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キトラの冒険
作:ごんぱち
その84『キトラとキビダンゴ』
「あー、働いた働いた! 運送した!」
宇宙港のロビーをキトラとカモメのジョースター、ガース、親方、それから火ネズミのカソが歩きます。
「ワープ用オールはやっぱり重たいでヤスね」
ガースはとてもつかれているようで、フラフラ歩いています。
「そうだよね。腕がパンパンだよ」
キトラは、宇宙港の食堂街の前を通ります。
中華と和食と洋食と中華、それから中華の店がならんでいて、油やダシやニンニクなんかの、いいかおりがただよってきます。
「ねえ、ご飯でも食べて帰らない?」
「あっしはものすごくつかれたんで、帰りヤス……」
「ふむ。わたしも家に晩ご飯がありますからな」
「……ああ、親方けっこんしてたんだ?」
「今はいません。料理は自分で作りおきしたものです。妻は、イダテン運送がつぶれかけて、給料が安くなった時にいなくなってしまいましてなぁ」
親方は明るく笑います。
「ひとりだと、とても気楽で楽しいですぞ。おすすめですな」
「……いや、ぼくはフツウに会社員になって、フツウにけっこんとかしようと思ってるから」
「フフ、あんがい、そうならないんですよ」
「気になる事言わないでよ!」
「ははは、では、わたしたちはしっけい」
「おつかれさまでヤス」
親方とガースは、軌道エレベーターに乗って、地上におりて行ってしまいました。
「じゃ、食べに行こうか、ジョースター、カソ?」
「そうでありますな、社長」
「カソ、おいしいコーンバターラーメンって言ったら、どこかな?」
「うーん、宇宙港の中ですか……」
カソは店をざっと見ます。
「なんか、どこもいっぱいじゃないですか?」
「え?」
キトラも、店をのぞきます。
どの店も、待つためのイスにお客さんがすわっています。
「ばんごはんの時間でありますからなぁ」
ジョースターもがっかりした顔です。
「またされると思うとよけいにお腹すいてくるなぁ」
キトラたちは、きゅうけい所の前を通りかかります。
きゅうけい所では、着物すがたで刀をこしにさした――さむらいが、すわっていました。竹の皮のつつみを出して、中に入っているダンゴを食べています。
アンコやミツがついていない、黄色っぽいダンゴです。
キトラたちはなんとなくさむらいのダンゴを見つめていました。
さむらいは、それに気づいて、顔をキトラたちにむけます。
「よろしければ一つどうかな?」
にっこりわらって、ダンゴをさしだします。
「え」
「えんりょなさるな」
さむらいは、おだやかな声で言って、とても自然にダンゴをすすめてくれました。
「あ……ありがとう」
さむらいとテーブルをかこんで、キトラはうけとったダンゴを食べます。
「んー」
お米とはちがうダンゴです。
甘さもあまりありませんが、かんでいるとふかい味がしてきます。運送の仕事でつかれた体にしみわたるようです。
「おいしー」
「そうでござろう」
うれしそうにさむらいは笑います。
「せっしゃの父上がそだてたキビを、母上がダンゴにしたものだ。母上はこれがとくいでな」
「キビ?」
「米やムギみたいな、小さいつぶつぶした実をつける植物ですよ」
カソがせつめいします。
「ああ、いわゆるキビダンゴか」
キトラはダンゴを食べ終えて、お茶を飲みます。
「ふぅ、これでちょっとおちついたよ。ありがとう、ええと……」
「キビツヒコともうす」
「キビツヒコさん、ありがとう。ぼくはキトラです。それでさ」
キトラはポケットに手をつっこみます。
「キビダンゴのお礼をなにかしたいけど」
「礼にはおよばぬ。ひとりで食べるよりも、みんなで食べる方がうまいからさそったまでのこと」
キビツヒコは笑います。
「うん、まあ、そんな事言いそうなキャラだと思ったよ」
「……キャラ?」
「でも、はいそうですか、って、ワケにもいかないんだよね。こっちの気持ちとして」
「いや、キトラ。タダでくれると言ったものはもらっておけば良いと思いますよ?」
カソが言います。
「そうであります。どしてもお礼をしたいのであれば、かわりに自分に社長のイスをくれれば良いのであります」
「何をどうすれば、ジョースターがお礼をもらうことになるのさ?」
キトラは、キビツヒコにめいしを出します。
「ぼくはキトラ運送って会社で社長をやってるんだ。なにか送ることとか、とりよせたいものとか、あと、行きたいとことかあったら、なんでも言ってよ。1回だけ9わりびきでうけおうよ」
「ほほう、キトラは運び屋でござったか」
「オールで動く、エコな宇宙船だよ」
「であれば……いや、しかし、危険もある……」
「危険とか気にしなくて良いから。ぼくは怪獣をやっつけたことだってあるしね」
「そうでありましたな」
「なつかしいエピソードを出して来ますね」
「ほほう、そうでござったか」
キビツヒコはおどろいた顔をします。
「ならば、えんりょもむしろ、ぶれいというもの。ひとつたのまれてくれるか?」
「いーよ、どこ?」
「惑星キノジョウへのおうふくをおねがいしたい」
「キノジョウ? そんな星あったっけ」
「このシュミセンから、わりとちかくにある星であります。ただ、ひとが住んでいないので、定期便がとおっていないのであります。このギョウカイにいれば、知っていてあたりまえであります」
ジョースターは、じまんげです。
「そんな星に、なにがあるの?」
「うむオニがいるのだ」
イダテンが宇宙空間をすすみます。
カソが操舵室でかじとりをして、キトラとジョースターが動力室でオールをこぎます。
「キビダンゴの時にきづくべきだったよ……そうか、オニたいじか……」
キトラはつぶやきます。
「オニはやっぱり強いのでありますかな?」
ジョースターは、キトラにたずねます。
「……ぼくにきかれたって知らないよ。オニなんか見たことないもん」
キトラはちょっとふりむいて、動力室のすみにいるキビツヒコを見ます。
キビツヒコは、刀をかかえてうつむいてだまりこんでいます。
「でもあぶないこと、してほしくないなぁ。なんかいいひとみたいだし」
「そうでありますな。キビダンゴをおしげもなく分けてくれたのであります」
窓の外に、星が見えて来ます。
木や海の色のない、土色をした星です。
「そろそろ、か」
キビツヒコは顔をあげます。
「ねえ、キビツヒコさん」
「なんだ?」
「オニってどんななの?」
「このあたりをしきっている一族でな。通りかかる宇宙船や、近くの星をおそうことがあるのだ。われらの星で話し合って、せっしゃが行くことになったのだ」
「ひとりで?」
「うむ。自分の身をまもるくらいの力はあるのでな」
キビツヒコは刀をほんの少しぬいて見せます。
「……でも、あいてはオニだし……大丈夫なのかなぁ」
『キノジョウの周回軌道にのりました。ランドボートにのりこんで下さい』
スピーカーから、カソの声がしました。
1台のランドボートにのりこんで、キトラ、ジョースター、キビツヒコは惑星キノジョウにおりたちます。
「なんか木のないとこだね」
キトラは窓ごしにまわりを見わたします。
岩がゴロゴロところがっていて、大きな木はなくて、小さい草が少し生えているぐらい。
「キノジョウは、土がわるくてあまりものが育たぬのだ。体の強くてなんでも食べられるオニでなければ、くらしてはいけない」
「ふうん」
宇宙船用のオールをこいで、キトラたちはランドボートをすすめます。
地面から少しうきあがったランドボートは、宇宙船用のオールのおこす大きな風で、すいすいすすみます。
「――来た」
キビツヒコがつぶやいて、先の方をゆびさします。
あれた大地のむこうから、馬に乗ったひとが10人ぐらいはしって来ます。みんな、ボロボロの服を着て、刀をさしています。そして。
「うわっ、わっ、オニだ!」
頭からはツノが生えていました。
「下がっていなさい」
キビツヒコはランドボートからおります。
オニはキビツヒコの前までやって来ると、止まりました。
「なにものだ!」
いちばん前のオニがどなります。みんな、キビツヒコの2ばいはありそうな大きさです。
「惑星キビのキビツヒコだ! オニの大将と話がしたい!」
まけないぐらい大声で、キビツヒコはどなります。
「大将と話だと? くだらん、今ここでたおしてやる!」
オニは刀に手をかけます。
「いいのか?」
キビツヒコはオニをにらみます。
「大将がもしも話をする気だったのに、お前がかってに刀をぬいたと知れたら、バツをうけるのではないか?」
「……む」
オニは刀から手をはなします。
「来い!」
「ええとぼくたちは……」
キトラとジョースターは困り顔です。
「お前たちもだ!」
「ああ……やっぱりまきこまれたのであります、これも社長がよけいなことに首をつっこんだからであります」
「うるさいな」
キトラたちは、オニの城につれて来られます。
城と言っても、岩をつみあげただけで、すきま風がびゅーびゅー入って来ます。
オニの大将は、そのお城のいちばん大きな部屋の、岩の上にすわっていました。キトラたちをつれて来たオニは大きかったですが、その3倍はあります。
「……サイズがムチャクチャだな」
「惑星キビのヤツがなんの用だ? おそわれたしかえしにでも来たか?」
オニの大将はキビツヒコをにらみます。
「オニの大将よ、惑星キビをおそいに来るのはやめてもらいたい」
キビツヒコは言います。
「食べものがほしければ、金を出して買えばいい。金がなければ、その体をつかってはたらけばいいのだ」
「知ったことか、われらは好きにうばっていく。ジャマするならようしゃはしない」
「惑星キビでは、オニの力でできる仕事をいくつかよういしている」
「もんくがあるなら、うでずくでやってみろ!」
キビツヒコとオニの大将の話はかみあいません。
「……社長、オニたいじじゃないんでありますかね?」
「……うん、なんか話しあおうとしてるね」
ジョースターとキトラはコソコソと話します。
「キビツヒコは強くないから、口で言いまかそうとしているのでありますな」
「なんかそんな感じだけどね」
「――くだらん! われわれは今までとやり方をかえる気はない!」
「それで良いのか? 惑星キビにうばいに来るたびに、どれだけのオニがキズついている? ひとにぎりの米を手に入れるたびに、刀で切られる、矢で射られる、バカバカしいと思わないのか?」
「お前たちのほうが、よりキズついているだろう。まけおしみはよせ」
「われわれがキズをすると、お前たちのキズが楽になるのか? キズをつかないやりかたが目の前にあるというのに、なぜそれをえらばない? なかまがキズつくのを当たり前とごまかす、それが大将のあるべきすがたか?」
「う、うるさい、うるさい! ひっとらえろ!」
ついにオニの大将はおこりだしました。
「うわあっ、まずいであります、まずいであります!」
「キビツヒコさん、なにやってんだよおおお!」
オニたちが、キトラたちをぐるりととりかこみ、刀に手をかけます。
「この大バカもの! その刀をぬいたらおしまいだぞ!」
キビツヒコはオニたちにどなります。
「せっしゃは、惑星キビの代表だ! 代表をひっとらえるようなことをすれば、この後、あらゆる星がお前たちを『話しあいができないヤツ』と思うだろう!」
「知ったことか!」
「どの星でもあいてにされなくなる。金を持っていても、なにも売ってもらえなくなる! それで生きていけるのか!」
オニの大将はだまりこみます。
「今日のところは、これで帰る。ゆっくりかんがえるがいい」
オニたちの間を、キビツヒコとキトラたちは帰って行きました。
ランドボートが、岩をよけながらすすみます。
「……なんか、ゼンゼン話にならなかったね」
「やっぱりオニとは話にならないのであります」
「たしかに、むずかしいな」
キビツヒコは、つかれた顔でわらいます。
キトラはオールをこぐ手をとめます。
「ええと、イダテンとのランデブーポイントは、このへんだっけ?」
「そうでありますね」
キトラたちがランドボートのうちあげのじゅんびをはじめていると。
地面がゆれはじめました。
「ん……じしん?」
「で、ありますか?」
キトラとジョースターが顔を上げると。
オニの城とははんたいがわから、大きなトラが走って来ていました。トラと言っても、オニの大将の5倍はある、怪獣です。
「……いや、だから、サイズがもうどっかいっちゃってるから」
「ツッコミやってる場合じゃないであります! にげるであります、にげるであります!」
「ダメだよ! まだ打ち上げられるだけの気がたまってないし、イダテンも星のうらがわだ!」
「あわてなくてもよい」
キビツヒコはランドボートからおります。
怪獣はせまって来ます。
キビツヒコは怪獣の方にまっすぐ走り、すりぬけざまに刀をぬきざま、ふりぬきます。
怪獣はそのままランドボートをそれて走って行き、そして、大きな地ひびきを立ててたおれました。
「――待たせた」
キビツヒコはランドボートにもどってきます。
「な……」
「なにをした……のでありますか?」
「いちおうせっしゃは、惑星キビでは1番の剣の使い手だ。あのていどの怪獣なら、どうということもござらん」
「そ、そんなに強いなら、オニをたいじしちゃえばよかったじゃないか?」
「そうであります、わざわざあんな話しあいなんか」
「……たしかに刀でオニをたおせば、言うことをきかせられるであろう。けれどそれは、ただ、せっしゃの刀をおそれているだけのこと」
キビツヒコは刀をかかえます。
「せっしゃが病気になったり、年をとって力が落ちれば、オニはここぞとせめこんで来るだろう」
「まあそれは……」
「たしかでありますな」
「けれどもし話し合いで、オニにあらそうことが良くないときちんと分からせれば、せっしゃがいなくなった後も、オニはせめては来ない」
トラの怪獣は、よろよろと帰っていきます。みねうちだったようです。
「時間をかけて作ったものは、ながもちするものだ」
キビツヒコはわらいます。
「話し合いはこの先どれだけくりかえさなければならないか分からんが、とことんつづけていくつもりだ」
「まあよくわかんないけど、がんばってよ」
「そうでありますな、むずかしいことはよく分からないのでありますが、がんばってほしいのであります」
「かたじけない」
「じゃ、うちあげ、いくよ」
キトラたちはオールをもちます。
「じゃ、いくよ。5秒前! 4、3、2、1……」
キトラたちは、オールを思いっ切りこぎます。
ランドボートは空へ飛びあがり、そのまま宇宙へとのぼって行きました。
【おしまい】