キトラの冒険
作:ごんぱち
その77『カビをやっつけろ!』

 雨の中、キトラ、ラグヤ、サリス、ノクタの4人は、1つのカサに入って、秘密基地にやって来ました。
 おおいそぎで、勝手口から中に入ります。
「ふー、やれやれ」
 キトラはクツをもって、おくの部屋へ行きます。
「本当にふってくるんだもんな、おどろいたぜ」
 サリスがぬれた頭をぶるぶるとふります。
「うん、おどろいたぞ」
 ノクタはハンカチで頭をふきます。
 雨の音が聞こえています。
「……天気予報は、けっこう当たるよ」
 カサを持っていたラグヤはあんまりぬれていません。
「タオルとかなかったっけ?」
 ランドセルをおろして、キトラは部屋の中をさがします。
 マンガざっしと、トランプと、ダブったトレーディングカード、それからオーストラリアのポスター。
「そういうものは持って来てねえだろ」
「そうだ、持って来てないし……あっても使いたくないぞ」
「……夏だし、すぐにかわくよ」
 ラグヤは、かべによりかかります。
「そうだよね」
 キトラたちは、思い思いに、タタミの上にすわったりねころんだりします。
 カミナリがなって、雨がすごい音でやねをたたいています。
「ちゃんとやむだろうな?」
 サリスが少し心配そうに、まどの方を見ます。まどはくらくて、まだ明るい時間のはずなのに、なんだか夕方みたいです。
「……へいきだと思うよ」
「ぼくもそう思うね。あの雨の雲のぐあいならね」
 キトラはトランプを手にとります。
「トランプでもしてればすぐさ」

 キトラたちはトランプで遊びます。
「――はい、ノクタ、バースト! ぼくの勝ち!」
「むぅ、キトラ、強いな」
「こんどはオレが勝つ!」
「……おりるラインを、少しずらした方がいいな」
 秘密基地には電気がとおっていないので、部屋の中はくらいですが、トランプぐらいなら見えます。
「じゃあ、1枚目――おおっ、スペードのエース!」
「こっちは7か……」
「4だな。いがいとこういうのの方が、ピッタリそろうんだぜ」
「……クイーンか」
「つぎのカードは……ふぅ」
 キトラはひたいのあせをぬぐいます。
「あついね」
「そうだな、風が通らないしな」
「ジメジメしてるぞ」
「……4人もいると、空気があったまるのかな」
 たしかに、部屋の中はずいぶんあつくなっています。
「もっとすずしい部屋、ないかな?」
「そうだな、ほかの部屋の方がマシかもしれねえ」
 キトラたちは、部屋から出て、となりの部屋へ――は、キトラたちが前に色んなものをおいてろうかを通れなくしているので、むかいの大きな部屋にいきます。
 自分たちでしかけたワナのせいでめんどうな事になる。こういうのを、自縄自縛と言います。
「うーん、あんまりすずしくないなぁ」
「……南むきだから、あったまってるんだよ」
 キトラたちは、ろうかを通ってさらにとなりの部屋にいきます。
「ここはワナがあるから、ダメだな」
「そうだ、そうだ、クギがひっかかるし、オナモミもおちてくるぞ」
 部屋をとおりすぎて、ろうかをわたって、ようやくさっきいた部屋のとなりの部屋にとうちゃくです。
「ここは――」
「キトラ、まて!」
 ノクタが、キトラを止めます。
「どんなワナがあったっけ?」
「あれだぞ」
 ドアの上のところに、ロープがひっぱってあって、バケツがずらりとならんでいます。
「……パワーアップしてるね」
「ぶつかったらケガするよ?」
「ダイジョウブ、砂が足もとに落ちてびっくりするだけだ」
「ああ、まちがいねえぜ。頭には当たらねえよ」
 サリスの方が自信ありげです。
「じゃあ、こっちまわりか」
 キトラは台所の方から通って、部屋に入ります。
「ん、これは」
 キトラはかたまります。
「あ」
「これは」
「……タタミが、カビてるね」
 そうです。
 タタミのはしっこの方に、ちょっとですが毛みたいな白いカビが生えていました。

 次の日。
 キトラたちは、また秘密基地に来ていました。
「さて、みんなに集まってもらったのはほかでもない」
 キトラは部屋のカビを指さします。
「このカビを、どうにかしてたいじしなければならないってことだ!」
「おう」
「そうだな、たいじするぞ」
「……カビは体にわるいからね」
「この部屋だけならまだいいけど、となりの部屋まで来たらイヤだしね」
 キトラはランドセルからゾウキンを出します。
「じゃあ、ふこう!」
「おう!」
「やるぞ!」
 サリスとノクタもゾウキンで、カビをふきはじめます。
「そらそらそらそら、カビめ、カビめ!」
「キトラ、ノリノリだな……」
「そうだそうだ、ノリノリだ。学校でもこんなふうにそうじをしていれば、先生にほめられるのに」
「そんな、シュミをする集中力で勉強をすればせいせきが上がる、みたいな、どだいムリなリクツを言われても、ゼンゼン気にしないよ! なににでも集中出来るひとは、けっきょくなににも集中できないって事だよ!」
 カビはふくととれますが、タタミのすきまにも入っていそうでさっぱりしません。キトラたちはごしごしごしごしこすりつづけます。
「ふぅ、はぁ、あつい!」
「本当に、ジメジメしてるな」
「そうだそうだ、あついぞ」
 キトラたちはすぐにあせだくです。
「って、ラグヤ」
「……なに?」
「ラグヤもやるんだよ! カビたいじ!」
 ラグヤはゾウキンももたずに、じっと部屋の中をながめていました。
「みんな右ならえがいいとは言わないけど、ここはいっしょにやるとこでしょ」
「……いや、一つ、気になってね」
「なにが?」
 ラグヤは部屋をもういちど見回します。
 それから、なにか考えこんでいます。
 キトラは話しかけようとしますが、ガマンします。
「こういう時に、ヘタに声をかけるキャラって、たいていあとで笑われるハメになるんだよね……」
 ピエロはむしろ目立っておいしいというのに、空気を読みすぎるのも考えものです。
「えっ、ちょ、ま!」
「……カビがね、少ないんだよ」
「くわーー、間に合わなかった!」
「でもラグヤ、こんなに生えてるぞ?」
「そうだそうだ、カビがいっぱい生えてるぞ」
「……もしもこの部屋にカビが生えるなら、もっとずっと前の年から生えてておかしくないんじゃない?」
「それは、そうだけど」
「でも、今生えてるものはしかたがねえだろう」
「そうだそうだ、そうじするしかないぞ」
「……今年になってかわったところ、というと」
 ラグヤはバケツのワナのしかけてあるドアに手をかけます。
「あっ!」
「やめろ、ラグヤ!」
「やめろやめろ、ちらかるぞ!」
 キトラたちが止めるよりも早く――。
 どざああああ、がんがらがらがらがらがららがらららら……。
 ドアの上にずらりとならんでいたバケツが一度に落っこちて、中に入っていた砂がとびちりました。
「あ、ああああ、ああああ!」
「なにするんだ、ラグヤ!」
「そ、そうだ、ノクタのワナを!」
 その時です。
「……来た」
 すうぅぅぅぅぅっと。
 風が、通りぬけていきました。
「え?」
「ん」
「なんだ?」
 そうじをしていたキトラたちのあせが、風をうけてすぅっとかわいていくみたいです。
 キトラたちは部屋の中を見回します。
 外の壁の上の方にとりつけられた風を通す穴から、風がふきこんで来ます。
「え、なんで、こんな」
「……バケツが」
 ラグヤは、バケツが落ちたあとの、ドアの上をゆびさします。
 そこにも、ろうかへ風を通すための穴があいていました。
「なんだなんだ、ノクタがしかけたワナが、風をふさいでたのか?」
 ノクタがうつむきます。
「そっか、うっかりだったな、がはははは!」
 サリスが大声で笑います。
「まあ、気にするな、ノクタ! これでカビもぜんめつだ!」
「う、うん……」
「ほら、そんな顔するんじゃねえ。ワナはべつのとこにしかければ良いんだ」
「そうだ、そうだな、そうするぞ」
 ノクタはちょっとなきそうな顔のままで、笑いました。
「と、それはいいんだけど」
 キトラがどんよりとした雨雲のような顔をしています。
「なんだキトラ、ここは笑ってエンドマークのところだろう」
「そうだそうだ、さわやかな終わりだぞ」
「ぼくだってそうしたいよ!」
 キトラは床にちらばった砂を指さしました。
「これの……かたづけがなきゃ、ね」
「……かたづけるしかないよ」
「って、ラグヤ! 口で言えばいーじゃないか、わざわざ落とさなくても!」
「……めんどうだった」
「砂をかたづける方がもっとめんどうだよ!」
「……ちゃん、ちゃん」
「古いよ! 古いよ! ぜんぜナウくないよ、その終わり!」
「……それからどしたの」
「それもそれで古いよ! しかも、それエンディングのセリフじゃないよ!」
 キトラはどなりつづけました。
「――なんか、キトラうれしそうにしてやがんな、ノクタ」
「うんうん、やっぱりキトラはツッコミをしている時がいちばんかがやいてると、ノクタも思うぞ」
「べつに好きでやってるワケじゃないよ!」

【おしまい】