キトラの冒険
作:ごんぱち
その86『キトラと大きな貝』

 キトラとキトラ運送の社員のジョースターたちは、自転車で島にやって来ました。
「やぁ、ついたついた!」
 キトラは自転車を駐輪場にとめます。
「ついたでありますな」
「ついたでヤスね」
「つきましたな」
 ジョースター、ガース、親方も、自転車をおります。
 島とは言っても、橋がかかっているので、自転車で来られるのです。
 ちょっと黒っぽい砂に、真っ青な海が広がっています。むこうのきしには、ぼうしみたいな岩がつきでています。
 海のしおが引いたところには、ひとがなんにんかいて、砂をほって貝をとっています。
 キトラたちのかっこうも、むぎわらぼうし、長そでシャツに地下足袋すがたです。
「おっきな貝がいるんだよね? たしか」
「そうきいたのであります」
「楽しみでヤスね」
「貝はよいダシが出ますからな」
 キトラが話していると。
「やあ、どうも、キトラ運送ご一行様ですね。ようこそいらっしゃいました」
 ウミネコの男のひとが二人、やって来ました。かたほうが背が低くてにやけ顔、かたほうが背がフツウで不健康そうな顔をしています。
「青年会の中井です。本日のガイドをつとめさせていただきます」
 背の低い方のウミネコがにこやかに頭を下げます。
「よろしく、中井さん」
 キトラも頭を下げます。
「こいつも同じ、青年会の大木です」
「はじめまして」
 不健康そうなウミネコが頭を下げます。
「キャラかぶっててすみませんね、そこのカモメどもと」
「お客さんに何言ってんだお前は!」
 中井がすかさず大木につっこみます。
(……このタイミングの早さ、この中井という男、できる)
 ツッコミの世界にいるキトラだからこその気づきでした。

 海岸には露店がならび、ヤキトリやイカ焼きのかおりがただよっています。
 少しはなれたところには、ステージが作られ、地元の演歌歌手が歌を歌っています。
 キトラたちは、中井と大木にあんないされて、なみうちぎわまでやって来ます。
 しおがひいているとちゅうなので、ちょうど、海の下だったところが水の上に出ています。
「さあ、どうぞ」
 中井と大木が、キトラたちにクマデとアミをわたします。
「このクマデで、砂をひっかいてやります。すると、コツン、と貝に当たるので、そうしたら手でほってとれます。カラのやわらかい貝もいるので、あまりらんぼうにせずに、やさしくひっかいて下さい」
「それから、こちらのアミは、頭にかぶって下さい」
「かぶらねえよ!」
「キャラはかぶってますがね」
「しつこいよ!」
(むちゃぶりに、すばやいツッコミ、やはり、この中井、できる――あ、いや、今日は楽しみに来たんだ。ツッコミとかいいんだ、うん、そうだ、そうだ)
 キトラは気をとりなおして、クマデを手に持ちます。
 爪が四本ぐいっとのびていて、砂をひっかいて貝を見つけるのにうってつけな形をしています。
「じゃ、はじめよっか。おっきな貝が見つかるといいなぁ、はは!」
 キトラはしゃがんで、砂をひかきはじめます。
「そうでありますな」
 ジョースターがとなりで、砂にかきはじめます。
「って、ジョースター! かくの意味がちがうでしょ! 大体、何書いてんだよ!」
「ラブレターを」
「古いよ!」

 キトラはクマデで、やさしく砂をひっかきます。
 ずるずるずるずる、と、ひっかきます。
 ひっかいていると。
 なにか、かたまりのようなものの手ごたえがありました。
「むっ!」
 キトラはぬれた砂に手をつっこんでさぐります。
 なまあたたかい、ずぶずぶと手にまとわりつく砂の中、指さきがかたいものがふれます。
 キトラがそれをつかみます。
 キトラのげんこつぐらいある、二枚貝です。
「やった! 見つけた!」
「おっ、さっそく見つけられましたね」
 中井がやって来ます。
「それはアサリですね」
「アサリ? これが?」
 キトラはまじまじと見ます。
 形はたしかにアサリみたいですが、大きくて、厚みもあって、キトラが食べたことのあるアサリとはだんちがいの大きさです。
「おっきいね」
「このあたりでは、これぐらいの大きさはフツウですよ」
「……さすが、夢の世界だな」
 キトラはとったアサリをアミに入れて、また砂をほりはじめます。
「むっ!」
 もう一つ。もっと大きい貝です。
「それはバカ貝、アオヤギとも言います」
「なかみがダラリと出ているからとか、バカにたくさんとれる、なんてのがゆらいのようです」
「って、ボケないのかよ!」
(くっ、ボケを見のがした!)
 キトラはそこはかとなく、負けたような気がしながら、また貝をほりにもどりました。

 キトラたちのアミには、貝がぎっしりとたまっていきます。
「いやぁ、これだけとれると気分が良いのであります」
 ジョースターが、ハマグリをまた一つ、アミに入れます。
「そうだね。ショボイ結果をオチにするかと思ってたけど」
 キトラはアサリをもう一匹。
「でも」
「なんでありますか?」
「大きいと言えば大きいけど、それほどでもないよね?」
「そうでありますか? だったら、この貝をぜんぶ食べてみるであります。その大きさが身にしみて分かるのであります」
「……そんな、大きな数を教える時の数学の先生みたいなこと言われてもリアクションに困るよ!」
 ガースと親方は、少しはなれたところで、にこやかに話しながら、貝をほっています。ふたりとも、明らかにキトラに見せる時と顔がちがいます。キトラはあのふたりには、それほど好かれていないのでしょう。
「うるさいよ! 本当のことだろうけど、わざわざはっきり言わなくていいよ!」
「飲み物をどうぞー」
 中井と大木が、魔法瓶をもって、やって来ます。
「おおっ、ありがたい」
「よく考えると、かなり汗をかいているのであります」
 中井が魔法瓶の中身をコップについで、キトラにさしだします。
「スポーツドリンクです、どうぞ」
「大して身体も動かしてないのに」
「お客さんに失礼だろ!」
「ねえ、中井さん」
 キトラがたずねます。
「ここでとれる貝の、一番大きいのって、これぐらいの大きさ?」
 キトラは、アミからとった中で一番大きなハマグリを出します。キトラの顔の半分ぐらいある、とんでもなく大きなハマグリです。
「いやぁ、もっともっと大きいのはいますよ、はははっ」
「……ふうん、そっか」
 中井と大木は、ガースと親方の方へ行ってしまいました。
「だとすると、やっぱり……アレかなぁ」
「なんですか、アレじゃ分かりません。はっきり言うのであります。そんな事だから、ものわすれがはげしくなるのであります」
「……どこの老夫婦だよ」
「お前百まで、私ゃ九十九まで! クマデだけに、クマデだけにでありますか!」
「なに? ドドイツかなんか? 知らないよ、ぼくは」
 キトラは大きなハマグリを両手で持って、じっと見つめます。
「いやね、こういう世界だからさ、大きいっていうとケタちがいだと思うんだよ」
「はぁ?」
「だから」
 キトラはふりかえって島を見ます。
「この島が実は貝でした、みたいなことになるんじゃないかなー、って」
「ははは、まさか。橋もかかって、木だって生えている、そんなのんびりした貝がいたらお笑いであります」
「……うわ、笑ってるよジョースター。なんか、どんどんフラグ立って来たな……いや、むしろフラグが立ちすぎかも知れない」
「社長、ジョースター! ちょっと来て欲しいでヤス!」
 ガースが走って来ます。
「ん、どうしたの?」
「どうかしたのでありますか?」
「大物でヤス、手伝ってほしいでヤス」

 親方が、アサリにしがみついています。
 アサリは、砂の中にもぐろうとしています。
 その大きさは。
「うわ、大きぃいいい!」
 キトラの五人分はあります。
「感心するのも良いですが、手伝ってくれませんかな!」
「ああ、いけないっ、分かった!」
 キトラが親方の後ろについて、引っぱります。
 でも、アサリはものすごい力で、砂に入りこもうとしています。このままでは、キトラたちごと砂に引きずりこまれそうです。
「親方、社長!」
 キトラをガースがひっぱります。
 でも、やっぱりアサリは止まりません。ジリジリ砂にもぐり続けています。
「手をかすであります!」
 ジョースターがガースを引っぱろうとします。
「ジョースターひとりふえても力が足りないよ! 中井さんと大木さんよんで来て!」
「わ、分かったであります!」
 ジョースターが中井と大木をよびに、走ろうとします。
「飛んで!」
「あ、ああ、そうでありました」
 ジョースターは飛んで行きます。
「ぬうううう!」
 キトラたちは、アサリを引っぱります。
 アサリはジワジワと砂の中に入って行きます。
「と、ま、れえええええ!」
 止まりません。
「ふぁいとおおおおお!」
「そのネタは、前にやった気がしますぞ!」
「そうだっけ!」
「どうでヤシたかね!?」
 ……どうでしょう。
「間に合ったであります!」
 ジョースターが、中井と大木といっしょに飛んでもどって来ました。
 ガースの後ろにジョースターが、そのうしろに大木が、そして最後に中井がついて引っぱります。
「うんと!」
「実力は!」
「ひれいする!」
「……いや、ここは、うんとこしょ、どっこいしょでしょう」
「パクリでありますか、大きなカブのパクリでありますか!?」
「このシチュエーションになっている時点で、気にしてもしかたないと思うけどね!」
「三秒後に全力出しますぞ!」
 親方がどなります。
「よっしゃああ!」
 キトラたちもいっせいにカウントダウンです。
「さんっ!」
「にい!」
「いちっ!」
「ひっけええええええ!」
 キトラたちの力が一瞬に集中して。
 ぼすぼすぞぼぞぞばああっ!!
 ものすごい音を立てて、アサリは砂から引っこ抜けました。

 夕方になり、ステージに近いバーベキュー場で、親方がフライパンでぶつ切りにした大アサリをバターでいためます。
 それから、みそしる、くし焼き、アサリご飯に、ふかがわ飯、クラムチャウダー、ボンゴレスパゲッティー。テーブルの上はいっぱいです。
「これが、アサリ一匹で出来ちゃうなんて」
 キトラはみそしるを食べます。
「おいしいでありますな」
「おいしいような気もするけど、あんまり貝って食べなれてないから、正直よく分かんないな」
「ははは、そうかも知れませんね」
 料理を手伝っていた中井が笑います。
「わたしもアサリは大のニガテで」
「お前、アサリ大好きだろ!」
 中井と大木は、エプロンを外します。
「では、本日はどうもありがとうございました」
「次のしおひがりも、ぜひこちらをご利用下さい」
 ふたりは、頭を下げます。
「え? 中井さんたち、食べて行かないの?」
「これから、わたしたち、そこのステージでライブをやりますので」
「そんなもん食っている場合じゃないんです」
「最後までどんだけ失礼なんだよ!」

 ステージに、舞台衣装に着がえた中井と大木が出て来ます。
「あっ、本当に出て来た……」
 食事をしながら、キトラはステージをながめます。
『どもーー!』
『ビッグシェルの大木です!』
『ビッグシェルの中井です!』
「……ん?」
 キトラのハシが止まります。
「大木中井……おおき、中井……おおき、なかい、おおきなかい、大きな貝、大きな貝……」
「どうしたのでありますか、社長」
「ま、まさか、まさか……ここに出る大きな貝って、大きな貝って……」
 ステージの上では、中井と大木がマンザイをつづけ、お客さんは大いに笑っていました。
 空には星が見えはじめています。

【おしまい】