キトラの冒険
作:ごんぱち
その98『未来へ手紙を』


「ふうむ、『……以上が、今のともだちで、ここ1ヶ月でやったことです。では、ごきげんよう』」
 ゴレイト先生は、びんせんをラグヤにもどします。
「ラグヤ、キミね、もっと夢のある事を書かなきゃ! 10年後の自分への手紙だよ? つたえたい事、あるだろう? 未来への夢とかきぼうとか、そういう心のおくそこからわきあがる、本当の気持ちを書きつづらなきゃならないよ!」
 黒板には「10年後の自分へ」と、書かれています。
 キトラたちは、授業で10年後の自分へ出すという設定で、手紙を書いているのです。
「……じゃあ、こちらを」
 ラグヤはもう1まいのびんせんをさしだします。
「『未来のボクへ
 はいけい
 未来のぼく、こんにちは。
 未来の世界はどんなですか?
 車は空を飛びましたか?
 宇宙はどれぐらい遠くまで行けてますか?
 携帯電話にはどんな機能がついてますか?
 仕事はなにをやってますか? ぼくはサッカー選手になっているとうれしいなと思います。
 結婚はしましたか? してたとしたら、だれなんでしょうね。今もしってるひとだったら、って思うと、ドキドキしますね。
 それからもうひとつ。
 ぼくには今、人には言えないとてもつらいなやみがありますが、未来のぼくはもうのりこえられていますか?
 どうやってのりこえられたんでしょう。
 教えてほしいけれど、それを聞いてしまったら、本当にのりこえられる力はつかないんだろうな。
 ボクは、ボクなりに、今、がんばってます。
 未来のボクも、がんばってください』」
 ゴレイト先生は大きくうなずきます。
「そう、そう、こういう夢のあることを書かなきゃいけない」
「……はい」
「それで、なやみっていうのはなんだい? 保健の先生に言っておくから、放課後話して来なさい」

 放課後、保健室からラグヤが出て来ます。
「……またせたね、みんな」
「さいなんだったね、ラグヤ」
 キトラ、サリス、ノクタは、昇降口から外に出ます。
「保健の先生とどんな話になったの?」
 キトラがたずねます。
「……ゴレイト先生は、デリカシーがないね、って」
「デリカ……なんだって?」
 学校からはなれて、キトラたちは秘密基地へとやって来ます。
「ふぅ、ここはおちつくぜ」
 サリスがたたみにねころがって、古いマンガ雑誌を読みます。
「未来への手紙かぁ」
 キトラはぽつりとつぶやきます。
「なんだ、まだ授業のこと、思い出してるのか、キトラ? ああいうつまんないものは、おわったらわすれちまえばいいんだ」
「んー、まあさぁ」
 キトラはあぐらをかいたまま、ごろりところがります。
「授業で書いたのはつまんなかったよね」
「……先生が見てたしかめるってところで、もうダメだね」
「そうかそうか、ゴレイト先生は、そんなことしてるのか! それはなんにも書けないぞ」
 ノクタは、あみものをしています。
「がはは、未来の自分へ手紙なんて、ブログに自分しかコメントしてないみたいなもんだぜ」
「いや……そうとばかりも言えない気がするんだよ。たとえばさ」
 キトラはラグヤたちを見回します。
「ぼくたちだけで未来への手紙を書いて、タイムカプセルに入れてどっかにうめておくとかしたら、おもしろいんじゃないかな?」
「先生に見せないなら、いいな!」
「……おもしろそうだね」
「なるほどなるほど、おもしろいぞ」

 キトラたちは、秘密基地のあちこちにちらばって、自由帳のページをやぶった紙に手紙を書きます。
(未来の自分へ、かぁ。どんなのがいいかなぁ)
 ろうかのはしっこで、キトラはえんぴつを持って考えます。
(聞きたいことはいっぱいあるよね。どんな仕事してるか、とか、けっこんしてるのか、とか、どこにすんでるのか、とか)
 ぎぃ……。
(……ん?)
 そのとき、床板のきしむ音がしました。
 ちょっと間が空いてから……。
 キトラはものすごいいきおいでふりかえりました。
「うわっ!」
「おわっ!」
 キトラのすぐちかくまで、サリスが来ていました。
「ちょっ! のぞこうとするなんて、ズルいじゃないか!」
「い、い、い、いや、そんなことはしてないぞ、がはは、がはははは!」
 サリスはわらいます。
「ごまかさないでよ。今見ちゃったら未来にあける意味がなくなるじゃないか」
「でもほら、あのな?」
 サリスは頭をかきます。
「なにを書いたらいいのかよく分かんなくてな」
「未来の自分にきいてみたいこととか、忘れてそうなこととかでいいじゃない。むずかしく考えすぎなんだよ」
 自分のことはたなにあげて、キトラはえらそうです。
「そうか……ふむ、考えてみる。ありがとう、キトラ」
 サリスは行ってしまいました。
(……きいてみたいこと)
 キトラはクビをひねります。
(でもそれって、どうせ答えを教えてくれないんだから、よく考えてみると意味ないよね……)
「……やっぱり、大きくなったら忘れてそうなことかな。授業のでは、ラグヤがそんなの書いてたっけ」
『そうかそうか、そうなんだな』
「うん……って!」
 キトラのすわっているすぐ横に、パイプが見えます。
 キトラがふりかえると――。
「ノクタ……」
 ノクタがパイプのはんたいがわに耳をくっつけていました。
「ちょっと! ひとりごとをぬすみぎきってねぇ!」
「あは、いやいやいや、そんなつもりはないんだぞ」
 ノクタはそそくさと逃げて行きました。
「ジャマされて気がちっちゃった……」
 キトラはためいきまじりに首をかしげます。
「さて……どうするのがいいのかな」
 ほんの少しだけ首をかたむけて、後ろをちらりと見ます。
 だれも来ていません。
「知らせるとか知らせてもらうとかじゃなくて、ゲームみたいにしてみようか」
 また、ちらりと後ろを見ます。だれもいません。
「未来のぼくは、サラリーマンをしてるはずだ、とか、大学で研究をしてるはずだ、とか」
 また後ろを見ます。
「そうか、そういう感じにすればちょっとはずかしい思いはするだろうけど、楽しいんじゃないかな」
 さらに後ろを見てから。
 キトラは立ち上がって走り出します。
 ろうかをまがって、ふすまをあけると、そこにはラグヤがいました。
「ラグヤ!」
「……なに?」
「ラグヤはのぞきに来ないの!?」
「……タイムカプセルを開けた後の楽しみがなくなるからね」
「パターンをふまないなあ、あいかわらず」

 つぎの日、キトラたちは、自転車で山のちかくのお寺まで来ていました。前にザリガニつりをしに来たところです。
(けっきょく、いろいろつめこんじゃった)
 キトラの手には、のりのカンをビニールぶくろに入れたタイムカプセルがあります。
(仕事とか、ともだちとか、世界がどうなってるか、とかと、今の学校のことと、夢の世界のことと、それから、未来の予想)
 カンだったらつぶれることはありませんし、ビニールをかぶせておけば水を通さないはずです。ノクタが作ったので、もれることもないでしょう。
(ひとつは、みんなでいっしょに開けてるだろうってこと。もうひとつは、なんでもいいからお金持ちになってるだろうってこと。それから、楽しいものを作る仕事をやってるだろうってこと)
 キトラはにまっと笑います。
(それと……これはちょっとしたゲーム。これを開けた後に、さいしょに知り合ったひとに、花をあげる)
「ふふっ、どんなになるのか、楽しみだな」
「……そうだね」
「がははは、楽しみだな」
「そうだそうだ、ワクワクするぞ」
 キトラたちは、お寺の林の中のいちばん大きな木の下をシャベルでほります。
「さてこのあたりに……」
 カキンッ!
「え?」
 シャベルがなにかかたいものにぶつかりました。
 ほってみると……。
「鳩サブレのカン?」
「……タイムカプセルだね」
「うめなおせ、うめなおせ!」
「そうだそうだ、よそのタイムカプセルだぞ!」
 キトラたちは、2ばんめに大きな木の下をほります。
「よし……こんどはダイジョウブだね」
「同じことを考えるヤツがいるんだな」
 タイムカプセルをおいて、土をかけます。
「じゃあ、いつほりだそうか?」
「……そうだね」
「あれあれ? 10年後じゃないのか?」
「10年後だと、授業といっしょなんだろ」
「でも、キリが悪いと忘れるんだよね」
「……それも、タイムカプセルのおもしろいところでもあるけど」
 キトラたちは考えこみます。
 日がくれかかり、空がオレンジ色にそまっていきます。町にいたカラスが、ねぐらへともどって来ます。
「そうだ!」
 キトラが言います。
「今から、8年と6ヶ月後にほりだそう!」
「……なるほど」
「ラグヤがいいってんなら、おれさまはかまわないぜ」
「サリスがいいならノクタもいいぞ」
 キトラ、ラグヤ、サリス、ノクタは、手を重ねます。
「それじゃあ、8年と6ヶ月後に、ここで」
「おおーーーー!」
 キトラたちは、長い影をひきながら、自転車に乗って帰って行きました。

 ――それにしても、ハンパな数です。
 キトラたちは、おぼえていられるのでしょうか?
「なに言ってんのさ、キミがおぼえておくんだよ。第200話でしょ」

 ……え?

【おしまい】