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キトラの冒険
作:ごんぱち
その85『ゆうやけこやけ』
自転車に乗って、キトラ、ラグヤ、サリス、ノクタの4人は町はずれの道を走ります。
家が少なくなって、田んぼが多いところです。
「けっこう来たなぁ」
キトラがふりかえります。
キトラたちの家のある町が、とおくに見えます。
「おっ、見えて来たぞ!」
サリスが前をゆびさします。
「え? どれ?」
「木の中だぞ、木とまぎれてるぞ」
ノクタが言います。ちなみに、ノクタの自転車がいちばんねだんが高そうです。
「……見えた」
ラグヤがつぶやきます。
「えー、あ、あれか」
田んぼから山へ少し入ったところに、お寺がありました。やねもカベもおちついた色をしているせいで、木の色にすっかりうもれていました。
キトラたちはお寺の前までやって来ます。
門は開きっぱなしで、中にしかれていたジャリもあまりなくなっています。
お寺のたてものも、入り口はとじられて、じょうまえがかかっています。カベは古ぼけて、ところどころやぶれていて、とても誰かが住んでいるようには見えません。
「勝手に入っていいのかな、って、ちょっと思ってたけど、これはあんまりえんりょしなくて良さそうだね」
「だからオレはさいしょからそう言ってたろ」
「そうだそうだ、言ってたぞ」
「……しぶくて、いいね」
キトラたちは自転車をおいて、お寺の門をくぐります。
広々としたお寺の庭は、木がいっぱい生えていて、森といっしょになっています。悪い意味で公園みたいです。
「えーと、池はどっちかな」
「歩いてれば分かるだろ」
キトラたちは庭をよこぎって、たてもののわきをぬけて、木の間の道をすすみます。
キトラたちのおなかまわりよりも太い木が、あたりまえのようににょきにょき生えています。
「大きいなぁ……」
「おおっ、見えて来たぞ! ノクタが見つけたぞ!」
ノクタが走り出します。
「でかした、ノクタ!」
「……木の根の気をつけて」
キトラたちは、木々の間をすりぬけ、池にたどりつきました。学校の教室くらいの広さがありますが、まわりを高い木にかこまれているのでうすぐらく、にごった水の中はよく見えません。
「底なしか?」
おそるおそる、ノクタがのぞきこみます。
「んなワケないでしょ、ノクタ」
「キトラ、ちょっと落ちてみるか?」
ニヤニヤしながら、サリスが言います。
「イヤだよ」
「底なしじゃないならだいじょうぶだろ?」
「底なしじゃなくても、池におちたがるひとはいないよ」
話しながら、キトラたちはそのへんの木の枝をひろいます。そして、ポケットから糸を出します。腕ぐらいの長さに切ったタコ糸です。これを木の枝にむすんで、もうかたほうに給食ののこりのパンをくくりつけて――。
「つりざおできたぞ!」
ノクタが池にさおを出して、つりはじめます。
少しおくれてサリスとキトラが、もう少しおくれてラグヤが、おなじようにつりをはじめます。
5分ぐらいして。
「――ねえ、サリス」
「なんだ、キトラ」
「これで、ほんとうにザリガニつれるのかな?」
「父さんはそう言ってたぞ」
キトラはじっと糸を見ます。
水に入った糸の先は見えません。
「つりって、ハリをつけなきゃいけないんじゃない?」
「ザリガニはハサミでつかむからいいんだよ」
「あとはウキとか、糸もつり糸とか、やっぱり」
「父さんはそんなこと言ってなかったぞ。このお寺の池で、カンタンにどんどんつれたって」
「あきたぞ!」
ノクタが言って、つりざおをほうりだします。
「早っ!」
「んー、まあ、でも、たしかにまったく手ごたえがねえな」
「……日がわるい」
ザリガニつりをあきらめたキトラたちは、木の間の道をすすみます。
お寺のたてもののまわりをぐるりとまわっている感じです。
たてもののうらぐらいに来たところで、木とちがうものが見えて来ました。
「あ、お地蔵さんだ」
お地蔵さんが6体、ならんでいます。
「だれかカサもってない? カサ?」
「かさじぞうかよ!」
「ムリなボケだぞ!」
「……キトラ、かりにこれがほんものだとして」
ラグヤがお地蔵さんを見ます。
「……もらえるのは、年をこすのにひつような食べもの。つまり、おもちとか、シャケとか、コンブとか、干しシイタケとかだよ」
「うれしくないな……」
お地蔵さんは、ところどころコケで緑色になっています。
「ねえ、ラグヤ、お地蔵さんってどうしてお地蔵さんって言うの? おしゃかさまじゃだめなの?」
「……地蔵とシャカは、べつのひと。あまりにてない」
「ええっ、だって、おぼうさんみたいなかっこうしてるじゃないか」
「がははは、キトラはものを知らないな」
「そうだそうだ、知らないぞ」
サリスとノクタは、目をそらしながらキトラをわらいます。
「……地蔵は弱いひとに気がついてこまかくまもってくれるそうだよ。たとえば子どもとかね」
「どこでおぼえるの? そういうの?」
「……ネットとかで、色々ね」
お地蔵さんの前から立ちさったキトラたちは、道なりにぐるりと一回りして、お寺のたてもののうらに出て来ました。
「ああ、ここにつながってるんだ」
「木がひらけて、なんだか明るいな」
サリスがまぶしげに目をほそめます。
ノクタはお寺のたてものにかけよります。
そして、やねを見上げています。
「……おもしろい?」
ラグヤがたずねます。
「ふつうの家とちがって、木がぎゅっとくみあわさってるぞ。がっしりしてて、じょうぶそうだぞ」
キトラとサリスは、たてもののまわりにぐるりとついている、ろうかだかえんがわだか分からないものにこしかけます。
床下がずいぶん高いので、足がブラブラういてしまいます。
「木がいっぱいだねー」
「父さんが子どものころは、もっといっぱいだったみたいだぞ。それで、夏にはおまつりもやってたって」
「ふうん」
キトラはひょいととびおりて、床下をのぞきます。
床下はサラサラとしたかわいた土で――なにか、小さなくぼみがあちこちに見えます。
「んー? これって、ひょっとして」
「……アリジゴクだね」
10円玉ぐらいの大きさのラッパの口みたいなくぼみです。
「へえっ、これがか! 小せぇなぁ!」
「そうだそうだ、小さいぞ!」
「アリジゴクだったら……」
キトラはじっと土の上を見ます。
アリが1ぴき、ウロウロしています。
キトラはそのアリをひょいとつかまえ、アリジゴクの巣にほうりこみます。
アリは出て行こうとします。けれど、足もとの土がくずれて下へ下へと落ちていきます。そしていちばん下へ落ちると――。
「あっ、つかまえた!」
よく見えませんが、アリがそこから動けずにあばれています。アリジゴクにつかまったにちがいありません。
「へぇ、おもしれぇ!」
サリスも、べつのアリをつかまえて、アリジゴクに入れます。けれどそのアリは、おおいそぎで走って、アリジゴクからにげてしまいました。
「ああっ!」
「サリス、ヘタだぞ。ノクタがやるぞ」
キトラたちはしばらくの間、アリをアリジゴクに入れつづけます。
「……にげるかくりつが、90パーセント。あまりわなにはかからない」
「まったく、アリジゴク、マジメにやってんのかな」
「……アリのほうがまじめなんだろうね」
キトラたちがアリジゴクをもうしばらくかまっていると。
ゴーーーーン。
ゴーーーン。
重たいカネの音がしてきました。
このお寺よりも少し上にあるカネがならされているのです。
「あれ……もうこんな時間だぞ」
ノクタが携帯電話で時計を見ます。
「あっ、そうだね」
キトラは空を見上げます。
お日さまはかたむき、空が夕焼け色にそまりはじめています。
「じゃ、帰るか!」
自転車に乗ったキトラたちは、お寺を背にしてはしります。
「あー、けっきょく、ザリガニは一匹もつれなかったね」
お日さまはすっかり夕日になって、お寺のある山にしずんでいきます。
「ま、まあ、こういう事もあるだろ、がはははは!」
「そうだそうだ、だいたい、ザリガニなんかもってかえっても、どうしようもないぞ!」
「……フフ、とれないブドウはすっぱいよね」
キトラたちの頭の上を、カラスが飛びこして行きます。
「また、来ようか」
「……ザリガニのつりかた、しらべておく」
「しかけをやっぱりちゃんと作っておくぞ!」
「おおっ、ノクタがやる気になれば、大漁だぜ!」
「……たくさんいても、飼いきれないけどね」
キトラたちの影は長く長く、あかりのともりつつある町の方へとのびていました。
【おしまい】