キトラの冒険
作:ごんぱち
その100『フツヌシのたのみごと 前編』


「――石をとって来てほしいって?」
 キトラがフツヌシにききかえします。
「そう言ったろ、なんでわざわざくりかえすんだ」
 フツヌシは、かまの火にまきをくべます。
「いや、そこは言っとかないと、みんなに分からないでしょ。そこ、つっこむところとちがうでしょ」
「……そういうことなら、もう一度言うぞ」
 フツヌシは少し大きい声で、はっきり言いました。
「このシュミセンから14万8千光年ばかりはなれたモモセ小惑星帯に、ダマスクスってぇ鉄がふくまれた石がある。そいつをできるだけたくさん、いそいでとって来てくれ。金は金貨で200枚出そう」
 金貨、と言われたところで、キトラの顔がまたゆるみました。なにしろ金貨1枚で、10万円ぐらいになるのです。200枚と言ったら、キトラ運送の1年のもうけぐらいあります。
「んー、フツヌシにはおせわになってるし、かまわないと言えばかまわないよ。むふ」
「たのんだ。すぐ行ってくれ。すぐ」
「どういうのがダマスクスなの?」
「見分けられるヤツをやとっておいた。宇宙港にむかわせてる。とにかく急いでくれ!」

 キトラ運送の全員が乗った、宇宙船『イダテン』が宇宙をつっぱしります。
「――はじめましてなのだ、イッポンダタラの、ダーちゃんなのだ」
 イッポンダタラが、頭をさげます。
(……なんかムチャなキャラづけのひと出て来たな)
 キトラはオールをこぎながら、イッポンタタラに頭を下げます。
「あらためてはじめまして、キトラ運送のオーナー社長のキトラです」
「社員のジョースターであります」
「おなじく、ガースでヤス」
 カモメのジョースターとガースも、手を休めずに頭を下げます。
『副社長の親方ですぞ』
 スピーカーから、操舵室にいる親方の声だけがします。
「ぼくの知ってる通りなら、イッポンダタラって、かじやさんとかとカンケイのある妖怪だよね?」
「よく知ってるのだ、その通りなのだ」
 イッポンダタラはうれしそうに笑います。
「だから、かじやの神様のフツヌシさまとは、一族みんななかよしなのだ。なにをたのまれても、よろこんでひきうけるのだ」
「それは何となく分かるんだけど……その、目と足が一つしかない、ハズだと思ったんだけど」
 キトラの目の前にいるイッポンダタラは、目が二つに足が二本生えていて、ただの人間とかわりありません。
「よく分からないけれど、日本ではそうしないといけないらしいのだ。バットも指が6本ある人間しか持っちゃいけないのだ。大人の事情なのだ」
「そっか、大人の事情じゃあしかたないね、わっはっは」
「しかたないでありますな、あっはっは」
「聞くだけヤボでヤスね、うふふ」
『いったい、なにと戦っているんですかな、このひとは……』
 言いたくなる事もあるのです。

 キトラ、ジョースターが横にならび、イッポンダタラとガースが横にならんで、オールをこぎます。
 イッポンダタラはたくましい手足をしていて、力強くオールをこぎます。
「これならかなり早くモモセ小惑星帯につけそうだね」
 まどから見える星はじっと止まっているようですが、たまに惑星やスペースコロニーがものすごいスピードで通り過ぎて行きます。
「リンガがいてくれれば、今ごろは着いているのであります」
「しかたないよ、おまつりのごちそう作りでてんてこまいって言うんだから」
「それに、そんなにカンタンに空間を切るゆるしが出るとは思えないでヤス」
『――そろそろスペースコロニー、サイトウ6ですぞ。なにか買いのこしたものはありませんかな?』
 親方がたずねます。
「ダイジョウブだよ、食べものも飲みものもひまつぶしのDSも持って来てるし」
「じぶんもダイジョウブであります」
「とくに思いつかないでヤスね」
「できるだけ急いでもらえると助かるのだ」
『では、ワープでよろしいですな?』
「いいよ」
『コンマ2光年先までオールグリーン、ワープじゅんびねがいますぞ』
「よっしゃっ、ワープ用オール行くよ」
「りょうかいであります」
 キトラたちは、オールを大きなワープ用にとりかえます。
『動力出力上げ!』
「出力上げるよ!」
 キトラたちは力いっぱいワープ用オールをこぎはじめます。
 ものすごく重いオールが、エネルギーの波を生み出して行きます。
『空間短絡速度までのこり4、3、2、1……』
 まどの外に見えていた星が、いきなり見えなくなりました。
『亜空間侵入に成功。このまま150時間、ワープ速度のまま進みますぞ』
「ふう」
 キトラはオール止めて、ふりかえります。
「じゅんばんに休もう。まず、ガースとダーさん」
「分かったでヤス」
「ダーちゃん……なのだ」
 ガースとイッポンダタラは、席を立ってきゅうけい室に行ってしまいました。
『もう少し加速をたのみますぞ』
「りょーかい」
 キトラとジョースターはオールをこぎます。
「ジョースター?」
 スピードがもどった後、キトラはとなりのジョースターに声をかけます。
「なんでありますか?」
「今回の仕事、なんか引っかかるよね」
「そうでありますな。イッポンダタラなのにどうして足が2本……」
「そこじゃなくて! フツヌシの言った仕事のなかみだよ」
「新しい道具を作りたいから、よい材料がほしい、それほど不思議なこともないのであります」
「そこは、ね」
 キトラは自分の手を見つめます。
 オールをいっしょうけんめいこいでいるので、マメができかけています。
「けど、いそがせる理由がわからない」
「いそぎの仕事だったんでは?」
「あの仕事にだけはバカがつくほどマジメなフツヌシが、材料を急いでそろえなきゃいけないような、つまり、ともすると間に合わなくなるような仕事をうけると思うかい?」
「にんげん、たまにはそういう事もあるのでは?」
「アレは神様だよ」
「ああ、そうでありました」
 ジョースターは速度計を見ながら、オールをひとこぎします。
「でも、どんなじじょうでも、じぶんたちがやる事はかわらないのであります」
「まーね」

「じゃ、おつかれー」
 キトラとジョースターは、ガースとイッポンダタラにオールをまかせて、きゅうけい室に来ます。
「ごはんにしようか」
「そうでありますな」
 キトラとジョースターは、たなから紙袋をとります。
 中には、ドライフルーツをメインにした宇宙食が入っています。
「あー、つかれてるとおいしいなぁ」
 キトラはプラムをかじります。
「ちょうしに乗って食べすぎると、食べものがなくなるのであります。そうなると、だれかが船からおりなければならなくなるのであります。冷たい方程式であります」
「そこまでギリギリのつみかたしてないし、そんな食いしんぼうじゃないよ」
「あー、なんだか食いしんぼうって言葉、ひさしぶりに聞いたのであります」
 ジョースターはみがきにしんをガリガリかじっています。
「ぼくもひさしぶりに言った気はしたけどね」
 キトラはかんそうイモを食べました。

 6日がすぎました。
「うずら」
「らっこ」
「こあら」
「らくだ」
「ダライ・ラマ」
「マンドラゴラ」
「ぐあっ、『ら』ぜめをきりかえされた!」
 キトラたちは、オールをこぎます。
 まどの外はなにも見えず、まだワープ中です。
 ふつうのひとならたいくつでイライラして来ますが、キトラたちは、なれっこです。
「……いや、それほど楽でもないんだよ、これ?」
「おっ、キトラ社長、電波とお話しでありますか? 心がつかれてしまって、社長のイスをこのジョースターにゆずりたくなったのでありますか!?」
「電波じゃないから! いつものだから!」
「……ちっ」
「そういう悪い顔で舌打ちとかしない!」
『そろそろワープ終了ですぞ。減速に入ってください』
「はいよっ」
「まかせるのであります」
 キトラとジョースターは、キリッとしんけんな顔になって、オールをにぎりました。

『空間短絡、終わります』
 親方の声がするのと同じタイミングで、まどの外に星が見えはじめました。
『4時間かけて、ゆっくりブレーキですぞ』
「わかってるよ」
 キトラ、ジョースター、ガース、イッポンダタラは、オールをうしろむきでこぎます。
 それだけで、キトラたちの体にはぐぅっと重力がかかります。
 もしもいきなりスピードをゼロにしたら、キトラたちはペシャンコのバラバラになってしまうでしょう。
『モモセ小惑星は、むかし、このあたりにあった惑星が、遊星とぶつかってくだけたものですな。もともと、鉄が多くふくまれた星だったのですが、遊星とまざったことで、より色々な金属が出来たようです』
「星がぶつかって出来た金属は、重力や地の気の力をうけないから、かけた力をそのままとりこむピュアなものになるのだ。自分にものすごい力のあるフツヌシさまにはうってつけの材料なのだ」
「ダーさん、フツヌシがなにを作るか知ってるの?」
「え? いや、ええと、その……知らないのだ」

「よぉし、寄ってきたぞぉ」
 キトラはゆっくりとオールを動かします。
 小惑星のひとつが、大きく見えて来ます。
 イダテンの10倍ぐらいの大きさ。
 岩とよぶには大きすぎますが、星とよぶには小さい、まさしく小惑星です。
「――どう?」
 キトラはイッポンダタラの方を見ます。
 イッポンダタラはまゆをよせて、じぃっと小惑星を見つめていましたが。
「ちがうのだ」
『マーカーつけましたぞ、つぎ行ってみよう』
 キトラたちはオールをうごかし、親方のかじとりでイダテンはまたべつの小惑星にむかいます。
「ねえ、ダーさん」
「なんなのだ?」
 ためいきをついているイッポンダタラが、目だけでキトラを見ます。
「本当にこっちでいいの? もう2000個目だよ?」
「近づいていることはたしかなのだ」
(近づくほどに分かりやすくなりそうなもんだけどなぁ)
 キトラはそう言おうとしましたが、なんとなく声にはしませんでした。

「今日で小惑星を調べはじめて4日目かぁ」
 キトラはドライバナナを食べます。
「思ったよりもずっと時間がかかりますな」
 親方がにぼしを口にほうりこみます。
「がんばっては、いるのだ」
(そう言っても、なんにも見つかってないしなぁ)
「あの……社長」
 ガースがえんりょがちに手を上げます。
「どしたの、ガース?」
「今日の朝、メーターのチェックをしたら、その」
「うん」
「酸素がもう、3分の2ぐらい、へっていヤス」
「え、ええっ!?」
「ぎゃあああ! それじゃあ、帰れないであります! 宇宙のモズクであります!」
「それを言うなら、モクズだよ!」
「落ち着いて下さい、社長」
 親方がナッツをかじります。
「呼吸用の酸素は、それぐらいあればじゅうぶんすぎるほどですぞ」
「あ、ああ、そうだった……」
「みなさん、少しでもあぶないとなったら、ダマスクスは気にせずに帰った方がいいのだ。ムチャはいけないのだ」
「そんな事はぼくらの方が分かってるよ、ダーさん。どんだけ宇宙に出てると思ってるのさ」
 キトラは食べおわった宇宙食の袋をぐしゃっとにぎりつぶします。
「まず、近くの酸素のある星を見つけて、補給をする。見つけてるね? 親方」
「もちろん」
 親方はイダテンのサブコントロールパネルを引っぱり出して、宇宙図をうつします。
「法力スキャンで、5千光年ほど向こうに、生き物のすんでいる気の感じられる天体がありますな。ワープふくめて、半日で行けるでしょう」
「ちょっと遠いけど、引き返すよりはずっとマシだね」
「い? そ、それはやめた方がいいのだ」
「きちんと補給して、きちんと探して、きちんとダマスクス見つける。それだけのことだよ」
 キトラはイッポンダタラをじぃっと見つめます。
「それとも、見つかっちゃつごうが悪いことでも、ある?」
「そんなことは……ないのだ」
 キトラは立ち上がります。
「行こう! その酸素がありそうななんとかいう星かなんかに!」
「行くであります、なんとかいう星に!」
「行くでヤス、なんとかいう星へ!」
「……語呂が悪いのだ」

 フツヌシの作業場は、ものすごい熱につつまれています。
 のべ板の形になった金属が、型から外されました。
「……オリハルコンも必要な分、あつまった」
 フツヌシはつぶやいて、汗をぬぐいます。
 作業場には、金属ののべ板が6つ、並んでいます。
 いつも、色々なものを作って置いてあるまわりの棚に、なにも置かれていませんでした。
 ただ、ひとふりの剣のほかには。
「のこりは、ダマスクス・スティールだけだが……まだだれも持ち帰れてねえのか……キトラにまで、たのんだのに」
「もうしわけ……ございませぬ」
 フツヌシのものではない声がしました。
「イザヨイにおくれをとり、また、あなたの手をわずらわせるとは」
「気にすんな、七星剣。お前は剣だ、盾じゃねえ。不意をうたれちゃ、どうしようもねえ」
「はい……」
 声を出していたのは、棚におかれた魔法の剣、七星剣でした。
 すらりとした刃は、火にてらされて7色に光っています。どんなにするどい刀よりも、切れそうに見えます。
「『全ての魔法の刃から、切る力』を切りおとす。そんな条件で切れば、魔法剣のイザヨイ自身も力を失う。滅ぼすことだけを考える、あいかわらずムチャクチャなやり方だ」
 フツヌシは炉の火を見つめながら、つぶやきました。
「――アスラ王の野郎は」

【つづく】