キトラの冒険
作:ごんぱち
その95『キトラと超能力』


 とんてんかん! とんてんかん!とんてんかん……。
 かじやのフツヌシがハンマーで焼けた金属をたたいています。
 金属はのびてまがってちぢんでおれて、どんどん形がかわっていきます。
 そして――。
「ほい、できあがり」
 冷蔵庫ができあがりました。
「……すごいな」
 そばでながめていたキトラは、かんしんしてためいきをつきます。
「まるで、昔のロボットの合体シーンみたいだ」
「ああいうのも作れるぜ。ギャラさえ出せばな」
 フツヌシはハンマーをみがいて、つぎの品物を作るための材料を用意します。
「たたいてるだけで色々な形になるもんだね?」
「たたいた時のシンドウやキョウシンや、ブンシのセイシツをリカイしてやれば、それほどむずかしいもんでもねえよ」
「……あきらかにむずかしいよ」
「まあ、少しばかり法力でインガリツをいじってるから、形になりやすいってのはあるけどな」
「え? 魔法つかってるの?」
「使わんと、時間がかかってしかたないからな」
「そういうの使えたんだ」
「当たり前だろ、オレをなんだと思ってるんだ」
「呪文とか唱えてるの見た事ないけど?」
「あれは自分に力のないヤツが、他からかりる時だけにやることだ。自分で手を動かす時に、『手さん動いてください』とは言わんだろ。」
「超能力みたいなもんだね……いいなぁ」
 キトラはフツヌシの手元で、どんどん形の変わっていく金属を見つめます。
「ぼくも、一度でもいいから使ってみたいな」
「ん? 使えるぞ」

「『こんなこともあろうかと思って、超能力が使えるようになるメカを用意しておいた』――とか言われるのかと思ったら」
 キトラは、山道を歩きます。
「……テングをたずねろだなんて」
 汗びっしょりです。
 山に雪はありませんが、葉っぱはみんな落ちていて、青くすみきった空が見えます。木のえだはすらりと美しく、ガラスざいくのようです。
「ランドボートか、自転車で来た方がよかったかな……でも、やっぱりすすみにくいか」
 道は木々の間から出て、見はらしのよい場所に出ます。
 キトラは、岩にこしかけます。
「ふぅ……」
 リュックをおろして、中から竹の皮のつつみを出します。ヒザの上でつつみを開くと、中には大きなおにぎりが3つ。
「てっぺんまで、どれぐらいあるのかな」
 キトラはおにぎりをかじります。
 ノリのいいかおりと、ごはんのうまみ、それからちょっとしょっぱめのシャケの味が口いっぱいに広がります。
「んーー、おいしっ」
 むしゃむしゃとおにぎりを食べます。
「シャケとノリのくみあわせは、最強だね」
 食べながら、キトラは遠くをながめます。
 山の中ほどです。
 ふもとの町が小さく見え、そのずっとむこうにまた少しひくい山が見えます。
 キトラが3つ目のおにぎりを食べようとすると。
「……あれ?」
 ゆびさきが、なにもないところをスカッと通りました。
「え?」
 キトラは竹の皮に目をもどします。
 もう1つあったはずのおにぎりがありません。
「落とした?」
 あたりを見まわしますが、おにぎりが落ちていたりはしません。
 キトラは、おにぎりをぜんぶ食べたことを忘れてしまっていたのです。
「ちがうから! たしかにあったから! なんでだ? どうしてだ?」
 どこをさがしてもおにぎりはありません。
「――なんてね」
 キトラはニヤリと笑います。
「いるんでしょ? テングさん」
 立ち上がります。
「フツヌシから聞いてるんだ、テングさんは、すがたを消してからかうことがあるって」
 キトラは地面を見ます。キトラの足あとだけがあります。
「ここはやわらかい土だから、歩けば足あとがつく。けれど、ぼくの足あとしかない。とするなら、テングさんがいるのは」
 むかいに一つだけある岩を指さします。
「そこだ!」
 キトラは指さしたまま、リアクションを待ちます。
 待ちます。
 待ちます。
 待ちます。
「あ……あれ?」
 リアクションはありません。
 キトラはゆっくり指をもどします。
「……ええと、本当に、だれも、いない?」
 竹の皮をたたんで、リュックにもどします。
「あ」
 リュックの中には、おにぎりが1こ、入っていました。
「……ヒザから、ころげおちた……あー、そう。うん、そういうことも、あるよねー、あは、あはは、はははは」

 山のてっぺんに、キトラはたどりつきました。
 てっぺんはなかなか広々とした平地になっていて、神社ともお寺ともつかないたてものがたっています。
 かってぐちにはインターホンがついていて、表札に「僧正坊(そうじょうぼう)」と、書いてありました。
 キトラはチャイムをおします。
 ピンポーン。
『はーい』
 声がして、戸が開きました。
「おう、フツヌシから話はきいた。我(われ)が僧正坊じゃ」
 僧正坊は笑います。
 背の大きい人です。
 ジーパンとジージャンを着ています。髪の毛はみじかめでちょっと立っています。ヒゲは胸ぐらいまであります。
「あ、はい……よろしく」
 キトラはなんとなく自分の鼻をさわります。
 テングだというのに、僧正坊の鼻はぜんぜん長くないのです。
(……この世界って、テングが仙人と同じもの、だったっけ。どっちのイメージとも、まあちがうけど)
「法力を使ってみたいのだったな?」
「はい……本当にできるの?」
「――ほれ、終わった。なにかやりたいことを、はっきり考えてみるが良い」
「え?」
 僧正坊は、玄関先から顔を出していただけで、キトラには指もふれていません。
「え?」
「使ってみよ」
「え、ええと、いきなり言われても、ええと、何ができるんだか」
「考えることなら、なんでも」
「え、ええと、じゃあ、飛ぶ!」
「飛んでいるところをイメージすれば良い」
「ええと、ええと……飛ぶ、飛ぶ飛ぶ……」
 キトラは飛ぶことを考えはじめます。
「風船……」
 キトラの頭に風船が思いうかびます。
 ぽんっ!
「え、あ」
 キトラの頭の上に、風船があらわれて、そのまま飛んで行ってしまいました。
「うわぁっ、なんにもないとこから風船が!? すごい、ものすごい! うわ、魔法だ!」
「飛べておらんだろう」
「あ、そっか。じゃあ、飛行機かな」
 ぽんっ!
 空に、ジャンボジェットがあらわれます。山のてっぺんにおさまりそうにありません。
「うわああっ」
「使うか?」
「いや、これはちょっと……」
「うむ」
 ジャンボジェットは、こなごなにくだけて、空に消えました。
「……それじゃあ鳥、鳥でいいや。鳥になって空を飛ぶ……」
 キトラのすがたが、みるみるニワトリになっていきます。
「よし!」
 ニワトリになったキトラは羽ばたきます。
 ふわりと空にうかびあがりました。
 上がって、下がって、飛び回ります。
「うわぁ……飛んでる! 今さらって感じもするけど、自分の力で飛んでる!」
 ぐんぐん空へ上がって行きます。スピードもかなりのものです。
 雲をつきぬけ、鳥ときょうそうし、風に乗って、それからもどって来ました。
「あー、面白かった!」
「……本物のニワトリは飛べないがな」
「そうだっけ?」
 キトラは元のすがたにもどります。
「これができれば、ジョースターたちといっしょに飛べるのになぁ」

 キトラはまた考えはじめます。
「ええと、超能力っぽいことって言ったら」
 リュックからスプーンをとりだします。
「スプーン曲げ!」
 スプーンの頭が、すぱっと落ちました。
「……だれかが勝手に切ってるみたいで、あんがい面白くないな」
 落ちた頭と柄をあてがってくっつけます。
「こっちの方がすごい感じだ」
 スプーンをリュックにもどします。
「手からエネルギー弾、とか」
 キトラは上に手をむけます。
 手から光の玉が出て、とんで行きます。
「うわ、出た!」
「ヤバいものに当たりそうになったら消すぞ」
「わはははは! でやでやでやでや!」
 キトラは空にうかびあがって、どかどか弾をうちます。
 何かに当たる前にくだけちるので、木がおれたりクレーターができたりはしませんが、なかなかの大はくりょくです。
「やったか!? わはははは!」
 思うぞんぶんうちまくってから、キトラはおりて来ました。
「ええとほかには……あんまり思いうかばないな、イザってなると」
 リュックから本を出します。
「もって来て良かった。ええと、そうだこんなのあるな。好きなところにチャックをつける」
 キトラは地面に手をふれます。
 チャックが現れました。
「はははっ、できたできた! どれどれ?」
 チャックをあけてみます。
 すぐ下は土でした。
「あれ……内がわに入れないのかな」
「きちんとイメージできていないんじゃないのか?」
「んーと、まあいいや。つぎは……」
 キトラは石をひろいます。
 それから思い切り地面にたたきつけます。
 石はスーパーボールみたいにはねて、ころがっていきました。
「やわらかくなった、ゴムみたいだ! こんどは……」
 べつの石にさわります。
 石はカエルにすがたを変えて、はねて行きました。
「こんなのはどうかな?」
 キトラは何もないところを、おにぎりでもにぎるみたいな手つきをします。それから、投げるフリ。
 草がガサリとゆれました。
「空気をあやつる力って、見えないとよく分かんないな」
 水たまりに手をふれます。
 水が生き物みたいにむっくりおきあがり、はねまわります。
「スライムみたいだ、気持ち悪っ」
 それからキトラは、また本を見ます。
「えーと、こっちのキャラの能力は……剣をすごい速さであつかえる……それはべつに超能力じゃないや。そうだ、これやってみよ、これ」
 キトラはなにかを指さして、つぶやきます。
「時間よ、止まれ!」
 風が止みました。草も止まりました。
「空気が止まって息が出来ない、とかはないみたいだな」
 石をひろって投げます。
 なぜか、とちゅうで空中に止まります。
「――そして、時は動き出す」
 風がまた、ふきはじめました。草もなびきます。空中に止まっていた石は、そのまま飛んで行きました。
「すごいな、なんでもできちゃうんだ」
「時間を止めるのは、ちょっとごまかしがあるがな」
 僧正坊はちょっと疲れているみたいでした。
「こういうのって、修行したら出来るようになるの?」
「うむ」
「でもすごい時間かかるんでしょ? 100年とか」
「ははっ、そんなワケはないだろう」
 僧正坊は笑います。
「あはは、そうだよねー」
「我の場合、時間で言えば300万年ぐらいだな」
「さ?」
 キトラはかたまります。
「あはははははははは」
「はははははは」
 ふたりはひとしきり笑います。
 笑ってから。
「……じょうだんぬきで?」
「うむ」
「でも300万才にしては若く見えるね?」
「5000万回ぐらい転生しておるからな。テングとしては1300年ぐらいしか生きていない」
「もうなんか、霞ヶ関ビルとか東京ドームではかれそうなスペックだな……」
 キトラは草を一本つみます。みるみる育って花がさいて枯れます。
「なんかカンタンなのでもいいから、おぼえたいなぁ」
「ふむ」
 僧正坊は少し考えてから、言いました。
「ならばまずは、法力で何をやりたいのかを、はっきりさせておくことだ」
「そっか……まあ、そういうもんだよね」
 キトラは枯れた花を地面に置きます。根をはり、花はまたつぼみにもどりました。
「なにか本当に身につけたくなったら、修行するよ」
「うむ、それがいい」
 ふたりは見つめ合います。
「それじゃ」
「うむ」
 僧正坊はうなずきます。
 キトラはバッグから1まいの紙をとりだします。
「はいこれ、フツヌシからもらった割引券」
「うむ、ならば銀貨5枚と銅貨40枚で」
「じゃ、これで」
「たしかに。毎度ありがとう。銅貨5枚で帰り、送るが?」
「たのみます」
 しはらいをすませ、キトラはリュックをせおいます。
「じゃ、行くぞ」
 僧正坊は、軽くこきゅうをととのえます。
「あのさ、僧正坊さん」
「なんだ?」
「それだけ力があったら、お金とかいらなくない?」
「ははは」
 僧正坊は笑います。
「この方が、面白いのだよ」
 次の瞬間には、キトラはキトラ運送の前に立っていました。
「面白いから、か……そういうもんなのかな」
 いつの間にか日はかたむき、夕日がキトラ運送のかんばんを赤くそめています。
「……わかんないや」
 キトラは笑って、ドアをあけました。
「ただいまー!」

【おしまい】