気分なんだけど」
「大した話でもないんでしょうに、もったいぶらないでほしいですな」
「ひきのばしでヤスか? ごりっぱなことでヤス」
「ダマスクスをさっさと見つけてほしいでヤス」
「会社のカギさ」
「それがどうかしましたかな?」
「社長が持ってるカギでヤスか?」
「何を言ってるのだ」
「あれ、ジョースターがスペアキーを持ってるんだ」
「スペアキーって……まさか」
「そのまさか」
キトラは頭をかかえます。
「この星に近づく前に、オリジナルのキーを宇宙に捨てちゃった。あのくだらないジョースターを見つけないかぎり、会社に帰っても建物の中に入れない」
「だああああ! 何をやっているんですか、あなたは!」
「タコ社長でヤス! 頭が胃袋のタコ社長でヤス!」
「ジョースターさんが見つからなかったらどうする気なのだ!」
「知らないよ! さっさとジョースターを見つけるんだよ! それしか手がないんだよ!」
『さっさとオールをこぐんですぞ! 遅いですぞ、ぜんっっぜんスピードが足りないのでありますぞ!』
スピーカーから親方の怒鳴り声が聞こえます。
「うるさいでヤス! 舵だけいじっている親方に、動力の苦労は分からないでヤス!」
「社長に動力させる社員もたいがいだけどね!」
「客にオールをこがせるのもどうなのだ」
「追い出したくせに捕まえるとは、なんて社長でありますか! 訴えるであります、ゼッタイ訴えるのであります!」
キトラ達はいがみあいながらも、オールをこぎます。
こぎます。
こぎます。
どんどんこぎます。
空に飛び立ったイダテンはどんどんどんどん加速して行って――。
『重力圏をふりきりましたぞ』
宇宙へと飛び立ちました。
「……え、あれ?」
ガースが首をかしげます。
「イライラがなくなったでヤス。社長の言う通り」
「たしかにそうなのだ」
『さっきまで言っていた事が、なんだかはずかしくなって来ますな』
「社長、自分たちは、一体?」
「うん」
窓から遠ざかるなんとかいう星を見つめながら、キトラはつぶやきます。
「宇宙には、ぼくたちの理解がおよばないものが――」
『さあ、酸素の補給は完了しましたぞ。これで心おきなくダマスクスを探せますな』
「おーーでヤス!」
「おーーであります!」
「がんばるのだ!」
「って、ぼくが格好良くしめようとしてるのに!」
イダテンは、宇宙を一直線に飛んで行きました。
その後ろについている影に気付いた者は、まだだれもいませんでした。
フツヌシはお茶を飲みます。
「すまねえな、天帝。七星剣の打ち直し、進まねえで」
テーブルには、ホログラフで天帝の映像がうかんでいます。天帝はりっぱなヒゲをたくわえた大きな男のひとでした。
『この事態をまねいたのも、ムリをたのんだのも余だ。わびねばならぬのは、余の方』
「頭を下げていいのは、そのかんむりを外す時だけ。それが帝ってもんだろう」
フツヌシの顔は、炉の火にあぶられ続けたせいで、真っ赤になって、ところどころに水ぶくれができています。
「アスラ王との戦はどうだ」
『兵力そのものは優勢だが、アスラ王の怒りの気に当てられる者が多い。戦場周辺の立入禁止区域を広げた方が良いかも知れぬな』
「放っておけば、シュミセン全体がアスラ王の怒りに飲み込まれる、か」
『そうなれば、ひとびとはにくしみあい、傷つけ合うことになるだろう』
「そんな顔するなよ」
にやりとフツヌシは笑います。
「七星剣の打ち直しは、絶対間に合わせる。このオレサマが受けた仕事だからな」
『……たのむ。七星剣だけがたのみの綱だ』
「おうよ」
天帝の映像が消えました。
フツヌシは空になった湯のみを両手でにぎります。
「……急いでくれ、キトラ」
【つづく】