キトラの冒険
作:ごんぱち
その88『ガースといっしょに』

 宇宙港から、ランドボートが出ていきます。
「なんか、イダテンからじゃないと、ちょっとこわい感じだね」
 ランドボートに乗ったキトラが、外をながめながら、オールをこぎます。
「そうでヤスね、キトラ社長」
 うしろの席のカモメのガースも、同じペースでオールをこぎます。
 キトラ達の会社「キトラ運送」のある、惑星シュミセンのまわりを、ランドボートはゆっくり回ります。
 ランドボートは地上を進むこともできる乗り物ですが、大まかな場所は宇宙、こまかい場所を地上で見つけるほうが早いのです。
「ちょっととばそうか?」
「そうでヤスね」
 キトラとガースは、オールをこぐ手に力をこめます。
 ほそながいランドボートは、うしろにコンテナを引っぱって、コンテナの中におとどけもののテーブルが入っています。
 オールをこぐことで、大きなエネルギーがおこり、スピードが上がって行きます。
「これぐらいが、げんかいかな?」
「そうでヤスね。とばしすぎると、宇宙へとんで行ってしまいヤス」
 キトラとガースはオールをこぐのをやめます。
 ランドボートの中は、しずかになります。
 宇宙には空気はありませんから、音が伝わりません。その上、ランドボートはオールだけで動くので、エンジン音もありません。空気をきれいにするものも、法力ですから音がしません。
 ふたりは、だまって外をながめます。
(……う)
 キトラはふりかえって、後ろのガースを見ようとしますが、やっぱりやめます。
(話すネタが、ない)
 そうなのです。
 キトラとガースは、あんまりいっしょに話す事がないのです。

 ランドボートは、宇宙を進みます。
 地上は、地図と同じように、陸と海が見えます。
(なんか、話すネタ……)
 キトラは考えます。
(そうだ、天気はネタとしていちばんだって聞いたぞ)
「ね、ねえ、ガース?」
「なんでヤスか?」
「そのー、いい天気だね?」
「あー、まあ、そうでヤスね。インセキもなくて」
 キトラたちは宇宙を進んでいます。
(だあああ! 宇宙で天気もないもんだよ! 宇宙はいつも……あれ? 晴れなのかな? 雨なのかな? なにもふってないってことでは、晴れだけど……って、そうじゃなくて、話のネタだよ、ネタ)
 ほかの宇宙船でしょうか、遠くで光の点がうごいています。
(ネタ……ネタ、そうだっ、こんなのはっ!)
「ね、ねえ?」
「なんでヤス? キトラ社長」
「その……みかんがさ」
「はい?」
「みかんを食べすぎると手が黄色くなるよね!」
「そうでなんでヤスか」
 ガースは自分の手を見ます。
 というか、手ではなくて、羽です。
(羽だよ! おもきし羽だよ! みかんの話、ゼンゼンダメだよ! 外から色はつくかも知れないけど、そういう話じゃないよ! 思い出したように、カモメとかのセッテイを出さなくても!)
「キトラ社長」
「ん、なはぁあにぃ?」
 ふいをつかれ、キトラはみょうな声でへんじをします。
「そろそろサイの国でヤス」
「あ、うん、気づいてたよ? あ、はは、おほほほ」

 キトラとガースは、ランドボートのむきを変えてオールをこぎます。
「ん、しょっ、んっ、しょっ、んっ、しょっ!」
「はっ、ほっ、はっ、ほっ!」
 逆噴射、ブレーキです。
 スピードの落ちたランドボートは、ゆっくり地上に落ちていきます。
「ん、スピードがあんまり落ちない?」
「テーブルの重さのせいでヤスね!」
「ガースっ、重くても軽くても、落ちるスピードは同じなんだよっ!」
「……スピードは同じでも、エネルギーがちがうから、止まりにくいんでヤス!」
「ああっ、なるほど! そうか、そういうことだったのか!」
 キトラたちは、オールをこぐスピードを上げます。
 ランドボートは、真っ赤な火の玉みたいになって、落ちていきます。
「ぬおおおおお!」
「うおおおおああああ!」
 キトラとガースがひっしになってオールをこいでいると。
 少しづつスピードがおそくなって来ました。
「もうひといき!」
「はいっ!」
 少しづつ、少しづつ、スピードがおそくなって、そして、地面が近づいてきます。
「よし、安全なスピードだっ」
「そうでヤスね」
 すっかりスピードを落としたランドボートは、すべるように地面におりました。

 町の中を、キトラとガースはランドボートにヒモをつけて引っぱって歩きます。
 ランドボートのオールはものすごい風をおこすので、人の家の多いところではあまり使えないのです。
(……また、話がとぎれちゃった)
 キトラはランドボートを引っぱっているガースをちらりと見ます。
「あの……さ、ガース?」
「なんでヤス?」
「重くない?」
「ぜんぜんでヤス」
「……だよねー」
 風船の木をくりぬいて作られたランドボートもコンテナも、そのものがプカプカとうかんでいるので、引っぱることはかんたんです。
 道のまん中を馬みたいな生き物がひっぱっている車が通ります。ふつうの自動車も通ります。ただ、走っているひともいます。みんな、同じぐらいのスピードです。
 日ざしはやわらかく、さわやかな天気です。
(そうだっ、そうかっ、ここでこそ天気だよ!)
「いい天気でヤスね」
(だあああああっ! 先に言われた! このおおお! ガースのヤツぅぅ! なんてことをするだあああ!)
「そ……そうだね」
(話のネタ、ネタ、ネタ……)
「キトラ運送のある、セレファイス町のあたりは、むしあつかったけれど、こっちはいいでヤスね。少し山なんでヤスかね」
「んー、あー」
(くっ、ネタを考えている時に!)
「植物も少しかわったものがありヤスしね」
「あー」
(なにかないかっ、なにか!)
 ガースはまだ何か言おうとしかけましたが、キトラがあんまり聞いていなさそうだったので、がっかりした顔で、しゃべるのをやめました。
(そうだ!)
「ガース、今日の宿題って多いよね!」
「……え? ええと、社長の世界の話……で、ヤスか?」
(ちっっがああああう! ガースにはなにひとつかんけいないネタじゃないか! あああ、もうっ!)
 キトラとガースは、やっぱり話がはずまないまま、道をとぼとぼと歩いて行きました。

 キトラとガースは、マンションの前にやって来ました。
 億年ポプラをくりぬいて作られた、大きなマンションです。いろいろなちょうこくがほってあって、マンションが丸ごと芸術作品みたいです。
「えーと、このマンションの……」
「271かいでヤスね」
 テーブルを入れたコンテナを、ロビーまでもって来ます。それから、エレベーターの前にやってきます。
 エレベーターのとびらはせまくて、コンテナを入れることができません。
「しかたない……もつか」
「そうでヤスね」
 キトラはコンテナをあけます。
 コンテナの中には、すっきりしたデザインのテーブルが入っています。
 キトラとガースは、テーブルのりょうはじをもちます。
「せーのおおお!」
「せええっ!」
 テーブルをコンテナから出します。ぶあつくがんじょうなテーブルは、コンクリートのかたまりみたいに重いのです。
 でも、運送屋さんのキトラとガースは、見た目よりも力がついています。
「わっしょい! わっしょいっ! わっしょいっ!」
「わっしょいっ、でヤス! わっ、しょっ、わっ、しょっ!」
 キトラとガースはかけごえをかけて、テーブルをエレベーターまでもって行きます。
「ふぅ」
「つかれたでヤス」
 エレベーターはゆっくり上がっていきます。
 ゆっくり、ゆっくり、271かいまで。
(……って)
 キトラはガースを横目で見ます。
(せまいよ! 近いよ! なにか話しないと間がもたないよ!)
「えーと……ガース?」
「なんでヤスか?」
「……重いテーブルだね」
「そうでヤスね」
 話がとぎれます。
「……高いマンションだね」
「そうでヤスね」
 また、話がとぎれます。
「その……ガース?」
「はい?」
「さいきん、どう?」
「ええと……ぼちぼちで、ヤス」
「そっかぁ、ははは、ぼちぼちがいいよね、これがポチポチだったら、犬をよんでるみたいだよ!」
 ピトラはなんだかワケのわからないことを言いました。
(うるさいよ! こまってるんだよ! なにを言ったらいいか!)
「――キトラ社長」
「ほへ?」
「ついたでヤス」
 エレベーターはいつの間にか、271かいにとまっていました。

「ありがとうございましたー」
 テーブルをとどけてから、キトラとガースはマンションのへやから出ました。
 そして、やっぱりずっと話がはずまないまま、エレベーターをおりて、町を歩いて、ランドボートを宇宙に打ち上げて、宇宙港にもどって、軌道エレベーターをおりて、キトラ運送に帰って来ました。
「……カンタンに言ってくれるよ」
 キトラはすっかりつかれた顔で、社長室にもどります。
「ただいまー」
 社長室では、キトラのイスに、カモメのジョースターがすわっていました。が、キトラを見て、あわてて立ち上がりました。
「お、おかえりなさいであります! その、ええと、イスをあたためておいたのであります!」
「ウソならもっとマシなウソをつきなよ!」
 ジョースターにつっこむキトラは、心からのうれしさにみちあふれた顔をしていました。

 キトラ運送のきゅうけいしつで、キトラとジョースターはラムネを飲みます。
「ガースと話がもりあがらなかったのでありますか?」
 ジョースターはラムネをゆっくり飲みます。
「……うん。どうもね。なんかつかれちゃって」
 キトラは大きなためいきをつきます。
「いつも、どんな話してるの?」
「そうでヤスね。ニシンについてとか、サバについてとか、カツオについてとか、いろいろ話はもりあがるのであります」
「……魚の話ばっかりじゃないか」
「カモメでありますから……まあ」
 ジョースターは、カラになったラムネのビンをテーブルにおきます。
「話が合わないなら、ムリに話すこともないのであります。しょせん、キトラ社長とガースは、金でつながった、冷たいかんけいでしかないのであります」
「ピトラ運送は、かなりアットホームな会社でしょ!」
「かるいフランスジョークであります」
「……冷たいかどうかはともかくとして」
 キトラはラムネビンの中のビー玉をゆすってならします。
「たしかに、ちょっと気にしすぎたのかも知れないなぁ」
「そうであります。しゃべりたい時にしゃべり、だまりたい時にだまり、メガネの時はまじめぶる、それが社長というものであります」
「イミわかんない上にパクリでしょ! それパクリでしょ!」
「パクリではありません、リスペクトしているネタをオマージュしたのであります」
「とおまわしに言ってもパクリはパクリだよ!」
 その日、キトラのジョースターにたいするツッコミは、いつもより50パーセントほど多かったそうです。

【おしまい】